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草食系異世界ライフ!  作者: 21号
序章『転生』
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プロローグ ~生前評価は40点

「草壁桂斗さん、あなたは死にました」


 昭和を感じさせるワーキングデスクの向こう側に誰か見える。

 仏教の法衣を着た天使のような格好の、胡散臭いカルト宗教の教祖みたいな男が開口一番に言ったのがそれだった。


「あー、やっぱ俺、死んでるんだ」


 唐突に言われた頭のおかしいセリフに、普通なら「何言ってるんだ」とか「ふざけるな」とか激昂するか疑問に思うかもしれない。

 だが俺は、どちらかと言えば納得していた。

 というか、あれだけ苦しかったんだ。死んでない方がおかしい。


「ええ。死因は低体温症及び栄養失調……つまり、凍死と餓死ですね。

 住む家を追われたあなたは、国有地にあった廃墟に段ボールハウスを作って生活していました。

 そこを大きな寒波が襲い、さらに豪雪で崩れた廃屋に閉じこめられてしまい、飢えから口にした雑草が消化不良を起こして栄養失調となり動くに動けず寒さに震え、凍死しつつ餓死しました。


・・・現代人の死因とは思えませんね」


 手にしているのは資料かなにかなのか、手元の紙を読みながら頭をぽりぽりと掻きつつ苦笑するその姿に多少は申し訳ない気もするが、放っといてくれ。自覚はある。


「それはともかく。

 死亡したあなたには、生前に成した善行を評価し、取得した功徳ポイントを用いて来世へ投資することができます」


「おおおぉ! マジか!」


 そう、こういうのでいいんだよ! こういうのがいいんだよ! 不遇の死を遂げた主人公がチート能力を得て、っていうのだよな。お金がかからない無料ラノベばっか読んでたけど。ご都合主義バンザイ!


「というわけで、こちらが草壁さんの功徳ポイントです。慎重にお選びくださいね」


 胡散臭い坊さん天使が手を振ると俺の前にタブレットのディスプレイみたいなものが出現する。

 すぐに電源が入り、旧世代のスーパーなファミリーのコンピュータ並に即座に起動したそれに文字が浮かびあがる。


 これはアレだな? このタブレットを使ってスキルとかをアレコレするアレだ。

 ちょっと語彙力の不足に己の無学を嘆きそうになるが、そこはまあ置いておこう。勉強は死んだらできない。

 そんなことよりまずはスキル、功徳ポイントとやらだ。さあ、俺のチートなポイントを見せてみろ!


功徳ポイント:40


 ふむ。40か。多いのか少ないのか分からないな。

 スキルひとつで1ポイントとかならそれなりに強くなれそうだ。

 そういえば来世?はどんな世界に行くのか。剣とファンタジーの世界で無双したいとは思うけど、まずはこのポイントで何が出来るかを知るのが大事だ。ここでスルースキルを活躍させる奴は別のチート転生者とかにフルボッコされるかませ犬のポジションに成り下がるのを俺はよく知っている。俺は賢いのだ。

 しかしタブレットの画面にはデカデカと功徳ポイント:40という文字が光るだけで他に何も指示がないな。下手にいじると怖いからとりあえず天使をチラ見してみよう。チラッチラッとね。


「カタログがございますから、そちらからお選びください」


 なんという至れり尽くせり。やはり生前の行いが良いと神様は見ているんだな。・・目の前の相手はあちこちの宗教に喧嘩を売ってるような珍妙な神仏天使で神様かどうかも判別しづらいが。


「神の定義なんて個人によって曖昧ですよ。特に日本人は無宗教を気取りながらクリスマスに正月にハロウィンにとやりたい放題なので、私たちの姿は当人の描くものに任せています。ようするに私は『あなただけの神』とも言える存在ですかね」


「俺だけの神とは畏れ多いな」


 全く。俺だけの神とか、役不足にもほどがあるでしょ。

 おっと、ここの役不足は正しい意味で使用しているからね。俺は賢いのです。決して誤用をツッコんでくる面倒臭いやつに散々言われたから上手く使いたかったわけじゃない。本当だぞ。


「構いませんよ。認識が私たちを定義する以上、それ以上でもそれ以下でもありません」


 ふむ。ならこの話はここで終わりでいいか。

 とにかくカタログを見ていかなければ。絶対に必要なのは[前世知識]だ! ついでに完全記憶能力とか欲しいな。魔法とかに限らず記憶力は大事だ。記憶術で学校の人気者って寸法よ。


 そして見かけ以上に大量の情報が記載されたカタログを読むのに想像以上の体力、精神力を使い果たしつつも、俺はついに望んでいたものを見つけた。


[転生前記憶引継]2000ポイント


 はぁぁぁぁ?

 なんですかこのポイント。俺の持ち点の50倍必要なんですけど。俺の功徳、低すぎ? えっ、まさか。


 イヤな予感がして、俺はカタログの内容を確認する。欲しい能力は決まっている。そう思ったらすぐに見つかった。


[捕食]3000ポイント

[賢者]4000ポイント


 えっ、なにこれ、無理ゲ?


「特殊なスキルというものは、来世へのボーナスとしては最上級のものですから」


「あの、40ポイントで取得できるものって何があります?」


「[薄毛回避・小]に[体臭減少・微]ですね」


 うおおおおおおい! イジメか!? イジメなのか!? 薄毛イジメて楽しいか!?


