90話〜『森〜村道中ダイジェスト』
「ご、ごめんなさい……」
「いや〜、いいよ。初めての事なら仕方ないし」
幸せそうな眠りから覚めたジーニーだったけど、起きてもしばらくはニヤニヤしながら、少しだけ寂しそうに笑っていた。
どうやら『寝て起きたのにお腹いっぱいだった』という経験がなく、起きたのに夢見心地だったので今までのが全て夢だったと思ったんだそうだ。
で、悲しくなってきたところで手に持ったままのバナナと、目の前で葉っぱを食ってる俺を見て夢だという認識を強めたらしく、『夢ならいいか』とバナナを村に持ち帰ろうとしたところで声をかけたら「ひゃあああ!」という可愛い悲鳴と共にかわいくない強烈な武器の一撃を俺のこめかみにクリティカルヒットさせてしまったという話だ。この一連の流れ10秒もかかってないんだぜ?
「で、でも……」
そこで冒頭に戻るわけだが、どうも今までのジーニーは空腹でほとんど力がこもっていなかったらしく、前回いただいた一撃とは鋭さも重さも段違いの攻撃に不意をつかれて意識を飛ばしかけたところ、両手にひとつずつ構えたブラックジャックみたいな武器で左右から殴打されまくった次第である。
俺じゃなかったら死んでるね。いや俺も頭の1/3くらい吹っ飛んだんだけど。それでもHPは1ドットも減ってないんだよね。割合で言ったら全身消し飛んでもHP残ってない?HPとは。
「俺じゃなかったら大変だったかもしれないけど、俺だったから平気だし。だから気にすんなって」
死にかねん勢いでぶっ飛ばされたんだし気兼ねなく話そうぜ!という俺の論理はジーニーには理解できないらしいが問答しててもしょうがない。
納得はしていなさそうだったけど、そうしていても仕方ないし、早いところ現状把握したかった俺はバナナを手土産にジーニーの村に伺う計画を話し、ジーニーからも了承を得たところで森を歩いていた。そこでさっきの謝罪に繋がるわけだ。
「で、ジーニーの村も食糧難でみんな飢えてるのか」
「うん。こんな美味しいもの食べたことないし……食べ物は、1日に1回、村長が1家族分に分けたのをみんなで食べるだけで……」
あー、それなら飢えるか。
ジーニーの家は父親がいないらしく、1家族の取り分が他の家族に較べて少ないらしい。なのに弟ができたらしく、待望の男児誕生によりジーニーの立場が悪化、森への1人遠征となったらしい。
ここまででもツッコミ所は満載だ。
まず父親がいないのに弟ができたのは村長の仕業らしい。
ジーニーの村では成人を過ぎた独身女性は村の共有財産になるらしい。エロゲかよ。
で、待望の男児というが実際は血の繋がりが重視される村にあって、権力者である村長の子を身籠ったのは喜ばしいが、父親のいない娘であるジーニーの存在は母にとって厄介者でしかなかったらしい。
それでも母を嫌いになれないというのだからジーニーも良い子なのだろう。どうみても10〜12歳くらいだと思われたジーニーの実年齢が19歳というのは驚いたけど発育不全だろうからそこは仕方ないとして、村ではとっくに独り立ちして子を成しているはずの年齢にも関わらず母親の面倒をみるために家に残っていたんだろうし、やっぱり良い子なのだろう。
「なんで頭を撫でてくるのか分からないけど、これでもとっくに成人してるんだけど、私」
なんて言うのだから微笑ましくもなる。ちょっと手にあたる頭の感触がチリチリしてるけど気にならない。
「そんなことより村だな。その村はよそ者にきびしいのか?」
正直に言えば俺をどうにかできる戦力がいるとは思えないけど、情報を集めたい俺にとって『村』という閉鎖社会はわりと致命的に情報収集に向いてなさそうで怖い。
「村によそ者が来たことがほとんどないから分からないけど……」
どうもジーニーの村は森の中でも辺鄙なところにあるのか、ジーニーが生まれてからの19年の間で外部から誰かが来たのは1度きりらしい。それも何らかの理由で森に捨てられた人間らしく、そのまま村を素通りして森の奥に向かっていってしまったので、村全体でよそ者にどんな態度をとるかは未知数だそうだ。
一抹の不安を抱えながらも俺たちは森をひたすら歩いていった。
途中でジーニーが「こんなに奥まで入ったのは初めてだから、変な感じ」とエロゲのような感想を述べていたが森の奥は危険だからさっさと出たい。生贄のように森に捨てられる際に何かを盛られていたからか、想像以上に奥にまで入り込んでいたようだとジーニーが述べ、実際に半日歩いたところで景色が変わらないままに夜になってしまった。
「今日はここで寝よう」
女のコらしい言葉遣いと乱暴な言葉遣いが混じったようなジーニーの喋り方はどうも父親側の影響らしい。そういった所をとっても、母親にはジーニーが煩わしい存在だったんじゃないかと思えてしまう。本人が気づいているかは分からないが。
そうして途中で何度か野営を挟むこと3日、
俺たちはようやくジーニーの村を覆う柵を眺める場所にまで辿り着いた。長ぇよ……