訪れる者
日が昇る少し前、俺は目が覚めた。
どうやら昨日そのまま寝てしまったようだ。
布団に寝ている夢美の顔を見る。顔色が昨日よりよくなってはいたが、まだ目覚めてはいなかった。
時計を見ると、5時今日は学校を休むことにした。
もちろん休みたくて休むわけではない。むしろその逆である。
俺はくるみと仲直りして以来、学校が楽しくなっていた。またあのグループにも親近感のようなものを感じるようになってきた。だが今は違う。学校よりも夢美が最優先である。例え夢美が俺が産み出した幻想であり生き物でないとしても見過ごすわけにはいかなかった。
そんなわけで、学校へ休むと連絡した。もちろん、休むにはそれなりの理由が必要なため、鼻をつまみ、鼻声を演出したり咳き込んで風邪あるように思わせた。とりあえず、休みはもらったものの夢美に異変が起きないか見張っておくことしかできなかった。また、ここでもし夢美に何か異変が起きたとしても俺の力ではどうすることができないため、実際休んでも、休まなくても同じようなものだった。
さてまずは朝御飯でも食べるかと、家にあった残りのパンを食べる。パンを食べていると昨日の出来事を思い出してしまいイライラする。パンは最初残しておこうかと思ったがそんなことを考えているとやけくそでやけ食いになってすべて食べてしまった。
さて、ついにやることがなくなってしまった。次に俺が手をつけたのはやはりスマホだった。
夢美の顔がうかがえる場所に座りながら、スマホをさわる。しかし、いつもはいくらやっても飽きないスマホだが、いざ何もやることがなくひたすらにスマホをやるほどつまらないことはない。
結局スマホも数時間で終わってしまった。
次に俺は、勉強をした。
あれほど欲しがっていた休み、だがあれほどいやがっていた勉強にてをつけている。国語、数学、英語の3教科を1時間交代でひたすらにぐるぐると回す。意外なことに飽きが生じない。しかし、俺の頭ではなかなか解くことができない問題が多く、(1)しか解くことができず、残りの()は、教科書を見ながら解いていくのでかなりの時間がかかった。
数学の一次関数を解いていたときである。いきなり「チャラン」と大きな音がなる。スマホのメール音だ。
俺は教科書で半分埋め尽くされた部屋の中から音を便りにスマホを探す。スマホは物理基礎の教科書の裏にあった。つけてみるとメールはくるみからだった。
『病気のなかごめんね。ひかるん今日学校やすんだけど大丈夫?』
時間を見ると昼の十二時、まだ学校なはずだ。
『大分よくなったけどまだ調子悪いから寝ている。それより学校じゃないのか』
と返信すると10秒もたたないうちに
『うん、そうだよ』という返事が帰ってきた。
そうだよ、じゃないだろ。
学校に持っていってもいないのに使っているなんて見つかったら大変なことになるだろと心の声をそのまま打つ。
すると、
『大丈夫だよ。今行程の裏だし先生なんて誰も来ないよ。それに、ばれなきゃ犯罪じゃないって言うじゃん』
という返信が帰ってくる。あいつ言いやがった。言えばすべてが認められる魔法の言葉を。
『それよりご飯食べた?』
完全にさっきの話流しやがった。まあ、いいか。
それよりご飯かそういえば、まだ昼御飯食べてなかったな
『まだ食べてないよ』と返信する。
『病気の時ほどしっかり食べないとダメだよ』という返信。
なぜだか説教されているようだ。俺がわかったしっかり食べておくよと打とうとしたとき。
『昼休みもう終わるからまたね。お大事に』と返信が来た。
そうか、昼休みだったけ。俺は他人事に考えながら、カップラーメンのお湯を沸かしていた。
昼御飯を食べ、午後になっても俺は勉強した。
午前中十分に復習をやったので、午後は今日やっているであろう範囲を勉強をした。
早速一番気持ちの乗る数学からやる。しかし、今度は問題(1)から止まってしまった。二乗の式を因数分解せよだと何をいっているんだ訳がわからない。
こんなのエジソンやそんな天才しか解けるはずないだろうと思いながら教科書を開く。教科書にはそれなりのやり方が書いてあったがあまり理解ができない。
ここで俺は教師の偉大さについて理解したのであった。
かれこれ1時間以上考えたがどうしても答えが出ないので数学は諦め、国語をやった。
国語は今、現代文を読んでいるためそれを読んでおけばよい。一番簡単だ。どれどれ、健二くんが、公園に遊びにいったと、そこで友達と遊んだと、なるほどやはり簡単であった国語も1時間ほどで終わり次に英語でも始めようかと教科書を探していたとき、
インターホンがピンポーン、となった。
俺はその衝動で「はーい」と答え玄関へ行く。郵便だろうかと思いながら、ドアを開ける。しかし、そこにいたのは宅配業者の人ではなく、くるみだった。
「ひかるん大丈夫?」
「なんでおまえがいるんだ?」
「きちゃった」そう言って舌を出しテヘと可愛い子アピールをしてきた。
たしかに可愛い。しかし、今はそんな話ではない。
「なんで俺の家を知っているんだ」
そう言うとくるみは得意気に
「ひかるんさ前に一人暮らししているって言ったでしょ。その時に保護者代理人として近所の知り合いのおじさんに頼んだいっていたじゃん」
そういえばそんなことみんなに話したなあ。
「でね、私分かったんだ。ひかるんって元々、あんまり大人と話さないでしょ。その中で代理人を頼んだとなると昔よく遊びに行ったあのおじさんしかいないでしょ」
なんで全て分かっているんだ。女というのは人の心を読む力でもついているのか。
「それで、おじさんの家にいってみたらひかるんの家はここだよって教えてくれたよ」とくるみは話す。
「とりあえずお邪魔しまーす」といって俺の家に入ってきた。
「おいおい、ちょっと待て何かってに入ってくるんだ」そう呼び止めるとくるみは体をくるっと回し
「ひかるん、あなた病人でしょ。それに、昼になにも食べていないっていっていたじゃない。だからご飯作りに来たの」そう言い俺の腕をつかみ奥へと引っ張る。
「へえ、ここがひかるんの部屋かあ」なにも片付けをしていない俺の部屋をくるみはまるで宝探しをしているかのように楽しげに眺めている。しかし、やはりといっていいのだろうか、俺の布団で夢美が寝ていることについては何も言わない。
「あっ、ひかるん」そう言いながら俺の方をにらむ。
「ん?どうした?」どうした、どうした、俺の部屋になにか悪いものでも置いたか、いやアダルト系のものは持ってもいないし、今さらこの部屋の汚さについて怒っているのではないだろう。それなら何について怒っているのだ?
