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草食系異世界ライフ!  作者: 21号
第一章『緑色編』
19/95

第17話~「品種改良と魔改造の違い」

毒物園閉鎖のお知らせ

品種改良

うまくいくかは運次第


 翌朝、植えておいたものが全てきちんと生えていたのですぐに鑑定を行う。


【解毒草(変異種)】 解毒+5 単体での薬効が強化され、臭みが増した。もはや兵器。


「これは…失敗かな」


【マギ草(効果強化種)】魔力増加・魔力回復効果。原種よりも強力。


 おお、これは良いものができた!今夜から増やしていかないと。


【カソウ(効果強化種)】体力増加・体力回復効果。より強力になった雑草。


 そういやこれ雑草なんだよな…『下層』の土地を抜けてから見なくなったけど。


【小麦(収穫量強化種)】より多くの実をつけるようになった。


 これもありがたい…解毒草以外は成功と言っていいだろう。解毒草は…桂斗以外では食べられそうにないので失敗かもしれないけれど。


「ただ…なあ?」


 ひとつ、もうひとつ植えたものがあるのだが、それに手を出すのをどうしても躊躇ってしまう。


「これ・・・リンゴだよなあ?」


 ただ[促成栽培]を使っただけのはずのリンゴだったはずだが、そこに生えていたのは、明らかに、


「草なんだよなあ…」


 草だった。


 赤々とした葉が伸び、土の中から実のようなものが見えている。


「…リンゴって木に生るはずだよなあ」


 もしかして俺の能力は[草食系]の名の通り、全部草として成長してしまうんだろうか?


 桂斗の胸に一抹の不安がよぎるが、正直なところサンプルが少なすぎてわからなかった。そもそも「木になるもの」を栽培したことがなかったが為に不安になっているところもあったのだ。草が一夜で生え揃うのは理解できても、一夜で樹木が育つというのは正直ありえない気がしていた。


 だからってリンゴが草にならなくても。


 真っ赤な葉が妙に不安を煽り、土の中からほんのり見えるリンゴの実らしきものはさらに不安にさせる。これリンゴ草とか名づけることになるのか。実じゃなくて球根じゃないのかこれ。


 しばらくの間それを眺めていたが、様子が変わるようでもない。危険ではない…と思う。


「ええい…ままよ!」


 手にした葉を一気に抜き去る!


 しかし、予想していたよりも力を必要とせず、あっさりと引き抜けてしまう。


「うわわわっ!」


 勢いよく後ろに転んでしまい、慌てて態勢を立て直そうとするが、かなりの勢いで転がってしまってうまくいかなかった。

 手に入れたばかりでほとんど忘れていたのだが、桂斗の[草食系]には現在[採取]が統合されており、こと採取に関しては大きな補正がかかっていた。その為、大きな球根が埋まっているように見えたリンゴであってもそれは例外なく、水に浮かべたピンポン玉のように簡単にとれてしまうものだった。


