第7話~「急がば荒らせ」
おでかけ
スキル検証
チート・・・?
町のどこかから、静かな泣き声が聞こえる。
メンデルに引き取られてから2週間ほどが過ぎた。
その間、俺はひたすらに草を食べて寝るだけの生活を過ごしている。怠惰ですねぇ。
そして色々と、俺とメンデルとの違いを認識する日々だった。
まず、俺はトイレに行く必要がなかった。統合されてしまった[捕食]のおかげなのか、いくら食べても便意を催すことがない。
おかげでメンデルからは「楽でいいね」と、飾りのようなオムツを穿かせられた。
ときどき力尽きて尻餅をつくからと、尻の方をやや厚めにしたボロ布のオムツを不格好に穿いての生活は前世で見たCMの赤ちゃんみたいでちょっと恥ずかしい。
スキル[身体操作]がある俺は、このスキルの成長と現状の把握を兼ねて、メンデルの家を探検するのも日課のひとつにしていた。
というのも、このメンデルという女は片づけるのが苦手なのか、寝室以外のあっちこっちに得体のしれない植物が自生してしまっている始末だった。
研究用といってどこからか持ち込んだ植物のうち、環境に適応できないようなものはほとんど枯れてしまっていたが、その中でも生命力の強い種に関しては、土間だの玄関だのに自生しては変わったインテリアとして室内を彩っている。当のメンデルはというと、
「貴重な材料や危険な植物はきちんと避けてあるから大丈夫さ」
と、緑色の隣人たちについては無視を決め込んでいた。
なので、ちょうどいいからこいつらは俺のおやつとしていただくことにした。
【[毒耐性]の熟練度が規定値を超えましたので、
[毒耐性+2]に成長します】
ぬわーーーーー!
これ毒草じゃねーか!メンデルさん、自宅で毒草を栽培しちゃってますけど!?
という事もあって、得体のしれないものはとりあえず食べてみて、毒だと判明したものは引っこ抜いて、種類ごとに一ヶ所に集めておくことにした。
それを見つけたメンデルに「おや?これは似たようなのが多くて間違えやすかったんだ。まとめておいてくれたんだね、ありがとう」なんて礼を言われたが、そんなことよりきちんと管理しておいてくれ。抜いたはずなのにまた裏口に生えてたぞ。
耐性スキルを上げるにはいいかもしれないけど、日々進化している自己診断さんが言うには、耐性スキルは「毒によるダメージの減少効果」といった扱いらしく、継続ダメージを軽減して差し引きゼロになっているだけらしい。おかげで蓄積量が一定を超えると、今まで大丈夫だった毒草でもダメージを受けることが判明した。もちろんそれは解毒用の草が自生しているのを見つけたから試すに至ったのだが、危うく死ぬかと思った。
だが、ここで[自己診断]さんが進化した!
毒の蓄積量:24/30
分かりやすい!!
初期値がどんなものかわからないけど、分母を越えなければダメージを負うこともあるまい!今までよりは安心して食事ができるな!
【毒の蓄積量が許容量を超えました。
[毒耐性]を解除し、毒の分解を開始します】
ぎゃああああああああああああああ!痛っ!痛い痛い痛い痛い痛い!!腹が熱い!腹が痛い!内臓が溶けてる!?焼けてる!?とにかくこのままじゃダメだ!死んでしまう!解毒、解毒しなければ!!解毒効果の草はどこだ!確か一ヶ所に集めておいたはず!
突然の許容量オーバーに、耐性解除。なんの心構えもしていなかった俺はいきなり訪れた激痛に意識を失いかけつつ、自分がまとめた解毒用の薬草を求めて這った。
血液が熱湯になったかのような激痛の中、本能に後押しされるように薬草を求めて口にする。
なんだこりゃ、まるで毒じゃねーか。毒だったわ。
明滅するような視界の中、口内の薬草が喉を通る度に痛みが和らぐのが分かる。[自己診断]するまでもない。これが正解だ。
「だー・・・」
思わず声が出る。
そして、今起きた惨劇の原因を考える。間違いなく、さきほど口にした草が原因だろう。だが、まだ許容量には達さないはずだったし、そもそもあれには毒はなかったと思ったが。調べてみるしかないだろう。[植物鑑定]!
【カドクソウ】効果:薬効-1 これは・・・まあ分かってた。
【ヒメカソウ】効果:体力極微増 こんな効果あったのか・・・
同じような草の中に、ひとつだけ目を疑うものが見えた。
【カドクソウ(変異種)】効果:薬効-8 体力回復-1
なんだこれ!毒ってレベルじゃねーぞ!
どうやら過酷な環境に晒されたカドクソウが独自に進化を遂げてしまっていたらしい。見た目は変わらないからうっかりしていた。というか毒草ですら変異しないと生きていけない環境って……
それからしばらく、見たことのある草もすべて[植物鑑定]で調べるようになった。詳しい効果までは食べてみないとわからないが、(変異種)とか(進化途上)とか出るものに関しては食べずに避けることにした。
処分することに越したことはないんだろうが、捨てたくらいだと、ゴミ捨て場でパンデミックを起こしかねない。
火を扱うのも赤子の体では危険だし、メンデルに伝えようにもコミュニケーション能力が不足していて伝わらない。なので、大事そうに保管しておく方が安全だ。それならメンデルも手を出してこない。
よくは分からないが、「それは君の宝物かい?じゃあ、私は触らないでおくよ」と言っていたので大丈夫だろう。元々はゴミ箱のつもりだったんだが。
落ち着いたところで[自己診断]した結果、毒の蓄積量がほぼゼロになっていた。
どうやら耐性スキルが活躍している間は毒の分解が進まないらしい。キャパシティをオーバーした瞬間に累積分を継続ダメージで受けるとか鬼畜すぎる仕様にさりげなく涙したのは俺だけの秘密だ。余剰分だけダメージ受けるとか、もっと便利なものだと思ってたんだけどな、毒耐性。
とはいえ、解毒効果を発揮できれば蓄積量が減少することも確認できた。これからはこまめに解毒することを心がけよう。
「……ねえ。家が綺麗になったのは嬉しいんだけど、裏口のあたりだけ、やけに草が生え放題なのはなぜかな? 見た感じ、どれも解毒用の薬草に見えるんだけど」
だって戸を開けられないからね。狙って栽培できそうなのが裏口しかなかったのです。
「なんかドヤ顔されてる気がするけど……まあ、迷惑でもないからいい…のかな?」
ご迷惑をおかけします。
先に迷惑をかけたのはそっちだけどな!
次回更新は明日の6時予定です