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忘れられた者  作者: 星がキタロウ
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大切で伝えたくない者(編集、終1)

体育の授業中やはりというべきか最下位になってしまい、諦めかけていた俺のもとに彼女が森から出てきた。

彼女は俺に近道を教えてくれるらしい。

果たして彼女の目的とは?

 やっと少女の足が止まった。

 口の中などのありとあらゆる水はすでに汗でなくなっていた。

 ここまで何とか走って来れたがもう限界である。


 少女の隣まで行くと思わず膝まずいた。

「あとはここを降りるだけだから」息一つ変えない少女は指をまっすぐ指してそう言う。

「ありがとう」とゆっくりと立ち上がりそういった。


 そして少し心臓の鼓動が収まるまで待ち、俺は

「それで、俺に何してほしいんだ」と聞いた。


 2回程会っただけの見知らぬ人。

 また、昨日あそこまで怒られたのである。

 少女が何か企んていることは目に見えていた。


 すると少女は、少し笑い

「そんな事は後でしょ、今すぐ行かないと間に合わなくなるわよ」と俺の心配をしてきた。

 俺はもやもやとしたまま

「お、おう、じゃあまたあとで」そう言って少女から離れていく。

 少女は俺が見えなくなるまでずっと眺めていた。


 森を抜け山を降りると丁度、俺を抜いて最後尾の男子が走っていた。

 本当に追いついた。と心から少女を凄いと思ったのも、つかの間まだゴールまで数キロある。

 次は何とか離されないように無我夢中に走る。


 そしてなんとかゴールする事ができた。

 グラウンドには既に篤や大輔が水分補給も済ませたようでタオルを首に巻きゆっくりと歩いていた。


 俺も水を飲もうと蛇口の近くに行くと篤と大輔が近寄ってきた。「お疲れ様、光」

「ああ、ありがとう」そういうとなぜか、篤と大輔がくすくすと笑っている。

 すると篤が

「光、道に迷った?」と聞いてきた。

 なぜなのかと思い

「え、どうして?」と答えると

 近くにいた康成が俺の近くまで来て

「だって服にたくさんひっつき虫とか葉が付いているから」と言いながら俺の服を触りくっつき虫を手に取る。


 そう言われ自分の服を見て驚いた。

 服の白の中に緑色が見事に混ざり合っていたからである。

「そうなんだよ途中から道に迷ってね。いや〜本当危なかったよ」なんとか誤魔化そうと話に合わせる。

「もしかして…」急に篤の顔が暗くなる。


 俺はギクリとして固唾を呑んだ。

「光って方向音痴?」良かったバレてないようだ。

「違うよ、俺普通だって」

「方向音痴の人って自分は方向音痴だと思ってないらしいよ」と三人の中で俺が方向音痴ということになってしまったところで

「集合!」体育の先生の集合がかかった。

「行こうぜ」篤が走り出しそれに続いて大輔も走り出した。

 高校になって初めてできた友達に嘘をつくなんて何をやっているんだと自分で自分を殴ったところで皆が集合した場所に俺も行った。


 授業が終わり放課後、昼食を共にした皆は部活の見学にまた行くらしい。

 昼に言われた為、部活の見学に行こうかと思っていたが、少女からの頼み事があったため部活の見学は明日からにして先に少女の元へ行くことにした。



 少女は家の前で薪割りをしていた。

 俺に気づいたらしく

「あっ、やっと来た。遅いよ」と少し不機嫌そう。

 俺が来るのが遅かったからだと思うか学校だったのでどうしようもなかった。

「今まで学校だったんだよ」そう言うと俺は、早速本題を切り出す。

「で、何をして欲しいんだ」そう聞くと少女は少しまだ迷っているようで少し答えが返ってこなかったが何か決心がついたようで、

「私はまだあなたを信じていない」と唐突に言われた。


 そうとは思っていたがきっぱり言葉にされると何故か体に応えるものがある。


「でもあなたしかいないの」

「だから仕方ないからあなたに頼むことにする」俺にしかできないこととは何かと思っているとその答えが出される。

「あなた昨日話していたお婆さんを病院に連れて行って欲しいの」少女の頼み事というのは自分のことではなく、あの老婆のことだった。


