56話~「スキルシード」
~前回~
生存者なし
死者蘇生に挑戦
謎の種子生成
「なんだこれ……名前だけじゃ分からないな……もっと詳しく鑑定できないのか?」
目の前の不思議な種に再度鑑定をかけてみる。
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『スキルシード』
<細工Lv5>
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あまり多くの情報はないが、そこに出てきたのは種の名前と、どう見てもスキルと思われる表示だった。
これはどういうことだ。種に細工スキルがある、というのは少し穿った見方だろう。とすれば、ここは逆にゲーム的な考え方をした方がいい。
つまりこれは、スキルを取得できる種に違いない。
ただ分からないのは、これをそのまま食べればいいのか、それとも栽培してから実をつけるのを待った方がいいのかだ。
そんな風に考えていると、俺のことを見つめるアプリの視線に気づいた。どうにもアプリの視線は責めるような、心配しているような、それでいてそのどれでもないような視線をしている気がする。
「どうしたアプリ?」
「お父様、それが何なのか分かったのかしら」
そういえば口に出して言ってないからアプリにしたら無言で種を見ているだけだった。
「ああ。これは『スキルシード』というアイテムらしい」
「スキルシード?」
「おそらくだが、名前の通りにスキルが中に入ってる種だ。そのまま食べるか、植えて育てた実を食うなりすれば……スキルが手に入るんじゃないか?」
適当に言ってみると、アプリは何かを考えるように思考に没頭し始めた。
その様子をしばらく見ていると、今度は村の家々を回っていたルノールが帰ってきた。
俺が蘇生の為に使った種子創生の結果をアプリと同じように見て回ってくれていたのだが、その結果はやはり同じようで、ルノールの場合はいくつもの種を入れたカゴを持ってきていた。
「村の人たちは生き返らなかったみたいだよぅ……あとぉ、みんなの体の近くに落ちてた種を拾ってきたよぅ」
「そっちもか。ルノール、それ見せてくれ」
どうやらルノールの方で見つかった種も同じものだったようで、鑑定の結果は『スキルシード』と出ていた。
『スキルシード』<料理Lv2>
『スキルシード』<属性付与Lv1>
『スキルシード』<細工Lv2>
『スキルシード』<採取Lv3>
『スキルシード』<忍耐Lv6>
『スキルシード』<跳躍Lv1>
……
種に内包されているスキルは同じものもあったが、かなり多岐に渡るスキルシードが集まった。だが、これだけ集まった事に対する疑問がまだ解けていない。
その時、ふいにアプリが何かに気づいたように自分の持ってきたスキルシードを落としたであろう村人の家に飛び込んでいった。
そして十数分ほどだろうか、何かを探していたアプリが戻ってきた。手には何も持っていないが、何かの確信を得たような顔つきをしている。
「アプリどうした、何か分かったのか?」
「ええ、お父様。そのスキルシードだけど、おそらく私の予測が正しければ、ちょっと食べるのを遠慮したくなるかもしれないわ」
どういうことだろうか。
疑問に思っていると、アプリの瞳が少しだけ沈んだような色を見せる。
「この種……スキルシードは、おそらく死んだ人間の経験や才能の中で、もっとも高いものを種子として取り出したものよ」
「経験や才能の……もっとも高いもの?」
「さっき私が持ってきた種の持ち主の家にはたくさんの細工物の試作品や失敗作があったのだけれど、その失敗作ひとつとってもかなりの品ということが分かるの。でも、その人はもう高齢のようで細工はしてないようだったけれど…」
「その人の経験の中では細工がもっとも高いスキルだったろう、ってことか。でもそれだけだと弱いな。ランダムかもしれないだろう?」
「そうね。あとは、そこの少女の種かしら。その子から出た種の種類は分かる?」
アプリが言っているのは、母に抱かれたまま亡くなった少女の事だろう。
少女の懐を見てみれば、そこにも確かに種が落ちている。
『スキルシード』<悪食L3>
「悪食……だな」
「レベルはいくつだった?」
「Lv3だ」
悪食というスキルは食物によるバッドステータス発生率を下げる有名なスキルだ。だがこのスキルは取得方法も有名で、滅多に持っているものじゃない。
簡単に言えば、悪食スキルの取得方法は腐ったものや毒物を摂取すればいい。繰り返すだけでスキルを手に入れられる。
だが、この少女の最も高いスキルが悪食だというのか。
「他の種にも悪食持ちがあったけれど、そのほとんどが子供だったわ。他のスキルが育つ前に飢えてしまい、その結果得た悪食スキルが最も高いスキルとして選ばれたのだと、私はそう思うわ」
だとすれば、この村はいったいどれほど飢えていたのだろうか。
特殊依頼が出されたのかいつ頃かは分からないが、きっと1ヶ月や2ヶ月どころではないのだろう。
逃亡者としての生活に近い日々を過ごしていた俺にとって、その期間はろくに外の情報など知ろうとしていなかった。
その結果、何も知らずにこんな依頼を受けてしまった。
後悔してもしょうがないが、俺はやるせない気持ちのやり場を考える。
別に村の人間が全滅していた事は仕方ないと思っている。
冷たいと言われるかもしれないが、俺にとっては見知らぬ村人の死よりも、仲間の感情が優先だ。
ルノールにアプリ。
この二人の表情は浮かばず、徒労に終わった依頼の結果よりも、滅びた村の様子に心を痛めているのが分かる。
分かるからこそ、俺はやるせない。
「とりあえず、墓を作るか」
何の解決にもならないが、そのまま放置するよりはマシだろう。
魔法細工の村アートマギカは滅びた。
その事をギルドに報告すれば依頼終了だ。
何とも後味の悪い思いをしながら、今回の依頼失敗で報酬はもらえないだろうから、せめてもの報酬代わりにと種を頂いていく。
近場で作り出した、荷馬車2台分の食糧も置いていく。
すぐに腐ってしまうだろうが、これも依頼にあった通りだ。食糧支援。受け取る者がいなくても、一応はやり遂げておこう。
たくさんの野菜や果物を墓の前に並べていき、それぞれの墓を供養する。
外にでている村人などがいれば驚くかもしれないが、それも仕方ない。
こうして、俺たちの短い旅は帰り路に向かうことになった。