第20話「獣の再動」
今回は【第9回二ツ樹五輪プロジェクト】その無限の先へ 第4巻出版(*´∀`*)の「二ツ樹五輪 次回Web投稿作品選定コース(限定7名)」に支援頂いたのすけさんへのリターンとなります。(*´∀`*)
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何故、< アーク・セイバー >の個人戦代表がゴーウェンである事を意外に感じたのか。
まったく喋らないが、割と自己主張は強いし、実績だって……コレには自画自賛も含まれるが、極限に近い。あいつが強い事なんて元から百も承知で、ポジション的に眼の前で見る機会だって多かった。
< 鮮血の城 >の試練に耐え切った事、それに続くロッテとの最終戦、< 静止した時計塔 >でのベレンヴァールとの死闘を見て、同じ事ができる奴がどれほどいるのかという話である。
もちろん、冒険者全体を見渡せばやれそうな奴はいるし、この合宿に参加している中にだってできそうな奴はいる。……燐ちゃんとか。だが、その事実は決して評価を落とすようなものではなく、むしろ最大級に評価しているとさえ言えるだろう。それはつまり、冒険者全体で見ても上澄みという意味だし、ここにデビュー時期の条件を加味するならトップクラスなのは確実だ。
下手に俺たちと似たような実績だから謙遜の意味も含めて誤解しそうになるが、さすがにこの評価を間違える事なんてない。
思うに、奴とフィロスとの関係や立ち位置が問題なのだ。俺の中でフィロスのイメージが強過ぎて、それを跳ね除けて代表になるのなら知らない奴だろうという意識もあった。
というか、決してメリットばかりではないとはいえ剥製職人の影響を受けているフィロスやユキと違い、特筆する背景を持たない……少なくとも今の時点では判明していないあいつがここまでの実績を残しているというのは驚異的だろう。
冷静に考えてみればなんて事はない、極々普通にあり得る結果だろうとしか思えない。単に、印象のせいで候補から外れていただけである。
……要するにゴーウェンはもっと喋れやという話だ。
「そう言われると、納得しかねえな」
「普段から最大限評価しているつもりだったんだけど、本当の意味で負けると思ったのは代表決定戦が始まってからなんだよね」
お前の対策をするからと真正面からゴーウェンへと言い放つフィロスに連れられて、俺たちは訓練場併設の会議室へと移動。
当のゴーウェンはフィロスを咎める事もなく俺たちを送り出して、他の連中との模擬戦に向かって行った。今はこっちのほうが本番だと言わんばかりにマーセルのところに歩いて行く表情には困惑しか覚えなかったが、つまりいくらでも対策してこいという意味なのだろう。実に漢らしい。
ちなみに本件とはまったく関係ないが、マーセルは最近追加で嫁さんを迷宮都市に呼び寄せたらしい。写真も見せてもらったが、かなりの褐色美人さんだった。すごいね、ハーレムマスター、マーセル・グランゾ。いつか、お前の入墨と精力には関連性があるのか訪ねてみたい。
「あれ、空いてるはずなんだけど……」
訓練場内の会議スペース前。更衣室に併設された、訓練場から直接入る事ができる簡易会議室は現在使用中だった。
ギルドカードから確認可能なスケジュール時間を見る限り空き時間のはずだが、前の利用者が延長しているだけらしいのでおとなしく待つ事にした。
ふと訓練場のほうを見やると、ゴーウェンの模擬戦が始まっているのが見えた。相変わらずの豪快なゴーウェンとマッチョなのにトリッキーなマーセルとの戦いはなかなかに見応えがある。まるで、仇同士が相まみえる宿命の対決のような雰囲気だ。
「ボクだったらゴーウェンと一対一でとかやりたくないけどね。勝ち目がないとは言わないけど」
「まあ、お前との相性は悪いよな。どんだけ体重差あるんだよって話」
いつの間にか合流していたユキ的にも、ゴーウェンの評価は高い。
狙ったわけではないのだが、これでゴーウェン以外の同期で記録持ち三人が揃って対策会議をする事になってしまった。本人は気にしてなさそうだが、俺がやられたら阻害感を感じてしまいそうである。
「いや、元々はチーム戦の打ち合わせだからね?」
そうだった。
