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忘れられた者  作者: 星がキタロウ
18/22

目覚める者

家に帰ると俺は唖然とする。

そう、夢美が起きているのである。

俺は思わずカップ麺の入った袋を落とす。体が急に熱くなる。

目から涙が滴り落ちる。俺は夢美に近寄り力いっぱい抱きつく。


「ちょっと変態、何するのよ」

「夢美...良かった...」

「痛い、痛い、変態離して」


その言葉を聞き、俺は夢美の背中に傷があることを思い出す。


「ごめん、でも本当に良かった...」


どうしよう、涙が止まらない。

この涙は夢日が目覚めたことの嬉し涙か、それとも夢美を守れなかった怒りと悲しみの涙のどちらだろうか。

いや、多分ふたつの涙であろう。


「いくら何でも泣きすぎじゃない」

「分かっている。でも、止まらないんだよ」


あまりに俺が泣き続けるので、夢美も話すことをやめた。

俺だってこんな泣いている姿を見られたくない。

顔を洗いに行きたいが、まるで金縛りにでも合っているかのように体が動かない。そして、数分の間この部屋には俺のすすり泣く音が広がっていた。


数分後、俺も大分泣き止んだ。そして、広がる音が小さくなったためか他の音が横入りしてくる。

「ぐうぅぅぅ~」と大きな音がなる。俺の腹の音だろうかと一瞬疑ったがどう考えても、下からではなく前から聞こえてきた気がする。


俺がゆっくりと顔をあげると、夢美が顔を真っ赤にさせて両腕でお腹を押さえている。

夢美は俺が見ているのに気がつくと先程まで押さえていた腕を外し

「私じゃないからね」

となんともバレバレの嘘をつく。


夢美はこの一日以上水だけで生きており、なにも食べていないお腹がすくのも当たり前だろう。


「たぶん今の俺だわ、はぁ~、腹へった。夢美も一緒に昼御飯食べるか」と夢美の女子としてのプライドをカバーしつつ、食事へ誘導する。

夢美はすでに後ろ、壁を向いている。俺が食べるかと聞くと、

「あんたがどうしてもって言うなら食べてあげないでもないけど」

となぜか遠回しにいう。俺がそれなら食べなくてもいいけど、と言った時の反応も気になるが拗ねてしまいそうだったので

「ああ、食べて欲しいよ」と言い、キッチンの方へと向かった。


俺はコンロでお湯を沸かしカップ麺にお湯を注いだ。

そして、机まで持っていく。ついでに割り箸も。

先程のコンビニの定員はどう思ったのか、俺の家にはカップ麺の数だけ家族がいると思ったのか8本も割り箸が入っている。本来ならば環境的な面も考えて使い回しの箸を洗って使った方がいいのだが、使ったらそのまま捨てれば良い割り箸と違い労力のかかるその箸はその時、俺の選択肢にはなかった。

