仲良くなる者
次の日、また俺は同じ図書館に行った。
昨日怒られ追い出されたばかりなので行く気がしないが、この町には1つしか図書館がない。
その為行くしかなかった。
この時俺にとって後回しにするという考えはなかったからだ。
図書館に入ると昨日の管理人と目が合う。
俺はすぐに目を背けたが、管理人はまた俺が騒ぐと思っているのか凝視している。
不快な気持ちだ。
だが仕方ないと思い奥の方に進んでいく。
すると昨日と同じ場所にくるみはいた。
また、困らせてやろうかそういう気持ちは昨日で消えていた。
くるみのあの困った顔、管理人のまた怒る顔そんな事を考えるとやる気が出なかった。
俺はくるみを無視して本を探した。
俺は少し探しお手軽に読めそうな本を見つけた。
その本を管理人のところまで持っていく。
管理人はあなたがどんな本を読もうと関係ないと言う様な顔をしながら本の手続きをした。
貸出期間は再来週の日曜日です。
と言いながら本を渡される。
俺はその本を受け取りその場を去った。
帰り、くるみを見るとノートとにらめっこをしており、鉛筆が止まっていた。
俺はこっそり歩み寄りノートの中身を見る。
算数の文章問題だった。
その問題は至ってシンプルでノートを使わずとも暗算で解くことができる。
他から見れば成績優秀いつも100点の彼女がなぜ解けないのか不思議に思うだろうが彼女には苦手科目があった。
それが算数だった。
くるみは算数以外の科目はいつも必ず100点だった。
しかし、算数は100点どころか90点も取れず、ひどいときは50点ほどだった。
俺はくるみに近寄り、隣の席に座った。
くるみが驚いてこちらを向いた。
だが、俺は振り向いたことなどどうでもいい顔をしてくるみから鉛筆を取り出し、口を出す。
「まずは、ここ。大人が3人、子供が5人だろで、子供が2割引になるから、こうなるだろ。ここまでくれば後は余裕だろ」俺はそういい、隣に座ったまま、借りた本を読んだ。
俺は彼女に勝ったようでうれしかった。
俺は同学年のやつらに教わるのが大嫌いだった。
そいつに負けているようだからだ。
だからこれは俺にとってとても心地よいもだった。
俺は本を読みながら、1ページ読み終わるたびくるみのノートを覘いた。
そして、くるみの鉛筆が止まっていないか確認する。
次に彼女の鉛筆が止まったのは、図形問題だった。
俺は得意げに「ここに線を引くと二つの直方体ができるだろ。これでいいな」と言い、また読書に戻った。
読書、くるみの解けているかの確認をしているうちに5時になっていた。
俺はいすを引き立ち上がった。
くるみに勝って今日は大満足だった。
俺は本を右手に持ち図書館を出た。
すると、後ろから走りよって来る音。
思わず後ろを振り向いた。
するとそこには、くるみがいた。
「あ、あの、あしたも教えてくれますか」
「えっ」驚いた。
嫌がらせのために教えていたつもりだったのにまさか喜ばれているとは...
