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忘れられた者  作者: 星がキタロウ
15/22

追い詰められる者

夢美の足が急に止まった。

「どうしたんだ?」そう言うと焦った息を殺した声で

「ちょっと静かにして、ゆっくりと音を立てずに後ろに歩いて」といった。

俺は何が起こっているのか理解ができなかった。

俺は夢美近づき

「どうしたんだ?」と聞いた。

この時俺は何故夢美が驚いていたのかが理解出来た。

いや理解させられた。

約30メートル先に体長2メートルはあるであろう黒い熊がいたからである。

そうここは、山である。

しかも熊のいる。

俺は今まで山の存在を平和な公園のように勘違いしていた。

夢美が俺の腕を引っ張る。

「何しているの!早く気づかれてない今の内に逃げるよ!」夢美は小声しかし、強くそう言ってきた。

俺も見つかっていない今のうちに逃げるべきだとわかっていた。だが、考えとは逆に体はコンクリートで固められたかのように全く動かなかった。

「何しているの!早く!」夢美がまた声をかけ腕を引っ張る。

そして俺の足は引き摺られるようにやっと動いた。

しかし、ドタッ!すぐに転けてしまった。

振り返って見ると熊がこちらに気づいたようでゆっくりと一歩ずつこちらに近づいてきた。

「早く!」必死に俺を立たせ逃げようとしている。

が俺の体は動きそうにない。

完全に腰が抜けていた。

「もう動けないから、先に逃げろよ。運が良ければ俺も助かる」両方とも殺されるのが一番最悪である。

もし、夢美が死んだらそれは俺のせいなのである。

そう俺が伝えると夢美は俺の腕を放し、俺をタイキックで吹き飛ばした。

俺は蹴られ坂を転げ落ち木にぶつかった。

そして、その衝撃で俺は気を失った。

俺、ここで死ぬんだ...俺は視界が暗くなる中で死を覚悟しながら目を閉じた。

「お兄ちゃん...」どこかで聞いた声。

多分この声は妹の声だ。

つまり俺は死んだのか。

俺はゆっくりと目を開ける。

そこは真っ暗な何も無い場所。

そして、妹が一人だけいた。

「萌絵、久しぶりだな」

「お兄ちゃんは人に会いたい?」

「いきなりどうしたんだ?萌絵」

「お兄ちゃんにとって人はどんな存在?」

俺にとって人か...なんでこんな哲学的なことを聞くんだ?

...そうだ、夢美はどうなった!?

「萌絵、ここに短い髪の女の子来なかったか?」

「その人はお兄ちゃんにとってどのような存在なの」

「今、守らなければならない存在だ」

「ごめんね、お兄ちゃん。私その女の人知らない」

つまりここが死後の世界なら、夢美はまだ死んでいないことになる。

ひとまず良かった。

「お兄ちゃん」

「ん?なんだ?」

「戻りたい?」戻りたいとは、今まで俺が生きていたあの世界のことだろうか。

「ああ、戻りたいよ」

「そう、それなら良かった」萌絵は俺に満面の笑みを浮かべ俺に見せる。

その時、俺の周りを光が覆う。


目を開けると草木の香り地面を触り感覚を確かどうやら死んではいないようだ。

熊も辺りを見回す限りどこにもいない...そして俺は思い出す。

俺はこの山全体に聞こえるような声で「夢美!」と何度も叫んだ。どこにもいない返事もしない最悪の場合が脳裏に浮かぶそう考えた瞬間頭が真っ白になり俺はねじを抜かれたかのように崩れ落ちた。

「何、人が死んだかのように崩れ落ちているのよ」背後から聞き覚えのある声振り返ると夢美がいた。

「良かった〜」

「私はあんたを助けた。お礼をしなさい」

「いいよなんでも聞くよ」

「いい、これから私の近くで死ぬようなことを絶対にしないで」

これまた変わったお礼を要求された。

普通、お金やら物など自分に利点がある物を要求するだろう。

何でそんな、当然の願いなんだ?