俺がカップ麺を置くとまだ数秒しか経っていないのに夢美は手を合わせ

「ありがとう、いただきます」とカップ麺を持ち上げ、食べようとする。

慌てて俺が止めにかかる。

「待て待て、まだ出来上がっていない。あと三分待て」

これが夢美で無ければ俺はその人をどれだけ食欲深いんだと思っていただろう。

助かったな夢美。

三分と聞いて夢美は先程からソワソワしている。

よっぽど食べたいようだ。


「まだできないの」

「さっき聞いてからまだ1分も経っていないぞ」

「うぅぅ」


とまるで餌をねだる犬のようだ。



「よしいいぞ、食べて」

その言葉を聞き夢美は嬉しがる。

また、手を合わせ

「ありがとう、いただきます」といいカップ麺を持ち上げる。

「ここの蓋を開けばいいのよね」といい蓋を開く。

蓋を開くと夢美は何故か固まる。

「どうしたんだ?」

「この中の紐のような物をこの木の棒で食べるの?」と割り箸を俺に見せ、そう言う。

「そうだけど、もしかして、使い方わからないのか?」

ともしかして割り箸の使い方を知らないのではないかと聞いてみると、夢美は少し怒った言い方で

「それぐらい知っているわよ」と意地をはって言う。


しかし、言っていることとは裏腹で割り箸を割らずに夢美はいきなり汁の中に割り箸を突っ込んだ。

これはまたどう使うかが見ものだ、と思い俺は割り箸を割ろうとしていた手を止め、夢美のカップ麺を見る。

次に夢美は汁を少し混ぜ箸に麺を絡みつけて食べた。

なるほど、全く違うがよく考えたものだ。


「これって食べにくいわね」と食べながらそう言う。


それはそうだ。

何たって使い方が違うのだから。

俺もそろそろ食べるかと当然のように夢美の前で割り箸を割って見せる。

そして、箸で麺をすくい食べる。

ふた口ほど食べていると、俺の姿を見て食べ方を理解した様で隣から箸がパキッと割れる音がした。

二人のカップ麺は麺だけでなく汁まですべて飲んでしまった。


「はあ~、美味しかった。こんなに美味しい食べ物はじめて」

「え?初めて」すかさず突っ込みを入れる。

「久しぶりだった。やっぱり久しぶりに食べると美味しいわね」

始めてなら、始めてと言えばいいのに何故そこまでして知っていたいのだろうか。


「さて、それじゃあ私そろそろ帰るわ」


帰るだと、なにを言っているんだ、丸々1日寝てまだ傷も治っていないこんな状況なのに返すと言うのか、いいや、だめだろう。


「なに言っているんだ、まだ傷治っていないだろ」俺は怒ってそう言う。

すると夢美もむきになる。


「このぐらいの傷何ともないわよ」

夢美はゆっくりと立ち上がろうとする。

しかし、立ち上がると、まるで生まれたての子鹿のように崩れ落ちる。


「ほら、分かっただろ。今日一日でもいいから、泊まっていけ」

しかし、夢美も諦めが悪い。


「いやよ、家でおばあちゃんが待っているの」


そう言うとまた立とうとする。

しかし、同じように崩れ落ちる。


「分かった。俺があのばあさんの家に行って、看病やお前が大丈夫だってこと伝えとくから、休んでくれ」


とうとう夢美も自分の身体事情についてわかったらしく。


「分かったわよ」そう呟き、また布団をかぶった。


俺は夢美のその言葉を聞き、老婆の家に行く準備をする。

と言いつつも持っていくものは財布以外ない。


「それじゃあ、行ってくる」

「うん、よろしく。行ってらっしゃい」


まるで恋人同士の様な感じがした。

そんなことを考えてしまい先程「泊まっていけ」と言ったことが急に恥ずかしくなった。


俺は外に出て今や常連となっている、あのコンビニに行く。

そして、いつも通りインスタント商品を買おうかと思ったが、食べる相手は老人である。

果たして老人にインスタント商品を食べさせていいのだろうか、いやダメだろう。


その結果、パン、おにぎり、スパゲティ、サラダ、お茶と正直、栄養もへったくりもないが、とりあえず買っておいた。

ただし、サラダを買っただけでも栄養面を考えていたと思ってほしい。

俺はこのバランスの片寄った食事を自転車のかごにいれあの山まで向かった。



山を上っている最中、二日前老婆に捨て台詞を吐いて逃げてきたことを思い出す。

会うの辛いなあ。

しかし、夢美と約束してしまった。

俺は少しためらいを感じながらも夢美の頼みだと思い、なんとかあの家に着くことが出来た。

やはり家の周りにはいない。

俺はもう一度高校の面接でもするかのような緊張感に襲われていた。

大きく深呼吸をする。

これこそ誰かにみられたら変態まっしぐらだろう。

よし、落ち着いた。

そう自分に言い聞かせる。

俺は意を決して家の中へ入っていった。

ゆっくりあの部屋へ向かう。

あの部屋からはなんの音も聞こえない。

老婆が寝ていたらこの食料だけ置いて帰ろうとも思った。


しかし、老婆はあの部屋におり、また起きていた。

俺は部屋に入る直前で「こんにちは」と挨拶を入れる。

その声に気づいた老婆はまるで亀のようにゆっくりとこちらを向く。


「ああ、光君かい。いらっしゃい」

「こんにちは」と焦ってもう一度言うが、動揺して頭に入らない。

俺が部屋の中に入るといきなり老婆が

「一昨日はごめんね。私も動揺してしまって」と俺に謝る。

謝るべきは俺なのに老婆は自分を責めている。

なんとも気が気でない。


「いいえ、一番に謝るのは僕の方なんです」

そう呟いた。

少しの間がある。

気まずい。

このまま立ち去りたい。

そんな気をぐっと堪えて俺から話し出す。


「あのそれで夢美さんですが...」と口にした途端、老婆の顔が芯圧なものになり、待ち構えていたかのように俺を凝視する。

「今日、起きました」そう呟くと老婆はまるで俺がとった行動と同じように、

「そうかい、良かった」と安堵の顔を浮かべ、泣き始めた。


しかし、すぐに泣きやみ俺の次の言葉を待っているようだ。

目から、何故ここに夢美はいないのかと問いたいようだ。


「それで、夢美さんまだ怪我が完全に治っていないため、今日一日だけでもと言って家で休ませて貰っています」


その言葉を聞くと、老婆はにっこりと笑顔を見せ


「あの子も毎日よく働いてくれるからねえ、少しばかり預かってくれないか」

「そう思うのですが、夢美さん早くあなたの元へ帰りたいらしくて、今日から帰ろうとしていたんですよ」

「無茶ばかりする子だからね〜、私としても心配でね〜」

「それで夢美さんから言われて、これどうぞ」とさっき買ってきた食べ物を渡して帰っていった。

「何度もわるいよ。私にはあるから」老婆は受け取ろうとしない。

「夢美さんから言われたんです。もらってもらえないと俺も帰るに帰れません」

そう言うと

「それじゃあ。いただこうかしらね」といって受け取って貰えた。

「それじゃあ光君今はあなたの家に夢美はいるんだろ」

「はい」

「なら早く帰ってあげなさい。光君のことを待っているだろうから」

あの口を開けば変態の二文字がよくでる夢美が俺の帰りを待っているとは思えないが素直にここは受け入れて

「はいわかりました。それじゃあこれで」

そう言って家を出ていった。

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