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草食系異世界ライフ!  作者: 21号
第一章『緑色編』
14/95

第13話~「ゴブリン?」

門番の混乱

緑色の恐怖

さよなら町


 町の門番らしき若者に追い返された桂斗だったが、実の所そんなに気にも留めていなかった。

(いきなり知らない子供が全裸で馬に乗ってきたら、そりゃ何事かと思うよなあ)

 そんな風に考えた桂斗は今の自分にできる誠意の方法を考えて唸っていた。


 そもそも異世界についてほとんど知識を得られずにここまできてしまった桂斗にとって、人間の町というのは未知の世界だった。

 考えてみるほどに経験が足りず、前世の記憶を頼ろうにも、「パスポート」「入国審査」「密入国」「強制労働」といった不穏な連想ゲームをしてしまい、無駄にぶるぶると震える羽目になったりした。


「なあブライアン、お前は何か知ってる?」

「ぶるるるん」


 馬が何を知っているというのか。いや、知っていたとして、どうやって伝えろというのか。

 期待はしていなかったが、2年の付き合いの中で桂斗は困ったときにブライアンに話しかける癖がついている。というのも話し相手がいないうえ、そのままずっと喋らないでいると声帯が弱ってしまうのか、しばらくすると声が出なくなってしまうのだ。

 おかげで馬を相手に会話する緑色の子供という、前世で考えても頭のおかしい魔族のような状態になってしまっているのだが桂斗は気づいていない。


 そうして夜になるまで考えていた桂斗だったが、いい考えは浮かびそうになかった。そもそも門番がいる以上は、何か入るための条件があるのだ。身分証明などあるはずもなく、たとえばお金が必要なのだとしても、ここに至るまで文明のひとつにも触れてこなかった桂斗にはどんな通貨が使われているのかも分からない。

 要するに追い返された時点でほとんど詰んでいるのだが、それくらいで諦めるという選択肢もない。なにせ人里、2年間探した人間なのだ。町に住めないにしても、せめて人と交流をしたい。

 そう考えた桂斗が思いついたのは、引っ越し祝いだった。


「そうだ、町に住めなくても別にいいんだ。俺が害のない存在だって分かってもらえればいいんだし」


 うんうんと頷いて自分の意見に納得する。

 ここが、誰の手も借りずに生まれてからのほとんどを1人(と1頭)で生き抜いてきた桂斗の異常性だったのだが、残念ながらそれを指摘できる人はここにはいない。

 思い立ったが吉日とばかりに、桂斗は引っ越し祝いの品を考えるが、すぐにまた考えが足りないことに気づく。

 そもそも桂斗には皮袋とブライアンの二つしか手札がない。皮袋には大量の種子が入っているが全て非常食であり貴重な日常の食料でもあるし、ブライアンは友達だから売るのは最後の手段だ。


 と、そんな風に悩んでいると、ブライアンがこちらを見ているのに気づく。普段はあまり桂斗のことを気にしないブライアンにしては珍しいな、と見ていると、どうもブライアンが見ているのが自分でないことに桂斗が思いいたったと同時に、背後に気配を感じる。


 思わずといった感じに振り向くと、そこには8歳くらいの少女が立ち、桂斗のことを見ていた。


 ・・・どれくらいだろうか。それほど時間が経っていないようにも、ずいぶんと長かったようにも感じる。じっと見つめる少女の瞳から目を外さずにしていた桂斗の前で、少女がなにやら手をぱたぱたと動かしている。


 どうも、少女は何かを言いたいようだった。だが、こちらが何も喋らないものだから、向こうも喋るタイミングを失ってしまい、口をぱくぱくさせるだけで、あとは身振り手振りで何かを伝えようとしていた。