「それがお願いか」

「そうよ、悪い?」

いや、悪くは無い。

ただ、それだと命を救って貰った割に合わない気がする。

「いいや、分かったよ」それより本当に凄いなお前があのくまを追っ払ったのかと言おうとした時、夢美がバタッと前から倒れていった。


俺はまた焦り夢美に近寄る。

「夢美大丈夫か!」そう言い夢美に触ると俺の手には真っ赤な血がべったりと着いた。

もう1度夢美と呼ぶが返事がない。

俺は夢美を傷つけない様にゆっくりとおぶり病院へ走った。

俺は必死に走った誰よりも速く口の中が血の味になり足も痛くなるがそれでも走り続けた。

死なせてたまるか、死なせてたまるかこんな事で夢美が死ぬぐらいだったら自分が死んだ方がマシだ。

山を降りてすぐ近くにあるボロくて小さな病院へ行った。

「すみません!」丁度よく客はだれもいなかった。

「どうされました?」と受付が聞いてくる俺はお構い無しに奥の部屋へ行った。

「すみません、お客様」と受付が着いてきた。

俺は診察室に入った。

「すみません、すぐに見て貰いたいんですけど」

「どうされました」落ち着いた様子で病院長がそう言う。

何故この状況で冷静でいられるのだ。

「この背中の女の子を見てください」病院長は不思議な顔をしながら

「どの子ですか」と言う。

「見てくださいこんなに血が」体に付いた血を見せる。

しかし、病院長は「何処ですか」と表情からして真面目に言っている。

本当に夢美は見えていないんだこの時、俺は確信した。

夢美達の言っていることは本当のことだと。

しかし、今は信じたくなかった。

病院長から見れば俺はここに来るべきではなく、精神病院に行くべきだと診断するだろう。

そういえば、俺はこの病院まで走ってきた。

しかし、血だらけで走っている俺を見ても誰も気にはかけてたが、怖がりはしなかった。

あのときの人たちから見た俺は少し前傾姿勢で手を後ろにやって走っているただの変人にしか見えなかっただろう。

俺は夢美を抱えたまま逃げるようにその場を去った。

次に俺が行った場所は俺の家だった。

俺は最初風呂場に行き夢美の傷場を洗おうとする。

傷は大きく分けて2箇所背中と足だった。

その中でも特に背中からの出血がすごかった。

傷口を洗うと俺のいつも寝ている布団に夢美を寝かせ、その後ダンボールの中から布を取り出し足のほうに布を巻き、背中の方は傷口を押さえた。

数分後、夢美の出血は何とか止まった。

しかし、それもつかの間、次には熱が出だした。

俺はタオルに水をしみこませ夢美の頭においた。

この家には、氷や熱さましの薬などは一切ないため、これが俺にできる最善の策だった。

夢美の熱はなかなか下がらないまだ熱を出して数時間しか経っていないため仕方のないことだが、早く治してほしかった。

ここでもうひとつ俺にはやらなければならないことがあった。

あの老婆である。今まで夢美に世話をされほとんど寝ている老婆である。

夢美が動けない今俺が老婆の世話をしなかればならないと思った。

夕方になり夢美の熱は大分下がってきた夢美の顔を見る限りそれほど苦しそうではない。

今のうちに買出しに行くことにした。

だが、俺が外出の間に夢美が目を覚まし、パニックに陥ってはいけないので、今に至るまでのことを書いた置手紙を置いて俺は家を出た。

家を出て最初にコンビニへ行った。

コンビニへは夢美をおんぶしてきたこともあり自転車をあの山へ置いてきたので、走っていった。

コンビ二ではなるべく栄養のありそうな食べ物を買い、また夢美のために熱さましの薬や、痛み止めの薬など必要だと思う薬を買った。

レジで会計をすると二万円ほどいったが一瞬のためらいも感じず、財布から金を出す。

きっとあの店員は、俺のことを病んでいる人だと思ったことだろう。

俺はそんなことを気にもせず自動ドアの方に向かった。

次に俺はあの老婆の家へ向かった。

老婆の家につき中に入ると老婆はいつものあのベットの上にいた。

俺に気づいていたらしく座っていた。

「あら、光君かい。夢美はまだ帰ってきてないよ」

