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草食系異世界ライフ!  作者: 21号
第一章『緑色編』
22/95

20話~「スライムが最弱などと」

ヒロイン回想

ヒロイン進行

ヒロイン回想終了


 ジャングル誕生事件が解決し、冬になって森の全てが枯れて平原に戻り、町にも平和が戻った。いや、町は元々平和だったんだけれど。

 3歳になった桂斗だったが、肉体的にはもう10歳程度のそれとほぼ変わらない体型にまで成長していた。筋肉がつき、緑色だった肌も濃緑色に変わり、最近は魔族ではないかという噂も出始めた。


 そんな桂斗だが、完全に正気を失ってジャングルの王者と化してから見ていなかったステータスを確認したのだが、それを見た瞬間に絶句してしまった。


【ケイト・クサカベ】

LV :3

種族 :人間でしょうか?

職業 :森の守護者

年齢 :3歳

生命力:1048575

魔力 :65535


【スキル】

草食系 (-)

身体操作(Lv5)→身体強化(Lv2)New!

診察鑑定(Lv1)→(Lv2)

毒耐性 (Lv4)→毒吸収(-)New!

乗馬  (Lv1)→(Lv0)

毒濃縮 (Lv1)→毒吸収に統合

気配探索(Lv1)→気配察知(Lv3)New!

魔力操作(Lv5)New!

野生の勘 New!

森林適応 New!

投擲   New!

跳躍   New!

登攀   New!



 OK、ツッコミはひとつずつにしよう。


 まず種族。

 なぜ疑問系なのか。色とかじゃなくなったのはいい。だが、なぜ鑑定した本人に聞いているのか。むしろこっちが聞きたい。俺は人間ですか?人間だよ。


 次に職業。

 森の守護者。これエルフとかにつけられるやつじゃないのか。あと、もう森ありません。元の平原に戻ってるし森にするつもりもないんだけど。森ない。


 生命力と魔力。

 どのくらい多いのか分からないほど多い。たぶん野生化している間も植物を食べ続けていたんだろうけど、何を食べてこうなったのか全然思い出せない。かろうじて思いだそうとすると頭痛がするのが、襲ってくる連中を相手に何かを守ろうとしていたことか。


 そしてスキル。めちゃくちゃ増えてる。


<身体強化> 身体能力を引き上げる。

<毒吸収>  蓄積限界がなくなり、毒を生命力に変換する。

<乗馬>   Lv0。馬の乗り方を忘れました。

<気配察知> セミアクティブ。周囲にある気配を察知できる他、能動的に気配を探ることも可能。

<魔力操作> 魔力を扱う能力。

<野生の勘> パッシブ。気配察知の派生スキルで、自身に向けられた気配を敏感に察知する。

<森林適応> 森の中でステータス上昇。

投擲とうてき> 投げたものに威力・命中率の補正がかかる。

<跳躍> ジャンプ能力の向上。着地時のダメージ軽減。

登攀とうはん> 高所へ登る能力向上。登りやすい場所が直感的に分かる。



 言いたいことは色々あるが、スキルが増えたことは素直に喜ぼう。喜んだ上で、「野生児だな!」と納得しておく。

 強くなったことには間違いなく、今なら街道の脇から顔を出したルノールの存在に2秒で気づくこともできる。町の外壁を登って中を覗くこともできるし、飛び降りて中に着地することもできる。やらないけど。


 あと、ブライアンがいなくなった。

 草の少なくなった平原を見限ったのかどうかは分からないが、ルノールから「盗賊やモンスターを蹴散らしながら街道の側の草を食べつつ進む馬を見かけた」と聞いたので、きっと元気にやっているのだろう。なぜかまた会う気がしてならないので、いなくなったと知っても焦ることはなかった。


 それと、フルーツフェアリーのアプリだ。

 彼女は今、ここにはいない。

 というのも、彼女は普段はブライアンの背にかけていた袋に入って寝ていたのだが、それをそのままにブライアンが旅だってしまったので、アプリともそれきりだ。だが、まあ、彼女なら元気にやっているだろう。意識のあった時間に彼女と話したことはほとんどないが、魔力操作を教わったりもしたし、彼女は自分より優秀だと桂斗は思っていたし。