「実は僕が代表戦で負けた原因もそこなんだよね。ちょっと誤認があったんだ」
「誤認? ……そこってどこの事だ?」
「えーと、多分、体重差のところ?」
「そうなんだよ」
なんだあいつ、太った……わけじゃないよな。いつも腹筋や腕出してアピール気味だし。こうして見ててもバキバキやぞ。
「あー、身長伸びてるしね、ゴーウェン」
「確かに若干でかくなったような気も……その分重くなった?」
「若干じゃないよ。僕のほうは伸びてないから比較すると分かり易いと思う。ユキも伸びたよね?」
「地獄の無限訓練あたりで、ちょっとは伸びたんだけどねー。アレ見てると誤差みたいな感じ」
あんまりそんな印象はないんだが、言われてみれば確かに伸びてるような。とはいえ、男だし、違和感しかないがまだティーンだし、身長伸びる事はおかしくないとは思うぞ。
「ツナは自分がかなり伸びてるからねー。それであんまり感じないのかも」
「あー、確かにな。そう考えると、相対的に俺より伸びてるのか。横にも前後にもデカいから、体重差なんてそれどころじゃないな……ああ、そういう意味か」
ようやくフィロスが言っていた誤認の意味が分かった。身長や体重が伸びた事も関係あるが、それ以上に注目すべき点は……基礎能力だ。
単に体重が増えただけでも戦闘力には直結するが、全体の出力が劇的に上がればそれどころじゃない違いが生まれる。
「ステータスやスキルだけなら目に見える分成長を把握し易かった……というかしてたんだけどね。その出力を支える身体能力の成長が想定外だったんだ」
「良く考えたらゴーウェンって巨人の血が入ってるし、ひょっとしてまだ成長期?」
「実際に成長期かは分からないけど、人間よりはるかに長命な巨人の血が入っている時点で、寿命も成長期も長いと考えたほうが妥当なんだよね。類似例で調べても個人差が大きいけど、傾向としてはそんな感じだし」
そういえば、ダダカさんから聞いた事があったような。冗談っぽく、今が成長期だって。人間なら中年、下手すりゃ壮年って呼ばれる年齢で成長期はねーだろとか思ってたが、長命種ならあり得る話なのか。あの人のほうが巨人の血は濃いはずだし。
……という事は、同じく長命種の血が入ってる美弓とかも成長期に入ってない? 今回も参加しているはずだが、見渡しても姿は見えない……代わりにあいつのところの高身長ボインさんはいたけど、あの人こそ長命種っぽい年齢詐欺だから参考にならんし。なんであんなところでお茶飲んでるんだ? あの人。
「全然筋肉付かないボクと正反対だね。ちょっとうらやましいかも」
「筋肉ムキムキで俺よりでかいユキさんとか見たくないんだが」
「うっ……確かにノーサンキューかも。……うーん、でもなあー、課題ではあるんだよね」
ステータスに寄らない部分の身体能力は極めて重要だ。一般的に、冒険者としての成長がステータスで語られる事が多いのは、デビュー前の時点である程度体が出来上がっていて、そちらの出力を伸ばす余地が少ないからである。ただでさえ、ステータスは倍率補正と言われてるんだから、掛ける元が成長するなら意味がないわきゃないのだ。
未だステータスの倍率計算に曖昧な部分が多い点として、種族や性別ごとに補正が違うんじゃないかって話も聞くが、たとえ巨人の血のせいで多少倍率が下がっていようが、元の成長幅がでかいなら関係ない。龍人みたいな極端な例と比べれば、人間との補正差なんて誤差みたいなものだろうし。
……そういえば、前にダンマスの授業で聞いた器云々の話からすると、俺も補正値がぶっ壊れてる可能性あるんだよな。まだレベル上がらんし。
「つまり、あいつは物理アタッカーとしてとんでもない成長をしているって事な」
「魔術的な干渉は変わらず弱点としても、それ以外の穴って、ゴーウェンって頑丈だし、意外に器用だし……」
「最近装備で補強してるから、スピードはむしろ強みかもね。直線的な突進力は、切り返しの速さもあってちょっと無視できない」
今もマーセルに突っ込んでいってるしな。避けられても直角ターンで追い縋っている。あれは普通に怖い。
というか、位置取りや直線ダッシュの軌道も上手い。避けられても即座に方向転換して追撃、逃げ場を減らすように立ち回っているのが分かる。ちょっと前から取り入れた戦法らしいが、ずいぶん熟れてきているな。
