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第23話「悪足掻き」

今回は【第9回二ツ樹五輪プロジェクト】その無限の先へ 第4巻出版(*´∀`*)のストレッチゴール達成のリターンとなります。(*´∀`*)

調整のため、ちょっと長くなりました。




 迷宮都市観光区画・寺社街。地球に存在した各種宗教施設が風景にギリギリ干渉しない間隔で密集するこの区画には、観光客向けの宿泊施設とは別に長期滞在者向けの施設がわずかに存在する。

 その手の施設は観光区画の他の街にも存在はするが、その規模に比べた割合としては群を抜いていると言われ、少なくない愛好者が活用しているのだ。

 彼ら利用者は基本的に地球文化に触れて目覚めてしまったオタクであり、雑多極まる迷宮都市の文化ではなく、固有の文化が持つ濃い独自色に染まろうと考えている。それぞれの宗教・宗派まで学習してはいるものの、本物の宗教家はいないからなんちゃってに過ぎないのだが、それでもいいらしい。


「ふむ……なかなか上手くなりましたね」

「和尚様のご指導のおかげですわ」


 毛筆で書かれた『推薦状』という文字は書道家から見れば拙いものだが、最近日本語を抜いている覚えた異世界人という前提で考えると異常とも呼べる出来栄えだ。少なくも、過去に綱に向けて直筆の果たし状を送ったフィロスよりははるかに上手いだろう。

 一方で、書道を教示した住職のお手本は正にプロの書道家の如きレベルである。

 レーネは自分が上達した分、その腕の差、そして根底に存在するセンスの差に愕然とするしかない。それがわずか数秒で書かれたものという事実がなおさら強く実感させる。


「しかし、なぜ推薦状なのですか?」

「ただの包み紙ですわ。実際の推薦状は中身です」


 そう言いつつレーネが取り出した紙は数枚。それぞれ文面は異なるものの、末尾に冒険者直筆の名前が記されている。

 サンゴロ、サティナ、リーゼロッテ、ゴブサーティワンの四名に加えて、ここまで直接接触のあったラディーネやディルクのものがある。


「ほう……常々言っていた例の件ですか」

「はい。己の不徳が招いた溝を飛び越えるための飛び道具。中級昇格試験のパーティメンバーと他数名、推薦を頂いています」


 あと、ついでに特に頼んでいないネーゼア辺境伯のものも。何故か渡辺綱が持ってきたのだが、用意された経緯は良く分からない。

 繋がりを良く知らないレーネとしては、自国の大貴族の名を不意打ちの如く出されて混乱するしかなかった。

 ぶっちゃけ、自分の親に何か飛び火しそうで怖いからやめて欲しいところだ。


「あまり強引な手は褒められないと思いましたが、思ったよりも堅実で健全な道を辿りなさる」

「クランマスターの意向でして」


 これは中級昇格試験のあとに渡辺綱から提案された方法だ。一見回りくどく、それでいて正攻法と、以前の短気……ユキの事に関しては超短気・短絡思考なレーネのままならキレていたかもしれないが、禅の心を体得した今は当たり前のように受け入れられる。尚、本当に体得できているかは怪しいが、受け入れたという事実が重要なのだ。

 というよりも、この案自体、かなり妙案だとも考えていた。どれくらいの関係者が入団を支持しているかはっきりとできるし、その数が多ければ決して無視はできない。それを理解すれば、渡辺綱はむしろ本気でレーネを入団させようとしているのが伝わってくる。

 外堀を埋めるという、当初に提示された目的からすればこれ以上はないとさえ言えるだろう。


 この推薦状収集の期限は、当のユキがレーネ含む周囲の動向に気付くまで。ノルマはないが、それまでに多くの推薦を得る事ができれば入団に向けた武器となる。


『渡辺様のは頂けないので?』

『どのタイミングだろうが、俺は基本的に推薦するぞ。それとは別に、俺とユキ以外の全員分集めたら団長権限で強引に押し通してもいい。ある意味、それが俺の推薦状だな』

『それ以外の推薦状を得た時点で渡辺様の正式な推薦を頂けると。……それでユキ様は納得するでしょうか。怒りません?』

『怒るだろうな。だが、こんな動きをして勘のいいあいつが気付かないわけがない。そんな状況で全員分集められるなら、それはお前っていう過去の亡霊から目を逸らしているのと同じって事だ。それを許す気はない』

『……お厳しい事。でも、亡霊呼ばわりは心外ですわ』

『じゃあ、生霊でいいよ』


 この件に関して、渡辺綱は一貫して怒っている。追いかけてくる過去があるなら清算しろと。回数はともかく、本人にあまり強く言わないのはユキの自主性に任せているからだ。なのに一向に動かずフラフラと回避し続けている。だからこうして裏で最大の味方に裏切られている。

 渡辺綱としては自分がそうだったからこそ、肝心なところで目を逸らす癖を無視するわけにはいかない。内容は変態の暴走でうやむやになったユキの責任放棄という、まさに気の抜けるものではあるが、本質的には今後ずっと共に戦うための試金石なのだ。

 レーネは渡辺綱の過去を聞いて、その考えにも一定の理解を示してしまっている。自分の利益に関わる事なので全面的に協調するのは厳しいにしても、少なくとも否定はできないと。同意してしまった以上、ユキの裏をかくような業から逃れられないとも思っている。

 でも、自分ではユキに強く当たれないので、正直そのスタンスはありがたかった。多少でも憎まれ役を引き受けてくれるという事なのだから。


「という事は、レーネさんがここを去る日も近いと」

「今のところ、その予定はありませんが。あーいえ、入団後に関してもです」

「え、クラン入団までという話だったのでは? 正直……ここは冒険者として活動するにはいささか不便かと」


 レーネが現在ここに居を構えているのは、精神修行兼隠れ蓑として渡辺綱に放り込まれたのが始まりだ。

 実際、隠れ蓑としても修行の場としても申し分ないが、それ以外……特に本業な冒険者活動には非常にマイナスに働く。

 ここは冒険者が活動の中心とする迷宮区画へのアクセスが悪いのだ。観光区画というだけでも生活には不便なのに、バスやケーブルカー、あるいは自前の自動車が必要となる場所に住み続けるのは不可能と言わずとも大変だろう。長期契約で割引されるとはいえ、宿泊料も高めである。

 元々の予定であるクラン入団を果たすにせよ失敗するにせよ、本格的に冒険者として活動を始めるなら滞在する理由は薄い。


「修行が終わっていませんので」

「あんなガチ修行僧のような生活をまだ続けるおつもりか……」


 和尚、絶句。どうしても活動が不定期になる冒険者故に日課とは言い難いものの、レーネがこの寺で行っている修行は苛烈極まるものだ。

 それらは日本の、地球の歴史資料上確かに存在してはいるものの、それは表面上似せただけのものであり本質が伴わない。だからこそ、何を目的としているかの真理を探求するために苛烈になる。

 彼女が行っている修行の数々はそこまでいかずとも、冒険者ですら音を上げる類のものだ。間違っても観光客が戯れに手を出すものではないし、和尚たち寺社街の管理者から見ても行き過ぎな代物。なんなら和尚でもかなり厳しいので、遠巻きに見て呆れているくらいなのだ。それを迷宮区画で続けるのは確かに厳しいだろうが……。