 それから、ルノールの目はすっかり治った。

 魔力を込めて栽培したマギ草の効果はすさまじく、その苦さも物凄かった。

 大量の魔力を込めたマギ草が[特質マギ草]となったので、それを煎じた薬をルノールに与えたところ、顔色を緑にして倒れた。「お揃いだね」と言ったら泣かれたが、きっと照れていたに違いない。


 そうして、全てはのんびりと順風満帆な生活を送っていた。桂斗の生活レベルだけは相変わらずだったが、生まれてこの方ずっと草しか食べてこなかったので、他のものを食べるのに勇気が必要となり、そう考えていたら町に入るのがますます遠くなってしまったのだが。



「ケイトは働かないのぉ?」


 そんな尖ったナイフを胸に突き刺してきたのは、イノセントな瞳でまっすぐに桂斗を見つめるルノールだった。

 彼女の羊飼いの仕事ぶりを褒めていた桂斗にばっさりと言い切った彼女はにこにこと笑っていたので悪意はないのだろう。無邪気な刃は時に人を傷つけるのだ。


「べべべ、別に、働かないわけじゃななないし。いいいいつだってははははは働けるけど、今はまだ時期じゃないっていうかそれよりすべきことがあるといかブライアンもどこにいったかわからないしアプリも探さなきゃいけないしそれに」


「そうなの?でもブライアンがいなくなってからぁ、もう2ヶ月経つしぃ、アプリちゃんなら先月からぁ、塩の洞窟の方で見かけたって噂を聞いたよぉ?」


 ぐっ!

 こうして正論の刃で人の心を傷つけ…ん?


「えっ、アプリ見つかったの?」


 そんな話は初めて聞く。


「うん。町の南にある、塩の塊が採れる洞窟があるんだけどぉ、その手前に枯れかけたリンゴの木が生えててぇ、そこでリンゴの帽子を被ったような女の子を見かけたんだってぇ。「お父様のバカ」って泣いてたって」


 なんてこった。そんな近くにいたのか。もしかしてブライアンに振り落とされたのか?


「行ってみる?案内するよぉ」


「頼む!すぐに準備するから!」


 そう言って桂斗は使い古してボロボロになった布袋から、大きな葉っぱで作った腰ミノを装備する。


「いつも思うけどぉ、そろそろ服を買った方がいいと思うよぉ?」


「金がない」


 ルノールのアドバイスを切って捨てた桂斗は、濃緑の体に腰ミノだけのジャングルスタイルで歩き出した。

 もちろん街道に出た後、町の門番に「出たな寄生ゴブリン!今日こそ貴様の最期だ!」と追われたのは言うまでもない。あの門番、なぜか俺のことを追い回すんだよな。


 ルノールの案内で町の南に向かうこと2時間、小高い丘をくり抜いて作ったような洞窟の横に枯れた木がひとつだけ生えていた。


「アプリ、いるのか?いたら返事をしてくれ」


 桂斗が声をかけてみるが、返事がない。

 木に触れてみると、すでにこの木は死んでいた。


「アプリちゃん、どこ行ったのかなぁ?」


 ルノールは心配そうに辺りを見回していたが、<気配察知>を持っている桂斗には分かっていた。


「洞窟の中からアプリの気配がする…弱々しいけど、間違いない」


「えっ、洞窟の中?」


 死んでしまった木だが、この木がどこから魔力を吸い上げていたのかが分かる。洞窟の奥からかすかに魔力を感じる。きっとアプリは魔力が不足してきたので、より魔力の源泉に近い場所へと洞窟に向かったのだろう。


