第4話~「異世界より」
歩いた
色々調べた
馬と人がいた
「おかえりなさいメンデルさん。・・・その子は?」
「町長も知らない子かい? 大平原にいたんだが、突然暴れだして、そのまま気絶しちゃったんだよ」
「そうかい……もしかすると、捨て子かね」
「捨て子、か」
「町の食料は人数分しかない。余分に与える分がないから、予定外の子は生まれても育てられない。報告がないから実態は分からないが、そういうこともあったのかもしれん」
「……だとすると、私が拾ってきてしまったのは問題だったかね」
「いや、それは仕方のないことだ。とはいえ、先ほども言った通り町には食料がない。メンデルさんも収穫はなかったんだろう?」
「ああ、ゼロだ。魔物も、獣もいない。餌がないから、どこかへ行ってしまったんだろう」
「……この町も終わりかね。生きていくだけの食料すら、尽きてしまいそうだ」
「その為に私が来たんだ。そんなことにはさせないようにするよ」
「申し訳ないが、頼みます。ここを離れて生きられないものたちの為に」
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おはようございます。
目を覚ますとそこは、知らない部屋でした。
知らない部屋だ!お部屋だ!
「ん、起きたかい? って、あんなところにいたのに元気だね」
おっと、さらに第一村人発見。いや、寝る前にも見ていたけど。
はじめまして。言葉は喋れないから頭を下げるだけですが。
「おや、これはご丁寧にどうも。って、いや、君、赤ちゃんだよね……?」
まずかったかな。どうにも不審な目で見られてる気がする。生後2週間?くらいの赤ちゃんが言葉を理解して自走して挨拶するのは異世界でもおかしかったか。
「……まあ、ここにいるのは私だけだ。伝わってるかは分からないけど。キミ、私の言ってることが分かるかい?」
いえす。何語かは分からないけど意味は通じてますよー。れっつヘッドバンキング…からの前転もどき! まだ激しい運動はできないわな。
「うん、伝わってるっぽいね。君、ただの捨て子じゃないね。もしかすると・・・いや」
うん? 何か思いあたる節でもあるのかな?
転生者です、なんて言ったらマズいだろうな。言おうにもまだ喋れないけど。
[身体操作]が補ってくれるのは体だけみたいだし。俺と身体操作は体だけの関係さ。なんかいやらしいな。
「なぜクネクネしているのかは分からないけど……
ねえ、この町に、君のお母さんかお父さんがいるか分かるかい?」
いや~、それはわかんないな。たぶん見ても分からないと思う。目を開ける前に捨てられてたっぽいし。
「首を振ってる……ということは分からないってことか。うーん、困ったね」
何やら考えてる模様。というわけでこっちは観察観察。見知らぬお方、ちょっと失礼しますねー。
『鑑定しています。しばらくお待ちください…………』
こういうのって、もっとこうスパッと鑑定できるもんじゃないのかな? まあ鑑定スキルもなしに鑑定できてるんだからワガママ言ったらバチ当たりそうだけど。おっ、きたきた。
『鑑定結果』
名称:不明
種族:人間
年齢:10代~20代または30代
性別:女性
……うん、分かってた。俺の鑑定さんは使えない子。
「ごめんね。この町は今、食料不足でね。君に分けるお乳も満足にないんだ」
なんてこった。いや、隠してるんじゃないのか? ほら、出してごらん。そこにいるのは分かってるんだぞ。
「こらこら、私はまだ未婚だしおっぱいは出ないよ」
ちっ、ダメか。まあほとんど分かってたけど。
「で、どうするか、だね。拾ってしまった以上、元の場所に返すというのはちょっと偲びない……けど、育てることも難しい。さて困った」
優しい人だなあ。こんな走る赤ちゃん人間は「平原にお帰り」って帰してもいいと思うんだけど。
困らせるのは嫌だな。おや? あんなところにゴハンがある。これこれ、こういうのでいいんですよ。
「うーん…。あっ!? ダメだそれは!」
モグモグ……うーん、初めてのお味……
ぐおおおおお!口の中が痛辛い!苦い!
「は、吐き出して!ペッてして!」
うおおお…痛苦いけどこれは俺のごはんだ! おのこしは、おのこしはいけませんぞお……
「ちょっと!なんで隠すの!?こら、口を開けなさい!」
もうちょっと…うぐぐぐ
「あっ!飲み込んだ!」
ぐおおお…ううう
『[毒耐性]を獲得しました』
ううう…ん?
[毒耐性]ってことは、今のは毒があったのか。痛みがふっと軽くなったし、調べられるかな?[鑑定]ゴー。
[鑑定]
名称:カドクソウ
種別:植物
効果:弱毒。食べると舌を麻痺させ、呼吸困難や痙攣などを引き起こす。
危ねえ!なんでこんなもんを飲み込もうと必死になってたんだ俺。
「だ、大丈夫かい!? ほら、早く吐き出すんだ!」
なにやら焦っておられる様子。ここは安心させねば。おなかをポンポンして無事アピール。
「あ……うん。もうなんだか、驚くのに疲れてしまいそうだけど……大丈夫、なんだね?」
おふこーす。マズいけどちょっと癖になるお味です。どれ、もうちょっと
「あっ、ダメダメ。それは研究用の資料なんだ。ここいらじゃもう草も生えないから、そんなのでも貴重でね」
研究用とな。
「毒のある植物を摂取してしまう町民も増えていてね。解毒薬を用意しないといけないんだけど、いかんせん毒も薬も少なくてね」
だとすると、食べちゃったのまずかったかな。返したいんだけど。反芻したのでもいいかな。ここは飲んだ小石を吐き出した練習の成果を見せる時か?
「なんか変なこと考えてそうな顔してるけど、別にいいからね。言った通り、薬草がないんだ。毒草だけあっても薬が作れないからね」
ふーむ。そういうものか。まあいいや。とりあえずおなかは膨れたし、眠くなってきたから、あとでまた話を聞かせてほしいな。
「あれ。おねむかな? そういうところは赤ちゃんらしいんだな」
夢見る赤子じゃいられない状態だったんで許してください。というわけで寝るよ。おやすみなさい。