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拝啓マオー様。勇者を発見しました。なでて下さい!

拝啓 人喰いネズミも元気に町を駆けまわる小春日和が続いております。マオー様も南の国を滅ぼし、北の賢者を打ち破ったとか。活躍のほどを小耳に挟んでは抑えられない歓喜で月に鳴いております。

 さて、突然このような手紙を送り申し訳ありません。

 初めて書いてみる手紙でマオー様のお目を汚してしまうのではと危惧しましたが、事態は急務ゆえ報告に至った次第でありますです。


 

 褒めて下さい!!

 褒めて、なでて下さい!!!


 マオー様の片腕にして、月よりも丸い満月フクロウのアルテミスが勇者を発見したのです。これもひとえに、毎日マオー様の手から直接食事を頂いていた結果でしょう。恩を返したいアルテミスの願いが邪神様に叶えてもらえました。 


 勇者を如何にして発見したのか?

 それは長くなるので次の機会に致します。決してワイバーンに悪戯をしていたら人間の土地まで運ばれて迷子になったからではありません。

 アルテミスは自分の意思で力強く夜空へと羽ばたき、神より鋭い瞳で勇者の捜索へ向かったのです。

 地面を転がっていてスライムに食べられそうになっていた所を助けてもらってなどいません。



 三つ報告があります。

 一つ目に娘が勇者である証拠です。

 マオー様が無駄話を嫌いだと分かっているので大事な部分から書きます。アルテミスは優秀なのです。


 勇者。実を言いますと現在この娘と行動を共にしているのですが……彼女は、異世界からやって来たそうです。ジンジャなる異教徒の施設を使って、この世界にやって来たそうです。

 昔からマオー様は違う世界から勇者が現れることを予知しておりましたが、アルテミスは勇者の現れる理由を解明いたしました。

 ジンジャとは恐ろしい宗教で、女子供にキモダメシという恐怖の試練を与え、神の独断で異世界に送り込んでいるのです。そこに本人の意思など関係ありません。

 異世界人は戦士養成施設チュガクコウで訓練に励んでいるそうですが、それにしても自由と欲望と快楽を司る邪神様からは考えられない所業です。


 娘が異世界の人間であることだけでも勇者なのは揺るぎありませんが、決定的なのは彼女の所有する魔法道具です。


 光る筒、カイチュウデント。

 光る板、スマホ。

 光る箱、カメラ。


 これらは月より明るく光ってます!

 理解不能な強き光に魔物はおろか人間も近寄ってきません。この前、勇者は石を投げられていました。



 二つ目に容姿の説明です。

 なんと! 勇者の顔には目と鼻と口と耳があります。マオー様と一緒であります。分かりやすくて良かったのです。

 アルテミスには人間の顔がどれも同じに見えるのですが、マオー様より醜いのは確実でしょう。 


 匂いはマオー様が清き湖に佇む大樹であるならば、勇者は汚泥です。比喩ではなく、家が無いので寝る時は地面に転がっていて本当に泥臭いです。この前、綺麗好きのエルフに悪口を言われていました。


 髪は黒。瞳の色も黒。眉毛も黒。

 胸毛、腹毛、尻毛の色については調査中です。排泄中に見ようとしたら砂をかけられ防がれました。重大な秘密があるのかもしれないので要確認事項の一つです。


 体型は壁です。 

 これについては比較すること自体が間違いとは思いますが、マオー様がふくよかな乳でアルテミスを包み込んでくれるのに対して勇者には何もありません。いえ、この前、無いと勇者に言ったら焼き鳥にされかけたので訂正します。若干あります。

 人間について詳しくありませんが、ここまで無いのは異常だと判断します。アルテミスが推理するに、異世界から移動する際に次元の狭間へ落としてきたのだと思われます。勇者も「そうかも!」と納得しておりました。



 三つ目に勇者の動向です。

 勇者は弱い魔物ばかり暮らしているので軟弱大陸と揶揄やゆされている西の大陸にいます。西端の町から少し離れた森の手前にこの前まで住んでいました。

 既に書きましたが、勇者は不気味な魔法道具と見慣れぬ格好で嫌われ一人で暮らしています。

 幸い魔物は強くないので町の外にいても大丈夫だったのです。

 

 ちなみに魔法道具は勇者が寝ている間に盗まれて今はありません。

 あの時は自殺してしまうのではとハラハラするほど落ち込んでいたので、今は犯人の冒険者チームに毒を盛るほど元気になって良かったと思います。

 安心して下さいマオー様。

 毒は腹痛を起こすだけの弱いものを教えました。

 殺人までしては勇者が処刑されますからね。アルテミスは賢明なのです。

 