「ま、まずいよぅ?塩の洞窟は、普段はスライムが棲んでいるから、冒険者さんたちが退治してからじゃないと、入っちゃいけないんだよぅ?」


 かなり焦っている様子のルノールが言うには、定期的に間引かれるスライムだが、この時期はまだかなりの数が残っているらしい。しかもスライムは物理的なダメージに強く、炎の魔法が使える冒険者が数名で挑み、交代で焼き尽くすことで対処しているらしい。


 それを聞いた桂斗は、早くアプリを助けないと大変なことになるかもしれないと感じた。弱々しいアプリの気配とは裏腹に、蠢くような魔物の気配は洞窟全体を支配しているのだから。


「早く行かないとまずいかもしれない。ルノールは先に戻ってろ。俺がアプリを迎えに行く」


 そう言って後ろを振り向くと、そこにルノールはおらず、ハッと気づいたときには洞窟の入り口におそるおそる近づいているところだった。


「ルノール!自分で危険だと言ってたばかりだろ!」


 声をかけると、ルノールはキョトンとした顔をしたと思えば、そのまままた洞窟に向かおうとする。


「ケイトも行くんでしょぉ?じゃあ、私も行くよぉ。アプリちゃんには、リンゴを貰ったことあるからぁ」


「いいから帰れ。俺は、その、しぶといから大丈夫、だと思う。でもルノールはそうじゃない。危険だから…」


「じゃあ、ケイトが私を守ってねぇ?」


 意見は変わらないのか、そのまま洞窟へと入っていってしまう。

 こんなに頑固な性格だったのか。そんな風に思いながら、そういえばルノールのことをそれほどよく知っているわけでもなかったと桂斗は反省する。

 もっと人に関わらないと。


 ずっと人を避けてきた桂斗は、正直言えば他人が怖かった。初めて出会った人間のメンデルが必死に他人の為の研究をしていたのに、気づけば守っていた人間たちに追われて町をでることになった。

 次の町にたどり着くまでに2年もかかり、その間に人と会うことがなくて、ずっと考えてしまった。

 新しい町に着くなり追い立てられ、人と関わることを避けてしまった。

 何度もあったチャンスを全てダメにされた結果、桂斗は臆病になってしまっていたのかもしれない。


 だったら、今、近くにいる人から慣れていかないと。もっと接していかないと。そのために、彼女を守らないと。


「俺から離れるなよルノール。魔物が出たらすぐに逃げられるようにしとけよ」


 気配察知を使って周囲の気配を確認するが、洞窟の閉鎖空間で、相手はスライムということもあってか、どこか気配が分かりづらい。後ろにいるはずのルノールの気配すらもぼんやりしていて、まるで蠢いているかのように…


「ルノール!!」


 違和感に気づいた瞬間に振り向いた。


 ルノールは、天井から落ちてきた不定形のモンスターに取り込まれていた。

 音もたてず、ゲル状の中でゆっくりと溶かされている最中のルノールは、何かを訴えるようにこちらに手を伸ばそうとした格好のままだった。


「ルノォォォォォォォル!!!!」


 とっさに手を伸ばしてスライムを取り除こうとするが、不定形のそれはベチャベチャと飛び散りはするものの、取り込んだルノールから完全に離れることはない。

 ルノールの体を掴み、勢いよく引っ張ってスライムの中から取り出すことを試みるが、まとわりついたスライムごと動くだけで出てこない。


 必死に考える。


 スライムは炎が弱点らしいが、桂斗には炎が使えない。物理的な攻撃も通用しない。もともと戦闘に使えそうな能力がないのだ。

 唯一、モンスターを倒したときに使えたのが毒だったが、このスライムに対して使用したときにルノールに悪影響がでないとは言い切れない。もしもスライムが毒を取り込んでしまったら、そのままルノールにも毒が回るかもしれない。


 必死に考えている間もルノールの体は溶かされていく。


 焦る桂斗はとにかく考える。


 なにか手はないか。


 時間がない。ルノールの手がだらりと下がり、瞳が閉じる。時間がない。どうすればいい。


 次回更新は明日午前6時!


※この物語はダイスの結果で展開が変化します。

 作者はダイスが選ぶ運命ならばヒロインにすら容赦いたしません。

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