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第21話 Neo Galaxy Plan(その1)


 ここ二年で、東北地方における、サン&ムーンのコンビニ事業は軌道に乗った。

 M&Aで買収した店舗はもちろん新規の店舗の売り上げも上々で、まさに順風満帆――それは、責任者である今岡さんの手腕が十二分に発揮された結果だった。


 それと並行して進めてきたのが、麻耶がプロジェクト・チーム(PT)のメンバーになっている、次世代型コンビニ出店計画「Neo Galaxy Plan」――こちらは、今岡さんがプロジェクト・リーダーを務め、五人のメンバーも今岡さん自らが選んだ。とにかく凄い熱の入れようで、今岡さんはどんな業務よりNGPの活動を優先させた。


 部長としての業務を代行してもらうこともかなりあって、しょっちゅう電話でスケジュールを調整していた。急にNGPの業務が入ったことで重要な会議をドタキャンすることもあった。携帯を片手に平謝りする今岡さんの姿を見たのは一度や二度じゃない――不謹慎かもしれないけれど、悪戯いたずらをした子供が怒られているみたいで、そのときの今岡さんはとても可愛らしく見えたの。

 でも、NGPの戦略会議に参加したり現地調査に出掛けたりしたときの今岡さんはとても生き生きしていて、本当にうれしそうだった。以前、今岡さんがNGPのことを「ライフワークとして取り組む」なんて言っていたけれど、まさにその通りだった。


 それから、メンバーについてだけれど――麻耶と今岡さん以外の四人は「よくぞこれだけ凄い人を集めてきた」って感じの人ばかり。「凄い」っていうのは、「優秀」って言うよりも「型破り」っていう感じ。どの人も一癖も二癖もあって、自分の信念や哲学を持った一匹狼。みんな、今岡さんが三友物産みつともぶっさんにいたとき、いっしょに仕事をした仲で、泥臭くて危なっかしいことを手掛けてきたらしい。あえてそこには触れなかったけれど。


 NGPの活動は、一昨年おととしの八月から今年の三月まで一年七ヶ月行われた。

 第一から第四までの四つの段階フェーズに分けて検討を進め、フェーズが終了するたびに会社の取締役会に報告した。そして、準備作業に入れるものは、予算を付けて順次展開していった――三月末の最終報告をもってNGPの活動は実質終了し、現在は、計画の具体化に向けて、それぞれの担当部署が本格的な作業を行っている。


 今思えば、NGPの活動は、麻耶にとってとても有意義でとても楽しいものだった。だって、入社して初めて「お仕事をした」って気持ちになったんだもの――型破りな四人と《《超型破りな》》一人といっしょにね。


★★


「じゃあ、始めるか――記念すべき、Neo Galaxy Planの第一回戦略会議を」


 今岡さんはコーヒーの入ったカップを静かに置くと、楕円形のテーブルを囲む麻耶たち五人の顔を見ながらうれしそうに言ったの。



 お盆の繁忙期が終わって一息ついた、八月のある日、麻耶たちNGPのメンバーが初めて顔を揃えた。場所はサン&ムーン仙台支店の今岡さんの部屋――正確に言えば、部長室の一角にある、パーテーションで仕切られた会議スペース。

 明るい木目調のテーブルの周りにアームレストが付いた、オレンジ色のミーティングチェアが六脚。テーブルの上には無線LANが使えるノートパソコンが六台。白っぽいパーテーションにはコンビニの建物や商品の写真が何枚か飾られている。

 八畳ぐらいのこじんまりとした空間ではあるけれど、六人が打ち合わせをするには十分な広さがあって、圧迫感や閉塞感は全く感じられない。前の会社で社長室として使っていたときにはなかったスペースで、今岡さんが来てから急いで作らせたの――NGPのためにね。


 メンバーの中で、サン&ムーンの社員は今岡さんと麻耶だけ――でも、計画を進めていくうえで、会社の重要機密を含む内容を社外の者に開示するのは問題があるから、お盆に入った頃、四人を臨時社員として採用したの。

