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転生して異世界に行きたいんですが、あ、ステッキがいいです

作者: 鴉城カホリ


 最近、転生したら~という、現代で死亡後に異世界に赴いて、そこでなぜか前世の記憶――つまりは、今の世界の知識があってものの見事にのし上がるというものが流行っている。エンターティナーの端くれ、ええ、まぁ、売れない作家として物申したいのは、え、それでいいの? 転生ってことはいっぺんものすごくきつい思いをして――死ぬのがそんな簡単なら私だって今すぐにするわ! しかし、どうして異世界なんだ。あ、この今生きる現代が糞ってことですね、それには同意します。めっちゃ同意します。とりあえず、私の作品が売れない世界なんて知らない。締切が伸びない世界なんて糞だ。ちくしょうめ。

 けど、現代の知識が、異世界で通じると思うなよ! 私たちが普段読むファンタジー小説は私たちの常識に乗っ取って作られているのであって、本物の異世界に通じるものではないし、私たちの理解の及ぶものではないと、これでも作家の端くれとして想像力豊かに考えてしまう。

 しかし。

 そういう諸々のめんどくせぇとを脇に置いておいてですよ、異世界に転生。

 最近では、人間ではなくて、モンスターに転生するのもありありらしい。これがケモナーってやつか。

 けどだいたいにおいてのしあがるともてるんですよねー。もてる、イケメン限定。お前ら、わかってるよ、もてたいんだろう!

 これを現実逃避と言わなくていつ言うのか。

 あー、私は、転生したい。転生して、イケメンに囲まれたい。

 っても、人間にしろ、モンスターにしろ、生きているものに転生するっていうのはめんどくさい。死ぬのも一回経験したら上等だと思う。

 私は、

 イケメンの杖になりたい。

 杖!

 そう、杖!

 目の見えない儚い美少年、美形、美老人……ときにはその肉体を支え、地面を叩き、さらには彼らの目として役立つ。やべぇ、萌える。

 それに盲目の人でなくても、杖を使うということは、なにか肉体的なハンデがある人の可能性がある。足の不自由な素敵なイケメン。それを支える私(杖)とか、寄り添う図としては最高じゃないかなぁ。

 いや、健康な人でも全然かまわない。その場合、杖を使うってことは、それだけ品のある人ということになる。杖を使う紳士……それは、やっぱりスーツが似合う人じゃないかなぁ。もしくは地位のある人! そういう人が私(あくまでも杖)を地面に叩き付けて移動する。なんとも背徳的じゃないかなぁ。だって、元気なのにわざわざ杖を使うそのめんどくささといったら! さらにときには私(杖)は彼らの武器として戦うわけだ。へんなやつらがきたとき、スリとか、そういうのが襲い掛かってきたとき、私(杖)は剣として、盾として奴らと向き合うわけだ。それもイケメンのために!

 イケメンは私が守る。

 いいじゃないか、それ!

 そんな品のある、私(杖)を使うイケメンには必ず、それを支えるイケメンがいるはずだ! 古今東西そうだから! 侍になぜか忍がいるように、カーボーイはかならず犯罪者を追いかけるように、ホームズにはワトソンがいるみたいに! なぜかイケメンはイケメンを引き寄せるんだ。磁石か、てめぇらは!

私(杖)はそんなイケメンの傍にいて彼らを守る――イケメンがイケメンを守る道具として扱われるわけですね。最高じゃないかなぁ。思わず叫びそうになるのをぐっと抑え込む。

 その上、杖は道具として傍らにおかれるわけですね

 そうよ

 ベッドの傍らに!

 それもベッドの斜め横ぐらいの微妙な角度に! なぜって、それが杖のポジションだから! 杖を使うイケメンはそこらへんも心得ているはず!

 私(杖)は、そう、一日、地面を叩き、イケメンの手のなかで弄ばれ、ときには撫でられ、重みをかけられて、さらにはひどいときには敵と戦う武器として扱われてしまう。くたくたに疲れて家に帰れば、ベッドの傍ら(斜め四十五度!)に置かれて、イケメンが引き寄せるパワーによってやってきたイケメンとの秘密を見てしまうわけだ。

 ははは、なぜ私がわざわざ杖にしたと思う! 本当はイケメンの靴になって踏まれたい、そして使えなくなったら手ひどく捨てれたいという気持ちをおさえて杖にしたと思う? 靴だとどうがんばってもベッドの上のことは見えないから! けど、杖なら斜め四十五度の位置のおかげでしっかりとそれらが見えるんですらね! 最高じゃないか!

 それにね、私がもし、もしですよ、イケメンとして転生したらですよ? この前世の気持ちのまま転生したとして、それってBLになるのか? ほら、なんかご都合主義的に実は女になれまーすとか、そんな糞面白くもない展開はごめんこうる。それに心が女の私ではBLになるのか? ならねぇだろう、私が求めているのは純粋なるBL! BLを愛するがゆえ我不要! 心得ております!

 もちろん、イケメンの体の一部に転生ということも考えた。モンスターにだって転生できるんだから、体の一部とかありじゃないかなぁ? 最近は擬人化というものがはやっていて、細胞だって人のように思考してふるまっていることもあるんだから、転生先がイケメンの細胞の一部でしたなんて儚くも、おいしい。私だったら間違いなく、イケメンのピーの部分で、イケメンパワーによって引き寄せられたイケメンたちをおいしくいただき、啼かせたい。もちろん、未使用というのも受け入れましょう。そのときだってイケメンの一部として楽しみ方はあるわけだし、おっと、これ以上は下品かしら。

 あー、転生してぇ

 そんなことを考えていると携帯電話が鳴った。

「はーい」

「原稿しあがりましたかー?」

「すいません。今、脳内で、転生してイケメンの杖になってました」

「そういうのは現実逃避っていうんですよ、さっさと仕上げてください」

 ああ、この世界は無情。

本当に転生してイケメンの杖になりたい。



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― 新着の感想 ―
[一言] 先日感想をいただいた者です。 私にいただいた感想から、カホリ様の作品リストへ入って、並ぶ作品名たちをちらっと見たら、この作品に目が行きました。 勢いあふれる冒頭から、現実味のあるラストへ…
[一言] ニヤニヤしながら読みました。面白かったです( ´ ▽ ` )ノ 杖とは考えたこともありませんでしたね!!確かに絶妙な距離感で、イケメンを支えイケメンと共に戦いイケメンの安らぎを見守る……絶好…
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