別れる者
明日は引越し前日、学校に行くとまたなにか変わったことが起こったらしく暮らすが騒がしい。
引っ越しの前日ぐらいゆっくりさせてくれ、と思っていたが、どうやらその発端は俺らしい。
なぜかって、それは簡単だ。
俺が教室に入った瞬間みんなが俺のところによって来たからである。
なぜか俺が引っ越すことがクラスみんなが知っていた。
担任が言ってしまったようだ。
みんなから、どうして引っ越すのやどこに行くのなどこれまた大量に質問された。
そして帰りには、色紙まで贈られた。
あんなに嫌な連中なのにいざ別れるとなると、それはそれで少しだけまだ一緒に居たくなり、悲しくなる俺がいた。
今日でここを去ることになる。
明日からもうここにいる人に会うこともないだろう。
空になったロッカーを見ると何か物寂しいもを感じる。
転向すると聞いて、告白されるような、ラブコメディー的な展開は期待はしていないがもちろんなかった。
その後、図書館に寄った。
くるみがいるか確認したがいなかった。
昨日以来見ていない学校も今日は休んだ。
体調を崩したらしい。最後にもう一度会いたかったな。
そう淡い願いをしながら図書館で一人勉強をするのだが、くるみは来なかった。
時々分からず、つまずいた時に「ここ分かるか」と一人で聞く度に悲しさが増大していく。
とうとう五時のチャイムがなった。
くるみは来なかった。俺は荷物を片付け、最後の図書館を去っていった。
俺は夕焼けの中、久しぶりに一人で家に帰った。
家に帰ると昨日まであったはずの荷物がきれいさっぱり無くなっていた。
俺がいない間に全て引っ越し屋が持って行ったようだ。
荷物がないといつもより部屋が広く感じる。
それと同時にがらんとした虚しい感じがした。
「光、荷物しっかり片付けておけよ」そう聞こえた気がした。
自分の部屋へ戻ると宿題などの勉強書が広げられていた。
本来なら片付けをして万全の体制をしすぐにでも寝たいところだが今はそうはいかない。
俺は、くるみにもう一度会うためにはどうすればいいか、仮病を使って引越しを1日ずらすことはできないかなど、どうにもならないことを考えていた。
結局いい案が浮かばずこの町最後の一日に終止符を打った。
朝になった。
飛行機は朝早くから乗らなければならない。
そのため日も出てない朝早くから空港に行くことになっている。
俺が起きて数分後には、家の前にタクシーが来ていた。
俺は急いで部屋に広げられている教科書類をバックの中に入れる。
バックはパンパンになりチャックが閉めづらい。
数分の死闘のうえなんとかバックに押さえつけることが出来、いよいよこの家ともおさらばした。
タクシーを乗っている間、俺はずっと街を眺めていた。
ガラス越しに俺がいた小学校、よく行った駄菓子屋、秘密基地を作った山、友達の家、サッカーをした公園、優しくしてくれたおじさんの家、くるみの家、そして毎日のように通ったあの図書館...全てが遠ざかっていく。
まだ、居たかったな。
だが、もうどうすることもできない。
とうとう空港まで着いてしまった。
父さんが受け付けの人にチケットを渡す。
俺はその時もずっと外を眺めていた。
父さんが俺の所まで来て。
「改札口に行こう」と言う。
仕方なく同意。
カバンを何か危険な感じがする機会の中に入れられ、俺は腕時計などの金属製品を外しゲートを通り抜ける。
ゲートで、金属を持っていないか調べるらしい。
人なんだから金属を元から金属を持っていないのは明らかである。
なら、このゲートは何を探しているのか、もしや人造人間を探すための機械か、などと幼稚園児が考えそうな馬鹿らしいことを考えてしまい、何を考えているんだと自分を責める。
ゲートを通り抜けバックを返してもらうと父さんのところへ行った。
そして近くの椅子に座る。
椅子からは飛行機が着陸する様子や離陸する様子が見られる。
アニメのキャラが描かれている飛行機もあった。
外を眺めていると父さんが「飛行機怖くないか」と聞いてきた。
俺を何歳と思っているのだ。
もう小学五年生だぞ。
「怖い訳ないじゃん、むしろ楽しみだよ」と強気に言い返す。
そう言うと父さんは微笑みを見せ「そうか、それなら良かった」と言ってきた。
「~便の受付を開始いたします」というアナウンス。
父さんが、「早めに行っておこう」といすを立ち、受け付けに行く。
俺もそのあとを付いていく。
受付の近くまで行くと父さんがなにかに気づいたらしく、俺に「あの子、光の友達じゃないのか?」と言ってきた。
「え?」と思い振り返ると、そこにはくるみがいた。
俺は父さんなんかお構い無しにくるみの所へ走っていく。
何か言っているようだが、壁越しなため何も聞こえない。
俺は近くあるここに残る人と旅立つ人が、最後に話せる電話機があることを知っていた。
俺はくるみにそれを指差して走った。
俺は急いで受話器をとる。
「水瀬」
「光君、良かった間に合って」かなり疲れている様で息が荒く、その姿や電話機からの呼吸音で分かる。
「あのね、私をあの時、男の子から助けてくれてありがとう。私に話しかけてくれてありがとう。私に算数教えてくれてありがとう...私を笑わしてくれてありがとう!私、光君の苦労わからないけど、困っていることあったら帰ってきて。今度は私が光君を助けるから...」最後のほうは顔をぐしゃぐしゃにして泣き出し、聞き取りずらかったが、そう言っていることはわかった。
俺も最後の言葉をくるみに伝える
「俺だって、水瀬と一緒にいれてとっても楽しかった。本当にありがとうな」これ以上言うと俺も涙が出そうだった。
しかし、ここで泣いてはいけない。
ここで泣いたら別れがさらに辛いものとなってしまう。
俺は我慢しながら伝える
「それじゃあな、水瀬」
「うん、ばいばい光君」俺は最後に笑顔で別れる。
くるみも涙ながらに最高の笑顔を見せた。
それ以上は何も言わず俺は父親の元へ行き、そして、飛行機へと乗った。
飛行機の中に乗り俺はずっと外を眺めていた。
「まもなく離陸いたします」というアナウンス飛行機が動き出した。
空港本部のほうを見てみると、くるみに似た人が手を振っていた。
いやあれはくるみだ。手を振っている。
ここから届くかわからないが離陸して空港が見えなくなるまで俺も手を振り続けた。
空港が見えなくなった。
俺はフードを深くかぶりなるべく聞こえないように口を抑え、泣いた。
くるみも泣いたのだ俺だっていいだろう。
俺はその日ずっと泣き続けた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~