第14話~「生命力チート」
美少女羊飼いのルノール登場
おともだちになりました
鑑定したらチートが生えてた
名前:ケイト・クサカベ
種族:人間
職業:緑色
年齢:2歳
状態:成長中
生命力:65700
魔力:15330
スキル:草食系・身体操作+5・診察鑑定・毒耐性+4・乗馬
・・・は?
思わず自分のステータスを二度見してしまう。
これはどういうツッコミ待ちだろうか?
まず生命力。先ほど盗み見させてもらったルノールの生命力が9。そして俺の生命力が、65700。
65700。
ざっとルノールの7000倍以上。
いや、おかしいでしょう?
横でブライアンが眠たそうにしているが、それどころではなかった。見間違いかと思って、さらに3回ほど診察鑑定してみたが、結果は変わらない。
どうやら俺はついにチート能力を開花させたらしい・・・何の?
思い当たるのは[草食系]しかない。
おそらくは、今まで食べた草の中に体力増加効果があり、それを2年間に渡って食べ続けた結果なのだろう。そう考えると見つけるのが遅く、効果もわずかとされていたうえにメインにできずにブライアンに食われてもいたマギ草の効果であろう魔力も納得できる。
いやそれもおかしいんだけど、まだ納得できるからいい。それよりもひどいのがある。
職業:緑色
なんだよコレ。
もはや職じゃない。色だし。職業:緑色ってなんだ。この色をすることで何らかの需要と供給が発生しているのか。俺が緑色になることで誰かの何かを満たしているのか。
桂斗の心中は意味不明な扱いに憤りつつ、考えても仕方ないことは仕方ないとして、チート効果を得たと思しき生命力と魔力のことに思考をスイッチした。
なにしろ念願のチートである。
そもそもはチート能力で面白おかしく生きてやろうと転生したのに、得た能力はどこか微妙でパッとしなかった。予想外というか、予想以下というか。
そこに降って湧いた莫大な生命力。
いったいどれほどの事ができるのか。
いてもたってもいられなくなった桂斗は、[身体操作+5]の運動能力で寝床と化していた樹木の元を離れて魔物を探した。
この町の周りには魔物がいる。
ルノールの言い方と、自分が魔物扱いされたことからそれを確信していた桂斗は、ありあまる生命力で走りまわり、魔物を探した。
1時間ほども町から離れた場所まで来た桂斗は、すっかり忘れていた気配探索を行おうとして、それが出来ないことに気づいた。
「あれ・・・?気配が感じられないな」
実は桂斗のスキルのうち、2年間も誰にも会わなかったために気配探索のスキルは使用することもなくなっており、すっかりスキルとして機能しなくなっていた。
もっとも、意識してそれを使おうとすれば短い時間のリハビリで再使用が可能になるのだが、そもそも気配探索のスキルがあったことをすっぱり忘れていた桂斗はそれを「気配がないもの」と思ってしまった。
だから、後ろから近づいてくる気配にも気づくことはなかった。気配を感じられないのは、気配がないことだと思ってしまっていたから。
「なにもいないみたいだ…ッガァアアアア!!」
突如、桂斗の肩と足に激痛が走った。
なにごとかと確認しようとしたが、それぞれ足と肩を別々に振り回されてしまって目が回ってしまう。
そして、それを待っていたかのように、次は腕に激痛が走る。
「ぐああああああああああああ!!!」
それは、鋭い牙を持つ狼だった。ただの獣ではない、おそらくは魔物と化した狼。違いは分からないが、その胆力、身体操作スキルを高めた桂斗が成す術なく噛まれ、振り回されている状況。
冷静に観察しているつもりで、桂斗の頭の中はひたすら混乱していた。
(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!)
血飛沫が舞い、肉が裂かれている。牙が食い込む度に鋭く痛み、爪が肉を抉る度に焼けた金属をねじこまれているような熱さと痛みを感じる。
どうして?
まずは疑問。生命力65700。これは、普通の人間だったら想像もできないような途方もないものに違いない。なにしろ普通の人間代表みたいにしていたルノールの生命力が9だったのだ。熟練のベテラン戦士とかが多くても、きっと1000には届くまい。
だとしたらおかしいはずだ。こんなにも高い生命力が、こんなにも脆いはずがない。
ブチブチブチッ
(ぎゃああああああああああああ!!!)
牙が刺さった部分の肉を食いちぎられている!
皮膚が剥がされ、骨と肉が分離する痛みに気を失いそうになるが、さらに突き立てられる牙と爪の痛みに目を覚ます。
どうして?
そして思い当たる。
『生命力』
もしかしてこれは、RPGで言う『HP』なんじゃないだろうか?
だとしたら当然だ。
どんなにHPが高くたって、それは「死ににくい」だけだ。攻撃力も防御力も基準以下では、ダメージは与えられない。一方的にダメージを与えられ、HPがなくなるまで攻撃されるしかない。
なんということだ。
桂斗は勘違いしていた。
生命力65700。それを単純な強さだと、圧倒的な能力だと思っていた。だが、それは違った。これは、ただタフなだけだった。これを生かすには、まず相手にダメージを与えられなければいけない。鍛え上げ、HPがなくなる前に相手のHPを削りきれるようになっていなければいけなかった。
悔やんでももう遅い。
ただ、幸いなのはこれがHPだったことだ。
食われながらだと診察鑑定を使うほどの集中力を出せないが、それでも「まだまだ死なない」というのだけは分かる。HPだけとはいえ、生命力65700は伊達じゃない。そこらの狼が簡単に削りきれるようなものじゃないはずだ。
が…がああああああああああああ!!!
痛みに咆哮をあげながら、必死でチャンスを待つ。ここから離れ、逃げるチャンスを。
「グルルッル…グルッ!?」
その時、ふいに牙が抜かれ、狼の目が混乱に染まったように見えた。
機会がきた。
そう思った桂斗は、自らの肉を食い千切っていた狼の腹を蹴飛ばして距離をとることに成功した。あとはこのまま逃げられれば。
だが、様子がおかしい。
狼2匹がなぜか「ゲフッゲフッ」と嗚咽し、胃袋に納めたばかりの肉を吐き出そうとしている。だが、その努力も空しく、1匹が泡を吹いて倒れた。
その様子を見ていた桂斗は、何が起きたのかを必死で考えていた。そして、ふと原因に思い当たった。
「まさか…毒、か?」
慌ててステータスを詳細確認すると、そこには
毒蓄積量 2/50
となっている数字が見えた。
普段からギリギリの量を摂取し、耐性をあげようとしていたはずの毒がほとんど抜けてしまっている。そして桂斗の肉を食べて苦しむ狼。つまりこれは
「…俺の肉が毒まみれだったのに、それを食べたから毒に冒されたってことか…」
まさかの結果に、桂斗はため息をついてしゃがみ込んでしまった。
チート能力だと思ったものはただのHPだった。
敵を倒したのは体内に取り込んでいた毒だった。
まさかの自爆技。毒さえ取り込んでおいて、相手に自分を食わせることで相手を倒す。
異常なほどにHPが高い桂斗にだけ許される、あり得ない攻撃方法。
もはや桂斗は笑うしかなかった。
笑いながら、これからどうしようか、それを考えるのだった。
次回更新は18時になります。
次回もよろしくお願いいたします!