 桂斗はというと、そんな少女の様子を見て「もしかして、ここは勝手に住み着いちゃマズい場所だったかな?」なんて考えていた。


 そうして、身振りぱたぱた手振りぶんぶん、瞳ぱちくりのやりとりを繰り返していた2人の後ろから、ぬっと現れたブライアンが「ぶるる」と息をかけてきた。


「うっ。臭いよブライアン。何食べてきたの? ネギ? ニラ? そんなのこっちで見かけたことないけど臭いはニラっぽい…「しゃべれるの?」ん?」


 ブライアンに話しかけてる途中で少女が割り込んでくる。


「ゴブリンさんは、しゃべれるの?」


 とてもイノセントに見つめてくる瞳を正面から受け止めた桂斗だが、その言葉にがくんと肩を落とす。


「喋れるけど…俺はゴブリンじゃないよ…たぶん」


 [診察鑑定]の結果はきちんと人間と出るようになったから、それは間違いない…はずだ。

 と思ったところで自分のスキルを思い出す。そうだ、俺には[診察鑑定]がある。これまで他の人間に会った試しがないから使ったことがなかったが、2年前にスキルでさえなかった頃にもメンデルに使用したことがあったし、試してもいいだろう。

 というわけで鑑定鑑定。


診察鑑定──

 名前:ルノール

 種族:人間

 職業:羊飼い

 年齢:8歳

 状態:魔力欠乏による弱視

生命力:9

 魔力:1

スキル:料理・調教


 おお、なんか色々分かるようになってる。ちょっとした感動だ。

 色々と気になるところはあるが、桂斗がまず気にしてしまったのは状態のところだった。


状態:魔力欠乏による弱視


 それを見てからもう一度少女の方を見ると、


「どうしたの?」


 薄緑色の瞳はわずかに焦点が合っておらず、おそらくは桂斗のことをゴブリンだと言ったのも、わざとではなく、そういう風にしか見えなかったのだろう。なにしろ緑色で子供の大きさしかないのだ。


「いや、なんでもないよ。それより君、目が見えないの?」


 桂斗の言葉にぴくんと反応した。おそらく気づかれるとは思わなかったのだろう。実際、ほとんど見えていないとは思えないほどしっかりとこちらの顔を見てきていたのだ。実際は、見えていなかったから正面からじっと見つめていたのだとしても。


「えへへ、そうなんだぁ。私ね、昔から目がよく見えなくてねぇ。だから、誰かに手を引いてもらわないと遠くにも行けなくてねぇ」


 急によく喋るようになった少女だが、どうも桂斗の話し方から敵意や悪意を感じなかったのだろう。

 実のところルノールは同年齢の友達というものがあまりいなかった。弱視というハンデは桂斗の前世では気にせずいられたかもしれないが、この異世界においては、治る見込みのない病気持ちと言えば蔑みの対象でしかない。

 だからこそ、初見で弱視を見破った桂斗に一瞬だけ緊張し、その直後に悪意も敵意も感じなかったから、心を許そうとしたのだ。


「そりゃあ大変だ。薬とかは飲まないのか?」

「目の病気に効く薬は高くてねぇ・・・おとうさんが、いつか買ってきてくれるようにお金を貯めてくれてるんだけどぉ・・・」


 この世界の医療技術がどんなものかは相変わらず分からない。メンデルのくれた知識では植物を使った回復薬のようなものは作られているらしいが、錬金術や薬術士といった職業の分野で、技術特化したメンデルからは「そういうものもある」程度の話を聞いたに過ぎない。そもそもその頃は会話もできない幼児だったのだから当然だが。


「そっか…じゃあ、これ、薬の代わりに飲んでみたら?」

「えっ?」


 桂斗が出したのは、慎重に株分けを繰り返していたマギ草だったが、それを見たルノールは困ったような顔をしただけで受け取ろうとはしなかった。


「どうした?これ、もしかしたら効くかもしれないぞ?」


 微量だが魔力を含んだ草だ。魔力欠乏というなら効果があるかもしれない。

 そう思った桂斗だが、思わぬ返事が返ってくることになる。


「・・あのね、草は、ちょっと、飲めないかなぁ」

「なん・・・だと・・」


 思わず手にもったマギ草を取り落としそうになる。

 そう、一般の人は、いきなり手渡された生の草を食べることはしないのだ。


 ごくごく当たり前で、前世の知識でも頭のおかしい人と分類される行動だったが、そもそも人との交流を一切してこなかったうえ、生まれてからこれまで草と水以外のものを口にしたことのない桂斗には、「生の草を食べる」ということを忌避するという感覚が一切なかったのだ。