「むしろ、入団後のほうが必要になるかもしれません。煩悩ゲージの溜まりが早くなる事は確実なので」

「煩悩げーじ……」


 果たして件のクラン、OTIにはどんな魔が潜むというのか。彼女の言うユキはどんな魔性の存在だというのか。

 いや、和尚も気になって調べはしたのだが、せいぜい可愛い冒険者というくらいで、はっきり言ってそこまでの魅力は感じていない。レーネがキレそうなので口にしたりはしないが。

 冒険者が必須で持つものとは別にファンクラブもあったりするらしいから、何かはあると思うのだが、その何かは分からない。


「レーネさーん、お電話ですよー」


 そんな中、宿泊施設の女将が固定電話の子機を持って訪ねてきた。忘れそうになるが、ここは一応民宿のようなもので、管理者は寺と別に存在するのだ。


「なんでもカードのほうに繋がなかったとの事でして」

「あ、すいません。集中するためにカードを離していました。……ええと、どちらさまからですか?」


 と言っても、レーネの現在を知り、宿泊先に連絡をかけてくるような者は限られている。


「冒険者の渡辺さんです」


 特に予想を裏切るでもなく、その限られた内の一人の名が上がり、素直に受話器を受け取る。電話機能をカードで慣れてしまったレーネとしては、受話器の形や重さはかなり奇妙に感じるが、単純に会話するだけならこちらのほうが便利そうではある。


「もしもし、渡辺様? 何か問題でも発生しましたか?」


 まさか、すでにユキが気付いてしまったとかだろうか。それでも押し通すしかないが、推薦状の数が少ない今ではかなり厳しい事になるかもしれない。


『いや、お前のほうの問題じゃなく、俺の問題でな。ちょっと頼み事があって……』

「は、はあ……」


 どうやら杞憂だったようだが、渡辺綱の問題というのもそれはそれで気になる。

 さんざんスケールの大きい……で済むか怪しいレベルの話ばかり聞かされてきた身としては、それで自分になんの頼み事が生まれるかさっぱり分からないのだ。


「お世話になっている身ですし、たいていの事なら聞きますけれど」

『一応、お前向けのメリットも用意したから安心しろ。頼み事っていうのはな……』


 死を覚悟する何かを要求されるのではないかと戦々恐々するレーネ。


『ちょっと慣らし運転に付き合え』


 ……しかし、その頼み事は、表面上は穏当極まるものであった。


「どういう話でした?」

「えーと、詳細は分かりませんが、慣らし運転がどうとか……」

「なるほど? ……自動車の試験ですかね? 確かに、ダンジョン内に持ち込んだりする方もいらっしゃいますよね」


 冒険者業にそこまで詳しくない和尚の予想はかなり突飛だった。事実持ち込んでいる者もいるのでタチか悪い。




-G-


[ 迷宮都市中央区画高級住宅街 ]


 一部の特殊な場所を除き、迷宮都市内で最も地価が高い場所と言われる中央区画、その中でも更に地価が高騰し続けている高級住宅街に一人のリザードマンの姿があった。


「いつ来ても慣れねえな、ここ」


 向かう場所や会う相手にも抵抗はあるが、それを抜きにしても高級住宅ばかりはひしめくこの区画は性に合わないと感じている。

 立場や収入なら十分に居を構える事もできるし、紹介してくる業者もいるのだが、まったく気乗りしない。いったい何を思ってこんなところに住もうと考えるのか理解できない。


「あらー、お久しぶり、グワル君」

「ど、どうも」


 その目的地、グロウェンティナ邸の前に掃き掃除をしているメイドがいると思ったら、尊敬……崇拝すべき先代団長だった。

 元々こんな人なのでイメージに合わない事はないのだが、不意打ち過ぎて心構えが間に合っていない。

 あまりにメイド姿が板についていて、当時感じていた威厳が完全に隠蔽されている。


「ふむふむ……なるほど」

「な、なんですか」

「それがグワル君の答えって事なんですねー」

「…………はい」


 それだけで、すべてを見透かされていると理解した。表面だけ見た部分だけではなく、おそらく本質的な部分まで。

 かかったのは注目されたほんの少しの時間。《 看破 》されたかどうかは怪しいところがあるが、とにかくなんの予備動作もなしに見抜かれた。


「私としては、グワル君にはあんな重いモノを背負ってほしくはないんですがねー」

「副団……アルテリア団長は俺を後継者に推薦していたって聞きましたが」


 直接ではないが、かつて三代目を決める際、グワルを推していたのは眼の前の二代目団長と聞いている。


「すべてを背負わせるのと、その内の重たいモノだけ背負わせるのは違うでしょ。そもそも、性に合わないって辞退したくせに」

「……すいません」


 当時は特に深く考えずに選んだ選択肢が、長年続く悩みの元凶だった。

 自分に< ウォー・アームズ >を背負い切れないと考えていたのき事実で、性に合わないといえば確かにそうだが、ようするに自分は逃げたのだ。


「別にいいですけどねー。ウチの人なら応接室にいるんでどうぞ。私もあとからお茶持って行きますね」


 すさまじくやり難い。それは立場の問題なのか、負い目のせいなのか。




「ようグワル、龍世界の武者修業はどうだった?」

「え、ええ、まあボチボチってところです……」

「そんなわけないだろ、そんな答え出しておいて」

「…………」


 当たり前のように見透かされていたのはともかく、確かにボチボチではないなと思い直した。この上ない成果だ。


「自分こそがウォー・アームズだって言うつもりなら、もう少し胸を張ったほうがいいぞ」

「……アレイン団長としては何も思わないので?」

「まさかそんなクラスを発現させてまでっていうのは驚いたけどな。クィグにしろお前にしろ、後任に席を譲った時点でどうこうしろって口出す気はないよ」


 実際そうなのだろう。もっと言うなら、どうでもいいとまで思っているかもしれない。

 長い間、それを理解できなかった。理解しようとしなかった。そんなはずはないと。

 今なら眼の前の男の、入口掃き掃除をしていたメイドのような何かの、奥底に垣間見える冷たいモノが理解できる。それで崇拝や尊敬の念が消えたりはしないが、かつて感じていた親近感のようなものは消失していた。

 それは、かつて共に過ごしていた頃よりもはるかに遠いものとして映っている。


「あのクランがどうなるかはともかく、お前が苦しんでいた事は気がかりだったから、意外な形としてでも答えが出たのは良かったよ。……新吾には?」

「ダンジョンマスターには『ほー、いいじゃないか。 こういうのでいいんだよ、こういうので』と言われました」

「……まあ、新吾だしな」


 何かのネタなのだろうが、龍世界に旅立つ時に言われた台詞を含めてさっぱり分からない。もしネタじゃないとしても真意の読み難い話である。

 間近でさんざんそんな事を言われ続けたアレインとしては慣れたものだが、グワルくらいの距離感だとどう返していいのか分からない。

 とはいえ、その言葉そのものに真意がないとも思わない。いいじゃないかと思っているのは事実なのだろう。だからこそ、冗談なのかの判断が難しくなっているのだが。


「クラン対抗戦に出るって話は聞いているが、今日くらいは時間あるんだろ? どうせだし、飯でも食って……」

「あれ、グワルさん? 珍しい」

「アーシャ……」


 唐突に、グワルにとって見知った顔が現れた。良く考えなくても、この家に住んでいるのたからおかしくはないのだが、普段この場所を避けていたグワルとしては結び付きを忘れていたのだ。

