43話~「宿の飯!」
~あらすじ~
gdgdドリフターズ
※予想です
飯より宿!
異世界系に限らず、物語の主人公というのはどいつもこいつもトラブル体質というか、被トラブル体質というか。様々なイベントにぶち当たるものだと思っていた。
かくいう俺もかなりの率で面倒なことに巻き込まれていたり、もういっそ自分がその中心にいるから周囲を巻き込んでいたりするものだが、今回もご多分に漏れず面倒が舞い込んできそうな予感がしていた。
「あ…ごめんなさいお客さん。うちの部屋はそれほど立派じゃないんだけど、代わりに食事は自慢なんだ。でも、今は食材が調達できなくてろくなものが提供できないから、安くしてあげられるよ」
だが思ったものとは違う感じでそれはやってきた。
「食材の調達ができない?ついさっき大型船が来てたようだし、他にも寄港している船はあるんだろう?近海での漁なら禁止されていないようだし」
この宿の看板娘だろう少女が疲れたような顔でそんなことを言うものだから、安くしてくれるというならそのまま受け取ればいいものをついつい声をかけてしまう。
そんな俺の失態に気づくこともなく、看板娘はこちらの顔をじっと見たあと、上から下まで俺たちを値踏みするように見つめる。
看板娘というが、正直言えばそんなにかわいくない。
ずんぐりむっくりというか、前世の日本でよく見た、どこにでもいるぽっちゃり系の少女だ。顔立ちもこれといって際立つところがなく、愛嬌があるといえば聞こえはいいが、見方によっては近所のおばちゃんのようにも見えてしまうだろう。ちょっと異世界クオリティ低めだ。
そんな少女は俺たちを眺めたあと、納得したように頷いた。
「お客さんたちはこの町に来たばっかりで、過去にここに来たこともほとんどないか、初めてだね?」
なにやら確信を得られるような何かがあるらしい。
ここで別に意地をはってもしょうがないので、そうだと頷くとさらにうんうんと納得していた。
「あのねお客さん、この町に来ている船は小型から中型ならともかく大型船は、全部どこかの商会が契約してるもんなのさ。私らが買えるのは、その空いたスペースとかに積まれたちょっとした外国の装飾品とかくらいだね。だから食料品なんかはそれほど入ってこないのさ」
「それでも中型船までは買い付けできるんだろう?」
「そうね。でもここだけの話、内地では今、食べ物の需要が特に高いのね。だからがめつい商人の連中はこんなところで安く売るくらいなら、さっさと馬車に積み込んで持っていっちゃうのさ」
なるほど。
言われてみれば、ここに入るときも馬車が大量に入口を埋めていた。あれは入るものだけではなく、出るものもあったからか。
俺がギルドで食材を売った時も驚かれたから、きっと本当に食料は不足しているんだろう。
俺が売った食料が少しは町に行き渡ればいいが、この町のギルドがどれくらい“真っ当”なのか分からないからどうしようもない。懐に入れたり横流し…という言い方は合っていないが、そのまま内地に戻すような事がなければいいと思うくらいしかできない。
「そんなわけなんで、食事は夜だけ。大したものは出せないよ。朝と昼は、悪いけど用意できないの。でも、もし材料が手に入るなら持ってきてくれれば作るわ」
「そいつは調理費をとるのか?」
「まさか!」
看板娘が「見損なうな」とばかりに首を振る。
「本来は食事で満足させるのがうちのモットーなんだ。調理したからって、材料を出してもらっておいてそんな事は言えないよ」
「そりゃ助かる。何を隠そう、俺たちは貧乏な冒険者なんでな」
「隠しきれてないけどね」
けらけらと笑う看板娘を見れば叱る気も失せる。ルノールはそもそもいつもにこにこしているが半分くらい話を聞いてないだけだから気にすることもないだろう。
「それじゃどうするんだい? お客さんお客さんって言ってるけど、うちに泊まってくれるんだろう?」
食事がなければ中の下か、せいぜい下の上くらいだろうと自分で言っておいて、おずおずと聞いてくるのだから大したものだ。可愛げは少ないが、憎まれるタチでもないのだろう。
「ああ、頼む。それと食材の件だが、野菜とかでもいいのか?」
「そんな簡単に手に入るもんじゃないけど、全然かまわないよ。むしろ助かるね」
「野菜料理がお勧めなのか?」
しかし少女は首を横に振って溜め息をついた。
「そんなはずないだろ。このあたりの土は作物がほとんど育たないんだ。新鮮な野菜なんてまず手に入らないし、あっても酢漬けか塩漬けがほとんどさ。だから山菜でもなんでも、野菜があればありがたいってだけさ」
そう聞いてみれば思い当たることがある。
「塩害か。土が塩を含んでるんだな」
ちょっと意識を向けてみると、土から塩っ気のようなものを感じられた。
どうも俺は<草食系>のおかげか、作物を育てるために必要なのか、土の状態がなんとなく分かるようだ。といっても意識を向けないとわからないし、土の声が聞こえるとかいったような超能力でもない。ただ何となくそう感じるだけだ。
「えんがい?塩? ああ、言われてみればこのあたりの土は潮がとれることもあるね。それが何か関係あるのかい?」
「いや、どうかな。俺は農夫じゃないしな」
<草食系>の恩恵がなければ何もわからない立場ではあまり迂闊なことも言えない。深く掘り下げられると説明の仕様がないのだ。
「とにかく、食材はなんとかしておくよ。俺もいちおうは冒険者だ、依頼は承った」
「お客さんも冒険者なの?てっきり、ひよっこ商人の卵あたりかと思ったよ」
「ひよっこ商人の卵って…どんだけ未熟児なんだよ」
「だってお客さん、顔色悪いしね。ずっと緑色してるよ」
「…元々だ」
そうして辿り着いた宿はお世辞にも綺麗や大きいとは言えないものだったが、野宿に比べれば上等に過ぎるといえる。時間もまだ昼になったばかりといったところだ、これから食材の“調達”に行ってもいいだろう。
「それじゃルノール、部屋の鍵をもらったら食材の調達に行くぞ」
「えぇ~?ごはんはぁ?」
「材料がない。あとでアプリに果物を出してもらえ」
アヒルのように口をとがらせて文句を言うルノールをばっさり切り捨て、ブライアンの引く馬車を外に向けた。
この辺りの土では育ちにくいかもしれないが、方法はあるだろう。うまくいけば安い宿代で食事もうまいものにありつけるかもしれない。
そう思えば多少の苦労もなんのそのだ。
俺は手持ちの種や根を確認しながら、これからの予定を考えることにした。