42話~「七つの海は未だ遠く」
~あらすじ~
この国はもうダメだ
そうだ、海を渡ろう!
海を渡れなくなってたよ…
大型船が接岸された埠頭にまでやってきたが、そこは想像以上に混沌としていた。
「おいどういうことだ!入ってこれたのに出られないってのは、どういう了見だ!」
「すみません…国からの命令で、近海漁以外の出港を禁止されておりまして…」
「それがどういうことだって聞いてるんだよ!」
「す、すみません、詳しくは我々も…」
喧々諤々といった様子で、渡航禁止を告げている者も船乗りたちも騒然としている。
それはそうだろう。
接岸されている船の中には50人以上が乗れるであろう大型船も見える。
そんな大きな船でやってきたのだから、食料や商品の積み込みが終わったら即座に船を出して戻らなければ商機を逸してしまうかもしれない。
だというのに、国からの命令ということで出港を禁止されているのだ。
てっきり「渡航禁止」であるかと思っていたが、外洋船の出航自体を禁止しているあたり、思った以上に喫緊で問題が起きているらしい。
もしかしたら船乗りの連中さえ武力として期待していたりするのだろうか?
どうも国側の目的が見えてこないのが不安を煽る。この国の噂はあまり良いものを聞かないが、王家の連中に関しては情報自体があまり聞こえてこないので余計に不安だ。
やがて喧噪が収まったかと思えば、どうやら船乗りギルドの連中が出てきたらしい。
彼ら船乗りギルドは他のギルドとは多少毛色が異なる。
想定されているのは近海での漁業が中心で、外洋進出に関してはギルドを通さずに国が管理している。
とはいっても国がそこまで管理しきれているかというとそんなことはない。
船乗りギルドは国から「委託」という形で遠洋航行への認可を出している。その為、国から否と言われてしまえばギルドで勝手に了承するわけにはいかなくなる。
どうもこれはギルドの暴走を防ぐとともに他国からの干渉を防ぐのが目的という話だが、実際のところは少しでも利権を確保しておきたいという王侯貴族の策略だろう。
今回はそれが完全に裏目に出ているというわけだ。
いや、裏目というのもおかしいか。
これが目的だったのだから。国の利益、財産である人材の流出防止と兵力の確保。さらに言えば食糧などの備蓄が外に出ることも防ぐ腹積もりだったのだろう。
ここまで来なくても聡い商人連中はよくわかっている。
これは戦争準備だと。
だからこそ、ここで文句を言っていても変わらないから、今後の袖の振り方を相談でもしに戻っているのだろう。
戦争は厄介だが、それによる特別な需要も発生する。扱っている商品によってはこの機会に大きく儲けることが出来る商人もいるだろう。
見ていれば、そういう連中は動きが素早い。
武器防具や鉄鉱石などを積んだ船を見て、我先にと確保を始める連中もいれば、さらなる需要を求めて近隣の鉱山などを調べている連中もいる。
峡谷の町ヴィレジアでも鉱石などは採れていたのだが、あれだけ町全体が壊されてしまっては復興に精一杯で採掘などそうそう出来ないだろう。
だが、ルノールが見てきたものはちょっと違ったらしい。
「冒険者ギルドにねぇ、依頼はあったのぉ。でもぉ…『ヴィレジアで鉄鉱石の採掘護衛』とかぁ、戻るような依頼ばっかりでぇ、それ以外はほとんどなかったのぉ」
「ヴィレジアで、か。国はよほど戦争に本腰を入れてるみたいだな」
俺はルノールが持ってきた依頼書の写しを見て溜息をついた。
「どういうことぉ?」
「ここを見てみろ、依頼主の印だ」
依頼主の名前に見覚えはないが、その横に押されているものには見覚えがある。
木を真っ二つに割いている剣の意匠は、この国の王家に関わる連中しか扱わない印だ。この印が「そういうもの」だと教えてくれた奴に追われた経験から、俺はこいつを見ると反吐が出そうになる。
「こんなもんを押してくるんだ、ヴィレジアやこの町カティラの人間じゃない。おそらくは戦争の為の資源が足りずに強硬採掘をしようっていうんだろうな。復興を後回しにしてでも」
まったく困った連中だ。
「あうぅ…それじゃあ、戻るわけにもいかないしぃ、受けられそうな依頼がないねぇ」
「ああ、そうだな…」
軽く答えてはいるが、かなりまずい。
なにせ俺たちは金がないのだ。
ここで稼ぐ手段が乏しい以上、ルノールがとってくる冒険者ギルドの依頼は生命線といってもいい。まあ生命線が切れても野宿と道草で生きていけるから死活問題かと言われるとそうでもないんだが。
「うーん…今はどうにもならなそうだしぃ、先に宿を決めちゃうぅ?おなかも減ってるけどぉ」
「飯より宿だ、寝床の確保は重要だぞ?昨夜も呼んでないお客が来てアプリが頑張ってくれたみたいだしな」
現在は袋の中で静かにしているアプリだが、きっと早く宿を見つけろとでも思いながらむくれているところだろう。ここで騒いだりしないのは実に理性的だが、その分ストレスをため込むのがアプリだ。場k初する前にガス抜きしてもらわないと俺たちの頭脳担当がスネてしまう。
「よし、それじゃあ宿を探しにいこうか。そこそこの宿だったら5泊くらい出来そうだから、それまでに金策を考えるということで」
先の見えない不安を抱えたまま、俺たちはとりあえずの短期目標として宿の発見を目的に歩き出した。