「ひかるん勉強していたでしょ」
「ああ、それのことか」
「それのことか、じゃないよ。病人は勉強しちゃダメ。しっかり治してから」
「いや、遅れるの嫌だったし」
「わからないことあったら私も手伝うから今は病気を治すこと最優先。さあ寝た寝た」
そうしてくるみは俺を布団に寝かせようとする。しかし、待て。
今、布団には夢美が寝ているここで寝るのは男としてはこれほど美味しい展開はない。絶好のチャンスだ。だが、俺にはそれを実行する勇気はない。
それより、色々まずいだろ。何とかしのがなければ。
「いや、いいよ。もう大分治ったし」
病気ではないんだ。寝る必要はない。
すると、またくるみは俺を睨み付け、
「そうやって油断してるからこうなるんだよ」と怒りつける。
(くるみは俺のことを思ってくれてそう言っている。それは俺もよく分かっている。だが、今は俺にとって一番重要なのはそこではない。どうすればいいのか、、、いっそこのまま言う通りに寝てしまうか、、、いいやダメだそんなことできない。なにかないのかこの場面を打破できる方法は、、、仕方がない一か八で、、、)
「くるみ」
「どうしたの?ひかるん」
「実はだな。今俺の布団には女の子が寝ているんだ。だから寝れないんだ」、、、
くるみは状況が飲み込めないようでゲームのロード中のように全く動かない。あっこれは、俺は察した。
「ほら、やっぱり治っていないじゃん。布団になんか誰もいないじゃん。さあ、早く寝る」
ですよね。そうなるとは思っていた。これで俺は完全に病人扱いだな。
俺はその後もなんとか布団で寝ないようにクルミを説得したが無駄だった。そして仕方なく布団で寝ることになった。すまない夢美許してくれ。こうするしかなかったんだ。
「なんでひかるんそんな端で寝るの。しかも布団も半分しか掛かってないし」
「暑がりなんだこれがちょうどいい」
「ダメしっかり布団被らなきゃ。ホラ早く真ん中に行く」
すまない夢美、、、俺の体はとうとう夢美の体と接触してしまった。
「よし、それじゃあご飯できたら起こすから、それまで寝ていて」
寝ていて、だと、、、無理だろ。どこの世界にいい年の女の子が隣に寝ていて同様に気持ちよく眠ることができる男がいるだろうか。
俺は落ち着くために心を無心にする。からすの鳴き声キッチンで料理を作る音、隣から聞こえる寝息、、、寝息!?いや無心になるとか無理だろ。女の子が隣に寝ているんだぞ気持ち落ち着かせられるか!
逆に病気悪化するだろう。
そんな俺には縁のなかったはずのことを考えているうちにクルミの料理が出来上がった。
「お待たせ、できたよ。ひかるん顔赤いよやっぱり熱あるんじゃん」
(いや、確実に病気のせいじゃないと思うけどな)俺はくるみの作ったお粥を見る。
「くるみってご飯作れたんだな」
「私だってこれくらい作れるわよ、大丈夫一人で食べられる?」
「一人で食べられるよ」
ここで、食べられないといったらどんなことされるのかと考えたら、、、それ以上は考えないようにした。
さっそく一口、口の中に入れてみる。、、、おいしい。くるみの作ってくれたお粥は誰が食べても美味しいと言うほど美味しかった。
「完食だね、よしよし」と満足そうな笑みを浮かべながら食べ終わった俺の食器をキッチンへと持っていった。
このような場面はまるで彼女と彼氏のようじゃないかと思い急に顔が熱くなる。
何を考えているんだ俺、落ち着け。くるみも俺を心配してきてくれただけだ。何も俺に好意があった訳では無い。そうだ、そうだ。そう頭で言い続けていると
「ひかるん」
「ひゃい」
「なんでそんな驚いた返事をするの」くるみはくすくすと笑っている。
「どうしたんだ」
「片付けも終わったことだし帰るよ」
「そうか、今日は色々とありがとうな」
「いいよ、いいよ。ひかるんこそ早く治して学校に戻ってきてね。それじゃあ」
そう言うとカバンを背負いくるみは俺の家から出ていった。
看病されていたはずなのにかなり疲れる時間だったと洗われた食器を見て思った。