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草食系異世界ライフ!  作者: 21号
そして5年後編
53/95

51話~「ロケットダイブ」

~あらすじ~

 筋肉筋肉ゥ!

 スクワットウォーク!

 ホッピングゴブリン扱いされた

 それは一瞬の出来事だった。


 魔物と勘違いされ、馬車を襲っていると勘違いされ、商隊を護衛する冒険者たちが剣を抜きそうになっていた。

 だから、慌てて飛び出した。


 一歩目。腰を落とした姿勢から踏み込んだ右足が力一杯地面を蹴りつける。街道の踏みしめられた地面にヒビが入り、ミシミシと音をたてながら俺の体が前方へと押し出される。


 二歩目。ロケットのように飛び出した体が徐々に地面から離れてコントロールを失いそうになり、左足で地面を掴むように体を支えようとする。

 弾丸みたいな勢いが急制動によって方向を変え、左足を軸に逆時計回りに半回転する。


 三歩目。勢いが止まらずにそのまま左前方に飛び出しそうだったので右足でも地面を叩く。

 その瞬間、軸になっていた左足が浮き、直立不動の姿勢で、飛び出した方向の右側に飛んでいく。


 おそらく、後ろから見ていたルノールには俺が突然飛び出した直後に前方で直立ジャンプしたように見えたことだろう。


 商隊の方はといえば、あまりの早さになにがおきたのか分からない様子だった。


 そしてゴム人形のように吹っ飛んでいった俺はというと、街道沿いの林に突っ込む直前に木魔法を使って軟着陸を試みて失敗し、2本ほど罪のない木の幹を砕いたところで停止していた。


「うおおお……なんだった今のは…」


 魔力を使ったわけでも、スキルを使ったわけでもない。だから理由は分かっていたが、あまり理解したくなかった。


「け、ケイト大丈夫~ぅ!?」


 慌てたルノールも駆け寄ってくるが、まだ遠い。

 なにしろ300mくらいの距離を一気に駆け抜け、30mくらい離れた林に突っ込んだんだ。一応ベテラン戦士くらいの体力を持つルノールでも追いかけるとなると一瞬では済まない。


 そんな俺とルノールの動きを、商隊の人間たちは呆然と見ているしかなかった。



──────


 新種のオブジェのように幹にめりこんだ俺が救出される頃には商隊の一部が警戒しながら近づいてくるところだった。

 天文学的数字の生命力を持つ俺からすればこんな衝突事故も大したことはないが、彼らにとっては人智を超えた事件だろう。いや、俺も痛いものは痛いが。


 やがて商隊の護衛らしい冒険者の一人が代表して近づいてきた。剣は持っているが構えているわけではなく、警戒はしているが敵対する気はないというアピールだろう。


「や、やあ。えっと…君たちは、その、人間でいいんだよな?」


 向こうも何て尋ねたらいいのか迷っているようで申し訳なくなってくる。見た目で言えば俺は緑色の少年で、ここ最近のトレーニングのせいか筋肉がついてゴブリンらしさが増してきた自覚がある。

 しかしもう一人のルノールはといえば、艶やかなブラウンの髪と同じ色をした大きな丸い瞳とふんわりしたワンピースが映える美少女だ。最近は仕草も含めて実に可愛らしくなってきたのが分かる。

 後ろからガラゴロと空の荷車を牽いているブライアンが距離を置いて止まっているのは、おそらく荷物に紛れたアプリの指示だろう。彼女はあまり人目につけさせたくないからこれでいい。


「ああ、俺は人間だ。商人ギルドの登録もあるし、ギルドカードも見せていい。こっちの女の子はLv6の冒険者だ」


 俺が答えると、護衛の男は驚いた視線をルノールに向けた。


「Lv6!?立派なベテラン冒険者じゃないか!」


「こう見えてルノールは優秀な魔法使いだからな」


 人見知りではないが、こういう時のルノールはわりとポンコツだ。会話が遅いので俺が代わりに話すことが多くなる。

 そして慣れた説明をする。

 俺は商人として商品を扱い、その護衛としてルノールがいる。ルノールと俺は幼なじみでずっと一緒に旅をしている、ということだ。

 これを言っておかないと、若くて腕のいい魔法使いのルノールはすぐに勧誘される。商人たちからしても護衛として優秀だし、商隊の看板としても十分すぎる容姿をしているからだ。

 だが、そんなルノールが俺みたいなゴブリンもどきと一緒に旅をしていると聞くと一様に諦める。なにか理由があるかと考えるだろうが、俺は幼なじみだと言ってあるからだ。


「そうか。いや、すまないな。最近は盗賊も魔物も増えていて、警戒しすぎても足りないくらいでな」


「へえ。そんなに増えてるのか?」


 食料狙いの盗賊がいるとは聞いていたが、増えているというのは初耳…初耳だったよな?