 こうして見ると、この家の住人はグワルにとってやり難い相手ばかりが揃っている。パンダがいれば少しはマシだったかもしれないのに、今はいない。


「この前綱くんにも会ったけど、そういえばもうすぐクラン対抗戦よね。今回は予選からだっけ?」

「お、おお……あいつの調子はどうだった?」

「……うーん」

「いろんな意味で気になる反応だな」


 あきらかに調子の良い悪いを聞いて生まれる反応ではない。

 調子良いにせよ悪いにせよ、あるいは普通でも、そのまま言えば良いだけなのだ。評価眼のない者ならその判断がつかないなんて事があるかもしれないが、アーシェリアに限ってそんなはずもない。

 そして、そのどれにも当たらない意味不明な状態があり得てしまうのが渡辺綱で、グワルはさんざんそれを目の当たりにしてきた。


「ごめんなさい、良い意味で悪い意味でもどう話したらいいのか分からなくてね。とりあえず、人数調整の試合ではさんざんだったみたい」

「人数調整……?」


 なんだっけそれはと、長い事シード枠に居座り続けたせいで仕組みを忘れかけていたグワルは頭の中の大会規約を思い返していた。

 しかし、それでツナが苦戦するビジョンが浮かばない。


「別の新興クランに未知の強敵でも湧いたのか?」

「いいえ? 確か去年発足の……普通に実績の少ないクランからの代表。まあ、冒険者としては綱くんより格上ではあるけどね」


 それは当然そうなるだろう。そういう尺度で測れない奴だから問題なのであって……。


「その試合の動画ならあるから、ついでに見ていくか? ウォーアームズに戻っても見れるだろうが」

「え、ええ……じゃあ、お願いします」

「私ももう一回見ようかしら」


 アレインの提案により、そのままリビングルームで渡辺綱の試合を観る事になったグワル。

 当然と言わんばかりにアーシェリアも残り、しばらくするとアルテリアもお茶を持って入ってきたのだが、動画の内容が不可解過ぎてお茶を飲むどころではなかった。


「……またなんか変な事になってんな、あいつ。どうなってんだ?」

「ある意味お前と同じだぞ。新クラスの影響らしい」

「セカンドツリーに< 飢餓の暴獣 >ですって」

「…………マジかよ」


 相変わらず意味分かんねえ事になってんなと半ば呆れるグワルだったが、それはそれとして本番までには仕上げてくるのだろうという確信もあった。

 ……いや、それに間に合わなくとも、あるいは本番中に仕上げてしまうのが渡辺綱なのだ。


「面白そうよね。私も出れば良かったかな」

「締め切ってるからこうして調整してんだろ」


 しかしなるほど、アーシェリアが滾るのも理解できなくはない。

 動画の中の渡辺綱はそれはもう無様な出来で、あわや出場枠から滑り落ちるところではあったが、それはそれとして見どころがなかったわけでもないのだ。

 加えて、そんな名前のクラスを手に入れたとなれば期待しかない。

 立ちふさがるのが強敵である事は良い事だ。なんなら、それを本番で完成させるのが自分であっても構わないとさえ思うほどに。


 本人はまさに悪足掻きを始めている最中なのだが。




-1-




[ 無限回廊・題三十一層 ]


「イカれたメンバーを紹介するぜ!」


 久しぶりに訪れた無限回廊第三十一層。そこに今回のパーティメンバーが集結していた。

 妙なノリの渡辺綱を含め、どいつもこいつもイカれた連中。そんな奴らを新人のイカれた奴に紹介する場面である。


「どれだけ痛めつけても逆効果、無敵のドMサージェス!」

「漢解除は任せて下さい!」


 それが良い事だと言わんばかりに胸を張る変態紳士。やめろと言われても、興味が惹かれたらつい試しちゃうんだ。


「多少の傷は無視すれば実質ノーダメ、不遇の貴公子ガウル!」

「最近、扱いが雑なんだよ!」


 扱いが雑なのは最近に始まった話ではないと彼以外の全員が感じている。


「モンスター以上にモンスター、手荒い扱いも上等だぜっ! 究極生命体キメラ!」

[ (*´ω`*) ]


 その電光ボード表示には一切の躊躇がなかった。


「真っ二つにされたら死ぬと誰が決めた、最近苗字が判明した不条理生命体タナカ・ゴブサーティワン!」

「生まれた時から田中っスけど」


 なんなら入団申請にも書いてあったはずなのに。


「そして、なんだか良く分からない事になりつつある俺、渡辺綱! いえーっ!」


 最後に自分で自分を紹介して空回り上等の盛り上がりを誘発する渡辺綱。慣れたもので、周囲は誰も同調しない。

 そんな紹介を目の当たりにしたイカれた新人、レーネとしてとしてはどう反応すればいいか分からなかった。


「そこにデーモン二世ことレーネ・ローゼスタを加えたメンバーが今回のパーティ。雑に扱っても壊れないメンバー選抜隊だっ!」

「は、はあ……」


 困惑。もちろん、入団を希望しているクランのメンバーだから全員を知ってはいるのだが、この妙なノリは初体験だった。

 とりあえずでも何か反応しないといけないような気がする。


「それで、自動車はどこに?」


 まずは、その新人に慣らし運転が比喩だと説明が必要だった。




「つまり、私は渡辺様の新しいクラスの練習相手のために呼ばれたと」

「ただそう言うには長丁場のだけどな」


 実は、自動車と聞いて一度運転してかったレーネとしては肩透かしである。

 詳しく説明を受けてみればなんて事はない、ただのダンジョン・アタック。その際に生じる空き時間を訓練に当てるだけ。あくまで訓練時間を捻出するのがメインであり、ダンジョン・アタックがおまけに等しいのが大きな違いだろう。

 ここらの敵の強さを知っている身としては、籠もるのに向いているとはとても思えないが。


「いえ、それはいいのですが……これは一体どういう人選ですか?」


 人選だけ見れば到底ダンジョンアタックに向いたメンツではない。偏ってるなんてレベルじゃなく役割は被りまくり、ポジションに至っては前衛しかいない。それも、渡辺綱を含めた六人全員が物理アタッカーという偏りっぷりだ。探索のバランスどころか、戦闘すらバランス云々以前の構成である。レーネは知らないが、かつての四神練武のAチームですらはるかにバランスがとれている。

 多少でもパーティ構成について調べた事がある者なら、一般人ですら疑問を持つだろう構成。レーネが全員の戦闘情報を持っているわけではないものの、見た目からしてそんな感じだし。


「さっき言ったように、慣らし運転の相手として雑に扱える選抜隊だ」

「そこは合ってますのね」


 そこだけじゃなくだいたい合っている。


「お前やゴブサーティワンは知らねえかもしれねえが、《 飢餓の暴獣 》の相手をする前提ならどうしても荒っぽくなんだよ。だからまあ……役割としちゃ合ってんじゃねーか? どうせ、チーム戦メンバーからも外されたし」

「……飢餓の暴獣」

「オイラは動画で見た事あるっす。ねーちゃんの《 鮮血姫 》みたいなのって」


 ガウルがフォローするが、その認識で間違いない。ゴブサーティワンの認識も概ねは正しい。言ってみればこれは渡辺綱の新クラス< 飢餓の暴獣 >の慣らし運転なのだ。

 なお、チーム戦のメンバー落ちした事は誰も触れてくれない。


「いやな、こないだクラン対抗戦個人戦の最終選抜があったんだがな」

「クラン対抗戦?」

「……そっちから説明が必要か」


 良く考えなくてもレーネは迷宮都市に来て日が浅い。それでもクラン対抗戦のような冒険者絡みの大規模イベントなら普通目や耳に入るものだろうが、基本的に外界と途絶された環境に住んでるので情報が届かなかったのだろう。冒険者業に関しても自分に関わる部分くらいしか知らない可能性もある。

