46話~「うまくいくけどうまくいかないもの」
~あらすじ~
良さげな土で農業?体験
塩とり植物ゲット
帰るべ
夜が明け始める時間も歩き続けることで時間を短縮するつもりだった行程は思った以上にうまく進むことが出来た。
行きに少々見かけていた、盗賊と魔物の遭遇戦も都合が良かった。
本来のルートを外れて徘徊する魔物たちは俺たちに遭遇することはなかったし、盗賊たちも魔物たちが巡回している間は近づかないだろう。
ガラガラと荷車を走らせる音は目立つかもしれないが、こんな時の為に栽培スキルを使って用意しておいたものを出した。
ゴム質の木からとれた樹液を用いて作ったゴムタイヤは通常の荷車に比べて遙かに音が小さい。これならば魔物に気づかれる可能性を大きく減らせる。
そんな便利アイテムをなぜ今まで使わなかったのかという疑問もあるだろうが、これに関してはわかりやすい理由がある。
このゴムタイヤは磨耗が早い上、若干だが通常の木造タイヤよりもグリップが強い。そのせいで馬に負担をかけてしまうので、再会したてのブライアンでは足に負担をかけてしまう心配があったからだ。
だが今回は夜の行軍ということもあり、少々無理をしてもらおうと思って用意した。念のためにブライアンにはドーピング草で脚力及び体力を強化してもらっているので、今回くらいなら持つだろう。
このドーピング草だが、これもまたアクの強いアイテムなので活用できていない。
かつてルノールの強化にと作ってはみたものの、強化作用と味が完全に反比例しており、筋力・体力増強効果があがるほどに味が不味くなっていくのだ。
このまずさは草食系スキルを持つ俺だから耐えられるものの、半精霊とはいえ味覚は人間に準ずるルノールからしたら毒物とあまり違いがないらしい。
試しに煎じた薬をアプリに飲ませたところ、緑色に体色を変化させたアプリがぶくぶくと泡を吹きながら気絶して丸1日起きなかった。
そんなこともあり、改良が済むまでは仲間に食べさせるのはやめようと控えていたのだ。
そして今回のドーピング草だが、これは効果を永続ではなく一時的なものに変え、その代わりに味を控えめにしている。
例えるなら、ブロッコリーとほうれん草を青汁で煮た後に加えられた生ワカメといった感じだろうか。要するに三角コーナーの中身の絞り汁だ。
だがこれでも俺が持っている薬草の中では比較的まともな味をしている。
他の薬草に至っては、ゲギャグギャうるさいゴブリンが誤って口にしたと思ったら、全身から緑色の汁を噴出しつつ助けを求めるように天に手を伸ばして失神した。
ちなみに気絶したゴブリンはその後、寄ってきたスライムに捕食されたんだが、そのスライムも緑色になってビクンビクンしだした後、そいつは地面に吸い込まれるように消えていった。俺の主食のひとつでもある薬草なのに、すごい食べづらくさせてくれたものだ。
話は脱線したが、そういう理由で俺のドーピング薬草はあまり活用された試しがないので、今回のブライアンに投与したものも実験的要素がなくはない。
だが意外い平然と食べていたし、この味を基準に作ればルノールも食べられるかもしれない。心底いやがるだろうが。
そんなことを考えながら歩いていれば、森を抜けて街道にたどり着く。朝日はすでにのぼり、気持ちの良い冷たい風が吹いてくる。
街道に出さえすれば、あとは戻るだけだ。
大量の食糧を積んだ馬車を走らせて町へ向かう。
街道に出てみるとドーピングされたブライアンのパワーがよく分かった。
御者席で指示を出すが、ゴムタイヤで走る荷車の速度は通常の馬車の3割以上早いんじゃなかろうか。自転車と原付バイクくらいの差がありそうだ。
悠々と戻ってみれば、港町カティラの入り口は相変わらずの混雑ぶりだった。
とは言っても、今朝はちょっとだけ様子が違う。
「お?ガキの商人とは珍しいな。だが運がなかったな。港から船が出てないらしく、ろくなもんが手に入らないし、売れないぞ」
ゲームのNPCのように説明してくれる列待ちの人に感謝を返しておくと、同じように説明を受けた人たちが列から外れた連中と話をしては商品の交換みたいなことをしているのが分かる。
どうやら港町から船が出ないのを聞きつけた商人たちが、自分たちの商品を別の場所から来た人間に売って、その商人から自分たちが商品を買って、といった感じで小さな貿易を行っているようだ。
本来ならば外国に持ち込むことで高額となる商品なんかもあるんだろうが、長持ちしない商品だったら待つという選択はギャンブル要素が強すぎる。
おかげで、そこかしこで商売が成り立っている。
これは町の外だから、ということもあるだろう。関税の発生しない町の外で商売を終わらせてしまえば、高い税金を払って船の出ない町に入る必要もない。
そんな理由だから、俺の元にちょくちょくと商人たちがやってくる。
「やあ、ずいぶんとたくさんの食料品を扱っているようだね。私にそれを売ってくれる気はないかね?」
「これから町に入るのだろう?確かにこの町は食料品の需要があがっているが、それよりも高く売れる場所にこれから行く予定があってね。2割増で売ってくれないかね」
「先日外国から品を持ち込んできていてね。この美しい宝石や装飾品と、その食糧を交換しないかい?」
次々に現れる商人たちにお断りを告げていく。
ちなみに最後の商人が持ち出したのはガラス玉を中心に民芸品の玩具みたいな安物ばかりだった。俺とルノールが子供に見えるからといってもバカにしすぎだろう。もっとも俺は実年齢で言えば完全に子供だが。
ただ、人通りが多い上に入町の列に並んでいることもあり、極端な暴力に訴えるような連中がいないことだけはありがたかった。
盗賊だけじゃない、暴力に訴えて商品を奪おうとする商人も世の中にはいる。今回はラッキーだった。
そうして自分の番が来ると、町の衛兵からも食糧を売るならこの町じゃない方がいい、というアドバイスをいただく。
この町に住んでいる者なら食糧に困っていることは同じだろうに。
少しだけ心がほっこりした俺は、それでもこの町で食糧を売ることに意味があると答えると、衛兵は少しだけ嬉しそうな顔をして通してくれた。
さあ、ぽっちゃり系看板娘のいる宿に突撃だ。今夜はおいしいご飯を食べさせてもらおう。