52話~「ご想像にお任せします」
~あらすじ~
2個商隊接近!
迎撃用意!
ケイトがひっかかっちまった!
空荷馬車の旅4日目。
旅の初日に気づいた自分の身体能力を把握し、制御する為の訓練を続けて3日目。たった3日だが、ずいぶんと体の使い方に慣れてきた。
「お父様ー、そろそろ村が近くなってきてるし、それやめてくれるー?」
アプリから非情なストップ宣言が下されてしまったが、俺は慌てず騒がず跳ねずに戻ってくる。
「ケイ…うわぁ、すごい不気味ぃ」
戻ってくる俺の姿を見るなりルノールの表情が苦虫を頬張って咀嚼している最中のような顔になる。
まったくひどいものだ。俺の戦闘力を高める為に、必死に手に入れた技術だというのに。
「ルノール、アプリ。俺の動きはそんなに気持ち悪いか?」
自分に胸を張って尋ねる俺とは対照的に、ルノールもアプリも困ったような表情を見せてくる。
「えっとぉ…わりと、気持ち悪いかなぁ」
「新手のモンスターだと思うわ」
「早いから確認しづらいしぃ」
「正直いきなり目の前に出てくる感じがするから近づかれると攻撃したくなるわね」
「つい魔法を撃っちゃうかなぁ」
「つい魔法を撃っちゃうわね」
ひどいものである。
「そうか…わかった…。戦闘以外では自重する…」
と言いつつ、今なら他人の目がないからばかりに移動する。
先日の商隊遭遇で、俺の身体能力が制御不能だということは充分に理解した。
これがダメージ覚悟のただの自爆攻撃だったなら、ありあまる生命力のおかげで俺にとっては大した問題じゃなかった。
だがそうではなかった。
制御不能というのは要するに、加減が効かないとかではない。
この体、人の肉体で制御できるレベルじゃなかった、ということだ。
自分の体重がどれくらいなのか、この世界に来てから計ったことがないので分からないが、この体重ではダッシュした際に発生する揚力や地面と足の反発で浮いてしまう。
その浮遊状態ではコントロールが聞かず、摩擦が足りない足の裏だけでは急停止が出来なかった。
ものは試しにと力いっぱい足でブレーキをかけようとしたら、地面を蹴った勢いで上空へと投げ出された。その後、2km先の森に落ちた俺は戻るまでにかなりの苦労をする羽目になった。
周囲の地形を確認しようと垂直ジャンプを試したこともあったが、あれも危なかった。
舗装されてない地面というのは思った以上に凸凹していて、垂直に跳んだつもりが斜めに跳んでいる、なんて事は当たり前のように起こった。
おかげで垂直ジャンプ直後に確認した景色は着地の失敗で方向を見失い、それから4度も失敗ジャンプを繰り返す羽目になった。
なお、森に俺が飛び込んだ後、ルノールたちは最初だけは心配してくれたようだが、森から度々飛び出してくる俺の姿を見たあとは気にせず街道を進み続けていたらしい。
方向を確認した後、半分くらいの力で街道に向かって走った俺は直後に木の幹に激突し、ピンボールのようにあちこちの木々に激突して倒れた。
結果として分かったのは、一般人がイメージするダッシュやジャンプといったアクションの威力が、俺にとっては致命的だということだ。
ここで気をつけなければならないのは、
『失敗を繰り返しているうちにも出力が上がっている』
ということだ。
慣れるまで試そうかなんて考え、トレーニングの時と同じようにダッシュしようとしてはぶつかり、その勢いがだんだん増している事で気づいたことだ。
結局、旅程2日目は合流できないままに夜を迎えた。
まさか夜になっても探しに来ないとは思わなかったが、俺自身も夜になっても制御不能で歩くしかないなんて思わなかった。
なんにせよ、数少ないチートを発揮する生命力に任せて完徹して歩き続けた俺は翌日の朝になって、野営をして眠っていた一行と合流を果たした。
野営をするにあたり、土魔法を使って円状に周囲を囲った簡易キャンプ地を見た俺は、そこでふと思いついたのだ。
「そうだ、相撲だ!」
別に隠語ではないし、比喩でもない。
俺はそこで自らの制御不能な身体能力を制御するため、体重を増やすことを思いついたのだった。
そしてもちろん相撲なんていう前世の格闘技を知るはずもないルノールとアプリはきょとんとした表情を浮かべていた。