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草食系異世界ライフ!  作者: 21号
そして5年後編
26/95

24話~「俺とお金は仲が悪い」

俺たちの旅ははじまったばかりだぜ!


「・・・金がない」


 貧乏人御用達の安宿の一室、ぎしぎしと軋むベッドの上に座った俺は備え付けのテーブルの上にじゃりじゃりと小銭を並べる。

 くすんだ色の銅貨が十数枚に、銀貨が一枚。

 この安宿は貧乏人御用達だけあって、一部屋あたり銅貨20枚という格安の宿だ。もっとも、食事は一切つかず部屋代のみ、水も出ないという簡易設定なお宿は簡易寝台のみの最安値宿よりマシというレベルではあるのだが。


「私は節約しようねって言ったよぉ?聞いてくれなかったのはケイトだからねぇ?」


 頬を膨らませて拗ねているのは、俺の旅の相棒であるルノール。

 彼女には秘密があり、その秘密ゆえにかつて住んでいた町では肩身の狭い思いをしていた。その秘密以外にも、生来の魔力欠乏症による弱視というハンデを背負っていた為に、かなり苦労していたという。

 そんなルノールと出会い、彼女の魔力欠乏症を治療したのが俺、冒険者見習いのケイトだ。

 とある事件に彼女を巻き込んでしまった俺は、そこで彼女の秘密を知ることになってしまう。だが、それよりも衝撃的な事実として、俺は彼女を死なせてしまったことがある。


「あー、悪かったよ。でも、俺が作る薬なら売れるから大丈夫だと思ったんだってば」


 しかし彼女は生きている。


 俺はかつて地球に住んでいて、そこで死んでしまった。そして死を迎えた俺は転生し、生まれ変わることを仏のような天使に伝えられた。

 生前に積んでいた『功徳ポイント』とやらのおかげで、俺は転生の際に自ら選んだチート能力を持って生まれることができた。

 その時にいただいた能力は俺が思っていたほど便利で簡単な能力ではなかったのだが、それでもなんとかやりくりしてきた結果、彼女、ルノールの死を迎えた時に覚醒し、彼女を生かすことに成功した。


 そんな彼女のステータスを見てみれば分かる。



──────ステータスチェック

名前 :ルノール

種族 :人間(半精霊)

職業 :なし

年齢 :15歳(5歳)

性別 :女 (両性)

HP :488

MP :1270

スキル:料理 (Lv8)

    裁縫 (Lv2)

    水魔法(Lv7)

    風魔法(Lv7)

    土魔法(Lv5)

    火魔法(Lv3)

    光魔法(Lv4)

特殊 :緑の魔眼(-)


 ということである。

 

 まず彼女、ルノールという人間はかつて死亡し、その際に俺が<草食系>のスキルによって新たな生命として再生した。だが、その時に大量の魔力を込めすぎた結果、人類の限界を突破してしまったルノールの体は「ハーフスピリット」という上位存在に進化してしまい、人間ではなくなってしまった。

 もともとルノールは<緑の魔眼>という固有能力を持っていた。これは彼女が生来の弱視になった理由、魔力欠乏症と関係している。

 

 <緑の魔眼>というのは、自然界に宿る魔力、「マナ」を見ることの出来る瞳で、強い魔力をもって生まれるエルフなどに発現するものだった。

 彼女の先祖にエルフがいたのかは定かではないが、生まれてすぐにこの<緑の魔眼>に目覚めたルノールは能力を制御できず、魔眼に魔力をもっていかれてしまい、その結果として視力をほぼ失っていた。


 その魔力欠乏を解消した際に不完全なまま年月を経過していた<緑の魔眼>は機能を失っていたのだが、彼女の再生をきっかけに魔眼も再生、自然のマナを吸収した結果、彼女は人体の半分ほどを大自然のマナで補った半精霊と化したのだ。


「ケイトの作る薬は強すぎるんだよぅ。あんなのに値段をつけたら金貨が必要になるしぃ、安くしちゃったら、また変な人たちに目をつけられちゃうよぉ?」


 また、彼女は本来は「彼」だった。


 男性の体に女性の心を持ったルノールは幼い頃からそれを指摘され、非常に厳しい視線に晒されて生きてきた。それこそ前世の差別すらぬるいほどの。


 肉体の再生の際、彼女の持つ要素を固定して再生した結果、彼女は「彼」であり「彼女」である存在として再生した。これは完全に予想外で、復活したばかりの時は『ついている』ことを確認していたばかりに、ルノールは男だと思いこんでいた。

 それが間違いだと気づいたのは、彼女と旅に出て

2年ほどが経ってからだった。

 心が女性の彼女だからこそ一緒に入浴などはしたがらないし、偏見を持たないつもりの俺もそれをどうこういうつもりはなかった。

 だがある日、アプリが「ルノールが血を出して痛がってる!」と言うので慌ててしまい、彼女を脱がせてしまったことがあった。そしてその日、彼女が「どちらでもなく、どちらでもある」のだという事を知ったのだった。もちろんその後ルノールには属性魔法のフルコースを食らったのだが。


「やっぱり冒険者ギルドで依頼を受けるしかないかあ。採取依頼増えてるかな?」


 さらに彼女は再生してから各種魔法の才能にも目覚めた。これは半精霊という種族の特長でもあるのだが、その他にも要因がある。

 また生命力などのステータスに関しては品種改良を続けた薬草たちを与えることでだいぶ強くなった。もっとも彼女自身は「あれはとっっってもマズいから、一週間に一度くらいにしてほしい」という希望を受けたので、それほど大きくは増えていない。とはいえ一般人と比べたらとてつもない強さになってるのは間違いないのだが。


