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草食系異世界ライフ!  作者: 21号
そして5年後編
86/95

84話~「草食系異世界ライフ」


 アプリの考えた作戦は簡単だった。


 ようするに、ルノールの魂のサルベージだ。


「お父様の<種子創生>なら、魂をそこに封じ込められるわ。前に“スキルシード”を作ったのと同じように」


「スキルシード……?」


 そんなもの作ったような、作らないような。


「……お父様が、滅んだ村で蘇生に失敗した時に出来たアレよ」


 ああ! それなら覚えている。


「アレか。アレが魂を封じ込めている……?」


「ええ。アレはお父様の支配圏ではない状態で行ったからか不完全だったけれど、完全な支配下に置いておけばきっと魂を完全な形で閉じ込められるわ」


 だとしても種にしただけではルノールに戻すことができないんじゃないだろうか。


「同時に、支配下に置いたトレントに命じればいいのよ。ルノールの肉体を『実』として育てろ、って」


「そういうことか。『実』になったルノールの中に、ルノールの魂で出来た『種』を宿すことで完全復活させるってことか」


「ううん違うけど。それだとルノールの肉体が産んだ子がルノールになっちゃうじゃない。そうじゃなくて、種を母体にルノールの実を育てるのよ」


 なるほど。言われてみれば確かにそうか。


「うまくいけば、それでルノールを蘇らせられるはずよ。うまくいかなければ、ルノールは戻ってこないわ」


 心臓が跳ねる。


「ああ、わかってる。必ず成功させる」


 不安で、心配で、恐ろしくて仕方ないが、やるしかない。今の俺には他に考えが浮かんでこないんだから。


「きっとお父様なら、あのトレントに食われたところで平気だと思うわ。だから、トレントの中から支配圏を広げていけばいいと思うの」


「ああ、分かった。やり方はよくわからないが、なんとかしてみる」


 ふと、腕の中に抱えたままのルノールを見る。


「その身体は一緒に連れていってあげて。ルノールの肉体情報がないと完全な形での復活はできないと思うから」


「そうか。とすると、俺はルノールの死体と共にあのモンスターに食われればいいわけだな」


 まるで差し出される生け贄のような感じだ。


「……そうね」


 どこか悲しそうなアプリの表情が気になるが、きっと成功するかどうかも分からない事を言ったことに対する不安なのだろう。


「大丈夫だ。前にも死んで生き返ったし、今度だって生き返る。それに俺は死なない。大丈夫だ」


 自分で自分に言い聞かせているようで、ひどく言葉に重みがないが、それでもアプリはクスッと笑って手を振った。


「行ってらっしゃい、お父様。必ずルノールを助けてあげてね」


「ああ。必ず何とかしてみせる。どうすりゃいいかは後で考えるんだけどな」


 草食系スキルで支配するっていうのも、言ってはみたが何も分かっていない。あとはトレントの内部でトレントを齧りながら解析を繰り返してどうにかするか。

 怖がったり、大胆になったり、自暴自棄のようになってみたり。


 まるで情緒不安定かのように振る舞ってみせるが、結局のところ俺が思っているのはたったひとつだ。


──俺は、生まれ変わる前から何も変わってない。


 その場の雰囲気に流されて生きてきて、そのまま死んだ前世。

 あの頃から変わっていない。


 だから、今はウダウダ言わずに動きたいと思った。これが流されているんではなく、自分の意思で動いているんだと。


「ルノール、帰ってきたら説教だからな」


 死んでしまうとは情けない。

 そんな風に笑ってやりたいから。


 ルノールの死体を抱えたまま、トレントに向かって歩きだす。


 巨大なトレントは人の顔のような作りの身体をわずかに揺らしながら、ひたすらに根を動かしている。


 そんなトレントの口元に手をかけ、内部へと潜り込む。

 

 舌のように見えるざらついた内部を進むと、ふいに全身から虚脱感を感じて膝をついた。


 気づけば、トレントの口の奥は真っ暗で何も見えない空間になっていた。その手前で力が抜けていくように全身が重くなっていくが、有り余る生命力を使って鍛えた身体はまだ前に進む。


 一歩、また一歩と進んでいくと、喉のように見える真っ暗な空間に足を踏み入れたところで身体が浮くような感覚を覚えた。

 実際にはどこかに向かって落ちているような、下から吹き上げる風に全身を持ち上げられているような、そんな不思議な感覚に囚われていた。



 そうしてしばらく無重力のような気分を味わっていると、ふいに腕の中のルノールがぶるりと震えたような気がした。


「ルノール……?」


 まだ何もしていない以上、何かが起こるわけもない。


 だが、ルノールの身体は少しずつ振動し、次第に熱を帯びていく。


 それが何なのか理解する前に、俺はどこともしれない真っ暗な無重力の中で「なにか」を咀嚼した。


 目に見えないそれは味もなにもないが、全身を撫でるようにしている何かがそこにある。だから、それを食べれば何かが分かる。


 そして俺の中の<草食系>は、それを理解してくれる。


「そうか……ルノール、これなら大丈夫だ」


 熱を帯びたルノールの肉体が真っ暗な世界に溶けていく。

 ここはトレントの腹の中で、一旦溶けたルノールを理解したトレントは同化したはずのルノールを我が子として産み直そうとする。

 精霊の力を宿したまま生活していたルノールの肉体を再構築する為に、精霊の力、様々な情報を得る為に根を伸ばしていたのか。


 そして、草食系スキルが応える。


 トレントだけでは伸ばしきれない根、足りない魔力を俺が補えばいい。

 草食系スキルで解析し、草食系スキルで大地を喰らいつくし、足りない情報を補って、ルノールの新しい命を作り出せばいい。


 ただ、それだけでは大陸にひどい悪影響が出る。


 だから俺がいる。

 草食系スキルは様々なスキルを『統合』してきた。


 だから俺は、『統合』すればいい。


「トレントと、ルノールと、大地と、俺の、全てを」


 一つにまとめて、新たなものに変えればいい。


 ちょっと時間はかかるかもしれないが、それくらいの事はきっと出来るはずだ。


 草食系が産む、異世界の新しい生命ライフ



 トレントの中に俺の身体が溶け出すと同時に、トレント全体が輝きを放つ。溢れんばかりの魔力と生命力を受けたトレントは、無駄に大地を蝕むことなく必要なものだけを集めていく。

 足りないものを求め、足りないものを補い、ひたすらに伸びていく。



 ふと、遠くの方でアプリの声が聞こえた気がした。


 ルノールと、アプリと、俺と、あとブライアンもか。

 みんなでまた、旅をしよう。

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