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魔王の要件  作者: 小走煌
9/10

集え戦士たち

 魔王城に続く一本道では、おびただしい数の怪物達が次々と倒れ、その体躯により道が塞がれていた。

 近付けば近付く程に強大な邪気を孕み、弱き者の侵入を防ぐ魔王城。最終的に城まで到達出来るのは魔界でも一握りの限られた者のみである。

 今、城の正門には十名の選ばれし精鋭達が集結していた。アダコ、イハ、ジンの三人も精鋭の一員として無事正門前に辿り着いていた。

「さて、一体何が始まるのか……」

 アダコは独りごちる。その直後、まるでアダコの声に反応したかのように上空に光の球が現れた。

「こ、これは――!」

 場にざわめきが起こる。光の球から放出されている魔力は、この世の物とは思えない程の熱量を以ってそこに存在している。

 選ばれし精鋭達は、その圧倒的な力を前に無意識のうちに後ずさってしまう。

 しかし、アダコ達三人は気付いていた。全てを超越する、このプロジェクトにおいて何度も感じた魔力、その正体に。

「よく来たな、貴様ら!!」

 光の中から現れたのは、この世界を統べる王。魔王バイオレット当人だった。

「こ、これが、魔王様なのか――!」

 その圧倒的魔力に似つかわしくないこぢんまりとした姿を初めて目にしたメンバーからざわめきが起こるが、それを想定していたのか、普段は装着していなかったいかにも威厳のある風なマントを大袈裟になびかせる。

「そうだ、私が魔王バイオレットである。初対面の者もおろう。この姿、目に焼き付けておくが良い!!」

「はっ――!」

 直々の名乗りを受け、場の誰しもが上げていた頭を下げ、片膝をついた。

「早速だが貴様らの力を借りたい。ついて来い!!」

 頭を下げさせた状態でそう言い残し、魔王は直ぐに飛び去った。

「お、おい、魔王様が行ってしまった!」

「早く後を追わないと――!」

 不意をつかれたメンバーは急いで後を追った。皆、全力のスピードでどうにか離されずに魔王の後をつける。

「良いぞ!! もっと飛ばせよ!!」

 魔王は更にスピードを上げる。

 魔王と魔界の精鋭達のデッドヒートは暫く続いた。やがて魔王は徐々にそのスピードを落とし、遂には完全に停止した。

「よくついて来た。やはり貴様らなら大丈夫そうだ」

 そう言いながら魔王は振り返った。精鋭達は皆肩で息をしているが、魔王だけは涼しい顔である。

「さて、ここが何処か分かるか?」

 魔王の言葉にメンバーは辺りを見回し、直ぐに気付いた。

 今、自分達がいる場所は活火山アイアン。そして、そのアイアンが今にも噴火しそうな状況であることに。

「なんということだ――!」

「まさか、活火山アイアンがこのような状態とは――!」

 精鋭達から驚愕の声が上がる。それを尻目に、アダコは堪らずイハに耳打ちした。

「魔王さま、一体何をするつもりなんだろうな……」

 アダコ、イハ、ジンの三人は魔王がここに向かっていることを薄々感づいていた。故にその関心はアイアンの状況よりも、魔王の心の内に向いた。

「読めぬな、今回は……」

 その行動の意図はどうしても見えない。三人は悶々としながら魔王の次の言葉に耳を傾ける他に無い。

 魔王は十人の精鋭を見渡し、おもむろに話し始める。

「……見ての通り、今、この活火山アイアンはいつ噴火してもおかしくない状況だ。次に噴火してしまえば最後、魔界の全てがおしまいなのは皆も知っておろう」

 場に緊張が走る。改めて、事態は切迫しているということを知らされる。

 ――しかし、直後に魔王から伝えられた要件は誰も予想のしないものだった。

「そこでだ。今、ここにいる私と、貴様らの力を用いて――一時的に噴火活動を止める!!!!」

「なっ――!」

 精鋭達は戦慄した。アダコは堪らず声を上げる。

「か、可能なんですかそんなことが……いくら何でも難易度が高い気が……」

「落ち着けアダコよ」

 魔王は狼狽えるアダコを制し、全員に向かって語り始める。

「魔界では、過去にもアイアンの噴火を迎えたことがあった。我々魔界の住人はその度に強者を招集し、その偉大な力をもって噴火を停止させてきたのだ」

 精鋭達はかたずを呑んで魔王の話に聞き入る。魔王は止まること無く話を続けた。

「しかしそれはあくまで一時的なものに過ぎん。私は、噴火の度にそれを繰り返すのは非効率だと考えている。かつ、もはや衰退の一途をたどる魔力など信用してはおらん。従って永続的に噴火を止める手立てを考えていたのだが――」