「う・・・ごめんね?せっかくくれたのに。えっと・・・?」

「ああ、そうか。俺の名前は桂斗だよ。よろしくルノール」

「ケイト…あれ?私、自分の名前言ったっけぇ?」


 握手でもしようと思ったのか、伸ばしかけた手を引いて考えている。

 鑑定で勝手に調べた、というのはまずかったろうか。だが、よく分かってなさそうなルノールの反応を見た桂斗はそのままごまかして有耶無耶にしようと考える。


「いや、最初に会った瞬間にね。それより、どうしようか。この草は効きそうなんだけど、どうしたら食べれると思う? というか、町の人は草って食べる?」


 ブライアンと皮袋以外だと草くらいしか手元にない桂斗にとって、もしも町の人が草を嫌がるのであれば交渉の手段が一切なくなってしまうことになる。それはちょっと困る。


「草は…スープの具にしたりすることはある…かなぁ?種類によるけど、私はたまに使う…かなぁ?」


 よし、それならいけるかもしれない。


「それじゃあ、その時にでも使ってよ。せっかく出会ったんだし、何も渡せないのも残念だからさ」

「う…うん、わかったぁ。ありがとぅ…」


 よし、これで交渉の可能性が広がった。もしこれでルノールの弱視が治ったら、噂になって俺も町に入れてもらえるかもしれない。

 もっとも、妙な薬を持ってる子供だと言われて捕まるかもしれないけど。そこまで考えたところで、ルノールにマギ草を渡したのはまずかったかな?なんて思うが、せっかく声をかけてくれた少女だ。どうせなら健康になってもらいたい。そして話し相手になってもらいたい。


「ところでルノールは、なんでここに来たの?ここ、町の外だと思う


 そう尋ねてみれば、ルノールはちょっとだけ周囲を見回したあと、恥ずかしそうにはにかむ。


「門番のお兄さんがね、「緑色の魔物が町に来た」って言っててねぇ。でも、もう1人のお兄さんは魔物じゃなかったって言っててねぇ」

「魔物だとしたら、危なかったんじゃない?」


 しかしルノールは首を振ってこちらを見る。


「だって、寂しそうにしてたって、もう1人のお兄さんが言ってたからぁ。大丈夫かな、ってぇ」


 危機感がないのかもしれないけど、桂斗はちょっと嬉しいと思った。人恋しく、寂しかったのは間違いないのだから。


「うん、寂しかったから、ルノールが来てくれて嬉しかったよ」


 素直に返すと、やはりはにかんだ顔で笑う。目がよくないせいでぼんやりと視界全体を見つめるようなルノールの表情はどこか幻想的に、桂斗に限定せず、周囲にふりまくような魅力を含んでいた。


「あ、それでケイトぉ…まだ、しばらくここにいるのぉ?」

「ん? そうだなぁ・・・」

「もしいるなら、また来てもいいかなぁ?」


 出来れば町に入りたいのだけど、正直言えばルノールとの会話でかなり対人成分を補充できたと思っていた。ただ、


「ブライアンもこのあたりの草を気に入ったみたいだし、しばらく居ようかな、とは思ってるよ」


 と言っておいた。実際ブライアンは既に腰を据えて落ち着いており、この2年の経験上、こうなった時のブライアンはしばらく同じところで過ごすことを知っていた。


「そっか…そっかぁ。うん、分かったぁ!じゃあ、また来るね、ケイト」


 そう言って、ルノールは帰っていった。



「ルノールか…マギ草、ちゃんと食べてくれるといいけど」


 もっとも、効くかは分からない。だが、と思う。


「そうだ、アレが魔力増強とかに効くなら、自分に効いてるか調べられるかな?」


 そういえば、自己診断も最近はずっとやってなかった。鑑定に統合されてからは周囲の植物を鑑定するのがメインだったため、使っていないという感覚はなかったからだが、改めて調べてみる意味はあるかもしれない。


 さあ、[診察鑑定]だ──


診察鑑定──

 名前:ケイト・クサカベ

 種族:人間

 職業:緑色

 年齢:2歳

 状態:成長中

生命力:65700

 魔力:15330

スキル:草食系・身体操作+5・診察鑑定・毒耐性+4・乗馬



・・・・は?



次回は明日午前6時予定です!

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