25話~「金策はお早めに」
冒険者らしく冒険者ギルドに向かおうと思った桂斗だったが、アプリに「だからお父様は薬を作りなさい!」と止められてしまい、仕方なくルノール1人を見送ることになった。
「いや、アプリは知らないんだよ。冒険者ギルドというもののテンプレを。あんな所にルノール1人で行ったら、すぐに強面のチンピラ冒険者に『おい嬢ちゃん、ここは遊び場じゃねぇんだぜ?』って捕まって痛い目に遭わせたりしちゃうんだぞ?」
「遭わされるんじゃないならいいでしょ。それにルノールはお父様と違って温厚だし、ギルドでもそれなりに人気なのよ?お父様と違って」
言われてしまった。
ルノールをバルテノールの町から連れ出して5年、紆余曲折あって現在腰を落ち着けているこの町のギルドでは、ルノールはわりと人気だった。
様々な魔法が使え、材料さえあれば魔物ですら調理し、戦闘で傷ついた服を繕い、そのうえ温厚な美少女だ。人気が出ないわけがない。
「お父様だって噂にはなってたわよ。『不死身のケイト』とか『草った姿態』とか『グリーンゴブリン』とか」
「それ三分の二は悪口だよな?」
「でもゴブリンは最近言われなくなったんじゃない?ワイバーンに食べられた部分は肌色になってるんだし」
確かにワイバーンに啄まれた場所は再生した際に普通の肌色になっていて、それは喜んだものだ。あいつらお食べ方が汚くて、ところどころに緑色が残ってる事に気づくまでは。
「あー、どっかに全身の皮膚だけ綺麗に剥ぎ取ってくれるモンスターいないかな」
「そんな恐ろしいモンスターを、食われる為に求めるあたりがお父様のお父様たる所なのよね」
溜め息をつくアプリはなにか疲れるような事でもあったのだろうか?今度栄養剤でも作ってみるか。
それはそうと、俺はやるべきことをやらなければならない。
あちこちで積んで集めた草を養殖してはすりつぶして団子にし、なんてのを繰り返していた俺は<調合>と<錬金>なんてスキルを入手していた。
これは
<調合>が、異なる複数の物質を混ぜて効果を強化・変化させるスキルで、
<錬金>が、複数の物質や単一の物質から新しい物質を作り上げるスキル、というものだ。
例を言えば、今までのように草をすりつぶして混ぜるだけのものが<調合>スキルの範囲で、できた草団子から薬効だけを抽出したりするのが<錬金>だ。
こう効くと錬金の方が上位っぽく思えるがこれがわりと一長一短で、錬金では草団子が作れず草の一本一本から薬効を抽出しなければならない。そして錬金ではうまく草団子がまとまらないのだ。
なので、こまめに両方を鍛えていた俺は今ではかなりのスキルレベルがある。自分のステータスチェックだけは表示改変できるようなスキルを手に入れるまでは確認できないが。
前にも思ったが、俺のステータスは現在見れない。生命力の表示が長すぎるせいで視界を埋め尽くし、魔力も同様に多すぎてバグっている。なにせ数字の中にAだのFだのまであるのだ。
溢れる生命力の数字に脳がパンクしそうになるので自分を見れない、という自体は実にアホらしいだろう。
ため息をつきながら、安宿の一角に小さく積まれた布袋を小脇に抱え、町の外に向かう。
調合や錬金を行うと発生する臭いなどのことを考えれば、宿でそれを行うわけにはいかなかった。
「・・・ねえ、私置いてかれてない?」
宿に放置されたアプリに気づくのは、ギルドで依頼を受けたルノールが戻ってくる午後になるのだった。
短かったので、次回は午後21時にもう一本!