 昇格速度、住環境などが複合的に絡み合い、本人の興味と混ざった結果が今なのである。


「なるほど。私は結局出場しませんでしたが、いつぞやの新人戦のようなものと」

「そのイメージで概ね間違いない。それのクラン版みたいなお祭りだ」


 そして、そのクラン対抗戦は個人戦の空気だけが妙に加熱している。例年からそんな空気はあったらしいが、今年は群を抜いているそうだ。

 元々、無限回廊一〇〇層の攻略達成者が殿堂入りとして次回以降出場禁止になるからと最後の花道として盛り上がってはいたが、現状はそれどころではない。話題性どころか、実際に出場者も倍増している。これまで代表を出してこなかったクランが乗り出して来ているのだ。


 だからなのか、毎年参加人数が増えて大会前の人数調整が行われているのが実情だ。トーナメントなのだから枠を調整するなり試合を増やすなり同時にすればいいし、実際予選の組み合わせが一戦分増えているのだが、どうしても多少の調整……数人の足切りは必要になる。

 すべての出場申請者が対象ではない。明確な条件は定義されていないものの、基本的に実績持ちのクランならこの調整からは省かれる……が、OTIはクランとしては新顔もいいところで、ツナ自身がいくら実績持ちでも関係なくその枠に入ってしまうのだ。


 もしもこんなところ躓いて、いざ対抗戦が始まったら個人戦代表にOTIと渡辺綱の名前がありませんでしたなんて事になったら夜光も興ざめだろう。

 現時点でとりあえずその危機は去っている。出場枠は確保できた。しかし、それで順風満帆とはいかない。

 新たに無視できない問題点……ある程度予測はしていたものの、実際にはそれどころでなかった事態が発生していた。


「あとから動画を見せてもらったが、不甲斐ねえなんてもんじゃなかったな」

「ええ、リーダーの事ですし、最初はそういうプレイだと納得していたのですが……」

「俺の事ってなんやねん。……いや、不甲斐ない出来だったのは認めるが」


 それはそれとして、ドMの探求者の如き評価は違うだろう。


 人数調整のための試合はさんざんなモノだった。大会運営委員の尽力もあってか必要だったのは最低限の調整であり、一試合のみ。

 そして、そのたかが一試合。されど一試合でボロが噴出した。今頃、関係者に向けて公開された動画を鑑賞して困惑している者も多いだろう。

 本人的にもそれなりに事前訓練をして挑んだつもりだったのだが、想像以上に勝手が違う。< 飢餓の暴獣 >が文字通り暴走して安定せず、抑えが効かない。そんな四苦八苦しているツナを見て調子が悪いと判断したのか、対戦相手は困惑しつつタコ殴りにしたのだ。人数調整に呼ばれるとはいえ、曲りなりにクラン代表を務める冒険者が弱いわけもなく、当たり前のように苦戦する事になる。

 というか、普通に見れば相手のほうが格上なのだ。何故かツナに対してビクついていたからなんとかなったものの、本番だったら押し切られていた可能性すらある。


「そこで俺は反省しました。慣習に則り、ここはダンジョン籠もりをすべきだと」

「は、はあ……」


 本来なら籠もるような階層ではないし、かつて開催してくれたグワルもいないどころかむしろライバルだが、やる事は一緒だ。詳しく知らないレーネでも言葉だけでおおよそは理解できる。

 年末の休業に向けて、クラン内のダンジョン・アタックの予定も詰まっていたのだが、そこは無理を言って捩じ込んだ。

 ユキは当然の如く抗議したものの、最終的には折れ、可能な限り本来の予定やチーム戦出場選手に絡まないよう調整。嬉々として参加しそうで適性もありそうな玄龍やガルドはアタックの予定、銀龍はじゃんけんに負けて空龍と入れ替わりでクーゲルシュライバー上の人など、様々な調整の結果、なんとか五人までメンバーが決定、残り一名を外部から確保するという形で今回の形になったのだ。

 その最後の一枠がレーネだった。完全に狙ったわけではないが、ツナとしてもちょうどいいと考えている。


「というわけで、ダンジョン籠もりのスパーリングパートナーを務めてもらうついでに、お前が推薦状をもらうための試練も兼ねているわけだ。ゴブサーティワンだけはもうもらっているわけだが、こちらはあくまでついでだから勘弁してくれ」

「ええ、感謝しますわ」


 その言葉で、レーネの表情は一変した。本人的にはそちらのほうが重要だから当然かもしれないが。


「もう一枚書いてもいいっスけど」

「それは無意味だから必要ない」


 書いたあとなのに、ゴブサーティワンは推薦状の意味をあまり理解していないらしい。


「当たり前だが、用意したのは場だけだ。推薦状を出すかどうかは自分で判断しろよ。ユキの件含めて事情は説明してあるから」

「俺としちゃ、お前が判断すりゃいい話だとは思うんだがな。別に反対する気もねえし、ユキも最終的には折れるだろ」

「いや、駄目だ」


 事の本質を見なければガウルの意見に近しいものになるが、それはあまり良くないとツナは考えている。

 レーネとしても、強引に入団させるだけして席を用意してもらってもあとに続かないだろう。冒険者としての才能を加味しても、単に不和を撒き散らすだけでプラスにはならない。ツナとしては、この騒動の裏にあるユキの問題を解決するのが最優先課題なのだから。


「コレに関してはあくまでそれぞれで判断して欲しい。その結果、推薦しないって判断でもそれはそれだ。このクランで今後も戦っていく意味分かってるだろ?」

「あー、なるほどな」

「オイラもう書いちゃったけど、意味ってなんすか?」

「……いや、お前らに関しては別にいいや。多分目的には合致してるし、そこら辺もあとで別に説明する」


 レーネと共に活動したメンバーは俺の言いたい事は本質的に理解しているはずだ。ガウルも多分納得しただろう。

 そんな事を話していたら、さっそくレーネに近付く影が……。


「たとえ同志とはいえ、入団に関しては安易に判断を下す気はありませんよ」

「同志? え、ええ……当然です。プライドも何もかもを脱ぎ捨てて、雑事も厭わない所存ですわ」


 案の定、鼻息の荒いサージェスに同志認定されてしまったレーネだが、本当にそんな事を言っていいのだろうか。

 交わした握手で触れた手はなんだか妙にねっとりしている気がする。


「というわけだがお前は理解してるか、キメラ」

[ (*´ω`*)b ]


 本当に分かっているのか不安になる反応だが、今更突っ込む事ではないと判断された。

 実際、本人はバッチリだぜと言わんばかりの仕草を見せている。慣れていない者が見れば化け物がユラユラしているだけだが、この場にいる者のほとんどは慣れたものなのだ。ボディランゲージによるコミュニケーションは確かに成立している。


「さて、それはそれとして、まずは今後の予定を詰めるぞ。長丁場になる事は伝えてるが、俺とサージェス以外は未体験だしな」


 さっそく宿泊施設を展開して会議タイムである。開始いきなり会議かと言われそうだが、急ぐ必要はまったくないのだから。

 なお、今回用意した宿泊施設は大型のバンガローだ。レンタルでも結構な出費になってしまったが、ダンジョン籠もりで想定される物資の量が量だけに妥協はできないのだ。ほとんどが倉庫として使っているのに、ツナとしてはこれでも足りない気さえしている。

