55話~「遺されるもの」
[状況報告]
特殊依頼:食糧支援
村の状況:滅亡
生存者:なし
木魔法。
この魔法は樹木を操る。
そして俺にはルノールを蘇生したスキルがある。
<生成栽培>に<種子創生>
強大な魔力を込めて、命の種を作り出すスキル。
だが、それは出来なかった。
このスキルは誰にでも使えるものではない。
ルノールを蘇生し、それから数年。使おうとしなかったわけではない。
使おうとした、その度にそれは失敗した。
何かが足りないのか。
何が足りないのか。
あの時の感覚は思い出せるが、その感覚に届いても出来ない。何も生まれない。
だけど、やってみるだけはやってみる。
それが失敗するなんて分かってる。
何かが足りず、何が足りないか分からないことを知っている。
だから絶対に失敗する。
だけど、やってみる。
それは悪足掻きだろうか。それとも無駄な努力だろうか。
「……<種子創生>」
村に眠る遺体が輝き出す。
ここまではいつもと一緒だ。
「お父様……」
アプリが心配そうに見守る。
当然だろう。
このスキルは、恐ろしいほどに魔力を喰う。
天文学的数値にまで成長した俺の魔力がどこかに吸われていくのが分かる。だが、どれだけ吸われても何にも至らないのが分かる。
しばらく魔力を込めても、やはり何も起きない。
人は、生き返らない。
「……あれぇ?なにあれぇ……」
ルノールのぼんやりした声が聞こえる。
「あれは……なにかしら……」
アプリも何かを見つけたのか、フラフラと動き出している。
何をしているのか気にはなるが、このスキルを使っている時、俺は動けない。動けば込めていた魔力が霧散し、完全に終了する。
何にもなりはしないが、何かする。
正義感でも、義務感でも、責任感でもない。
俺は頭に浮かんでいることを考えて自嘲してしまう。
俺は今、必死にがんばってる。
そうだ。俺は頑張りたいだけなんだ。
頑張ってるから、どうだ?
頑張ってる俺は、どうだ?
大した意味はない。その結果にも拘らない。
頑張っている、その経過を見て貰いたいと思っているだけだ。
だから俺は自嘲してしまう。
滅びた村を救おうとする。
そんな英雄じみた、神をも恐れぬ死者蘇生を、それだけの為に行っている。
きっと、そんな俺だから何も出来ないんだろうと分かっている。分かっているが、俺には目的がなかった。だから変わらないんじゃないかと思っていた。
やがて光が消え、スキルの終了を告げるように魔力の消費が止まる。
ステータスを見ればまだまだ魔力が残っているように見えるが、その数字は俺の頭では理解できない数値なので気にしない。
俺の魔力は一体どうなっているのか。
俺の生命力はどうなってしまったのか。
それも分からないが、分からないままにしている。
俺にとっての『結果』は、この村の住人のように餓死だった。
前世の最期、俺は餓死した。
だからだろうか。彼らに同情する事がない。ただ、それが結果だったのだろうと受け止める。
だから得られるものなど無いと思っていた。
「お父様!これを見て!」
突然アプリに呼びかけられてそちらを見てみると、アプリの小さな両手に掴まれたパチンコ玉くらいの大きさの種がそこにあった。
「どうしたアプリ。その種は何の種だ?」
「それはお父様が調べてくれないと分からないけど、きっとこれは普通の種じゃないわ」
アプリの言葉に首をひねるが、これは俺に鑑定をしろと言っているんだろう。
アプリは俺が生み出した娘のようなものだが、アプリ自身は俺とはまるで関係ない存在だ。
フルーツフェアリーという新種の妖精として生まれたアプリは、その知識や経験をどこからか補完している。
それは俺の中に残っていない、ルノールを助けた時にだけ発現したスキル<樹系図>が関係しているらしい。
この<樹系図>というスキルはルノールを蘇生した時に発現して以降、ステータスを確認しても見当たらない。
もしかしたら<草食系>に統合されてしまったのかもしれないが、そうだとしたらもう確認する術はない。
アプリは俺が知らない事を知っている。
そのアプリが俺に鑑定を依頼してきたという事は、今までに一度もなかった。
だから俺には、それが何なのか分からなかった。
『スキルシード』
その種は、異世界に来てから初めて見るものだった。