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草食系異世界ライフ!  作者: 21号
そして5年後編
59/95

57話~「あてのない旅」

~前回~

 スキルシードをてにいれた

 死者のスキルを宿している?

 食べづらい

「なるほど……村は、手遅れでしたか…」



 あれから5日をかけて港町に帰ってきた俺たちは、その足で冒険者ギルドに立ち寄って報告をしていた。

 村の壊滅を伝えられたギルド職員の男性はどこか納得したように頷いてはいたが、その表情は明るいものではなく悲しんでいるように見える。


「ああ。着いた時点では生きている者もいたが、食事もとれないような状態だった。その日の夜には全員息を引き取ってしまった」


 これを言ってしまうと俺が皆殺しにしたんじゃないかと思われそうだが、ここで嘘をつくのも何か面倒だと思いそのまま伝えてみたが、ギルド職員の方は特に気にしていないようだ。


「では、依頼完了の報酬をご用意しますので少々お待ちいただけますか」


「ん? 依頼は失敗じゃないのか?」


 てっきり失敗だと思っていたが、どうもギルド職員の顔を見るとそうではないらしい。


「いえ、依頼の内容は『村の様子見と、出来れば食糧支援』ですので、今回の報告は充分に依頼達成と言えるでしょう。決して失敗ではありませんよ。追加報酬は残念ながらありませんが」


「それは望みすぎだ。失敗だとばかり思ってたからな、報酬がもらえるだけでもありがたいよ」


「ではお持ちしますね」


 そう言って職員の男はギルドの裏手に向かっていった。


 そう言われてみれば、決して村の救済が依頼だったわけじゃない。

 気にしないと思っていたが、そうでもなかったのかもしれない。冷静だったようで冷静じゃなかったのだろう。


 ほどなくギルド職員の男性は小さな銀細工の腕輪と金貨を持ってきた。


「こちらが達成報酬になります」


 腕輪の方は村の特産品のひとつであり、村を出た若者が依頼の為に作ったものだそうだ。


『願いの腕輪』

 故郷を想う若者の願いが込められた腕輪。浄化の能力が付与されている。



 ……あー。

 これは、またあの村に行かなければいけない理由が出来てしまった。

 こんなものを貰えるような事はしていない。

 せいぜい様子見の報酬で金貨を貰うことはあっても、これは貰えない。


「ありがとうございます」


 そんな考えはおくびにも出さずにそれを受け取り、宿で待つルノールたちの元に向かう。

 ルノールとアプリはもう気にしていないで元気になったが、今日は宿でゆっくりしている。というのも、例のスキルシードの実験ということで、効果がダブっている種の一つを鉢植えに植えて栽培を試しているらしい。

 旅の道中でやろうかとも思ったのだが、どうにもそんな気分にならなくてそのままにしてしまっていたのだ。



 それにしても港町は相変わらずだった。


 出港禁止されて2週間ほどが経ったが、船が出ないことで酒場やギルド併設の食堂は非常に荒れている。だが、それでも騒動になるほどではない。

 食糧不足は深刻のようだが、俺たちが戻って前に泊まった宿に入ったら、細々と食糧をやりくりしてどうにかしているらしかった。

 それでも食糧不足は歴然で、よその宿屋なんかは朝の食事は黒パン半分に水みたいなスープのみときた。まだ戦闘糧食の方がマシかもしれない。


 ということで、俺はとりあえずの目標を最初に定めていた食糧支援、作物の栽培に向けようと考えた。


「というわけなんだが、どう思う?」


「さすがお父様だわ、相変わらずすぎて意味がわからないもの」


「えっとぉ、腕輪を村に持っていくのは後にするのねぇ?」


 アプリとルノールはそれぞれの反応だが、これはアプリが察しが悪いというわけじゃない。すでに決めたことを「どう思う?」なんて俺が聞いたからだ。


「そうだ。あの村は滅んでしまったから急いでも仕方ない。けど、この町は急がないとまずいかもしれない」


 なにしろ輸入品も輸出も滞ってしまっている。

 輸出はともかく輸入品がないということはまずい。

 商人たちは普段、食糧や交易品を持って町にやってくる。そしてそれらを売った金で輸入品を買い、ここで買った輸入品をどこかの町で売るのだ。


 だが、出港禁止のせいで全ての船がここに戻ってきたままの現状、次の輸入は船が出てからだ。

 とすれば次の船が入ってくるのは1ヶ月やそこらじゃない、下手すれば半年以上は入ってこないかもしれない。


 最初のうちは何も知らない商人たちが食糧などを積んできて、腐るのもなんだからと売ってくれていた。

 だが、今になってしまえばもう売ってくれる物自体がない。

 だからみんな飢え始めている。

 町から出られずにいる冒険者たちが食べる食料に関しても、備蓄の枯渇に一躍買ってしまっている。


 そういう理由で、まずは食糧の調達が急務だった。


「現状、肉と魚はどうにかなっているな」


「お魚は近海で漁師さんたちが捕ってるもんねぇ」


「お肉は冒険者が狩っている魔物や動物がいるようね。このあたりは資源が少ないからそれも多くはないようだけれど」


「ああ。だから、この町に足りないのは野菜だ。そしてそれは俺以外にはどうしようもないだろうな」


 かといって、あまりド派手にやりすぎれば大事になるかもしれないが。


「そういうことならお父様、例の土を改善する木を植えて畑作りに適した場所を先に作っちゃいましょう。そこで野菜を育てられるようにしておけば、場所が特別なだけでお父様が特別とは思われにくいはずだわ」


「そういう事なら俺だけでやった方が早いな。アプリとルノールは肥料用に動物か魔物を狩ってきてくれるか?」


 正直言えば俺は肉が苦手で草以外はほとんど食べないだが、宿に卸せば看板娘ちゃんたちも喜ぶだろう。ルノールは好き嫌いがないから特に。


「それじゃあ行動開始だ、頼むぞみんな」 

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