「となると、小回りの効かなさと手数の少なさあたりが穴だな。……なんだ、マジでユキと正反対じゃねーか」
「いくら外そうが一発当たればチャラっていうのは魅力だよね。そういう相手への定石は遠距離攻撃だけど……」
「ゴーウェンは《 矢避け 》のギフト持ちなんだよ。牽制用に覚えてる僕の魔術じゃ無効化される」
……つまり、代表選抜戦で実際にされたんだな。となると、付け焼き刃で修得してる俺の《 弓術 》や投擲関連のスキルは通用しないと見ていいだろう。
あいつの《 矢避け 》はギフテッドと呼べるようなものではなく、むしろ弱い類のギフトらしいが……それでも本体のスペックを考慮すれば十分に脅威だ。
防御系のスキルはともかく、タンク系統のスキルは増えてないから盾役は適性がないにしても、一対一ならあまり関係ない。こうして評価すると、つくづく物理アタッカーとしての完成度高えな……。
「というわけで、ツナにはこれらを踏まえてゴーウェンをねじ伏せてほしいところだね」
「そこは同じクランとしてゴーウェン応援するところじゃね?」
「僕の目標的にも、ツナに負けてもらっちゃ困るしね。モチベーションにも関わる」
「自分が負けた腹いせはないの?」
「そりゃもちろん。負けた時のドヤ顔がムカついたし、けちょんけちょんにやっちゃっていいよ」
フィロスはブレないな。まあ、だからこその《 因果への反逆 》だったのかもしれないが。
同クランだからマッチングは控えめとはいえ、合同訓練でさんざんやり合ってるのは見てるから、普段の勝率がフィロス優勢なのは分かる。そんな状況でここぞのタイミングで負けたのは悔しいんだろうな。逆に向こうは嬉しかっただろう。あいつ、喋らないだけでドヤ顔するし煽ってくるし。普通にウザい。
「ゴーウェンだけじゃないし、予選から大変そうだね、ツナ」
「……まったくだな」
団体戦や勝ち抜き戦と比べて、個人戦は実に魔境だ。枠はランクごとに用意されるとはいえ、事実上の魔境だし、これが本番だと気合入れている人も多い。実際に世間的評価もコレが一枚以上上の扱いである。
どこも枠いっぱい使ってエース級を投入してくるから、予選で気を抜けるところがない。現時点でエントリーしてる他のメンツ見ても油断なんて欠片もできないし……というか、基本的に格上ばっかりだし。
それで決勝トーナメントに進んでも、そこからが本番、待ち構えてるメンツなんて地獄そのものだしな。
……そういえば、トカゲのおっさんもいるな。エントリーはまだみたいだが、そろそろ帰って来るんだろうか。
「というか、会議室なかなか空かないね。遅くない?」
ゴーウェン対策会議のつもりが、会議室前の雑談ベースで終わってしまいそうだ。
しばらく待って、しびれを切らせたユキがノックをしたら、中から慌てた感じで謝罪が飛んできた。なんかスケジュール上は空いてたから油断してたらしい。
「うおーーーっ!! 最近弄ばれてばっかりの俺の怒りを喰らえーっ!」
バタバタと聞こえる音を背景に、再び訓練場のほうに目を見やると、微妙に最近いいところがないガウルとゴーウェンの模擬戦が始まっていた。近くにマーセルがボロボロで倒れたままなので、連戦って事だろうか。
……そういえば、ガウルの能力と戦闘スタイルは、ゴーウェンに対する最適解に近いかもしれないな。防御に難があるとはいえ、一発もらっちゃ致命的な以上はあまり変わらない。加えて、あいつのギフトじゃ扇状放射型のブレスは防げない。実際、あいつもやりづらそうだ。
「そういえば、新人戦の頃は三人でひたすら模擬戦回してたんだけど、あの頃からガウルとの勝率は良くなかったね」
「そうなのか。ちなみにお前の勝率は?」
「< 魔装士 >のスキル群はガウル相手にハマるし、対ガウル戦はゴーウェンより相性良かったよ。今も……相性自体は変わらないかな?」
「まあ、今も勝率いいしな、お前」
「聞こえてんぞ、フィロスっ!! 次はてめえだっ!」
「はいはい、あとでね」
と、俺以前にガウル相手にけちょんけちょんにされたゴーウェンが場外へ転がされた……が、今度は先に陣どっていたマーセルと小競り合いを始めた。模擬戦ではいつもバチバチにやり合ってるけど、あいつら仲悪いのかな?
