第15話~「言いたいことも言えないこんな異世界じゃ」
チート生命力でヒャッハー
狼「ヒャッハー緑色の肉だー」
狼「毒だったよ…」
《レベルアップしました》
そんなアナウンスが耳に響いたのは、狼が死んで、診察鑑定で毒の蓄積量を確認して、ブライアンが寝ている寝床に戻って、マギ草をこっそりと植えてあたりのことだった。
「レベルアップ・・?そんなステータスあったか?」
元々、鑑定結果は表現がコロコロ変わったり表記が違ったり種族欄がおかしかったりと色々あったので、あまり信用はしていなかったが、久しぶりのアナウンスには少し驚いた。なにしろ鑑定スキルもそうだが、スキルを覚えてもアナウンスしないことがあったので、このメッセージを送っているのが神かシステムかは知らないが適当な奴だな、と思っていたから。
【ケイト・クサカベ】
LV :2
種族 :緑色
職業 :毒物
年齢 :2歳
生命力:32333
魔力 :5330
【スキル】
草食系 (-)
身体操作(Lv5)
診察鑑定(Lv1)
毒耐性 (Lv4)
乗馬 (Lv1)
毒濃縮 (Lv1)
気配探索(Lv1)
案の定、表記が変わっている。オマケに見覚えのないスキルが増え、なくなってたスキルが復活している。
職業がまたおかしくなっているが、もう何も言わない方がいいだろう。これはツッコミ待ちだろうからスルーした方がいい。早く人間になりたい。
少しだけ見やすくなったと思うが、スキルの(+5)などの表記がレベルになっているのはどういうことか。もうちょっと詳しく調べてみようか。
身体操作(Lv5)
『筋力・敏捷に補正。身体能力を扱う際、補正によりスペックを無駄なく使用できる。ただし本来の能力限界を超えることはない』
毒耐性 (Lv4)
『毒蓄積量に補正。蓄積中の毒によるダメージを無効化。蓄積限界を突破した場合、無効化できずにダメージを負うが、内部の毒を即座に浄化する。[猛毒][魔法毒]は無効化できない』
乗馬 (Lv1)
『馬に乗る際に補正。馬への負担を軽減』
「ああ、だから背中で寝ててもブライアンが何も言わなくなったのか」
気づいたら生えていた乗馬スキルのメリットを今になって知ったが、しょっちゅうブライアン任せで寝ていた桂斗にはありがたいスキルだったらしい。
毒濃縮 (Lv1)
『毒の蓄積量に大補正。蓄積した毒を体内で濃縮する。非常に多くの毒を蓄積可能になり、[猛毒]の蓄積も可能。血液に多く含まれ、このスキルの持ち主は献血に行ってはいけない』
なんかスキルに注意された。そもそもこの世界に献血とか輸血の概念があるんだろうか?文明レベルはありがちな中世ヨーロッパっぽいんだけど、今までに触れてきたものが文化の中心かどうかなんて分からないから何ともいえない。
気配探索(Lv1)
『アクティブスキル。使用すると周囲の気配を探る。範囲はレベルによる。探索対象への理解度により補正。忘れずに使用することで成長』
またスキルに注意されてる気がする。「忘れるな」的な説明が見えるので、おそらくここ2年すっかり忘れていたことを責められてるのだろう。だって最初のうちは探索してたけど一切何にも遭遇しなかったから忘れるさ、そりゃ。これからはこまめに使っておこう。
ふむ。これで少しは分かった。分かったけど、分からない。結局レベルってなんなんだろう。「ちから」「すばやさ」とかあれば分かるかもしれないけど、そういうステータスはなかった。鑑定が成長すれば分かるのかもしれないけど、鑑定を鑑定することができないから分からないんだよな。
そして生命力と魔力がものすごい勢いで減っていた。
生命力は狼に食われたから。
魔力はマギ草の栽培をしたからだろう。
傷に関しては、体力回復効果のあるカソウを大量に食べたことで傷が塞がってくれることを期待した。
ルノールとの出会い。
狼との出会い(遭遇戦)。
今日は色々あった。傷の痛みは治まったけど、今はもうゆっくりしたい。おやすみなさい・・・
ーーーーーー
翌朝、俺は新たに生えたマギ草のうち、半分を回収。もう半分のうちの、その半分を朝食に。最終的に1/4になったマギ草はブライアンによってムシャムシャされた。
目が覚めてすぐに気づいたのは、牙で抉られて骨に達していそうだった傷がもうすっかり治っていたことだ。若干の傷跡は見えるが、痛みもないし、産毛のないつるつるした皮膚がしっかりと張っている。
体の不調がないかしばらく調べた結果、特に問題がないと判断した桂斗は、それから久しぶりに鑑定をフル活用して暇つぶしをしていた。
最初こそ町に入る手段を探していた桂斗だったが、身寄りのない子供を受け入れてくれるのは孤児院とかくらいだろう。だとしても、食生活などは苦しいに違いない。
だったら食糧くらいは自給自足できるようにしておこう。
