第6話~「スキル検証枠 in 袋」
大平原に戻った
毒草を意味もなく食べた
家畜扱いされていることに気付いた
馬の背で揺られながら、カッポカッポと蹄の音が響く。
初対面の時は驚いてしまった馬面だが、まじまじと見てみると、ずいぶん痩せこけた馬だということが分かった。
ろくにエサも貰えていなかったのだろう。人間を乗せるだけの力もないようで、担いでいるのは、かき集めた草と赤ちゃん(俺)だけだ。
いくら自走できるからって赤ちゃんが大人の歩きと同じペースで歩けるはずがないからな。
移動している間はヒマだし、ここで改めて[自己診断]してみよう。
自己診断結果──
名称 :なし
種族 :人間?
年齢 :0歳
状態 :毒
スキル:[草食系]
[気配探索]
[自己診断]
[毒耐性+1]
おおっと。相変わらずツッコミどころが満載のステータスが表示されたんだが。しかし俺は慌てない。もう一度[自己診断]っと。
状態 :毒
えっ・・・俺、毒に侵されてる?
え? どういうこと?
[自己診断]さん!もうちょっと詳しく!
『状態:毒』
体内に毒素が蓄積している状態。[毒耐性+1]により阻害されている為、ただちに影響はない。
ありがとう[自己診断]さん!
しかしなにか不穏な単語が並んでるんだが……。ただちに影響がないって、そのうち影響が出るってことじゃないのか?
[毒耐性]って、毒を無害化してるんじゃなくて無効化してるだけで、摂取した毒は蓄積されちゃってるのか……これどっかで排出しないとマズいんじゃないか?
参考になるものが全然なくて不安しかないぞ。
それから[自己診断]を繰り返した結果、[毒蓄積量]という項目があるような感じまでは理解できるようになった。
気がする、というだけで項目として表示されてはいないんだが。現時点で変化のないステータスを参照しているだけじゃ[自己診断]さんが成長してくれないのかもしれない。そうじゃないかもしれない。
分からないから視界の隅にずっと表示させとこう。変化があったらすぐ分かるように。ちょっと頭が痛くなりそうなゴチャゴチャした視界になったが。
ちなみに俺が[自己診断]さんと遊んでいる間、学者さんは難しそうな顔で周辺の植生なんかを確認していた。
だいたい町に近づくにつれて「弱毒」付きのカドクソウが増えてきてるので食用には適さないだろう。俺は毒耐性があるから大丈夫だろうけど、蓄積されていくとすると許容量が怖いのでしばらくは食べたくない。解毒剤でもあれば限界まで蓄積したらどうなるか調べてみたいけど。
それから、腹を空かせた馬に道草を食べさせつつの道行きなので時間がかかったものの、町の入口が見えてきた。
俺はというと、馬が背負った皮袋のひとつに入れられているので身動きもとれず、ひたすら[自己診断]さんと、スキルとして存在していない[鑑定]さんの実験をしていた。[鑑定]さんに関してはかなり使用条件が厄介だった。
『鑑定しています。しばらくお待ちください---鑑定対象をロストしました』
というように、射程距離があるらしく、鑑定完了前に範囲外に出てしまうことで鑑定失敗するパターンがけっこうあった。痩せ馬の移動ですら範囲外に出てしまうので、かなり射程は短いと思う。他には、
『鑑定しています。しばらくお待ちください---失敗しました』
というのがあった。
失敗理由が不明なので追究しようがないが、スキル外での鑑定限界なのか、そもそも鑑定できないのか、鑑定が阻害されてたりするのか。どこかでゆっくり調べる必要があるかもしれない。
それと気づいたことがあり、この鑑定も自己診断も別に体力や魔力のようなものを消費するようなものではなさそうだ、ということに気付いた。
理由は簡単で、ずっと視界内に表示していても、文字酔いによる頭痛以外の虚脱感とかがなかったからだ。もしかしたらこの頭痛が魔力切れとかだったりするのかもしれないけど。
何はともあれ、赤ちゃんにできそうなチャレンジはほとんど行ったと思う。少なくとも普通の赤ちゃんにはスキルの検証なんてできないと思うけど。
なお[身体操作]に関しては袋詰めされてしまってるので試しようがなかった。ちょっと動いてみたけど、だんだん自分が詰め込まれてる皮袋がずり落ちてきてしまったので止めにした。落馬して蹄で踏まれたりしたら死にかねない。
そして視界いっぱいに自己診断だの鑑定だのを表示していたせいか、気づけば町の中に入っていた。この町、静かすぎて入ったことに気付けないんだよなあ。
「おや。ずいぶん大人しかったけど、もう考え事は終わったのかな? そろそろ家に着くよ」
どうやら俺のスキル検証は学者さんから見ると考え事をしていたように見えたらしい。実際色々と考えてはいたので、あながち間違いじゃないが。
「まだ何も解決してないけど、とりあえず君が普通の赤ん坊と違うことは分かった。私としては、それで君が死ぬことがない、という事実だけが大事だと思うことにしておくよ」
「あー」
返事の練習もしておこう。母音くらいしかまだ喋れないけど。
「それじゃあ改めまして。ようこそ、カソンへ。私は錬金学者のメンデル、これからよろしくね。えっと……」
「うー」
名前はさすがに発音できないな。文字でも書ければいいんだけど、この世界の文字なんて知らないしな。
「うーん。君の名前も考えなきゃいけないか。まあ、それは今じゃなくてもいいか。これからよろしくね」
「だー!」
こちらこそ。よろしく、メンデル。
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