 ゴロゴロと転がる途中で手を離してしまったのか、起き上がろうとした桂斗の手元にはすでにリンゴは見当たらない。


「いてて……どっか投げちゃったかな」


 顔をあげてあたりを見渡すと、少し長く伸びた草むらの中から、明らかに自然のものとは思えないような赤い葉が見えた。


「・・・ありえないよなあ」


 思わず口をついて出てしまう。食欲の失せる葉を見た桂斗はそれを拾おうと近づく。


「ありえないわ!」


 急に声をかけられて、ビクッと背筋を伸ばしてしまう。


「だ、だれ?」


 相変わらずルノール以外との交流をほとんどしない桂斗は、人と話すことに慣れていない。おかげで、急に声をかけられたことに緊張して警戒態勢をとってしまった。


「人に名前を尋ねるときはまず自分から名乗りなさい!」


 きょろきょろと周囲を窺うが、声の主が見当たらない。隠れているのだろうか?気配探索を使ってみるが、周囲には気配がない。


「あなた、ちょっと非常識なんじゃない?早く名乗りなさいよ!」


 怒ってらっしゃる。これは逆らわない方がいいかもしれない。


「ケ、ケイト・クサカベ・・・あんたはだれだ!」


「ふん、ケイトね。私が誰かって?よく言うわね」


 その瞬間、桂斗は目を疑った。



 赤い葉が動き、草をかきわけて、出てきた。



「あんたが今、引っこ抜いたのに、誰だ!も、何もないでしょ!」


「はぁ!?おま…はぁ!?な、なんで…はぁ!!?」


「ハァハァうるさいわね!興奮してるんじゃないわよ!誰がどう見たって、かわいいリンゴでしょ!」


 それはリンゴ…じゃない。


 伸びていた葉はそのままに、実のように見えていたのは滑らかな髪のようになっており、その下には人の、少女の姿をしたものが生えている。


「・・・マンドラゴラ?」


「誰がマンドラゴラよ!あんな根っこだか草だかどっちが本体かわかんないものと一緒にしないでくれる?」


「いや、そっちもわかりにくいけど・・・」


「なんか言った?」


「いいえ」


 かなりキツい性格のリンゴ…というか少女は、つやつやした控えめの胸を張りながら桂斗の元に近づくと、その顔に向けて指をさして目線を向けながら


「まあ、いいわ。あんたのおかげで、私は生まれたみたいなものだし。ねえ、お父様」


「おとうさま!?」


 とてつもない爆弾を投げてきた。


「だってそうでしょ?お父様が植えてなかったら、私は普通のリンゴとして木になってただけだもの」


「やっぱり俺のせいなのか・・・」


 桂斗は肩を落として項垂れてしまう。なにしろ[草食系]の能力は相変わらず制御不能で、品種改良を狙った草とは違い、ただ植えただけのリンゴがまさかこんなことになるなんて思いもよらなかった。


「なにをガッカリしているのか分からないけど、せっかく生んでもらったのだから役に立たせてもらうわよ?ねえお父様、なにか私に頼みたいことはないの?」


 そう言いつつ腰をくねくねさせる姿は、サイズ自体が小さいものの、口調はキツいが優しげな瞳、鮮やかな赤い唇、首から鎖骨にかけてのラインは艶めかしいほど整っており、控えめではあるが形のいい胸と、そこから滑るように白い肌を伸ばした下腹部といい、まさに桂斗好みの美少女、といった感じで、思わず桂斗はまじまじと見つめてしまう。


「頼みたい…って言っても、そのサイズじゃなあ」


「私の大きさが問題ってなによ」


 おっと、いけない。2歳児が言うようなことじゃなかった。


「いや、物を持つにも、そのサイズじゃ難しいだろ?」


「お父様…女の子に荷物持ちをさせるつもりなの?」


「じゃあどうすりゃいいんだよ…というか、何ができるんだ?」


「ふふーん、よくぞ聞いてくれたわね!よーく見てなさい!」


 そう言って少女が地面に手を突き刺すと、その先から根のようなものが土を飛び出し、絡み合うようにして木になり、さらに少女の背よりも伸びたと思うと、そこから大きなリンゴが3つほど生っていった。


「おお、すごいすごい!俺の促成栽培よりすごいんじゃないか?」


 いくらチートスキルに統合されたとはいえ、促成栽培でも一晩はかかる。そう考えたら彼女の能力はとんでもない。

 だが、よく見れば少女は肩で息をするように疲れきっており、根が絡んで出来た幹に寄りかかるようにしていた。


「こ、こんなものね…。はぁ、はぁ」


「ずいぶんと息が荒くなってるけど、大丈夫なのか?」


「うん…正直きついかな。お父様がくれた魔力のほとんどが持っていかれちゃったわ」


「俺の魔力?」


 どういうことかと[診察鑑定]をしてみると---


【―】

LV :1

種族 :フルーツフェアリー

職業 :リンゴの精霊

年齢 :0歳

生命力:6

魔力 :2


【スキル】

生命生成(Lv3)

魔力変換(Lv1)



