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草食系異世界ライフ!  作者: 21号
そして5年後編
50/95

48話~「筋肉旋風」

~あらすじ~

 ぽっちゃり系の驚愕

 ぽっちゃり系の微笑

 ぽっちゃり系と契約

「お父様の考えは分かるけど、ここで作物を作るのはどうかと思うわ」


 意気揚々と町の外に出てきて、遠からず近くもないような人気のない場所にたどり着いて第一声、背負い子のような鞄に突っ込んでおいたアプリから否定的なセリフが投げつけられた。


「その心は?」


「この辺りでは作物がとれない、というのが定説なんでしょ?いきなりこんなところで耕作が可能になった、って言われたら不審に思うのは当然じゃないかしら」


「言われてみればそうだな…」


「それにお父様が土壌回復なさったら、それからはよほどの事をしなければ他の人たちにも畑作りが可能になるでしょう?だったら商人ギルドに一声かけて、その方法を先に言っておいた方が無難じゃないかしら」


 淡々と述べるアプリの意見に思わず頷くだけの機械になりかける。俺の子、すごい考えてる。


「あとは商人ギルドと交渉して、その土壌改善方法を教える情報料を貰えばいいのよ。少なすぎると足下を見られるけど、多すぎても顰蹙を買うから、前金で金貨1枚、成功報酬で金貨20枚ってとこかしら。例の植物の種子は出さずに、取引成立してから渡すようにしないとね」


 そろそろ覚えきれなくなってきたが、とりあえずうんうんと頷いておく。難しいことは分からないが、無償で何かをしようとすると揚げ足をとられた上で利益を根こそぎ奪おうという輩が出るのはよく知っている。



 相談を終えた俺は今日のところは動きださず、ルノールに相談してから明日、商人ギルドに行こうという話でまとまった。


 ただし時間は多少空いてしまったので、何をするかと考えていると、アプリがふわりと俺の前に出てきた。

 こいつが自分から寝床を飛び出してくるのは珍しい。この皮袋というか、アプリ袋をだいぶ気に入っているということで出てくることはあまりなかった。


「ねえお父様、さっきの荷運びを見ていても思ったのだけれど、お父様の体力はすごいわ」


「お、おう。ありがとう」


 誉められて悪い気はしないが、今日のアプリはなんだか怖い。


「ところでお父様。お父様のスタミナは無尽蔵みたいな感じだとは思ってたのだけれど、筋力の方はどうなのかしら?」


 力こぶを出そうとしているのか、アプリは小さな自分の小さな腕に力を込めてそんなことを言っている。

 残念ながらミニチュアサイズのアプリの腕はぷにぷにとしていて柔らかそうだ。


 俺の方はといえば、濃緑の腕のせいかそこそこ筋力があるように思えていたが、実際にどれほどのものか試したりしたことはあまりない。

 というのも、ろくに剣など扱ったことがないから、振り回すなら鈍器の方がいい。鈍器といえば棍棒、棍棒を振り回す緑色といったらゴブリン。


 そんな連想ゲームのせいで鈍器に忌避感を感じ、結果的に魔法に傾倒した上、魔法もろくに使えないと分かると戦闘そのものを避けるようになったわけだ。

 

 先日はそんな自分を変えてみようと筋トレを開始したわけだが、旅の途中ということもあってそれほど派手な運動はしていない。

 よって俺は自分自身の力をよく分かっていなかったりする。


「そうだな…自分がどれくらいの事が出来るのか、確認ぐらいはしといた方がいいだろうな」


「むしろ何も確認せずにお父様が今まで生きてこれた事に私は驚きを感じているわ」


 1ビックリいただいたが、驚くのはまだまだこれからだ。

 俺はさっそく地面にうつ伏せになり、腕立て伏せを始めた。


「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ…」


 有り余る生命力というスタミナのおかげで、俺はいくら運動しても疲れることがない。

 つまり、腕立て伏せ1000回!みたいな拷問じみた筋トレでも余裕で出来てしまうのだ。


 この筋トレにはさすがのアプリも驚いたらしく、大きな目を丸くしてこっちを見ていた。ふっふっふ、どうだこの筋肉、ナイスバルクだろう?