 ……特に、食料の量が不安だった。間違っても水凪は連れて来れない。




-C-




「それで、今日はなんの取材?」


 ダンジョン区画、迷宮ギルド会館近くの喫茶店。スケジュールの空き時間に呼び出されたクローシェは、元同級生らしい記者とボックス席で向かい合っていた。


「それはもちろん、クローシェさん率いる66について……ですよ?」

「本音は?」

「……年末のクラン対抗戦についてなんです、はい」

「もう少し建前を強調しても良かったのに」


 なんとなく想像はしていたのだが、どうやら自分の立場を利用して情報を得たかったらしい。

 とはいえ、それを申し訳なくは思っているようで、簡単に事情をゲロっていた。つまりはコネを利用した特ダネ狙いというわけである。


「いえほんと……ぶっちゃけ66に関しても単独で特集組んでいいと思うんですが、なにぶん編集部での立場が弱いもんで」

「まあいいけどね。時期的にそんな気はしてたし」

「ごめんなさい」


 年末の冒険者といえばクラン対抗戦だ。毎年当たり前のように特集が組まれるのを見ているし、今年が例年以上に盛り上がっているのはクローシェも知っている。そして、その中心にいるのはクローシェの同期だ。ほとんど断っているが、取材の申し込みがあったのも一度ではない。

 そういう意味で彼女は正しくコネを利用していると言えた。


「でも、直接取材すればいいんじゃないの? 本人はそういうのがないって嘆いてるみたいだけど」

「私が直接関わったわけじゃないんですが、春あたりから急にガード固くなったらしくて」

「あー」


 クローシェにも心当たりはあった。龍世界と、それ絡みでなんかいろいろあったらしい事、クラン創設とそれに伴う超過密スケジュール。忙しい人は偏っているとはいえ、ガードが固くなるのも当然だろう。

 パーティ……いや、クランメンバーの中にはメディアで見かける者もいるから、あんまり気にしていなかった。特にサージェスは目立つし。


「じゃあ、当然取材した情報もくれるんでしょ? 情報量はそれでいいよ」


 あと、甘味とばかりにパフェを注文するクローシェ。


「それはもちろん。……どんな情報がお入り用ですか?」

「ツナ君の評価」

「クローシェさんもそっち側なんですか?」

「そっち側?」


 同期なのだから、別段おかしな事でもないだろう。それよりは優先度は下がるものの、ゴーウェンの評価も聞くつもりだったのだから。


「いえね、聞く人聞く人、上位入賞が有望視される出場者やシード選手、選手以外でもやたらと渡辺選手に注目している人が多いんですよね」

「それはまあ……そうだろうとしか」


 あんなモノ、注目せずにいられないだろう。特に、自分に関わってくる……ひょっとしたら直接対戦するかもしれないとなれば。


「そうなんですか?」


 しかし、彼女はその空気感が分からないらしい。

 クローシェ的には割と近くにいるので当然のような認識になってしまっているが、特別関わりのない一般人としてはこんなものなのかもしれない。とはいえ、クローシェとしても『そうなんです』としか返せない。


「えーとですね、ウチのも含めてすでに発行されている雑誌の切り抜きやブログの印刷なのですが……」


 そう言って出されたものを見てみると、案の定取材対象の興味が渡辺綱に向かっているのが分かる。

 特に出場選手向けに用意されたアンケート……ライバルとして見ている相手、活躍を期待している相手、戦いたい相手、反対に戦いたくない相手などの回答の至るところに渡辺綱の名前が散見されているのだ。


「あたしとしては、むしろ実態と世間の評価の乖離が激し過ぎて風邪引きそうなんだけど」


 あんなもの、評価されて然るべきだろう。むしろ今でも全然足りないくらいだと考えているくらいなのに。


「実績は確かにすごいの一言ですけど、クローシェさん……66とそこまでの差があるかっていうと疑問なんですが」

「あんなのと一緒にすんな!」

「ええーっ!? そ、そこは、自分たちが正当に評価されていないって憤るところでは?」

「いや、ウチはちゃんと評価されてるし、世間一般の評価もわりかし正当だと思うよ。ぶっちゃけ一緒にされても困るというか」


 むしろ、引き摺られたらいろいろとプランが狂ってしまう。今でさえいっぱいいっぱいなのに、これ以上駆け足になったら絶対に躓くはずだ。

 中級昇格の際、マイケル絡みで暴走気味だったクローシェだが、喉元過ぎた今は反省したのだ。

 自分なりの歩幅で歩くつもりなら、あんなものは雑音にしかならないだろう。確かに同期という事で自分たちの実績がスポイルされている気はしなくもないが、それはそれで動き易くなっていると恩恵を感じてもいる。

 普通なら、今の実績を考えるともっと息苦しくなっているはずなのだ。それこそ取材対応で時間を削られる程度には。マネージャーのいる彼らや、< アーク・セイバー >に身を置いている同期たちのように、代わりにフィルターになってくれる存在がいるわけでもないのだから。

 いやしかし、だからこそ一時期よりは減ったとはいえナメてる後輩が未だに声をかけてきたりするのだろうか。


「うむむむむ……」

「あ、あの……」

「あ、ごめん。直接関係ない事を思い出して気分悪くなってた」


 相手にしなければ実害はないし、実際相手にもしていないのだけど、目に入るだけで気分が悪くなるのだ。

 冒険者学校卒業者の在校時の成績とデビュー後の評価はいくらでも調べられるはずなのに、何故自分たちだけは例外と考えしまうのか。


「で、ツナ君ね。さんざん目の前で見てきたから語れる事はいろいろあるよ。……言えない事も多いけど」

「言えない事……それはプライバシーの問題とか、あるいはギルドの規約などで?」


 その言えない事が世間との乖離の主な原因なのだが、言えないのだから仕方ないのだ。




-2-




 長期間のダンジョン籠もりをするにあたって、最初に揉めたのは部屋割りである。良く見たら女性はレーネ一人で、さすがにそこは気を使う必要があった。

 誰も手を出したりはしないし、そもそも興味は薄いだろうが、今後もこの手の問題は引き摺っていくのが確定しているのだから、検証と実践を積む機会ではあった。

 これまでも状況に合わせてルールは決めていたが、それらはあくまで明文化されていないものに過ぎない。クランとして発足する以上はこういうルール決めも必要だろうと。というか、今後を考えると、安易にレーネと女性を同室にもできない問題も浮上してきた。


「とりあえず、お前は他の女性冒険者と同室禁止な。もちろんシャワールームもシステム的なロックを用意する」

「解せませんわ」

「肉食系レズビアンを放置するわけないだろうが。基本的にブラックリストだよ」


 かと言って、さすがに男と一緒にするわけにもいかない。結果的にパンダなどの非人間がいない場合は一人部屋固定となる。

 ゴブサーティワンやガウル、ガルドなど、男性人格って時点で避けたほうが無難だろう。

 ツナとしては、むしろ必要な時以外はレーネの個室にロックして閉じ込めてしまいたかった。

 昇格試験でリーゼロッテとは同室の経験もあるらしいが、それだって本当は問題だ。こうして見るとつくづく面倒な奴である。


「あと、今回のダンジョン籠もりには致命的な課題があってだな……」

「な、なんですか」


 わざわざこの場で言うという事は、攻略に直接関係する問題ではないだろう。


「……誰も料理ができない。極力調理不要なものをかき集めてきたが、どこかで不満が噴出するのは避けられない」

「……それは、地味に深刻な問題ですわね」


 レーネが料理できない事は報告書で知っている。他のメンツも全然できないか、ほとんどやった事のない連中ばかりだ。

 メンバーの中で一番できるのがサージェスという時点でお察し、ガウルもまったくできないわけではないものの、熟練度がまったく足りていない。ツナに至っては台所出入り禁止である。