「近頃お婆さん食欲も全然なくて、よく体を抑えて痛そうにしているの」少女は顔を暗くしてそういう。


 あの老婆は、少女に癌のことは話していないらしい。

 となると病院に連れて行っても同じことだし、断りたくもなかったが少女に助けられたことや少女の顔を見ていると断るに断りきれなかった。


 しかたなく

「ああ、わかったよ」と答え

「だけど、その前にもう一度君のおばあさんに合わせてくれるか、秒の日程とかもあるし」と付け加えて言った。

 少女も断るに断りきれないのだろう。

 いやな顔をしながら

「いいわよ。ついてきて」といって俺たちは家に入っていった。昨日と同じ部屋に行くと老婆がいた。

 しかし、寝ている。

 俺たちが近くまで行くと気配か何かに気づいたのかゆっくりと目を開けこちらを見る。

「あんたは昨日の...」名前をいいたいそうだがいえないらしい。老婆は少し考え

「光君だよね、よく来たねえ」と名前を思い出したようだ。 

 俺は

「また来させていただきました」と答えると

夢美ゆめみまた席をはずしてくれるかい」と少女は夢美というのかと何気に少女にこと何も知らないなと思いながら夢美のほうを見ると悲しそうに怒っていた。

「なんで私がここに居たらいけないの」

「いまから大切な話があるから」

「私だけなんでいつも除け者なの...おばあちゃんのバカ!」そう言うと泣いて一目散に外へ走っていった。


 俺は少女の気持ちも分っておりそこで除け者にされる辛さも分っていたが、老婆の辛さも分っていおり、どう声をかければよいか分からず、結局声を掛けることができなかった。


 気まずい空気、少しの沈黙から老婆が口を開けた。

「さて、今日来たということは答えが出たのかい」

「いえ、まだ決まってないです」そう言うと、老婆は何か悩むような仕草で

「はて、それじゃあ今日はどうしたのかい」と問いかけられたため

「お子さんにあなたを病院に連れて行ってやってくれと頼まれたんです」と返答した。


 老婆は意外にも冷静に

「そうかいあの子がねえ」といっていたがうれしそうだった。


「それで病院ですがいつ行きますか」と問いかけると

「いや、私一人で行けるよ」というが、こんな老婆に病院に行かせるなどその前にへたばってしましそうだった。

「夢美さんに連れて行ってと頼まれたんです。何かあっては困るので僕もついていきます」そういうと老婆は

「それじゃお言葉に甘えようかね」と言ったのでいつ病院にいくか日程を決めた。


 そしてそれじゃあこれで、と帰ろうとしたとき老婆が

「ちょっと頼まれてくれないかね」というので

「どうしたんですか」と答えると

「本当は私が行きたいんだがねえ。最近どうも体が思うように動かなくてねえ。だから夢美を迎えに行ってやってくれないかね。」といった。


 人間というのは不思議なものだ。

 追い詰められた人に頼まれたときに断ることはできないのだから。


「はいわかりました。でも俺が行ったところで彼女を怒らせるだけなんじゃ...」と不安な気持ちを老婆に伝えると老婆は笑って

 しかし、何か説得力があるかのように

「そんなことはないよ」といってくれた。


 俺は少し迷うそぶりをしたが答えは最初から決まっている。


「わかりました。ですが、彼女の居場所はわかっているんですか?」

「ああ、夢美には何か悩み事があると必ず行く場所があるんだよ」といって俺にその場所を教えてくれた。

「それでは」そう言い家を出て行った。



 家から出てさらに山を登る。

 夢美がいると思われる場所は老婆の話によると、見晴らしのいい町全体や夕日が見える崖のようだった。

 その場所へ行ってみると確かに夢美はいた。

 夢見は崖近くの木の裏で泣いていた。

 なぜ泣いているのが分かったのかというと、夢美は声は出さなかったが体が小刻みに動いていること。

 時々聞こえる鼻をすする音から泣いていることがわかった。


 普通の人ならば、泣いている少女がいたら、大丈夫やどうしたの、と声をすぐかけるだろう。


 しかし、長年誰とも会話せず、引きこもりだった俺にとってそのような言葉はすぐには浮かばないし、たとえ浮かんだとしても、どんな顔で言えばいいか、どのタイミングで言えばいいかと考え、結局のところ言えず終いで終わってしまう。