そんな考えで桂斗は自分用の植物畑を作ることに決めていた。土地の所有権とか何も考えていないあたりは桂斗らしかったが、1人と1頭での旅で、そのあたりの常識は完全に頭から抜けてしまっている。
「まずは主食…どこにでも生えるし増えるカソウだな。あとは味つけに小麦と、アクセントにカドクソウ・・・っと」
さらっと毒草を混ぜているが、桂斗にはあまり関係ない。
実は桂斗にとって小麦は「ステータス効果のない嗜好品」という扱いになっており、これまでまともに栽培した経験がなかった。味はうまいが、メリット的なものが見えないから率先して作ってはいなかったのだ。
しかしこの植物畑は、しばらく同じ場所で生活するにあたっては重要だ。一晩で促成栽培することもできるが、それをすると魔力が切れてしまうのか、夜の眠りが非常に寝苦しくなる。その上、朝には収穫して出発しなければならない。そうすると体力がおいつかないので、ブライアンの背で寝ることになる。
そんな悪循環のせいで、実はここ1年ほどの成長があまりなかったのだ。
もっとも、食べて、寝て、少し動いて、食べて、寝る。
そんな生活の中で[草食系]のスキルを使い続けていたせいか、実を言うと桂斗の成長は年齢とかけはなれた成長をしていた。
実年齢2歳。外見、肉体年齢は10歳近くにまで成長している。それについて桂斗は「子供の頃は成長が早いからなあ」なんて暢気に考えているが、あり得ない成長速度である。草しか食べないせいで、その体型は非常に細身で、かつ緑色だが。
全身を緑色に染めていた桂斗だが、ここで昨日までとはちょっとだけ違う点があった。
狼に噛みきられた後、再生した皮膚。この部分だけは、他の緑色の皮膚と違ってきれいな肌色をしている。もともと毒もなければ草の色素にも染まっていない普通の皮膚なら当たり前なのだが。
だが、それが自分の肩やふくらはぎの辺りだったため、桂斗自身はあまり気にも留めていなかった。
おかげで、外に出ていた住人が桂斗の姿を見かけたことで「まだらゴブリン」などというあだ名をつけられてしまった事を、数日後に再度やってきたルノールの口から知ることとなった。
桂斗が町の外に拠点を作ってから1ヶ月ほどは平和そのものだった。
そもそも桂斗が植物畑を築き、ブライアンが我が物顔で寝床にしていたのは、町の領主が放棄していた土地だった。井戸が掘れず、街道が邪魔で川からの水も引けず、農地に適さない土地。草だけは生え放題だったので、住人には無償で貸し出し、町の羊飼いなどが数日おきに家畜をつれてやってくる以外は、特になにもない場所だった。
そんな場所なので、鑑定を使っては珍しい植物がないかを探して歩き回り、ちょっと変わったものや見知らぬものを見つけたら植物畑に植えてみる。そんなことを繰り返しながら桂斗は町の外に隠れ住んでいた。
町の住人からは「まだらゴブリン」「緑の大魔王ジュニア」「葉っぱ人間」「寄生魔物」などと言われて認知されていたが、特に害がないので放っておかれた。
ルノールの弱視に関しては、マギ草をシチューにして食べたところ、多少だが改善したらしい。だが、それ以上にはならなかった。
そこで調べた結果、どうやらマギ草やカソウは熱を通すと、その成分のほとんどが抜け出てしまうことが分かった。
「生、生がいいんだけど。生じゃダメ?」
「生は…ちょっとイヤかなぁ」
という会話があり、交渉は決裂したものの、桂斗は考えを変えて「マギ草から魔力が抜けるなら、抜けても充分な魔力を秘めた草ならいいんじゃないか?」と簡単に考え、品種改良を始めた。
しかし植物の品種改良などやったことのない桂斗は、とりあえず魔力を大量に所持している自分の血肉でも栄養にしたらどうか?なんて黒魔術的なことを考え、ルノールに頼んで持ってきてもらった小さなナイフで己の肉を切り取ってマギ草の肥料にしてみた。
【マギ毒草】猛毒。大量の魔力と毒が葉に含まれ、大型の動物でも葉1枚で致死量に達する。
どうしてこうなった。いや、原因は分かる。
毒耐性、毒濃縮スキルの向上の為に、毒摂取を再開していた。だから、今の桂斗は職業:毒物に相応しい毒人間と化している。そんな桂斗の血肉を与えた植物に毒が芽生えない理由がない。
ということで、気づけば畑の大半の植物が毒に冒されていた。大失敗である。
新種の毒草たちを大量に回収し、処分方法を考えることになる桂斗だったが、それを食べれば自分がさらに毒物として完成していく。そのままにすれば、ルノールの連れる羊やブライアンがそれを食べてしまい、ヘタをしたら緑色の泡になって溶けてしまうかもしれない。
困った桂斗が下した結論は、
「とりあえず、明日考えよう・・」
回収するだけして、明日の自分に任せることだった。
お読みくださりありがとうございます!
次回更新は明日、午前6時予定です!