40話~「売りたいものも売れないこんな世の中じゃ」
大陸の北西に位置し、大型船の寄港も行える巨大な港町。
町の入り口にはたくさんの馬車が並び、他の大陸に運ぶ荷物や、運ばれてきた商品がうずたかく積まれては馬車で運ばれていく。
潮の香りと冷たい日差しが照りつけるこの町は、やや寒い気候が一年中続く。
その寒さは生鮮品の品質維持にも役立っていて、この町では様々な魚介類が保存され、それぞれの食堂や酒場に卸されては美味しい料理となって舌を喜ばせるのに一躍買っている。
世界各地から集まる商品、商人の数もさることながら、この町は冒険者の数も非常に多い。
海でしか採れない素材は薬品、錬金、装飾品などにも利用され、そういったものの中でも魔物を由来とする素材を求める依頼を受けようと、かなりの冒険者がこの町を根城にしている。
また海には巨大な怪物がおり、稀に商船なども被害に遭うと言われている。そういった魔物を倒すことで名声や一攫千金を狙おうという冒険者もいる。
冒険者も商人も船乗りもその家族も、海の上で暮らしているわけじゃない。
町にはたくさんの宿が軒を連ね、提供するサービスの違う宿屋たちが群雄割拠しているが、それでもやはり一番人気は安い宿だ。
冒険者なんて連中はそれほど宿にこだわらない。故に安宿は真っ先に埋まり、次にそこそこの食事が出るような宿が埋まる。
残った上質で高級な宿や、食事は出ないが小綺麗な高級宿なんかが単価の違いからか、そこそこに空き部屋を残している。
そんな港町カティラに着いた俺たちを待っていたのは、当日の宿代さえないという現実だった。
「…ルノール、まだ冒険者ギルドってやってたかな」
「…やってると思うけどぉ。今から依頼を受けてもぉ、夜にやるのはちょっと大変だよぅ?」
「だよなぁ…」
大量の馬車の受け付け待ちをした結果、なかなか捌かれない列を待っているうちに昼が過ぎ、夕方になった。
自分達の番が来たとき、俺の肌の色を見てギョッとした門番が槍を構えかけたり、荷台に積まれた小麦などの商品に対する税を支払う際に現物で出したりしていたらあっという間に夜になっていた。
さすがに宿代もないというのはたまらんと小麦を売りに行こうと商人ギルドに向かったが、この港町は商人ギルドは多忙に多忙を極めているので営業時間が厳格に定められていた。
着いてすぐに向かった商人ギルドの扉にはclosedの文字が書かれた板がかけてあり、「御用の方はまた明日お越しください」と護衛のような戦士に言われてしまった。
資金に難がありすぎる俺たちが財布の中身を確認すれば、かろうじて1人なら宿に一泊できるくらいの金額だった。
しかしこれはルノールが大反対した。どちらが野宿になっても納得してくれないだろう。
結局俺たちが港町カティラについて真っ先に向かったのは、あまり迷惑のかからなそうな町の隅の、キャンプが出来そうな場所だった。