「うーん、やっぱり一対一だと相性の差は大きいよね。正面戦闘特化型相手だと厳しい」
「遊撃担当なのに、そういう奴ら相手にそこそこ勝てるお前や摩耶はむしろ異端だからな」
実際、その極みみたいなクロは全然勝ててないぞ。本人もそれで割り切ってるし。
訓練場見渡してもあいつは見当たらないが……って中か、かすかに声が聞こえるな。会議室延長してた犯人の一味か。
「いや、さすがにそろそろ切り替えていく時期なのかなーってさ」
「普通はとっくに分業態勢になってる時期だしな」
たいていの場合は中級に上がる以前に役割分担をはっきりさせるのが普通だ。クロのところなんて学校時代からはっきりしていたらしいし、それよりは曖昧とはいえ美弓たちも個々の強みははっきりしている。そういう強みをはっきりアピールできる分、野良でも採用され易いというメリットもある。ほぼ全員がいろいろできるウチみたいなのは異端だろう。ユキが言うように、そんな俺たちでもそろそろ少しずつ特化型へ切り替えていく時期なのかもしれない。
すぐ横に、本当の意味でなんでもできるゼネラリストがいるが、フィロスの場合はそれを目指しているわけで、相当に異端だろう。
ただまあ、ユキに関してはどうなんだろうな。以前見た、完全にリミッター解除された状態は正面戦闘でもアホみたいに強かったし。
「剥製職人の器としてのボクがある意味完成形みたいなものって思ってたんだけど、最近そういうわけでもないんじゃないかって思ってさ」
「アレはあくまで今のお前がそのまま成長したケースじゃね?」
「やっぱりそうだよねー」
アレを分類するなら、敏捷・器用特化型のアタッカー。力がなくとも一対一の正面戦闘は成立する一つの形だ。実力相応の力を出せていたかは怪しいもののヴェルナーを圧倒していたし、ゲルギアルとも正面から打ち合っていた。
ゲームなら攻撃力が足りなくてダメージが皆無ってケースはあるけど、現実ならそんなはずもなく、スピードが乗った攻撃はそれだけで致命傷になり得るという好例だろう。
さっきこいつ自身が言ったゴーウェンとの相性差だって、ある意味常識的な今だからこそのケースなのかもしれない。
冒険者はやがてそんな領域を超越する。超越しないと先に進めないのが上級冒険者なのだから。
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「さて、じゃあ本題のチーム戦について。司会進行はボクが担当するね」
「そりゃお前の課題だからな」
「おーパチパチパチ」
中で自主延長かましていた連中を追い出して、ようやく会議室に入る俺たち。いまいち片付いていないが、使うのはホワイトボード前だけだからあまり関係ない。
「パチパチじゃなくて……ルーニーは片付けするので残ったんじゃないのかい?」
「こっちもちょっと気になるし。ほらほら、スケジュールを見る限り次は空いてるし」
そんな事考えてたら埋まるんだぞ。俺たちが申請入れるついさっきまでは空いてたわけだし。
「仕方ねー。お姉さんはティーセット片付けつつカメラ外からの参加とするぜ」
そもそも、お前らなんでお茶会始めてんだよって感じではあるが、そこは別に咎めるつもりはない。声かければ良かっただけだし。
「気を取り直して今日の本題だけど、チーム戦の選抜に悩んでるんだよね。それで、できれば経験者のフィロスから意見を聞きたいって話」
「そういえば、最初はその話だったね」
「創設直後のクランなのに贅沢だねえー。お姉さんは今年選抜落ちしたのに」
お前は黙って片付けしろよって感じだが、そうなのか。
「ルーニーはメンバーほぼ固まってたところに割り込んでいったのが悪いよ」
「だってー」
何がだってなのか知らんが、その続きはない。
「実際贅沢な悩みではあるんだよね。たいていの場合、選択肢がなくて決まりきってるか、< アーク・セイバー >みたいに選抜戦やるかって感じらしいし」
普通はそうなるか。両極端なようにも見えるが、クラン内でウチほど拮抗しているのは稀だろう。誰が出てもそれなりに成立しそうな状況だから困っているんだし。
「あー、選抜戦かー。確かにそれアリかも」
「出たい奴らでチーム作って、代表戦やる感じか? 確かにそれなら相性の問題もある程度解決するな」
「こっちでアレコレ考えなくていいのは助かるよね。自分たちでメンバー集めるなら、調整の必要もないし」
クラン内での最強チームにはならないだろうが、選抜戦を勝ち抜いた時点で一定の実力とチーム相性は担保される。