これじゃあ倒したいはずの相手の弱点を埋めているようなものじゃないか何をやってやんだ俺。
これ以上彼女を強くしてはならない。
しかし、思いとは裏腹に「ああ、いいよ」そういってしまった。「ありがとう」彼女ははじめて笑った。
彼女の笑顔は長年笑顔を忘れていたかのように顔が引きつっており変だったが、それでも初めて見せた顔の表情は可愛かった。
さらに次の日、俺は不意に彼女の隣の席にいた。
いや自分の意思で隣にいた。
その日もまた、本を読みながら算数をくるみに教えた。
だが、今日は少し違った。
くるみのほうから問題について聞いてきたのだ。
「ええっと、あのごめん。名前まだわかんなくて」くるみは俺の名前を知らないらしい。
三ヶ月席替えをしてもいつも隣にいたのにだ。
名前ぐらいはしっているだろうと思っていたため少し残念であり、腹が立った。
もしかしたらくるみはこの学校の誰の名前を知らないのでは、そう思わせられた。
「草薙光」そう怒っているように言った。
「私は水瀬くるみよろしくね光君」俺はぎくりとした。
俺は今まで女子と話と言う話をしたことがなかった。
さらには苗字ではなく名前を呼ばれたのだ。
これで驚かない男子はいないだろうそう俺は思っていた。
「ん?どうしたの光君」顔に出ていたのかくるみがそういってきた。
「なんでもない。で、どこなんだ分からないところは」くるみは真の目的を思い出したかのように顔をノートに戻した。
「えーっとここ。この三角形とこの三角形が合同な理由を説明しなさいって問題」俺もその問題に目をやる。
しかし、俺の心の中ではパニックを起こしており、勉強どころではなかった。
少しばかり心を落ち着かせていると「光君もここ分からない?」と聞いてきた。
「そんなわけあるか、ここも簡単だよ」そういいまたくるみの鉛筆を取り、
「こことここの辺が同じでこことここの角が同じだろ」そういった。
「わあ、すごい」これまでのような気持ちのこもっていない言葉ではなく、急に言葉に色がつき俺は焦っていた。
結局、俺はこの日、本にはまったく手がつかず、ほとんど読まなかった。
俺が帰ろうとするとまたくるみもついてきた。
そしてまた
「明日も教えてくれる?」そう聞いてくる。
おれはなぜか照れくさそうにして
「いいよ」そう答えた。
それから俺は友達と遊ぶ日以外は図書館に行き、くるみに算数を教えた。
そして俺は、夏休みの宿題を図書館にもって行きくるみと一緒に勉強した。
そのときにはもうくるみに勉強で負けるなどどうでもよくなり、気づけば俺のほうからも分からないところをくるみに質問するようになっていた。
それは、宿題が終わってからも続いた。
俺は別に勉強が嫌いというわけではなかったので、宿題が終わっていてからもくるみと一緒にやる勉強は退屈どころか楽しいまであった。
そんなこんで、あっという間に夏休みが終わった。
俺はこの夏、半分以上図書館で過ごしていた。
そして俺が図書館に行くと必ずくるみが図書館にいた。
だから、その場所に行くと、俺は5時になるまでまるで、閉じ込められているかのようにその場から出ずにとどまっていた。
夏休みが終わり、初めての授業、(いや修行のほうが正しいだろう)は全校集会だった。
これがまた話が長い。
特に校長の話これは、もういじめというべきだろうかこんなに長い話をするなら、せめて座る体制を崩ずさせてほしかった。
しかし、校長の話はまだまだ続く。
足を抱えながら座っているため、股関節がジンジンと痛む。
誰だこんな座り方を編み出したのは、生み出した親を探し出し説教したいぐらいだった。
そしてついに長く苦しい全校集会が終わった。
もう帰りたかった。
教室に帰り、課題回収担任からの挨拶があり、今日の学校が終わった。
暑いあの場所に行きたかった。
俺はダッシュであの場所に行った。
そう図書館である。
俺はいつもどおりのテーブルの席に着き、教科書ノートを広げ勉強を始める。
数分後やはりくるみは来た。
そしてくるみもいつも通り、ノートをやり始める。
そんな日々は夏休みが終わってからもずっと、俺が転向する日まで続いた。
そう約一年間俺はほぼ毎日あの図書館に通っていた。
俺たちはクラスのみんなから、付き合っているのなどとよく聞かれていた。
俺は違うよと答える。
くるみは冬頃からだいぶみんなとも話すようになり、明るくなった。
そして彼女も彼氏のおかげなどとよくからかわれていたが違うよそんなのじゃないよと答えていた。
俺が転向するのを彼女に告げたのは、引っ越す2日前だった。
勉強途中俺はくるみに「俺引っ越すことになったんだ」そう言った。
すると、カランと音がなった。
床を見ると鉛筆が転げ落ちていた。
顔を上げる。
すると、そこにはくるみの泣き顔があった。
そこからは、質問攻め
「いつ、なんで、どうして」俺はそれに一つずつ正直に伝えた。伝え終わると、彼女は勉強道具をランドセルにつめ、走って出ていった。
「あっ、待って」そう言おうとしたが、すでに彼女はいなかった。
俺は床に落ちた鉛筆を拾い一人さびしく帰りに泣いた。