 魔王はその瞬間、イハ、アダコ、ジンの三人を視界に捉えたが、直ぐにまた話を続ける。

「少なくとも今回は間に合わん。よってこの場は一時的な鎮静化を試みる。なに、先人達も通った道だ。この面子をもってすれば容易い」

 そう語りながら、魔王はゆっくりとアイアンの火口へ近付く。そこから右手一本で指示を出し、魔界の精鋭達を一列に整列させた。

「ここから皆の魔力を火口へ最大限注ぎ込む。用意しろ」

「そ、それで上手く行くんです……?」

「心配するなアダコよ。魔王城に辿り着いた貴様らこそが、現在の魔界のトップなのだ。先人達が出来たこと、私達も問題なく出来るに違いないさ」

「……分かりました」

 不安を胸に仕舞い、アダコは自らの魔力を練り出した。

 他のメンバーも次々と魔力を高める。やがて、そこには凄まじいまでの禍々しい気が膨れ上がっていた。

「――良い。良いぞ。流石は魔界の手練れ達よ」

 最高峰の魔力を前に、魔王は両手を広げる。それはまるで精鋭達の力を歓迎するような仕草だったが、それは違った。

「――ハッ!!」

 刹那、魔王の両手に気が充ちる。片手ごとの魔力だけでも精鋭達の力を凌駕する、途方もない魔力量。

「な、なんという――」

「こ、これが魔王様の力――!」

 魔王の本気を目の当たりにした面々は一様に恐れおののく。

 しかし、大抵は魔王が全力を出したならば相手の身はその時点で粉塵と化す。本気の魔王を目の前にして身体が残っていること自体が、彼らが魔界の精鋭である証であった。

「行くぞ!! 力を振り絞れ!!」

 魔王の号令を合図に、全ての魔力が火口へ向け解き放たれた。

 着弾した途端、大地が激しく揺れ、雷光が絶え間無く降り注ぐ。まるでこの世の終わりのような光景がアイアンを中心に広がった。

 アイアンは、注ぎ込まれるエネルギーを押し返そうとするかのように火口からマグマを噴出させる。

「押し込め!! 絶対に負けるでないぞ!!」

 再びの魔王の号令。より一層禍々しさを増したエネルギーの柱がマグマをぐんぐんと押し込む。

 いつまでも続くかと思われた攻防。しかし、火口のマグマが次第に勢いを失くしていき、やがて不気味な沈黙へと変わった。

「やったか――?」

「まだだ!! まだ続けろ!!」

 魔王の叫びと、火口からこれまで以上の激しいマグマが湧出するのは同時だった。

「もっと強く力を込めろ!! ありったけをだ!!」

「う――うおおおおっ!!!!!!」

 かつて無い威力を含有した地底の炎。魔界の精鋭達は、それに正面から対峙した。

 果てし無い、暗黒と炎の闘争。互いの全てをぶつけ合う、熱情のやり取り。


 ――刹那、雷鳴と地震が終わりを示すように一際激しく荒れ狂った。


 やがて、活火山アイアンのマグマは暗黒の結集を受け入れ、次第に火口へと戻って行く。徐々に、徐々にあるべき所へとマグマは戻り、程無くして大地の揺れまでもが収まった。

 後に残るのは静寂。獣の遠吠えも、雷鳴も、今は響かない。魔界の猛者達は、誰もが何の言葉も発せずにただそこにいる。

「――よくやった、おまえたち」

 そこに響く声は荘厳さを伴って戦士達の耳に染み入る。声の主たる魔王バイオレットは、その瞬間、皆の視線を一身に集めた。

「たった今、我々は、無事活火山アイアンの鎮静化に成功した」

 魔力の湧出に耐え切れずボロボロになったマントを翻し、魔王は宣言した。

「今ここに、一時の平静が魔界に訪れた。礼を言うぞ、魔界の勇者たちよ!!!!」

 十名の選ばれし者達は、次々に哮り立つ。その声は魔界全体に届き、再び鳴り響く雷鳴と共に一時の安寧を知らせた。


「お前たち、聞くのだ」

 魔界には、雷鳴と獣の咆哮轟く元の風景がすっかり蘇っていた。窮地を救った精鋭達は、三人だけを残して活火山アイアンから既に去っている。

 残った三人は魔王バイオレットの前に片膝をつく。アダコ、イハ、ジン。共に魔界にその名を轟かせる名工である。

「当プロジェクトにおける現在の状況は、成果物自体は完成したが、全く見当違いの動作をするという問題点が上がった状況だと私は認識している」

 完全な図星に三人は顔を上げることが出来ない。魔王は構わず言葉を続ける。

「さて、私は先程『永続的に活火山アイアンの噴火を止める手立て』を考えていると言った。それの実現方法だが」

 どこに忍ばせていたか、魔王はいつの間にか手にしているパソコンを拳でコンコンと叩いた。

「お前たちのプロジェクトで作り上げられたパソコンを使ってスカウトした人間の知恵を利用するつもりだ」

 今明かされる当プロジェクトの未来図。三人は驚きのあまり俯けていた顔を上げた。

「イハが作成したスケジュールは確認してある。一時的に噴火は止めたのでもう少し時間を掛けても良い。更なる完成度を目指して精進するのだ!」

 魔王は現時点での失敗を責めることはしなかった。遠い目をして、三人へ最後に一言だけ残していった。

「頼むぞ……噴火を永続的に止められるかはお前たちの手に掛かっているのだ」

 次の瞬間には、魔王の姿は無かった。

「魔王様……新たに時間を頂き、正に恐悦至極……!」

「時間があれば、出来るかも、しれない」

「そうだな……もう一息、頑張ってみるか」

 三人は、残り少ない魔力をどうにかやりくりし、アイアンから洞穴へと引き揚げた。

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