「戦争に向けて、国が重税を課し始めたからな。税を払いきれない小さな村なんかは生活の為に盗賊に身をやつす連中もいるし、もう国は滅茶苦茶さ」


「なるほどな。それでアンタらも国を出て、よその国でやっていこうって魂胆か?」


 俺はなんとなくそう思ったので聞いてみた。

 鑑定で見える情報は大してないというか、目の前の男は本当にただの冒険者でしかないから覚える気もなかったが、後ろの馬車には思ったよりもたくさん人が乗っている気配がしたからだ。


「・・・ああ、そうだ。別に珍しいことじゃない、この国はもう助からないだろうからな」


 少し言いよどんだのは多少なりとも国を見捨てることに罪悪感を覚えているからだろうか。正直細かい心の機微なんかは分からないが、やはり国を捨てるというのは軽い気持ちでできるものでもないだろう。


「別に俺は悪いとも言わないよ。俺自身、この国をでるつもりだしな」


「ん?だったらなんでこっちに向かってたんだ?こっちはカティラとは逆方向だろ。というかカティラから来たんじゃないのか?」


「出航規制がかかってるんだよ。今は外国へ向かう船が出せないっていうんで足止めを食らったから、金を稼ぐのにクエストを受けてきたってわけだ」


 俺がそういうと冒険者の後ろで聞き耳をたてていた連中がざわつくのが分かる。そりゃそうだ。国を捨てて出て行こうというのに、それが出来なくなっているんだから。


「その情報は本当なのか?」


「行ってみりゃ分かるぞ。最低でも1ヶ月以上はあの町に足止めされるだろうから、貧乏な俺たちは稼がないと食っていけなくてな」


 いつまでも林の中で会話をするのも何なので、汚れた服を叩いて街道に出る。

 街道にたむろっていた商隊の連中は、さっきの俺たちの会話を聞いた奴から又聞きしたのか、あちこちざわついている。


 そんな中で、ブライアンの引く空の荷馬車の元に戻って替えの服を出す。

 荷馬車は空だと言ったが、商品以外のものならいくらか載っている。ルノールが裁縫スキルの向上のためにとちくちく繕っていた俺の服もいくつかあり、さっきの突撃で破れた服から着替える為に取り出した。


 脱いでみれば、その惨状がよく分かる。

 麻のような布で縫われた服は肩から胸にかけて引き裂いたような傷があり、黒ずんだ血液が付着している。傷自体はもうないが、かなりの大怪我をしたようだ。


 着替えながら、さっきの突撃について思い返す。


 あれは“力任せに飛び出した”だけだ。魔力もなにも使っていない。

 背中に背負っていた超木刀の紐が切れ、道に転がっている。あれは重すぎてブライアンにも運べないほどの重量がある。

 あの重量物を背負い、重い服を着込み、ずっとトレーニングに勤しんでいた。普通なら体を壊して再起不能になるような過剰なトレーニングを。


 その結果、俺の体は制御不能のスーパーパワーを身につけたのだろう。


 そう、制御不能だ。


 おそらく今も、思いきり蹴り出せばさっきと同じようにロケットみたく飛び出し、何かにぶつかって止まるまでピンボールみたいになるだろう。

 鍛えに鍛え、人間を逸脱したパワーを得た。が、それを制御する方法がない。身体操作スキルの上位スキルである身体強化があるが、これはむしろ現状を悪化させるものだろう。


 とにかく今はどうしようもない。あまりにも突飛な現象すぎて商隊も冒険者もさっきのことを突っ込んでこないが、冷静になれば聞いてくるかもしれない。何か言い訳くらいは考えておこう。


 そして彼らは俺が与えた情報を精査する方法がなく、出航規制がかかっているかもしれなくても、カティラに向かうしかないという結論を出しているようだった。

 正直言えば俺に出来ることなど何もないが、これで彼らが国に戻ろうとしたところで戦時下の内地では色々と厳しいものがあるだろう。何が厳しいのかは具体的に分かることはないが。


 そして俺たちは誤解が解けたところで彼らから離れ、本来の目的地の方へ向かう。彼らの来た道は南東で、俺たちが向かうのは南西だ。

 おそらく気づかれれば冒険者たちから何やかやと声をかけられたろうが、アプリが隠れたところから何かの魔法を使って俺たちから意識を逸らさせてくれたので、何事もなく元の道に戻ることができた。


 俺たちのパーティーはなかなかバランスがいいかもしれない。


 なんてことを考えていたが、ルノールとアプリにはその日の夜、こってりと絞られてしまった。


「ケイトの馬鹿ぁ!心配したんだからねぇ!」


「お父様はアホね。鍛えすぎて脳まで筋肉になってしまったのかしら?今のお父様の身体能力では加減も制御もできず、大砲みたいな役割しか期待できないわ」


 もうコテンパンに言われてしまい、しばらく立ち直れなさそうだ。

 仕方ないのでブライアンに特注の体力向上効果がある草とポーションを与えておく。仲間を増やして怒りの矛先を分散させようという作戦だ。


 そんな事をしながら、久しぶりのクエスト旅1日目の夜は更けていった。

 

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