 味覚的な意味で完全な戦力外なキメラとゴブサーティワンに頼る事ももちろんできない。そもそも味が分からない、分かっても気にしない、我慢できる者も多いが、短期間ならともかく長丁場となると無視はできない問題だ。おそらく、真っ先にキレるのはガウルである。


「いえその……中級昇格試験あたりで実感させられて、多少は練習しているのですが、まだ人にお出しできるようなものでは」


 ひょっとしたら、その段階にあるレーネが一番マシかもしれないという有り様である。

 とはいえ、ある意味どうしようもないので、レーネ、サージェス、ガウルに今後の練習も兼ねて頑張ってもらう事になった。

 どんなに失敗しても文句を言わずに食う代わりに手は抜かないという、ちょっと先行きが不安になるスタートである。

 食事はモチベーションに直結するという、軍隊糧食にも直結しそうな問題を身を以て実践する羽目になってしまった。




-GGK-




『それでは毎年この時期恒例になりつつある特別番組、『ゴブリンのゴブタロウが解説しタロー』のお時間がやってまいりました』

『年末は忙しいから勘弁してもらいたいんだがね』


 あと、そのいかにもその場のノリで付けました的なタイトルも。


『しかし、先輩のギャラが一番安いのもあって、なかなか』

『なんで私は降板する際にあんな契約をしてしまったんだろうね……』


 かつて、ゴブタロウが冒険者の解説番組でメインを張っていた際、需要の問題もあって辞めるに辞められないところを強引に降板したのだが、その時に交わした契約に特別ゲストとして優先して出演する確約とギャラの条文が存在している。

 その際はそれどころではなかったし、気を使っているのか頻繁に呼び出される事もないが、こうして忙しい時期にオファーがかかると文句も言いたくなる。

 そして、その関係性は視聴者にとってもお約束のようなものだった。なんなら契約書の内容まで公開されている。


『ここまで去年の試合をダイジェストで振り返ってきましたが、ひょっとしたらこの面々を見るのは今回が最後になるという話が出ております。どうも殿堂入りのルールが決まったという事で……』

『毎年盛り上がる予選トーナメントとは裏腹に、ややメンツが固定され過ぎてマンネリ感のあった決勝トーナメントのテコ入れ……っていう理由もなくはないけど、主な理由はカテゴリ分けだね』

『カテゴリ分けというと?』

『無限回廊一〇〇層を突破したような選手は、さすがにちょっと土俵が違うだろうという話だね』


 以前から上が半分固定化されている事が問題視はされてはいたのだ。今回でグワルがシード落ちしたものの、むしろ問題になっていたのはそれ以外なので、無限回廊一〇〇層攻略というきっかりは運営側としてもちょうど良かったと言える。


『唐突なルール追加ではあるから今回だけは継続して出場してもいいって事になったけど、次回からは達成後は即出場資格停止、シード選手なら殿堂入り扱いになる』

『それだと、わざと攻略を遅らせるような選手が出てきたりは……』

『ないだろうね。冒険者にとっての一〇〇層攻略は天秤にかけるようなものじゃない』

『夜光選手が、今回新規参戦を表明した渡辺選手と戦う事を楽しみにしていると聞いていますが』

『生粋の戦闘狂な彼でも、わざわざそれで攻略を遅らせたりはしないと思うよ。今年はなんだかんだで間に合わなかったけど、今回対戦が叶わなかったとしても、来年まで一〇〇層攻略しないなんて事にはならないはずさ』


 当たり前といえば当たり前だが、無限回廊一〇〇層攻略とクラン対抗戦の名誉は天秤にかけるようなものじゃない。

 深層以降の情報を多く持たない一般市民にとって、あるいは冒険者でも下級ランクであれば、より多く目にする機会のある対抗戦のそれが重要に見える可能性もあるが、本人たちはそれを履き違えたりはしない。

 それは何より、解説するゴブタロウが良く理解している。


『続いて今回の注目選手ですが……さっそく、さきほどの渡辺選手からいきましょうか。出場は今回が初。新規クランを創設し、自身でその出場枠に入ったという話です。彼の名前は視聴者の方々も聞き見馴染みがあるかと思いますが、ここまで多大な実績を打ち立てており……』


 冒険者としての活動実績は氷山の一角に過ぎないのだが、一般向け番組でそれを出すわけにもいかない。


『ところでゴブタロウさん、この公開ステータス表なんですが……セカンドツリー及びそこのクラスが非公開となっております。最速デビューの際には本人の意向という事で非公開にしていたケースもありましたが、今回はルール上アリなんでしょうか』

『普通ならナシだけど、事情があってね。まあ、ようするに新クラスだから、公開してもしなくても大勢に影響はないはずだよ』

『ほうほう、前回の《 原始人 》のようなネタではないと』

『いや、アレも本人はネタのつもりはないと思うけどね』


 公開してもしなくても変わらないというのは一部誤りだろう。それを知っている者なら間違いなく警戒する。

 そういう関係者や対戦相手には遠回りで伝わっているだろうから結局意味は薄いかもしれないが、それを隠すべき切り札として認識しているという事実そのものが警戒に繋がるのだ。

 ちなみに、《 原始人 》についても、のちのち調査した限り最短攻略に少なからず寄与していた事が分かったのでネタではない。


『いやー、誰にインタビューしても必ず彼の名が出るんですよね。対戦したい相手は? 渡辺綱。対戦したくない相手は? 渡辺綱。躍進を期待しているのは? 渡辺綱……などと、もちろん回答者ごとに注目点は違いますが』

『もちろん私も期待してるけどね』

『私としては以前解説を担当したプロレスの惨劇が思い浮かんでならないのですが』

『アレは一応覆面レスラーって設定だしね』


 なお、直接関係あるかは定かではないが、この番組直後にプロレス専用チャンネルの登録者数が激増した。

 それによって必然的に覆面レスラー裸ージェスも多くの人の目に入る事となり、一部で悲鳴が上がった。




-3-




 ダンジョン籠もりは続く。

 道中はほとんど力押し、ギミックは無視、宝箱も無視して次の階層まで攻略し、そこから本番とばかりに訓練へと移行する。

 ラディーネが用意した蟲を使っているとはいえ、本来ゴリ押しが通用しない層を突破できているのは彼らの底力故だろう。

 定点狩りならともかく、普通なこんなところを訓練時間捻出用に採用したりはしないが、常識が通用しないのは今更だ。


 そして、今回最重要課題となっている< 飢餓の暴獣 >について、捻出できる時間の限り攻略メンバー間での模擬戦や解析が行われていた。

 中には大量の数値を吐き出している専用の機材もあるが、この場のメンバーにはさっぱり理解できない。これについてはさすがにディルクの解析に回す用だ。


「結局のところ、これは単純な強化ではないのですか? いえその……今は何故か調子悪そうには見えますが」


 レーネが一対一で立ち会った際の感触は、切り替えのタイミングから急に身体能力が上がったように見えても、それで動きが悪くなっているようには感じなかった。怪力である程度抵抗はできたものの、地力差故に一方的に押し切られて終了だ。