「あの、それが...」と俺は躊躇いながらも今日あった出来事を詳しく説明した。

「それじゃあ今は光君の家にいるんだね」

「はい、そうです」

「それなら私のことなんか気にしないで早く夢美のところに行ってやって」

「はい、それでこれよかったら食べてください」俺は買ってきたものを老婆に分けた。

「いいよ、私にはまだ食べる物あるから」

「いいえ、貰ってください」そうここではもらって欲しかった。それは老婆のためということもあったが一番は夢美への償いであり、自己満足であった。

「そうかい、それならありがたくいただくよ」

「いえいえ、今回はすべて俺が悪いんです。こんなことになるなら俺が死んだほうがましだった」そう下を向きながらつぶやいた。

俺が顔を上げると老婆は俺の前に立っておりいきなり、パァン!と俺の頬を叩いた。

俺は老婆のビンタに驚き思わず尻餅をついた。

今までの弱弱しい老婆ではなく今俺の前に立っている老婆は別人のようだった。

「いいかい、夢美はあんたをなぜ助けたと思う。...あんたを助けたかったからだよ。それなのにあんたは自分が死ねばよかったなんて...もう一度言ってみなさい。私があなたを殺すよ」老婆は怒って言ったが目からは涙がこぼれていた。

俺は何も言い返す言葉がないはずなのだが、

「じゃあ、どうすれば良かったんだよ」そう捨て台詞を吐き落ちた袋を握り逃げていった。

逃げている最中俺は老婆のあの言葉から逃げるため暗示のようにどうしようもなかったと返す気づいたら自転車を山に忘れ家に帰り着いていた。

夢美が起きていないかそっと確認する。

しかし、まだ夢美は寝ている先ほどよりもまた顔色がよくなっているような気がした。

すっかり暗くなってしまったのでお湯を沸かしインスタントラーメンを食べた。

夢美にも何か食べさせた方がいいかと思ったが無理やり食べさせてもいけないだろうと思い俺一人で食べた。

夢美はいつ起きるのだろうか、もしかしたらこのまま起きないのかもしれないしかしそんなことは考えたくなかった。

俺にはもうこれ以上夢美の回復に役に立つことはなにもない。

気をまぎらわす為に、ここで俺は今日あった出来事について考えてみた。

その内容は勿論、夢美が何者なのかについてだった。

そもそも俺は夢美や老婆の言うことを全く信じていなかった。

誰も自分は他人には見えないと言われて信じる人はいないだろう。

俺もその一人だった。

しかし、俺だけは違った本当に夢美は見えていなかったのだ。

だが、何故見えない。

そして、何故俺とあの老婆だけには見えるのか。

そもそも見えるのは俺とあの老婆だけなのか。

考えてみれば今夢美の背中にできた怪我は新しさから見て間違いなく俺達を襲ったあの熊であろう果たして熊は夢美の匂いをおって行ったのかそれとも夢美を見て追いかけたのか分からない。

しかし、今時の科学は素晴らしい分からないことがあったら調べればいいのだ。

早速携帯で熊と入力し調べる。

そして熊の生態系についてのサイトをタップすると長々と熊について書いてあった。

その中には当然熊の嗅覚についても書いてあった。

このサイトによると熊の嗅覚は哺乳類の中で最も良いらしい。

このサイトが本当ならばたとえ夢美が見えていなかったとしても匂いを追って行ったととしても説明がつくだが一番説明がつかないのはその後である。

何故あの者達に夢美の姿が見えなかったかだ。

町の人も見ていた人は何人かは見ていたにもかかわらず誰一人として悲鳴をあげたりはせず何事もない平凡な日常のように楽しそうに世間話をしていた。

夢美からは血も出ていたにも関わらずだ。

ここで一つ辻褄が合う答えを思いついた。

その答えは自分では信じがたい事だが俺自身が生み出した空想の人物つまり幻覚を見ているという事であり俺の頭がおかしくなったということである。

果たして俺がいかれているのか夢美は本当に存在するのかそんな考えを夜が開けるまでしていた。

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