 ちょっと、神の御業みたいなスキルがあった。


「お、おいおい!生命生成ってなんだよ!」


【生命生成 Lv3】魔力を用いて単純生命を創造する。野菜、果実などを即座に成長させるが、大きく魔力を消費する。


 どうやら、彼女の体調を崩しているのはこのスキルを使ったからのようだ。

 万を超える魔力を持つ俺ですら、促成栽培のスキルで魔力が枯渇することもあるのだ。この小さな体では相当にきつかったに違いない。


「うん…お父様、ごめんなさいね。でも、力になれるところを見せたくて…」


「いや、こっちこそ悪かったよ。お前は役にたつ。えっと…」


 そういえば鑑定でも名前がなかったが、これは俺がつけなければいけないのだろう。

 桂斗は小さな少女の傍に手を添えてみる。その手に触れた少女の顔が少しだけ楽になったように見えた。


「お父様…少しだけ、魔力を分けてもらってもいいかしら?」


「好きにしろ。俺は魔力の操作とかはちんぷんかんぷんだから、勝手に持ってくといい」


「ありがとう…それじゃあ、ちょっとだけ、いただきます」


 小さな唇が、ちゅっと手に触れる。そこが一瞬だけ熱くなったような気がしたあと、少しだけ冷えていくように感じる。


「ああ…やっぱりお父様のはスゴいわ…大きくて…おいしい…」


「吸われてる感じが確かにするな。でも、こんなものなら別にいくらでもいいぞ」


 実際、ほとんど消耗していない。[魔力変換]のスキル効果なのか、少女の顔色はどんどん良くなっていくが、俺自体はもう吸われてるんだか触れてるだけなのか分からないくらいだ。


「お父様だから大丈夫かもしれないけど、こんなに吸ったら、きっと普通の人は枯れちゃうわよ?」


「じゃあ、吸うのは俺からだけにしろよ?」


「はーい」


 そうして吸われながら、ふと彼女が作り出したリンゴが目に入る。


「これ、食べても大丈夫なのか?」


 うっとりした表情で手に寄り添っていた少女は薄目を開けて、自分が生み出したリンゴをちらりと見る。


「大丈夫よ。土が果物向きじゃないからそうでもないと思うけど、それでもお父様の魔力で育ったようなものだもの。味は保証するわ」


 そう言われては食べるしかない。がぶりと噛みついて一気にいってみよう。


「おお…これは、うまいな」


 種をとる前のリンゴは酸っぱかったが、これは酸味が抑えられていて甘味もあり、ずいぶんと食べやすかった。もっとも、前世の日本で食べたリンゴに比べればだいぶ質が劣るものだとは思うけれども。


「そうでしょう?魔力が多いほど栄養を引き込む力が強くなるから、おいしくなるのよ。あとの細かい調整はお父様の[栽培]みたいなものがないと難しいけど、必要な栄養を集めて味を濃くするのなら私でも問題なくできるわ」


 これは本当に拾い物かもしれない。疲れもとれたようで、今は桂斗の指の隙間から顔を覗かせたりして遊んでいる。


「うん、本当にありがとう。これは、これからもお世話になるな」


「ええ、任せてちょうだい!それよりお父様、そろそろ私の名前をつけてくださる?けっこう期待して待ってたんだけど」


 言われてしまった。余計なことを考えるたびに先送りにしてしまっていた。


「お、おう。どんな名前がいいかな」


「可愛くて、力強いのがいいわ」


 両立しなさそうな条件がいきなり並んでしまった。


「うーん…リンコはどうだ?」


「・・・それ、リンゴから取ってるでしょ?悪いけど、私はリンゴそのものじゃないわよ?」


「そうか。それじゃあ…そうだな、スウィートはどうだ?」


「発音が難しそうね、もうちょっと呼びやすくしてもらえると嬉しいかな」


 お父様の命名にけっこうグイグイ突っ込んでくるが、表情は実に嬉しそうだ。


「それじゃアプリでどうだ?」


「いいじゃない!アプリ、かわいいわ!それに色々できそうで、力強い気がする!」


「うんうん。それじゃアプリ、コンゴトモヨロシク!」


「・・・なんでカタコトに聞こえる言い方なのかしら?」


 こうして、桂斗の旅のお供に一人の少女?が増えたのだった。

次回更新は明日の午後21時予定!


一日2回更新は書き方の関係できつくなってきました!

さっそく妥協してしまうこの根性なし!すみません!


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