 もうお分かりでしょうが、アルテミスと勇者は一時的に協力関係になっています。

 アルテミスはマオー様の元に帰るため。

 勇者は異世界で生きるため。

 魔法も教え、勇者は寝床が地面から自分で作った穴に進化しました。

 火魔法を使えるようになったことで料理の腕も上達し、この前までスライムの踊り食いというオーガ以下の食事をしていたのですが最近は茹でるようになりました。

 鼻水みたいな味から、まずいカンテンになったそうです。

 カンテンが何かは分かりませんが、生活に余裕が生まれた頃から勇者は精神が不安定になりました。

 

「あっ、あれぇ。私っ。わたしぃ……何をしているんだろう」

 

 口からスライムをボタボタこぼして、パンを食べたいとわめく勇者は怖かったです。

 なだめるのが大変でした。

 おかげで羽は濡れて乱れて、あの日の夜ほど魔王様のブラッシングを懐かしんだ日はありません。

 

 勇者はお金を稼ぐ決心をし、手っ取り早いのは武具の素材を売ることでした。ところが勇者には狩りの才能がありません。巨大イモムシにすら勝てません。

 勿論、知っての通りアルテミスにも狩りの才能はありません。


「フクロウなのに飛べないの~!? もふすけ色々と終わってる」


 これは勇者の言葉です。

 もふすけは勇者が勝手に呼んでいるアルテミスの名前で、品のない名前は勇者の頭が残念だと諦めるにしても、終わってるとは酷いと思いませんか。これは是非マオー様に雷撃を放って欲しいと思います。

 高貴なアルテミスには飛行や狩りと無縁だということが勇者には分からないのです。


「誰と住んでいたのか知らないけど、エサ貰って、抱きついて、野性味がなくて、それただのペットじゃん」


 アルテミスはマオー様の悩み事や不満や寝言を聞く重要な存在なのに、犬猫のような評価をされているのも納得がいきません。この点についてもマオー様に業火を放って欲しく思います。



 申し訳ありません。

 無駄話が嫌いなのに話が逸れたので戻します。



 狩りが出来ず、木材を集める筋力も、薬草の知識もない――というよりも薬草採取については、聖域にあった世界樹の芽を摘んだ罪で神官に指名手配されています。

 とにかく勇者にはお金がなくて旅に出れずアルテミスもマオー様の元へ帰れません。

 仕方なく最後の手段として、アルテミスも魔物ではなく動物と身分を偽り芸を売ることにしました。


 7×6


 このような勇者の出した問題を一瞬で解く芸です。アルテミスは聡明なのです。答えは44。

 喋ることは出来ないので筆談をするのですが、両方の翼でペンを持つ姿が可愛いと好評でした。

 目立つ場所でやると毒を飲ませた冒険者や神官に追われるので町の片隅でひっそりと披露していたのですが、気が付けば町の有名人と有名鳥。

 特に必ず最後にやる問題は人気があるのでマオー様にも教えます。


 1+1+1+1


 答えは3。

 人間は不思議な生物でアルテミスが簡単な問題を解くほど喜ぶ傾向にあります。

 

「もふすけ~惜しい! これも式が四つだから難しいよね」


 訳の分からないことを勇者が言って会場は笑いに包まれ芸は終わります。

 


 そして現在は石鹸の甘い香りを漂わせている勇者の横で手紙を書いています。

 アルテミスのおかげで宿暮らしが基本となり、十分にお金をためた勇者は明日、次の町へ旅立ちます。

 そこで尋ねたいことがあります。


「どどどど、ドロボウ冒険者と神官が来る。来ちゃうよ~」


 などとベッドの中で震えながら地図を暗記している勇者ですが、このままマオー様の家まで連れて行って良いのでしょうか?

 それと住所です。

 手紙を届けるには住所が必要です。


 闇大陸、ガランズ谷、東盆地の極寒平原……それから先は何ですか? マオー様の家の住所が分かりません。

 仕事先である魔王城宛でも迷惑ではないでしょうか?

 その場合、人間は魔王城まで配達してくれるのでしょうか? 

 心配です。 

 


 多忙な日々が続くと思いますが、世界侵略へのご活躍を邪神様に願っています。

                


                                        敬具


   神歴一九九年 緑ノ月 三日                  

                                    アルテミス



 魔王軍総司令官 マシャリアス・オーレイン様                           




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 数年後。

 勇者(男)の力によって魔物との間に和平が成立した。

 その陰に、魔王まで行方不明だった家族を届けた少女の活躍があることを人々は知らない。

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