なんなら、チームメンバーを集めるのもリーダーの資質と言えなくもない。争奪戦の早いもの勝ちだ。案外、リーダーが誰かで出場を決める奴がいるかもしれんし。
「じゃあ、リーダーとして出たい奴を募って、各々でメンバーを集める感じになりそうだな」
「そうだね。……なんだ、あっさり解決しちゃった」
会議が始まって間もないのに、決着がついてしまった。外で話していたゴーウェン対策のほうがよっぽど長かった。
ユキがホワイトボードに書いていた候補一覧すらまだ書き切っていないのに。
「ふー、終わったぜい。あ、そっちでも選抜戦やる感じ?」
と、一度は始めてしまった一覧表記述の手を止めかねていたところでルーニーが戻ってきた。
「どうせならウチの代表チームの対策暴露するよ。ムカつくし」
「フィロスもお前も、なんで味方を裏切るのか」
「ルーニーと一緒にされても。君の場合、レイリス……お姉さんが原因だろ?」
「うん。一〇〇パー私怨」
私怨と言い切ってしまうのか。
「えーと、確か転生前の因縁があるんだっけ?」
「そうそう。両親の前じゃ言えないけど、ぶっちゃけ死んでほしい」
「そ、相当だね」
毒舌で鳴らしたユキさんも引くレベルである。さんざん聞かされたのかフィロスは苦笑いしているが、その話は以前から聞いている。
ルーニーはこうして軽い感じで言ってるから深刻に聞こえないが、死んでほしいというのもそれなりに本気度は高いっぽい。公然と殺しに行く事はないものの、できれば死んでほしい。夜光さんがリグレスさんに死んでほしいと言う程度には本気だ。
なら、なんで同じ冒険者になって同じクランに入ってるんだよって感じなのだが、姉のほうは関係改善したいらしく、ルーニーを追って入団という感じらしい。
二人揃ってトップクランの< アーク・セイバー >入りというのもなかなかにすごい話だが、ルーニーがフィロスのクランへの入団を表明している理由の中には、姉から離れたいという意思が少なからず含まれているのだろう。
「だいたいねえ、前世の事は反省しましたとか言いつつ、今回の代表パーティ自分以外男じゃない」
「冒険者はどっちかと言えば男社会だが」
「そんなわけあるかい。< アーク・セイバー >の同ランク帯にどんだけ女いると思ってんのよ」
だよなあ。候補にはならないだろうが、少なくとも目の前に一人いるし、ウチに出向してきてるのも一人いる。
「揃いも揃って優男。特に普段クールキャラ気取ってるセンジュウロウとか、変わり身が激し過ぎて超キモい。えーと、こいつねこいつ」
そう言ってルーニーが見せてくる写真は確かに乙女ゲーのパッケージかと言わんばかりの絵面である。パッと見、中央にいるルーニーのお姉さんが純朴そうなのがよりそれっぽい。
そこまで忌み嫌っているのに、データとはいえなんで写真を持ち歩いてるのかと言えば、いつでも恨みを忘れないようにとの事。勘違いして、実は仲良しなんじゃないのーとか言い出したら即拳が飛んでくるだろう。実際、似たような事を誰かがやられていた。
ちなみに、美弓は乙女ゲーっぽい構図に興奮していた。
「アレは一種の特性なんだろうね。端から見てると分かり難いけど、そういう星の元に生まれたというか……」
「ツナみたいな?」
「そうそう」
なんでやねん。言いたい事は分かるが、俺はハーレム体質じゃねえぞ。一緒にするな。
「そいつらって、個別に対策必要なほど強いのか? 言っちゃなんだが、バランス偏らん?」
「正直、そこまででも。ルーニーが割り込んで負けたチームだって似たようなレベルだったし」
これは、似たようなレベルのチームに割り込んだせいでチームワーク崩れたっぽいな。
「まあまあ、対策用のデータをまとめたのにもったいないから、素直に受け取ってよ」
「チーム数的に当たる確率は高そうだし、もらっておけば? ユキ判断で」
「え、ボクが決めるの?」
「個人戦に集中したいから、チーム戦のほうの責任者は任せた。お前が代表チーム入りしなくても」
「……いいけどね。じゃあ、とりあえずメンバー情報だけでも」
「代表選抜の時にまとめたのあるから印刷してくるね」
「あとでいいんだけど」
印刷するとなると面倒に感じるが、記録媒体さえあればこの部屋備え付けのプリンターでも印刷できるらしい。そして、実際に提示された情報を見てみるが……。
「う、うーん、< アーク・セイバー >にしてはちょっとって感じ?」
