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草食系異世界ライフ!  作者: 21号
そして5年後編
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82話〜「あなたはそこにいますか」

 スキルの<身体強化>も手伝ったのか、久しぶりに全力で跳躍した俺の体は、夜の森の上空を舞っていた。

 上空から覗けばもうちょっと状況が見えるかと思ったのだが、残念ながら事態はそう甘くもなかった。

 大地を蹴って跳び上がった俺の体はろくにコントロールも効かず、上空であちらこちらへと回転してしまってまともに視界が開けなかった。

 頂点に達した時点で一瞬の滞空の後、自由落下を始めると風圧で若干のコントロールが出来るようになる。


 そこでようやく目にしたのは、かなり壮絶な戦いの痕跡だった。


「森の向こう側はほとんど焼けてるな」


 魔法で焼いたのだろうが、森の木々が派手に炎上しているのが見えた。

 森の木々は枯れ木ではなく生木であるから、かなりバチバチと爆ぜる音が響いているし、黒い煙も大量に出ている。だというのに火の手がそれほどではないというのは、おそらく火種となっていた魔法がすでに影響していないからだろう。


 ルノールの魔法にしてはおかしい気がする。


 確かに、得意の風魔法は樹木系モンスターに効きづらいから、火と風を合わせて炎を強化するのは分かる。

 だが、これほど森に影響を与えるような広範囲に渡る魔法の行使は必要だったろうか?

 大群に襲われてやむなく、ということなら分かるが、見下ろした感じではそうではない。<警戒察知>に、そんな大群の反応はない。


 だとすると、敵は大型の魔物。

 そう、さっきから見えている巨大な植物系モンスター。あれがきっとそうなのだろう。


 つまり、あそこに行けばルノールがいるかもしれない。

 戦闘中のような音は特に聞こえないので、もう戦闘は終わっているのかもしれないが、もし無事だとしたらこんな炎上中の森をそのままにするはずもないので、とにかく急がないといけない。


 そんなことを自由落下しながら考えつつ、俺は風に流されるように現地へと落ちようとする。

 幸いというか、焼けた森の上空はちょっとした上昇気流が発生しており、煙に巻かれて非常に息苦しいが近くに落ちることはできそうだった。


 黒い煤にまとわりつかれながら、俺は巨大な樹木系モンスターの側に落下した。


 なんのクッションもないままではさすがに俺はともかく担いだままのアプリがまずいと思い、木魔法を使って葉っぱのクッションを作ろうとしたが、なぜか上手くいかなかったので近くの木に皮袋ごとアプリを放り投げた。

 上空に上がった時の強烈なGと落下時の浮遊感の直後に放り投げられたアプリから悲鳴のような声が聞こえたが、今回は我慢してもらおう。


 そのまま地面へと落下した俺は土にめり込むことを予想して少しでも埋没量を減らそうと手足を広げていたが、ドゴッという音と共に全身に衝撃が走り、地面から跳ね上がった。


 一瞬なにが起きたか分からなかったが、跳ねたままの視線を向ければすぐに分かることだった。

 植物系モンスターの足となる根が、地面すら見えないほど大量に這っていた。

 ただの木の根のようにも見えるが、密度の高い魔物の根は固く、下手すれば鉄の剣でも切れないほどの強度を誇る。

 そんな根が密集した地面に高高度から落下したものだから、そのダメージは推して知るべしだろう。


「うおおお……痛ぇ……」


 普通なら痛いじゃ済まないだろう衝撃だが、俺の生命力だと死ぬことも気絶することもなく済んでしまうので、「とんでもなく痛いが死ぬほどじゃない」という事で済んでしまった。


 それも驚きの事態ではあったのだが、現実はそれ以上に驚きの展開が待ち受けているものだった。


「ルノール!」


 木の根の隙間から、ルノールの半身が見えていた。

 落下の衝撃からはすでに回復している。自分の回復速度に驚く暇もなくルノールに駆け寄った俺は躊躇うことなくその体を覆う木の根を引きちぎった。


 なにしろ、ルノールの体はその半分が失われていた。


 かつてルノールは一度死んでしまったことがある。

 スライムによって殺された彼女は復活の際、魂の一部と肉体が同化してしまって『半精霊』となった。

 半精霊と化したルノールは体の半分ほどが魔力の塊となっており、その恩恵もあって非常に強力な魔法使いになっていた。

 四肢のほとんどと胴体の一部が魔力体となっていたルノールが現在、その魔力体であった部分を全て失っていた。

 息をしている様子はない。

 魔力が込められたはずの瞳もすでになく、呼吸もしていない。


 死んでいる。


 だが、慌てて叫んでも仕方がない。

 感情のままに叫べば少しは気が晴れるかもしれないが、そんなことをしても意味はない。


 だから、俺は腰につけたはずのポーションに手を伸ばした。

 2つ持ってきたうちのひとつは落下の衝撃で壊れてしまっていたが、もうひとつは無事だ。

 飽和するまで魔力を込めたポーションをルノールの肉体にかけながら、<種子創生>スキルを使って世界樹もどきを栽培しようとするが、地面を覆う魔物の根が邪魔で種が芽吹かない。


 どうやらコイツを先に片付けないといけないらしい。


 引きちぎった根の一部を手にとり、おもむろに口に運ぶ。


 がりごりと噛み砕く音は木の根というか岩でも食べているような印象だが、それが植物である以上は俺に食べられないものではない。

 俺のスキルは<草食系>だ。

 それが植物であるなら、何だって食えるはずだ。


 そして俺の頭の中にコイツの情報が入ってくる。


「……嘘だろ?」


 目の前にいるモンスターが解析され、俺の視界に情報が映っているが、俺はそれを理解できなかった。


──

 名称 :ルノール

 種族 :魔樹グリュエルトレント

 状態 :同化


 目の前にいるこの巨大な木のモンスターが、

 俺の知っている名前をしていた。

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