「そりゃお前の戦い方ならそうだろうな……まあ、次を見てろ」


 とはいえ、ここまで散々ツナと模擬戦を繰り返してきたガウル的には、今サージェスをやり合っている姿を見るだけでも問題点は一目瞭然だ。

 その弱点……というよりも、不備のような点を突けば完封さえ可能だという自信さえあった。少なくとも< 飢餓の暴獣 >が発動している状態のツナは一切怖くないと。


「よし、じゃあ次だな」

「すまん、ちょっと飯食うわ」

「気が削がれるな、おい」


 制御が効いていない今、確かにそれも大きな弱点だ。ここぞという時に短時間使うだけならともかく、不意に発動してしまって自動で切れないのだから自滅しかねない。もっとも、これはむしろ対人戦の試合よりもダンジョン・アタックにおいてより大きな弱点になるはずだ。


 そして、いざガウルとの模擬戦が始まると、言った通りの結果になった。

 最初こそ当たり前のように打ち合えていたのに、< 飢餓の暴獣 >が有効化された途端に何もできなくなった。

 もっとも、ツナもそうなると確信があったのか、ボロクソに負けていても落胆のようなものは感じられない。


「ようするにだ、スキルの《 飢餓の暴獣 》とクラスの< 飢餓の暴獣 >は別物ってこった。……いや、むしろこっちが本来の姿か?」

「多分だが、後者だな。《 因果の虜囚 》と切り離されてるんだ……あと、俺を椅子にするな」

「確実にそれが原因だな」

「いや、どけよ」


 おそらくだが、元々の《 飢餓の暴獣 》、及び現在の《 因果の獣 》は《 因果の虜囚 》と強く接続し、干渉を受けていた。

 急激に強化された身体能力の認識補正やスキルのタイミング調整、あるいは確率操作のようなものまで影響を受けていたのだろう。

 その連動が完全に切り離された状態にあり、急激な変化に対応し切れていないのだ。スキルなし、各種武器術の精度無視で殴り合うだけならなんの問題もないが、渡辺綱の戦い方はそうではない。

 実際、似たような戦い方のキメラ相手には戦闘が成立している。


[ (๑•̀ㅂ•́)و✧ ]


 とはいえ、最終的に押し切られ、キメラ相手に無惨な敗北。普段、ツナ相手にあまり勝率の良くないキメラはご機嫌だ。

 つまり、身体能力ブーストがかかった上でも、元々の戦闘力に追いついていない。


「お前の場合、無骨な戦い方に見えて、精密性の極みみたいな戦い方してるわけだからな。そりゃ無様晒すわけだ」

「ある程度は自覚してたんだがな……半自動切り替えがここまでやっかいだとは」


 本人としては想定以上だった。ダンジョン籠もりを始めてから認識した問題を加味すると、とても使い物にならない。

 このままだと、クラン対抗戦はクラスを外して挑んだほうがはるかにマシだろう。……それが結論だった。


 とはいえ、その選択肢はとれない。全力で挑むというなら、コレ込みでなければならない。そんな強迫観念のようなものを感じている。

 それが《 因果の虜囚 》の影響なのかは分からない。否定はできないが、強くも感じない。ツナとしては、むしろこれは自分の矜持のようなものなのかもしれないとさえ感じている。コレを外して多少マシな成績にするくらいなら、負けたほうがマシと思うくらいには。

 おそらく夜光もそうしろと言うだろう。存在を知らなければともかく、すでに新クラスの情報は出回り、調整試合の動画も出回っているのだから。




-C2-




「それで、クローシェさんの予想としては? ……実はこんなシートも用意してまして」


 そう言ってテーブルの上に出してきたのは闘技場で良く見るものだった。特に金に困ってそうなおっさんがビリビリに破いてそうなものの購入用紙である。基本は電子に移行しているが、アナログな用紙もこうして残っているのだ。


「……ひょっとして、賭け事の参考にでもするとか?」

「いえいえ、そんな気はない事ないですが、あわよくばあぶく銭をゲットして多少豪華な年末をーなんて」

「まあいいけどね、別に規約違反でもないし。……当たらなくても文句は言わないでよ?」

「それはもちろん。あくまで参考にするだけなので」


 本当かよ、と疑いつつ、クローシェは今回のクラン対抗戦でカテゴライズされている賭博予想の欄を埋めていく。

 書いていて気付いたが、そもそもこんな専用シートを用意している時点でそのつもりだったのはあきらかだ。現金なものである。


「う、うーん……?」


 しかし、いざ書き出してみると、どうにも上手く予想できない。現在入手している全情報を加味しても展開予想がハマらない。

 その中心はもちろん渡辺綱だ。ゴーウェンもそうだが、多少は予想に安定感がある。

 彼が負ける気はしないのに、勝てるビジョンも浮かばない。予想すればするほど、脳内がカオスな事になっていく。


「あ、あの?」

「どうしよう。全然分からなくなってきた」

「ええ……」


 こうなると、あっさり負けそうな気さえしてくる。

 同期としての眼を抜きに冒険者として純粋な戦力差で見るなら、こんな予選トーナメントを勝ち上がれるわけがないのだ。

 周囲は格上だらけで、あいてはツナが格上殺しだと知り、警戒もしている。例のクラスが完全に機能したとて、その差が埋まるのか。

 ゴーウェンにしてもそうだ。ツナ同様、新人としては華々しいなんてレベルじゃない記録保持者であり実力者。その巨体のくせにいつもフィロスの影に隠れがちだけど実力に疑うところはない。しかし、そんな安定感のある彼でもせいぜい一度、二度でジャイアント・キリングになるような盤面なのだ。

 より不確定要素の強いツナがそこに放り込まれるとなると、予想にまったく自信がなくなっていく。


「こうして細かく予想するまでは、なんだかんだで勝つのがツナ君だよなーって思ってたんだけど……さすがにコレは」

「やっぱり厳しいですかね?」

「いや……でも、ツナ君が負ける気もしない」

「どっちやねん」


 本当にそうだ。長く冒険者を見てきたクローシェとしてはこの手の観察眼に長けている自信がある。その眼を以てしても、あまりにカオスな予想にならざるを得ない。せめてトーナメントの枠位置が確定していればマシだったかもしれないが、それが決まるのは開始直前だ。


「……これ、多分オッズ荒れると思うよ」

「当てたらボロ儲け?」

「完全にカオスな様相だから、案外オッズの高いところに一点賭けすれば一番期待値が高い事になるかも」

「ふむふむ。では、そこに冬のボーナス全ツッパで」

「何言ってんの?」


 正気の沙汰ではなかった。


「いえいえ、私の場合、親のスネ齧って生きているところがあるんで。外れてもそう困る事はないかと」

「それでいいならいいけど」


 意外なところにギャンブラーがいたものである。

 しかし、クローシェはそれにしても……と考えざるを得ない。自分の中の何かが、予想を阻んでいる。

 少なくとも、下馬評通りにはならない。渡辺綱の事前評価を含めても、波乱の予感がする。




-4-




「……やばい」


 肝心のツナ本人としては、非常に焦っていた。

 時間経過のないダンジョン内での事だから、外では瞬き程度の時間しか経っていないはずなのに、何やら周囲の人間いろいろと騒ぎ立てているような気がしている。


「リーダー、どうします? もう次は……」


 ダンジョン籠もりとして、早々に各層を攻略、時間制限ギリギリいっぱいまで訓練を続ける。それを繰り替えしているウチに、とうとう第四十層の転移ゲートを潜ってしまった。なのに、未だ特訓の芽が見えない。

