89話〜『現状把握は大事だけど誰も説明してくれないと自分の理解力のなさを恨む羽目になる』
現在、ややチリチリした天然パーマネントな某都構想府のイメージおばちゃんみたいな髪型をした10〜12歳くらいの薄汚れた少女ジーニーさんが無我夢中で俺のバナナを口いっぱいに頬張っている。
今まで一切脳内描写してこなかったので美少女然としているジーニーさんを想像させてしまったかもしれないが、実はジーニーさんはどこかの未開の部族を思わせる外見をしてらっしゃいました。いや、パーツ毎には可愛らしいのよ? くりくりと丸い大きな瞳に、痩せぎすではあるけど柔らかそうで桃色がかった頬や大きく開いても小さな口とか。ちょっと薄褐色の森の民しているだけで。
と、言い訳っぽく脳内説明しているのは、さきほどからジーニーが泣きながらバナナを貪り続けていて会話相手がいなくなってしまったからである。
食べすぎて吐いてもまだ食べたりするので最初は止めたんだけど、今までおなかいっぱい食べた事なんて一度もなかったらしく、しかも俺のバナナのように滋味たっぷりで味もいい食べ物なんて恐らくは両親祖父母すら食べたことがないだろうと感動しきりだったので仕方なく放置することにしたので、すっかり暇になったからだ。
本当は色々と現状についてジーニーと話したかったけど、飢えている人間に強制はできないし時間も有限だ。一人でできる事を試していこう。
「まずはスキルの確認からかな……」
とはいえ、自己診断スキルから派生していった鑑定系のスキルが一切無反応になってしまっているので感覚的なものでしか判別できないのだが。
「でも、生命力のゲージは残ってるんだよな……」
ゲームでHPを表示するバーのようなものが常に視界に映り込んではいるが、数字になってないので「最大の状態に対して現在はこれくらい」という対比しかできないので今は調べようがない。ちなみに毒を呷って受けたダメージはすでに回復したし、なんなら試しに毒アケビを再度口にしたけどもうダメージも受けないようになった。ただこのアケビ、ジーニーが言うほど美味しいとも思わない。
「ってことで、耐毒スキルもたぶんまだある」
これに関しては正直、耐毒スキルなのか草食系スキルが生やした免疫によるものなのかがはっきりしないが。
「で、次は……創薬系のスキルにしてみるか」
倒木の表皮をむしりとって薬効を抽出しようと試みるが、スキルの補正が効いてるかどうか分からない。
今度は指と爪の間からでてきた根っこが樹皮から何かを吸い上げ、カラカラになったと思ったところで手のひらの上にわずかばかりの結晶が現れた。
「……で、コレが何なのかが分かんねえんだよなぁ……」
何かの薬効を抽出したのは間違いないけど、鑑定系が軒並み機能してないので分からない。試しに口に入れてみたら、ほんのりと淡いアーモンド臭と共に脳髄を焼くような痛みとダメージ受けたが、これでHPバーが減ることはなかった。おかげでhHPバーへの信頼がストップ安だ。
「こうしてみると俺、スキル頼みすぎたんだな……」
毒アケビを変化させて作ったバナナ、それを更に変化させて今は別の果物が作れないか試している。しかしなぜか毒アケビはバナナに変わったのに、バナナは何にも変わらない。この手の変化が一方通行で1回限りなのかどうか。毒アケビ以外の木で試したら、一旦取り込んで俺から生やすのは現時点でバナナだけだということが分かった。なんでだよ。
それと、何かを生やす度に俺の皮膚がベリベリ裂けてるんだが、ダメージは回復しても傷跡は完全に治ってない。おかげで今は全身がガサガサとカサブタのような傷痕に覆われた緑色で、言い訳の仕様がないほどゴブリン感に満たされてる。
「絶対に喉は壊せねえな……」
外見だけならギリギリ……ギリギリセーフだと思うけど、喉を壊して声までゴブリン風味になったらさすがにあとが大変そうだ。完治するなら気にならないけど傷痕が残りやすいから声に影響強そうなのが地味に怖い。
そうして色々と試してみたが、結局のところ草食系スキルが俺にとって使いやすく、その他のスキルは『使えているかもしれない』程度の理解に収まった。数字にならない上に基準がないから身体操作系スキルもよくわからなかったんだよ。
そうこうしているうちに満足したのか、バナナを1つずつ両手に持って片方を口にくわえたままのジーニーが眠りについていた。
「って、危ねえ窒息する!」
慌てて口に入ったままのバナナを出そうとすると咀嚼をはじめてしまったので喉に詰まらせないように体を起こしておく。
なんだかなあ……
ジーニーの顔を見ていると、ルノールやアプリの美少女然とした顔を思い出す。ジーニーには失礼だが。いやホント無礼千万で申し訳ないが。
「……なんとかするしかないか」
どうすればいいかなんて分からないが、何かしないと落ち着かない。さしあたっては情報を集める為に、バナナを手土産にジーニーの居た村にでも行ってみようか。