表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
草食系異世界ライフ!  作者: 21号
異世界転生編
3/95

第2話~「草食系男子、異世界に立つ」

前回までのあらすじ

 生まれた!

 捨てられてた!

 誰もいない!


 生後2日目。

 0日目の翌日なんだけど、そもそも0日目って意味が分からなかったので今日が2日目ということにした。


 おなかがくうくう鳴りました。


 いや、もうシャレにならない。生まれてこの方なにも口にしてない。

 前世で餓死した俺だけど、まさか転生しても餓死か。せっかく貰ったチートが貰い損になるのはきつい。

 誰か、誰でもいい。誰か助けてくれ…




・・・無理だよな


 そう・・じゃない。



 結局のところ、前の人生でもそうだった。俺は考えが足りない。覚悟も足りない。ないない尽くしの男道…ふざけてる場合でもないな。


 助けてくれ?

 誰もいないのに。


 助けなんてこない。だから俺は死んだんだから。

 生きる為には自分で何とかしなきゃならないんだ。


「お…ぎゃぁ……」


 1日絶食しただけで痩せ細った手足を動かし、地面を這う。

 目的はあそこ、この平原でもっとも多いであろう緑色クローバーX。


 もがいて、

 動いて、

 這って。


 生まれてすぐの俺は、本来なら動けるはずもない。

 頭が重すぎる。手足が短く、小さすぎる。うまく動けない。

 立ち上がることなんてできないし、ハイハイもできない。

 必死に身をよじって、寝がえりを打つ。

 もがいて、もがいて、少しずつ動くしかない。

 あと少し・・・あと少し。


 よし、届いた!!


 頭を支点にゴロゴロと回転していた俺は、口元にまで近づいたソレを、おもむろに口に入れた。


 『平原に生えている、雑草のような葉っぱ』を。


「おぎゃ……ォェ…」


 口にした瞬間、なんとも言えないエグみというか、苦みというか、

 ともかく、美味くはない何かが口いっぱいに広がった。

 まだ歯も生えてないので、わずかな水分と栄養を取り込むだけ。もぐもぐと口を動かすと、染み出した唾液に溶けた青臭さが口の中に広がる。とてもじゃないが食った気はしない。

 それでも、口中の雑草をひたすら味わう。わずかにでも水分が補給できたと思って。栄養をとれたと思って。


 そんな風に雑草ガムを味わっていると、脳内に何かが響いたような気がした。


《申請スキル[草食系]が解放されました。

 [草食系]の解放に伴い、[捕食]が[草食系]に統合されます》


 ・・・ん?今、なんだか聞き捨てならない言葉が聞こえたような。


《[草食系]の解放に伴い、[賢者]が[草食系]に統合されます》


 んんんん!?

 ちょ、ちょっと待って!?

 まだ全く恩恵を受けていないであろうスキルが、聞き覚えのないスキルに統合されたとか聞こえたぞ!?

 どうなってんだ!自己診断!ちょっと働け!


自己診断結果──

 名称 :なし

 種族 :人間?

 年齢 :0歳

 状態 :栄養失調

 スキル:[草食系]

     [気配探索]

     [自己診断]



 ・・・えっ、どういうこと?

 俺が求めて、転生の際に貰ったスキルが全部ないんですけど。捕食と賢者はどこいった? あと種族、俺は人間だよ。人間って言ったじゃん。なんで疑問形なんだよ。

 状態が栄養失調なのは分かる。草しか食ってねえもん。草しか生えてないんだし仕方ないじゃん。

 しかし統合された、ってなんだ? どういうことなの? 教えて賢者先生。……返事なし!


 というか、そもそも[草食系]ってなんだ? どっから出てきたんだコレ?


……そういえば、転生するときに...


