49話~「冒険者ギルド」
~あらすじ~
筋肉筋肉!
筋肉旋風
ウッドブレード
翌日、俺たちは冒険者ギルドにやってきていた。
新兵器である超木刀のお披露目からトレーニングへと流れるように移っていた俺を迎えにきたルノールが持ってきた情報を聞いた俺たちは、商人ギルドへと向かう予定を変更したのだ。
潮風に当てられてぼろぼろの看板を掲げた冒険者ギルドの前まで来ると、そこは思った以上に人だらけの惨状を見せていた。
船が出航されず、
よその大陸からやってきた冒険者が宿代を稼ごうと依頼板に向かい、
戦争を避けようと内地からやってきた連中が討伐以外の依頼を探し、
他国からの情報を集めようとしている連中が酒場がわりにたむろし、
ギルドの中は人で溢れ返っている。
「おっ?ルノールの嬢ちゃんじゃねぇか。今日も情報収集かい?」
「ルノールさん、ついにうちのパーティーに入ってくれる気になってくれたのかい?」
「なあルノール、ヴィレジアから来たって言うなら、噂の大魔術士について何か聞いてないか?」
「おいギルドにゴブリンがいるぞ!」
「俺の女になれよルノール、女の喜びを教えてやるぜ」
「食糧が届いた宿があるらしくて今朝からうちのパーティーの戦士が飯を求めて探しまわってるんだよ」
そんな中、ギルドにルノールが入った途端にさらに賑やかになった。
普段ルノールが冒険者ギルドで何をしているのか全く知らないが、様子を見る限りではだいぶ人気者のようだ。俺を見て騒いでる奴も中にはいたが。
賑わう中、ルノールの隣を歩く俺に訝しげな視線を向けてくる連中もかなりいたが、ルノール自身が俺にちょくちょく話しかけてくるので揉めるようなことはなかった。
てっきり冒険者ギルドのテンプレとしてケンカを売られるくらいはあると思ったんだが。
「それは偏見だよぅ。みんな良い人たちだよぉ?」
あちこちの町を追われてここにたどり着いた人間の口から出る言葉とはとても思えないが、ルノール自身の穏やかさはもしかしたら伝染するのかもしれない。
視線そのものは気になるが、あえてそれには触れずに依頼板に向かう。
ギルドに依頼されたクエストの依頼書が貼られてある依頼板だが、この町のクエストは現在基本的に「貼られた直後に無くなる」というくらい需要過多になっている。
というのも、滞在する冒険者が多すぎた。
海に出られるようなパーティーもいるが、海戦特化のパーティーは陸戦だと不利ゆえに、海の依頼があれば即回収していく。
同様に陸の依頼は通常の冒険者たちが何としても受けようとして持って行くので、これもまた無い。
なので、現在残った依頼というのはそれぞれが一癖も二癖もあるものだ。
「なになに……ジャイアントスパイダーの糸の納品?」
ジャイアントスパイダーは峡谷付近で遭遇する魔物で、2m近いサイズに足を含めると5m以上になる化け物だ。こいつの出す糸は丈夫で、特殊な薬品を使って加工することで布にすることが出来る。
その布は船の帆などに利用されるらしい。ちなみにその薬品は俺でも作れる。
「違うよぅ、今回の依頼はこっちだよぉ?」
そう言ってルノールが持ってきた依頼書は、どうやら討伐でも採取でも護衛でもないようだった。
「特殊依頼か?」
完了条件がハッキリせず、やや曖昧な表現だったり成功報酬だったりする依頼に「特殊依頼」というものがある。
冒険者ギルドが認定するランクで、冒険者Lv5以上の中堅冒険者から受領可能な依頼として掲示されることがあり、単純な金銭以外の報酬を提示されることもある依頼だ。
「ちょっと離れたところなんだけどぉ、輸出の特産品を作る村があるんだってぇ」
「特産品か…食糧か?」
「ううん、違うよぉ。でもぉ、戦争があるからぁ、重税が課せられちゃってねぇ。村が潰れそうなんだってぇ」
ルノールが言うと緊張感が抜けてしまうが、わりと洒落にならない事態になっているらしい。
戦争前の準備も含め、戦時特例として重税をかけている領主はよくあることだが、経済が傾くほどに重税をかけるというのはさすがに本末転倒だ。
ルノールフィルターのせいで緊迫感がないのでギルドの職員に尋ねると、どうやら思った以上に大変な状態だということがわかった。
どうもその村はカティラから送られる食糧を輸入し、それと村の特産品を交換することで成り立っていたそうだ。
それが戦時下の現在では送られる食糧が激減しており、高騰した食糧を買うための特産品は重税でとられ、なおかつ送られた食糧を載せた馬車が盗賊に襲われて届かなかったらしい。
まさか嘘から出た真というか、食糧狙いの盗賊被害に遭っている村があるとは思わなかった。
そしてルノールはというと、宿の看板娘にその話をした事を聞いた後、「これだとぉ、もしかしたら私たちが食糧を横取りしたって恨まれちゃうかもぉ?」と困った顔をしてしまった。
その為、何か出来ることはないかと依頼を見にきたわけだ。
ちなみに依頼自体は、その重税を課された村の調査となっている。期間は1ヶ月も指定されているのに、報酬は銀貨15枚。
あまりの安さに、さすがの冒険者たちも手を出していなかったという依頼だ。
この依頼を受領したルノールと俺たちは、とりあえず食糧を支援しようという事で準備を始めた。
「結局こそこそとやる羽目になるんだよな」
村の支援に行く以上、商人ギルドに許可をとってゆっくりと作物を育てるわけにもいかない。
件の村までは馬車で5日ほどかかる予定なので、到着の前日にでも準備すればいいだろうという結論を出した。
カティラの町の外には、目立たない場所を見繕って木を植えておいた。もちろん例の塩分を吸収する樹木だ。これで土壌改善できるかどうかがわかるだろう。
片道5日、往復で10日。現地で少し滞在しても半月程度で戻ってこれるだろう。
それまでに港が開放されていればいいが、戦争となるとそんなに簡単に終わるはずもないか。
俺はこれからの先行きに不安なものを感じながらも、ルノールがやる気になっているのだからいいだろうと決めた。
宿の厩舎に預けておいたブライアンを引き取り、空の荷車を牽かせる。ちなみに念のため、さらに1台追加して2台分の荷馬車になった。
俺はこれから向かう村の特産品というものが何なのかを考えながら、馬車を南へと走らせた。