「あの、お父様、何をしてらっしゃるのかしら?」


「ふっ、ふっ。見ての通り、ふっ、腕立て伏せだが」


「ええ、それは見て分かるんだけど。それで何を確認するというのかしら」


 そういえばどうするんだろう。

 無限に筋トレできるというのは凄いと思うが、それで何が出来るかと言われると難しい。

 早くも問題点に気づいた俺は、とりあえずキリのいい1万回まで腕立て伏せを続けてからもう一度考えることにした。


「そうだな…基準になるような数値とかがないから、筋トレでどれくらい鍛えられたのかよく分からないのが問題だ」


「他にも問題はあると思うけど、どうして筋トレだったのかしら。素振りとかじゃダメだったのかしら」


「いや、素振りも悪くはないと思うぞ」


 ただ素振りは剣だと危ないし、棍棒だとゴブリンっぽくて嫌だっただけだ。

 剣が危ないというのはルノールの事で、彼女は目が悪かった時の癖で会話する時に相手に異常接近する癖がある。

 この癖はあまりよろしくなく、美少女然としたルノールが小さな体を寄せてきた上で上目遣いに目を合わせてくるものだから、とても勘違いされやすい。


 そして俺の場合、夢中になって素振りをしていたら誤ってルノールを棍棒で叩きつけてしまったことがあったりする。

 あのときは棍棒の直撃を受けたルノールが意識不明の重体になってしまい、作り置きしておいた効力最大のライフポーションを頭からぶっかけて回復させたものだ。


 それから素振りは危険だということでやらないようにしていたが、冒険者も長くなってきたことだし、今更そんなアホな事件もそうそう起きないだろう。


「そうだな。いい得物があったら素振りもやろうか」


 不死身の体にモノを言わせて耐久力で粘り勝ちというか、毒を飲んだ体そのものを毒トラップにして魔物に食わせるような戦い方ばかりしてきたので、まずは得物、武器の調達からになってしまう。


「そうね…いえ、お父様。お父様なら、スキルでどうにかなるんじゃないかしら?」


「スキルで?身体強化スキルは使ってるぞ。おかげで筋トレもずいぶん捗ってるし」


 身体操作が身体強化になってから、鍛えるのとスキル向上も同時に行えるから非常に有用になっている。筋肉がついてきたと思うと同時に身体強化も上がり、ある意味では馬並みといっていい体力がある。


「お父様の栽培スキルなら、極限まで頑丈さを重視した樹とか作れるでしょう?それに木魔法を併用すれば、頑丈で強力な棍棒とかも作れるんじゃないかしら」


 なるほど。

 栽培スキルは進化の過程で植物の特徴なんかに方向性を持たせて強化育成することが出来るし、木魔法はそんな風に作られた樹木を自在に操ることができる。

 それなら何か武器みたいなものが作れるかもしれない。


「それはいいな。アプリありがとう、さっそく試してみようか!」


「ええ、お父様。ところで何を作ろうとしているのかしら?」


 アプリのアドバイスがあってから、俺はずっと頭の中に作りたいものが浮かんでいる。


「ふっふっふ……よく見ていろアプリ、これから俺は専用の装備を生み出す」


「いや、だから何を作ろうとしているのか聞いているのだけど」


 創造するのは、常に最強の自分だ。筋肉の鎧をさらに鍛えるような、それでいて無骨すぎないゴブリンから離れるような外観。


 そう、俺に今必要なものはこれだったのだ。


「いくぞ…!」


 まずは強度を極限まで高めた樹木を作る。塩気のある土からはろくな木が生やせられないが、魔力で無理矢理に育たせることもできる。効率が悪すぎる上に食用にするものでやると何が起こるか分からないから出来ないが。


 さらに樹木にゴム質を追加する。粘性と延性を高め、丈夫さを追求する。


「さらにここで…木魔法!<形質変成>!」


 ベキベキと音をたてて樹木の形が変わっていく。

 例えて言うなら巨大な丸太だろうか。葉や枝を伸ばすことなく、幹だけが大きく伸びていく。その先端は尖り、まるでタケノコのようにも見える。


「次だ…木魔法<圧縮変成>」


 巨大タケノコ型の木が魔法により圧縮され、その形を小さくしていく。

 うむ、思った通りに出来そうだ。


 思いつきをそのままにできあがっていく形を見れば、京都や奈良の修学旅行とかでよく土産物屋に置いてあるアレにしか見えない。最近は洞爺湖とかにも置いてあるというが。


「これは…木の、剣?」


「木刀だな。超圧縮木材そのものの木刀だ」


 略して超木刀と言ったところだ。


「なんでわざわざ剣の形に…棍棒にした方が威力が高いんじゃないかしら」


「それはホラ、見た目とか。あとこれでもたぶんかなり強いと思うぞ」


 地面から生えて剣先を天に向ける木刀を手にとってみると、異常なほどずっしりとした重みが腕に伝わってくる。

 思わず取り落としそうになり、慌てて両手で掴んでみるが、それでもバランスが悪くてたたらを踏んでしまう。


「うぬ…!」


「お父様!?」


 超木刀が地面から切り離された瞬間、圧倒的な重量が腕を壊さんばかりに襲ってくる。


 どうも圧縮に使用した大木1つ分の重量がそのまま木刀サイズに収まっているらしい。おかげで手首やら腕の筋肉やらが大変なことになっている。


「だ、大丈夫なの、それ?」


「ああ……いや腕がかなり大丈夫じゃないんだけど、大丈夫だ。そのうち使えるようになる」


 自慢じゃないが生命力だけには自信がある。傷もすぐに治るし、持てないのは今だけだ。しばらくこうして持ち上げようとしているだけで筋繊維がちぎれては復活し、新たなる筋肉が産声をあげていく。


「俺の筋肉はこれくらいで音を上げたりしないからな。すぐに慣れて振り回せるようになるさ」


「お父様がそれでいいならいいけど……」


 どうもアプリは納得いってないようだが、これくらいは許してもらおう。


 ということで武器を手に入れた俺は、それから2時間ほど超木刀を持って動けるようにトレーニングを続けた。


 もちろんルノールは先に用事を済ませており、いつまで経っても現れない俺に業を煮やして探しにくるのだった。



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