『俺はハーレム目的じゃないから!いわゆる草食系だから!向こうが来ちゃうのは仕方ないけど、こっちからガツガツいかないから!ホントだから!』


 ……あー、草食系……そんなこと、言ったような。もうちょっと穏便なやりとりだった気もするが記憶だし誤差だろう。


 しかしアレがスキルになったのか…意味わからん。


 しかし自己診断の結果、俺が栄養失調なのは分かった。スキルに草食系ってあるし、捕食も統合されてしまったんだ。こうなったらひたすら草を食おう。歯がなくて噛みきれないから、しばらくは一口で口にいれられて、ぷちっと取れる葉っぱオンリーだけど。いただきます。


 しかしあれだな、この平原は草が少ないな。草原だったら良かったかもしれないけど、ここじゃ食べる葉っぱを探すのも一苦労だ。まあ、視界は広いからすぐに見つかるっちゃ見つかるんだが。


 そうして、少しだけ力が湧いてきた体で寝返りを繰り返して草を探しては口内にダイレクトアタック。


 ゴロゴロ、モゾモゾ、ぱく

 ゴロゴロ、もぞもぞ、ぱく。うぇ、土ついてる

 ゴロゴロ、もぐもぐ、まだ口に中に残ってる


 どうせなら土も食えるようになってるはずと思ったけど、土の上の砂くらいしか口に入れられない上に飲み込むのに苦労するし草ほどの栄養もなさそうなので早々にやめた。砂食系じゃないしね。



 得体のしれない葉っぱをいくつか腹に入れたところで、ふと考える。

 草食系に捕食が統合されていたよな?

 それに[賢者]も統合されたとか言ってなかっただろうか。

 スキル欄には自己診断しかないけど、鑑定とかオールマイティーに使える有能スキル様の代名詞である賢者様が統合されたなら、なんだかんだで鑑定とか出来たりしないだろうか。

 とりあえずものは試しで、目の前にある茎の長いクローバーみたいな葉っぱをじっと見つめてみる。こいつは何じゃらホイ。


[植物診断]

ヒメカソウ

《ヒメカソウの葉。

 日照不足で栄養不足、開花していない。

 毒はないが苦味とえぐみが非常に強く食用には向いていない》



 おお! 成功した!

 これこれ、こういうのが欲しかったんだよ。

 でもひどい情報だなこれ。食用向きじゃないって。俺にとっちゃコイツは生命線だぞ。

 もうちょっと詳しく調べられないかな?



 はい、わかりませんでした。



 色々試した結果、どうも俺が食った(味わった)ものに関しては、名前やちょっとした特長なんかが脳内に浮かぶようにして理解できるらしい、と判明した。

 食べてない雑草やらを見ても何も分からなかったのに、一度は口にした砂粒や石ころは分かったのでたぶん間違いない。まあ『石』とか『砂』とか、客観的に見ても「だろうね」としか言いようのない鑑定結果だったことだけはお知らせしとこう。


 ただこれが賢者の知恵かと言われると、「食ってみりゃ分かる」的な知能の低さを感じてしまって切なくなる。賢者ェ……


 そういえば何か足りないと思ったけど、鑑定とか解析とか、そういう能力を得るの忘れてた。

 耐性スキルを取るのも忘れてたし、忘れすぎじゃなかろうか。

 でもポイント的にはほとんど使い切ってたから結局は無理だったろうけど。チート能力への道は険しいな。


 それからほぼ丸1日、ごろごろもぞもぞパクパクして、体を蝕む怠さのようなものが和らいできたところで再度自己診断を試みてみる。


自己診断結果──

 名称 :なし

 種族 :人間?

 年齢 :0歳

 状態 :普通

 スキル:[草食系]

     [気配探索]

     [自己診断]



 状態:栄養失調 が 状態:普通 に変わっている。

 ようやく生きるに足るだけの栄養を得られたか……


 しかしこれからが前途多難だ。まさか誕生直後からサバイバルとは。

 前世で読んだ小説でも転生してすぐに草を食ってた気がするが、赤さんの姿でそれを行うとは思わなかった。事実は小説よりも奇なりというか、もっとちゃんと読み込んでおけばよかったというか。

 ともかく峠は越えた。あとのことは明日考えよう。おやすみなさい。



------



 おはようございます。

 今日もゴロゴロぱくぱくのお時間です。

 昔読んだ小説では[捕食]で食ったものは賢者さんが異次元胃袋的なものにしまっていて吐き出したりできたと思い、返事のない草食系賢者さんに語りかけながら試してみたところ、見事に半分溶けかかった胃液まみれの緑色を吐き出す事に成功した。成功ったら成功した。