 ここから帰還するには時間切れを待つか、サーペント・ドラゴンを討伐しないといけない。

 間違っても死亡して帰還はできない。それをしたらレベルダウンペナルティで対抗戦が始まる以前に敗北が確定しかねない。

 いや、多分に博打の要素は含まれるが、このメンバーでもサーペント・ドラゴンの討伐は可能だろう。一人か二人脱落するかもしれないが、それでも不可能ではない。問題は、それを達成したところで肝心の慣らし運転はまったく進んでいないという事実が突き刺さる。


 レーネはこの場に至り、渡辺綱の苦悩と選択を観察していた。ユキの事は別として、自身のリーダーとしての価値があるのかどうか。

 一方で、キメラとゴブサーティワンは特に何も考えていない。どちらも……特にゴブサーティワンのほうは訓練の度に原形を留めないほどにボロボロになっているというのにケロっとしている。

 意外にも心配しているのサージェスだけだったらしい。


「このままだとボロ負け確定なんだから進むしかねえだろうがよ、いまさら何悩んでんだ、お前」

「とは言ってもだな」


 ここに来て、雑に扱っても問題ないメンバー選出が仇になってきた。

 この慣らし運転で問題なくついてこれるメンバーで、それが役に立っていたのはここまでの階層で実感している。

 これ以外のメンバーだったら、どこかで誤って自分の手自ら死亡離脱させていた可能性が高いとすら思っていた。

 だがしかし、サーペント・ドラゴンを討伐し、最適な構成でも未だ楽とはいえない第四十一層以上にこのパーティで挑むのは無謀に過ぎる。

 予定では、さすがにここまでの階層までくればある程度の結果は出ていると思っていたのに。


「選択肢は一つしかねーだろ。お前が後退なんてするはずねーんだから」

「いや、ガウルさんのその厚い信頼はなんなん?」

「お前、毎回そうだし、いい加減慣れるわ」


 それはその通り。下手に悩むくらいなら、少しでも時間を確保して訓練を形にするのがいい。

 弱気になっているのも、不安がっているのもただのフリで、お前の中では答え出てるじゃねーかというのがガウルの意見なのだ。

 そして実際その考えは正しい。どこか心配そうなサージェスだって、心の奥底ではそうなると思っている。

 キメラとゴブサーティワンに至っては、何も考えていないのはどうせそうなると分かっているからだ。

 ここに至り、判断を迷っているのは自覚もなく悩むフリをしているツナと、経験の薄いレーネだけだった事になる。


「分かった……言われてみればそうだよな。そんな賭けをするような盤面じゃねえとは思ってだけど」


 言ってみれば、たかが試合なのだ。星の崩壊がかかっているのでなければ、誰かの生死にも直結しない。ただ、過去に約束をして、なんだかんだでそこにいろんな人の思惑が吸い込まれて膨張しただけのただの試合。

 だからこそ、賭けを覚悟する盤面なのかと疑い、不安になっていた。

 しかし、考えてみれば、全力を尽くすのはこういう決断も込みの話なのだろう。


『残れない程度なら興味はないよ』


 かつて夜光に投げかけられたその言葉は真理だ。そこにはきっと、全力を尽くす盤面を創り出せないならという意味合いだって含んでいる。


「よし、行くぞ。目標第五十層だ」


 さすがにそこまでに形にならなければどうしようもない。そこに辿り着ける保証も自信もないが、それ以上になると最適なパーティ構成でも厳しいのだから、もはやただの無謀に過ぎない。

 タイムリミットはできた。どう足掻いても、それ以上はない目安が引かれた。

 その事が、未知のクラスを使いこなすための意識の改革に繋がるのかは分からないが、そうしなければならないと飲み込んだ。


 物理前衛ばかりの、悪夢の攻略が始まる。




-GGK2-




『いやね、実は情報が入っていて、ツナ君は特訓中なんだ』

『ほう』


 ギルド職員なら誰でも、というよりも調べれば誰でも分かるダンジョン・アタックの記録。アタック中の詳細までは分からずとも、どこに挑戦しているのかは容易に分かる。少し伝手のある者なら、それに向けてどんな準備をしていたのかまで一目瞭然だろう。

 つまり、渡辺綱がダンジョン籠もりのような、階層的に同じにしていいものなのかは怪しい何かをしているのは周知の事実といえる。

 だからこそ、こうして解説番組で話しても問題ないとゴブタロウは判断した。決して口を滑らせたわけではない。


『通常の攻略に加えて各層の時間限界まで使う、冒険者ならではの特訓方法さ』

『あまり聞かない話ですが、確かに前例はありますね。冒険者の解説をやってる身としては正直、上手くいく気がしないというか』

『物理的、精神的にかなりハードだからね。普通の攻略だけでもハードなのに、本来休息に当てる時間を特訓に使うわけだし。ついでに言うなら、いくら休息ポイントを確保できていようが、ダンジョン特有の精神負荷が確実に蓄積する』

『ですよねー』


 そう、それが容易にまかり通るなら、誰もがやっていておかしくない。なのに、実例はそう多くない。


『というか、むしろ昔は良くやっていた人が多い印象ですね。古い考えというか……』

『有名なところだと、< ウォー・アームズ >全盛期に新人訓練の一貫として似たような事をやっていたのが記憶に残っているかな。とはいえ、よっぼど適性がないと効率がいいとはいえない。かけるコストの割に合うかって問題もある。たいていは、ある程度実力を上げた上で、あるいは先駆者の力を借りて主戦場よりもかなり浅い層でやるのがセオリーだね』

『という事は、無限回廊だと浅層……第三十層までを使ったものになりそうですね。金銭面でのメリットは薄いですが、訓練として割り切るならまあ……と納得できなくもありません』


 そう、それがセオリー。かつて< ウォー・アームズ >がやっていたのも、実践経験が積み重なっているのも浅層を利用したものが基本だ。

 だからこそ、新人戦の際に問題なくツナへ提示する事ができたのだとも言える。


『でもね、今回ツナ君が申請しているのは第三十一層からなんだな、これが。しかも、とうていダンジョン攻略に向いているとは思えないメンバーで』

『……正気ですか? いえその……つい口に出てしまいましたが、とても成立するとは』

『私も無理じゃないかって思うんだけどねえ。……まあ、失敗してもなんらかの結果を持ち帰るのが彼だから』

『なんという評価でしょうか』


 とはいえ、どんな結果を持ち帰るにしても、あるいは失敗したにしろ、この番組内で語るような事ではないし、本人の許可なしに事前公表するものでもない。

 結果が出るとすれば当日。目前に迫ったクラン対抗戦。その予選トーナメントでの事になるだろう。


『いやはや、波乱の予感がしますよー。これは見逃せない! そんなクラン対抗戦の模様は、本チャンネルにで全試合解説実況付きで中継予定! 別途特別料金が必要にはなりますがっ! 当日のチケットが確保できなかった人は是非ご登録のほど!』

『私はVIPルームで観戦するけどね』


 そんな阿漕な商売が垣間見える解説番組の一幕であった。




-5-




[ 無限回廊第五十層階層ボス 八本腕撃破 ]




とりあえず、無限のターンは終了。(*´∀`*)

次はガチャか敗北よ。


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― 新着の感想 ―
腹も減るしもう敵食っちゃえば……
三人称視点なの珍しいですね
はたから見たら縛りネタプレイでも選ばないような凄まじい苦行進行 これはサージェスの同志達からの視線が更にあつくなっちゃうわ
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