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ああ、こんな日常

「茶を淹れるのは案外難しいものだな」


部屋の惨劇に顔を引きつらせたカナンに開口一番、ハマナはそうの給った。

茶を淹れてくれとカップを出しだすハマナの横でエンはあらぬ方向へと視線を彷徨わせ、陽炎の将軍ことミツヤ・キースは申し訳無さそうに肩を落とす。


「なっん、ですか。これは……」


カナンは落ち着くために深呼吸をすると目を瞑り、しばし現実から逃避しようと試みたが無駄な足掻きだった。

瞼の奥にも何故か水浸しの床と、その上で何とも言えないハーモニィを奏でる茶葉の数々、焦げた鍋に割れたガラス容器の映像がしっかりと焼きついている。


ハマナは何と言った? 

茶を淹れるのは難しい? 


お茶を淹れるのにどこで鍋を使ったのだ。

焦げるほど! 


その前に何人分のお茶を用意しようとしたのだ。

部屋に足を踏み入れた瞬間に、足元でぴしゃんと水がはねた。

いやいや、それ以前に。


「どうして自分で淹れようなんて思ったんですか!」


ハマナはアリオスでも屈指の名門ローランド家の嫡男だ。

自分でお茶なんて淹れる生活はしていない。

彼が自らお茶を入れ始めれば何か不手際があったに違いないと多くの侍女たちが辞表を出すだろう。

そうだ。侍女に頼めば事足りることではないか。

そうしないまでも、厨房に行ってお湯をもらってくれば良いのに、何故か机の上で火をおこした跡がある。


「いやぁ、お前があんまりにも簡単にやっているものだから、出来るかと思ってな」


カナンは頭を抱えた。

ああ、簡単だ。

この部屋を片付ける苦労を思えばなんて簡単なことか。


「エンさん。貴方がいながら……」


「俺が来たのは火を熾した後だったぞ」


「……ミツヤ将軍」


「すまん。水をぶちまけたのは私だ。火事だと思って」


「ああ、もう」


侍女の見つかる前になんとか元通りにすることは出来るだろうか。

たぶん無理だ。

深い深いため息の向こうでハマナが笑った。


「……エンさん」


「…………何だ」


「今年から演習中に室内で正しくお茶を淹れる方法を教えましょう。ええ、そうしましょう。ぜひそうしましょう。そうするべきです。そうでしょう? ミツヤ将軍」


「…………そっそうだな。」


これほど怖ろしい満面の笑みをミツヤは今までに見たことがない。

勢いに押されて頷いてしまったがむさくるしい男共がみなしてお茶を淹れている姿を想像して、なんだかちょっぴり涙が浮いてきた。



我らが将軍ハマナ・ローランドは、時折思ってもみないことをやらかします。

カナンは言葉を詰まらせ、エンは目を反らし、ミツヤ将軍の胃はキリキリ。

キース家は一族全体でくそ真面目の苦労体質です。

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