 ろくに身動きのとれない赤さんの状態で寝ゲロなんてしたもんだから吐瀉物のスメルが微妙に顔に張りついて気持ち悪い。が、自業自得なので仕方ない。


 そして今日も今日とてやることは食っちゃ寝。正確には食っちゃ寝返り。寝返りこそ我が人生。

 食べてすぐ寝たら牛になるそうだけど、食べたら寝るしかない蠢く赤ちゃん人間はどうすりゃいいの。

 自己診断結果で人間かどうか怪しいと判断されてるので、このまま行くと明日あたりに牛になってるかもしれないのがちょっと怖い。




 生後 ?日目。

 寝て起きての生活だが、空が薄暗いままで朝か夜かもわからないから経過日数が分からなくなってきた。ちなみにここまで生き物との遭遇率は驚きのゼロ。転生モノのテンプレ無視も甚だしい。メタい事を言えばそこらの転生モノだったらもう魔力のトレーニングでも始めてる頃だろう。ネグレクトの真っ最中な産まれたてベビーオンリーでは魔力どころかコミュニケーションも鍛えられない。そろそろモンスターでいいから出てきてくれないだろうか。


 ・・・実を言えば、俺はもう転生生活を楽しむのを諦めかけてきていた。

 だって考えてもみてくれ。生まれたばかりで捨てられたような状態で、そこから今に至るまで誰とも会わず、食べるものといったら道端に生えてるクローバー的な葉っぱだけ。幸運を呼ぶ4つ葉も探したけどそもそもこの葉っぱ16つ葉くらいあるし。


 母親の顔も匂いも分からず、それどころか人間の姿すら見たことがない。種族自体も人間かどうか怪しい。一応、視界に入る手足は人間っぽい……が、産まれたての赤さんの手足なんざパッと見で妖精の方のゴブリンと大して変わらん。


 いや、今ならゴブリンに会っても仲良くなりたいと思えるだろう。オレ、ゴブリン、ナカマ。

 ……ゴブリンとかいるのか?

 そもそもこの世界が剣と魔法の世界なのかも分からない。もしかしたら近未来で核戦争が起きた後の荒廃した世界なのかもしれないし。全裸の赤ちゃんが転がって葉っぱを食う世界ではあるが。これが普通かどうかはさておき。


 もぞもぞ ゴロゴロ ぱくぱく オエッ。


《[身体操作Lv1]を獲得しました》


 おっ、なんかスキルゲット。


 脳内インフォメーションと同時に、寝返りをうっていた体がふっと軽くなった。これなら意外と楽に立ち上がったりできるんじゃないだろうか?

 いきなり手に入れたスキルに期待を込め、いまだぷるぷるしている小さい両足に力を込めて立ち上がる。


「おぎゃっ!」


 ドテッ


 いてて。全身のバランスが悪すぎて、立ち上がった勢いで前のめりに倒れてしまった。でも、どうにか直立できた。


 さすがに生後すぐの、道ばたの草を口内で潰したダイレクト青汁オンリーで育つ赤ちゃんが自立式二足歩行赤さんに変わるのは難しいらしい。


 ちなみに転んだ時に気づいたが、俺の口にはもう歯が生えてきている。早いにも程があるが、必要に迫られた結果、人体が奇跡的な進化を遂げたのだろう。もう、そう思うことにしている。スゴいね、人体。


 それから目的地に向かいつつ、俺は[身体操作Lv1]のスキルを頼りに草を見つけてはカサカサと手足を動かして移動し、ムシャムシャしている。

 あまりの寂しさに脳内インフォメーションをくれた声に『おい賢者!聞いているんだろう!?』とか話しかけてみたものの一切返事はない。だいぶシャイな奴のようだ。


 脳内インフォメーションさんが報告してくれた[身体操作Lv1]の恩恵とたゆまない努力の結果、ぷるぷると震えながらも両足で立つことができるようになった俺は今までとは比べ物にならないほど行動範囲が広がったことだろう。

 明日からはさらに遠くへ。だれかに会えますように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