「本当は称号などがあると取得にボーナスがかかるのですが、残念ながら桂斗さんは【童貞】や【魔法使い】といった称号を失っておりますので…」


 なんてこった。若気の至りで致してしまった行為の報いがこんなところに。というか、俺が読んできたラノベはこういう理由でチート能力があんなに手軽に手に入ったのか。なんで童貞を守り抜かなかった俺よ。童貞も守れない奴が大切なものを守りきれるはずがないということか。クソッ、まさかプロの厄介になることも喪失だと判断されるとは。いやまあ素人童貞なんて語感のイメージだけで実際変わらないと思ってたんですけどねHAHAHA。


「それはまあ、あなたの人生ですから…おや?これは」

「なにか称号ありましたか? 【善人】とか【苦労人】とか!」

「いえ、称号は全くありませんが、どうやらあなたの功徳ポイントに、さらなる前世…前々世からの引継分があるようです」


 なんだって!?


「生前の前世、前々世のあなたは、得た功徳を使うことなく転生したようです。なので、そのときのポイントも合算しましょう」


 仏みたいな天使がそう言うと、俺が見ていたタブレットが急に光を発して表示を変えていっていた。


功徳ポイント:10040


 おおおお!


「おお、すばらしいですね。過去のあなたは聖人かなにかだったのでしょうか? 調べる気は特にありませんが。ともあれ、これで色々と選択肢が増えましたね。おめでとうございます」


 ありがとうございます! でももうちょっと俺に興味を持ってもいいのよ? それはともかくこれは嬉しい。欲しかったスキルをとってもまだ少し余る。


 さっそく俺は愛読しているラノベの記憶を掘り起こして[捕食]と[賢者]と[記憶引継]を取得した。


「まだ余っていますが、どうしますか?」


 使い切りたいのは山々だけど、どうしようか。

 前世の俺からのプレゼントみたいなものだし、使い切ってしまうと来世の俺が困るかもしれない。というか記憶を引き継いでいくから、また俺が来ることになるわけだし。

 それに来世の世界によってはすぐに出戻りする可能性もある。言っちゃ悪いが俺は俺の信用ならなさを信じているからな。


 となると、使い切るのはマズいか。功徳がどうやったら貯まるのかも分からないし。称号とやらを取っていけばいいということは分かるが、まさか来世で童貞を守ろうという強い意思を持てと言われても辛いものがある。というわけでこれはとっておこう。


「残りは来世に回します。あえて使い切ることもないでしょう」

「そうですか。かしこまりました」


 むふふ。これで俺もチート転生者の仲間入りだ。おっと、そういえば大事なことを忘れていた。


「あ、転生先は人間で! 人型でお願いします!」

「はあ。その心は?」


 ハーレムになっても、性別なしじゃ楽しみきれないだろう?とは言えない。俺は肉食系みたいにガツガツいかないんだ。


「肉食系ですか」

「違う!俺はどっちかといえば草食系だ!」

「なるほど…」


 こういう時、あまりがっついてしまうと他の転生者とかに敵視されて悪役としてやられてしまうのもよく読んだものだ。

 こうしてフラグを折っていくことで、幸せな転生ライフを謳歌できるようになる。


 気分はすっかり盛り上がっていた。俺は逸る気持ちを抑えながら残りの手続きを終了させ、来世への扉を開く。


「その先に行きますと、転生先です。それらの情報は教えられませんが、来世では凍死したり餓死したりすることのないようお祈りいたします」

「縁起でもないこと言わないでくれ。それに捕食能力を得た俺に餓死はないだろ。前世で間接的に俺を殺した雑草だって、今ならなんの問題もなく喰えるんだろ?」

「ええ。[捕食]スキルの補助があれば、あなたが生前に食べるべきか悩んでいた生の雑草でも食べることができます」


 別に死んだ後にまで雑草を食べたいとは思わないが、食えるか食えないかで食えるというのは大事だ。飢えで死んだ人間としてそこは大事、ほんと。

 そういえば転生用のドアの隣にちょうど観葉植物のようなものがあったので、それの葉を口に入れる。どう考えても食用じゃないが、捕食スキルのテストにはちょうど良さそうだと思った。ついでに土も口に入れると、苦いが、食べれないことはない。


「いくら食べれるようになるとはいえ、躊躇なくいきましたね」

「まずい! けど、こんなもんでも食えるようになったわけだし、これなら餓死はしないだろ。まあ、できれば旨いもの食って生きたいけどさ」


 マズいけど、もう一口。これは戒めだ、生前の俺の馬鹿さ加減で死ぬことになったから、こんなものをもう食わないでいいように。マズいからこそ、もう食いたくないと心に刻むのだ。本音を言えば死んでるのに苦いとかマズイとかいう感覚があるのが少し面白くなってたんだが。


「それじゃ、色々ありがとう! 死んだらまた会いに来るから!」


 ワークデスクのところで腰掛けたままの相手はそのままの格好で俺に手を振ってくれていた。そういうものだと俺が考えていたからだろうか。


 扉の向こうは溶けて混ざったような液体の世界で、その中で俺はゆっくりと溶け出すことに身を任せ、そのまま意識を手放した。


 さようならクソ喰らえの前世。


 これから俺は来世で幸せに生きる!

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