「うーん、どうしたらいいかなぁ。アプリちゃん、何かいい方法あるかなぁ?」


「効果を抑えた薬を作ればいいじゃない」


 ひょっこりと鞄から現れた美少女、ぴょんぴょんと赤い葉を生やしたリンゴの帽子を被り、ルノールが縫った赤いワンピースを着ている全長30cmほどの少女が呆れたように言う。


「そもそもお父様の作る薬が強すぎるのは前々から分かってたわよね?それを『どうせ作るなら良いモンだ』って魔改造してった結果、売るに売れないものばかり量産しちゃったって、自業自得じゃない?」


「ウッ…で、でもアプリ、俺の生命力を回復するような薬となるとそれなりの効果がだな?」


「お父様が薬を使わざるを得ない状況って?ワイバーン10体に啄まれて一晩中鳥葬みたいになってたのに、翌朝になったら毒まみれで死んでるワイバーンの群れの中で毒茶飲んでるお父様が薬に頼らなきゃいけない事態って?」


 そういえばそんなこともあった。

 その時はギルドの依頼で山奥に住むワイバーンの額に生えているという幻の飛竜草を求めて山に登ったんだったか。空を飛ぶ相手に成すすべもなく、毒を取り込んだ自分を食わせて毒殺という恐ろしい手段をとったんだった。

 あの時のルノールとアプリの怒りっぷりは大変だった。なにせ帰ってきた俺の服はほとんど残っておらず、全身は内臓すらボロボロになった状態で、誰が見てもアンデッドにしか見えない状態だった。

 それなのにしばらく寝てたら、はみだした内臓とか千切れた腕とかが生えて治ってきたんだから俺の生命力は尋常じゃない。最近はチェックしてないけど、迂闊にステータスチェックすると生命力の欄がバグったみたいに長々と続いて頭痛がしてくる。


「ま、まあ、そういうこともある、かもしれない、だろ?とにかく今は何かを売るか、仕事をするかしないとマズい。宿代はともかく食事代がないし、宿代も危ない。薬師ギルドに払う税金も銀貨10枚滞ってるって昨日言われたし、かなりマズい状況だ」


「えっ、薬師ギルドもぉ?そ、それはまずいよぅ」


 確かにマズい。

 俺のスキルで薬を作って大儲け!

 と考えて借金してまで薬師ギルドに登録し、薬の販売権の為にポイントを集めてきたのに全てが無駄になってしまう。


「ともかく、ルノールは冒険者ギルドで喫緊の仕事がないか確認してきなさい!お父様は基本の薬3種を作る!今夜のうちに各30本!」


「計90本!?」


「ちゃんと品質も揃えるのよ!前みたいに『2,3本くらい、千切れた腕が生えてくるくらい効果の高いやつが混じっちゃったけど、効く分にはまあいいか』ってのはナシ!必ず市販のものに合わせること!むしろちょっと弱くてもいいわ」


 アプリの言葉に俺はくらっとする。なにせ今の俺にとって、効果をあげるよりも「一定レベルにまで品質を下げる」方が難しいのだ。そこらへんで売ってる薬のレベルに下げようとすると、薬効が下がる系統の薬草を混ぜないといけなくなる。


「うぅ・・なんでこんなことに」


「ケイトが後先考えずにお金を使っちゃうからだよぅ」


「・・・面目ない」


 確かに、俺の散財がけっこう目立つのは知っていた。ルノールは裁縫に使う布や機材、料理のための機材くらいしか使わないし、アプリに至っては水を入れるジョウロくらいしか買ってない。

 俺はというと、色々と買っている。


 ショートソード。冒険者らしくと思って買ったあれは、ワイバーン戦で折れて使い物にならなくなった。

 スケイルアーマー。ガルリザードという平原を闊歩する鱗つきのワニの素材で作った頑丈な鎧。これもワイバーン戦でダメになった。

 大鍋(複数)。新型の薬を作成している際、毒が付着してしまって、次に作る薬が全て毒まじりになってしまうので処分することになった。

 宿代。当初、ちょっとくらい豪華においしいものも食べたいと思って泊まった宿がけっこうなお値段で、一泊銀貨5枚という高級宿だった。


 他にも色々あるが、俺ひとりでかなりの金額を浪費していた。


 前に立ち寄った大きな町で、俺の特製の薬を販売したところ、その効果がすごいと噂になって大繁盛したのだが、あまりの効果に驚いた冒険者たちの噂になり、貴族の耳に入り、専属で薬を作れと命令され、それを拒否したら命を狙われた。


 その時も異常な生命力を頼みに死んだふりを決行し、逃げまどう途中で刺されたところを野生の狼たちに襲われ、喰われるところをしばらく見せつけるという方法で死んだことにさせてもらった。一晩中俺をかじっていた狼は腹一杯になってもなくならない俺の体を不思議そうに見ていたが、確かに腹一杯食ったはずなのに平然と起きあがる俺を見て驚いて逃げていってしまった。


 それから町を離れ、その時の儲けを抱えてすでに町を出ていたルノールたちと合流したことで旅は続けられたが、俺たちの資金はそのときに稼いだ金がほとんどだった。


 だが遂に貯蓄がなくなりかけた俺たちは、ワイバーン戦以降ほとんど依頼を受けてこなかったギルドの依頼や、薬の販売に着手することに決めたのだった。




 ちなみにワイバーン戦後、飛竜草は毒に冒されていてクエスト失敗になったことは補足しておこう。


次回更新は明日12時頃を予定しています!

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