 そこで、とりあえず話し始めなければ何もならないそう思い少女に俺は話しかけた。


「ええっと、夢美さん」と、とりあえず名前を呼び様子を見る。すると夢美はかすかに下を向いていた顔をこちらへ向ける。

「気安く名前で呼ばないで、それになんで、ここに変態がいるのよ」あの時以来夢美は、俺のことを変態と呼ばれている。


 当然変態と呼ばれてうれしがるのは、Mぐらいなものだ。

 早めにその呼び名を変えてほしいが今はそれよりも機嫌を直してもらうほうが先だ。


「おばあさんに頼まれたんだよ。慰めてやってくれてってね」「私は大丈夫だかさ、早く帰りなよ」言われたとおり帰ったほうがいいのかもしれないが、こんな場所、また、だいぶ暗くなっているため、少女一人を置いて帰るなど、人としてどうかと思い、夢美には悪いが帰る気になるまで一緒にいることにした。


 そうと決まりとりあえずどこかに座ろうとあたりを見渡すと崖から夕焼けが見えた。


 そこから見える景色はすばらしかった。

 夕焼けがきれいだということもあったが、町が小さく見え、なんだか自分が偉くなった気分だった。

 感動していると、ビュウーっと強い風が吹いた。


 崖のほうに体がもって行かれる。

 落ち防止のための柵もなく、危うく落ちてしまいそうだった。

 およそこの崖は200メートルくらいはあるだろう落ちたら即死ということはいうまでもない。

 俺はこの崖には、あまり近づきたくないと思った。

 崖から離れ、夢美が向いているほうではなく、逆にある木の下に俺は座った。


 少しが経ち、烏がカァカァと鳴いている。

 俺はスマホを取り出し時間を確認する。

 お決まりかのように既に時刻は午後7時になっていた。

 今日は学校から宿題が出ている。

 さすがに明日も同じ時間に学校に行き、宿題をすることは不可能だと思っている。

 そのため今日は早めに家に帰り着いておきたい。


 しかし、先ほどから思っているようにこんな場所に少女一人置いて家に帰れない。

 夢美がいますぐに帰るとも思わないが、一応聞いてみることにした。

「夢美さん、そろそろ帰りませんか」と聞いてみたところ返事がない。

 ただの屍のようだ...そんなわけあるはずはない。

 と思い夢美の近くまで近寄る。

 そういえば、先ほどから鼻をすする音などが聞こえない。

 その変わりに寝息の音がかすかに聞こえる。

 これはどうやら屍になってしまったのではなく、シンデレラのように眠ってしまったようだ。


 ここで俺はここで原作通りキスをして目覚めさせようとするラブコメディ的な展開は考えていない。

 仮にその行為をして夢美が起きてしまった場合、夢美が嬉しがることはなく、確実に悪魔のような顔になりこの崖から落とされたりなど俺を殺されかねない為である。


 しかし、これまた困った自体である。

 少女をこのまま置いていけない。

 しかし、起こすのも気が引ける。

 仕方なく、俺は夢美をおんぶして帰ることにした。

 よっぽど疲れたのだろう。

 俺が夢美の体を動かしてもまったく文句を言わない。

 そればかりか、起きないのである。

 本当にただの屍状態。


 しかし、そのおかげで助かっていることもある。

 それは、俺の背中に柔らかな何かがぶつかっていることである。

 夢美が起きていたら、そのことどころかおんぶだけでも何をされるかわからない。

 起きないでください。

 と心の中で念じながら降りる俺であった。

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