 四人の就業形態は特殊で、普段は在宅勤務。業務は電話やメールで行い、週一回の戦略会議の日と今岡さんから指示があったときには出勤する。今岡さんがサン&ムーンへの入社をオファーしたとき、四人から勤務形態について同じ要望が出たみたい。

 今岡さんは「大した話じゃない」と二つ返事でOKしたけれど、麻耶に言わせれば、そんな要求を「当然のこと」と思っている時点で「一筋縄ではいかない人たち」――ちなみに、四人の勤怠管理や連絡調整を行うのは麻耶のお仕事。



「――六人がそろうのは今回が初めてだから、まずは、簡単に自己紹介をしよう。名前と年齢、それに仕事や得意分野を、それぞれ一、二分で話してくれ」


 戦略会議を始めるに当たって、今岡さんからそんな一言があった。

 一、二分ではその人の《《人となり》》はなかなか伝わらないから、麻耶は形式的な挨拶みたいなものと思っていた――でも、予想は大ハズレ。短い時間にもかかわらず、麻耶は四人から強烈なインパクトを受けたの。


 先陣を切ったのは、責任者である今岡さん。ただ、今岡さんのことは全員がよく知っているから、自己紹介と言うよりNGPを進めていくうえでの「お願い」。


「これからNGPの活動の中で僕のことを『部長』とは呼ばないように。役職をつけることでお互いの間に見えない壁ができて、自由で活発な議論が阻害されるからね。僕のことは『さん』とか『くん』を付けて呼んで欲しい。もちろんニックネームで呼んでもらっても構わない――これから『部長』と言ったら、その都度、百円の罰金を納めてもらう」


 今岡さんは不敵な笑みを浮かべると、部屋の隅に視線を送る――そこには、電話台があって、その下段に郵便ポストの形をした貯金箱がちょこんと置かれていた。

 それを目にした瞬間、麻耶は心の中で噴き出したの――理由は二つ。一つは、そんな古風な貯金箱がいまだに存在していたから。もう一つは、今岡さんのことを「くん付け」で呼ぶイメージが湧かなかったから。実際、そんな人がいるとは思えなかったから。


「誰もそんな堅苦しい呼び方、しぃひんよ――《《恒彦くん》》のこと」


 そのとき、麻耶の正面に座っている、和服姿の女性が、着物のたもとを口に当ててクスクスと笑ったの。「恒彦くん」――それは麻耶が初めて耳にする言葉。はっきり言って、違和感ありありだった。


 いきなり今岡さんのことを名前で呼ぶなんて――この女、何者? 言葉のアクセントは関西人っぽい。和服を着ているせいか京都弁みたいに聞こえる。年は麻耶より上で今岡さんと同じか少し下って感じ。しかも、よく見るとすごい美人。肩まで伸びた、サラサラの黒髪を人差し指で巻き取る仕草が妙に色っぽい。


 麻耶の睨みつけるような視線に気付いたのか、その女は長い睫毛まつげを蓄えた、切れ長の瞳で麻耶の方をチラリと見て「フッ」と笑ったの――勝ち誇ったような態度に、麻耶は無性に腹が立った。


「そうだな。かおる――みんな、お前ぐらいざっくばらんに話してくれたらいいな」


 今岡さんがその女のことを呼び捨てにした。しかも、二人称は「お前」――その女に向けられていた、麻耶の鋭い眼差しが今岡さんにグサリと突き刺さる。麻耶と目が合った瞬間、今岡さんは怪訝な表情を浮かべる。でも、すぐに何かを悟ったように小さく頷いたの。


「――ちょうどいい。かおる、自己紹介を頼む。《《大事なこと》》もちゃんと説明してくれよ」


「わかってるがな。ほな、イカセテもらうよってに」


 今岡さんの一言に、その女は口角を上げて笑うと「コホン」と咳払いをする。


「名前は『五十棲いそずみ かおる』。年は三十三。仕事は祇園ぎおんの芸子どす。恒彦くんとはアメリカにおったときからの腐れ縁や。恒彦くんのことなら、公私ともよう知ってんよ」


 つづく

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