なんというか、ステータスやスキル、実績など、表記できる形で見ると、あまりパッとしないメンバーが並んでいた。その中であえて見るところがあるとすれば、やっぱりルーニーの姉であるレイリス・コーレンだろうか。前面に出る戦闘スタイルではなさそうだが、サポーターとしてかなり有能っぽい。そこら辺、新興宗教の教祖のイメージとは合致していると言えなくもないな。
「< アーク・セイバー >って、元々対外的なイベントに消極的だからね。人数が多いから出場希望者もそれなりで、選抜戦もやるけど、メインはあくまでダンジョン・アタックって方針だから。個人戦のほうも、今の僕やゴーウェンじゃ正直厳しい相手はいるんだけど、ほとんど辞退してたし」
どういう事なのかとフィロスに視線を送ると、解説をくれた。
クランの序列的に< アーク・セイバー >の出場枠は多いし、剣刃さんが個人戦トップにいるから勘違いしそうだが、確かに他のクランとあれこれってあんまり聞かない。パーティを組むのだって基本クラン内でだし、一〇〇層の合同攻略だってかなりの例外だ。摩耶の出向だってかなりの例外である。
思い返してみれば、去年も別にそこまで勝ち進んではいなかったはずだ。フィロスたちだって、格上のパーティ相手に健闘はしても負けてたし。
「なるほどねー。これじゃ、ウチと当たる前に負けそうなんだけど」
「そこをなんとか直接ぶちのめして欲しい」
「無茶言わないでよ」
「そりゃそうだよね。……でも、あいつらに勝ち進んでほしくないからなー」
勝ち上がってこなけりゃ、そもそも対戦カードが成立しないのだ。
< アーク・セイバー >はそこまで力を入れてないかもしれないが、対抗戦に向けて全力なクランだって普通に多い。そういうところに当たったら普通に負ける可能性は高いだろう。というか、ウチだって注目はされるだろうが別に本命というわけではないし。
「そのボードに書いてある名前なら、どんな組み合わせでもアレには勝てそうなのに」
先ほど書き終わったが、ホワイトボードにはウチで参加可能なメンバーがずらりと並んでいる。
個人戦出場が決まっている俺や、事前に自粛を言い渡されているベレンヴァールや三龍、そもそも正式にはまた冒険者ですらないロクトルは除外。名前はあっても出場自体辞退しそうなラディーネやディルク、チームカテゴリに合致しないガルドや水凪さんを省いても十分に優勝を狙えるチームだ。
無差別級で魔境と化している個人戦とは違い、チーム戦はある程度ランク分けされているから、しばらくは極端な格上とも当たらない。ガルドたちを入れて上のランクに殴り込む事はできても、あえてそれをする理由もない。
これでクランとしての枠が複数確保できているなら、ダメ元で格上ランク用のチームを作っても良かったのだろうが、新興も新興のウチに用意されているのは最低限の枠だけである。
だからというわけではないが、個人戦はメインイベントでありつつも、基本的に強い奴が上位に居座って飽きが出始めているのが世間一般の評価だ。それが今年は一〇〇層攻略者の殿堂入りルール制定があった事で盛り上がってしまっている。俺にとってはハードルが上がってキツイ状況だ。
というわけで、フィロスとルーニー共に私怨は含みつつも、そこからの打ち合わせは経験者として重要なアドバイスをもらう事ができた。
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お互い勝ち進めば予選のどこかで当たるとはいえ、普通に考えるなら俺とゴーウェンがマッチングする可能性は低いのだが、避けて通れない気がするのは何故だろうか。
当たり前だが、今この時間は、かつて強制的に見続けさせられた過去じゃない。唯一の悪意の因果誘導にだって関わるような気はしない程度にはささいなイベントだろう。たとえば、出場するのがフィロスなら、なんらかの影響で当たるよう誘導されてもおかしくはないと思えるのだが、それらとはまったく関係ないところでゴーウェンが立ちふさがるような予感を感じている。
あと、何気に怖いのがトカゲのおっさんだ。シード落ちしたとはいえ、長年上位に居座り続けた実量も無視できないが、それ以上に何かとんでもないものを引っ提げて戻ってくる気がしてならない。
組み合わせは基本ランダムとはいえ、一回戦だけは個人戦ランキングで調整される関係からどうしたって極端な格上と当たる事になるはずだ。実力的に見れば一つ勝つのでさえ大金星なのに、当たるかどうかも分からない相手を警戒する余裕はあるのか。
夜光さんの要望に従い、頑張って出場まではこぎつけたものの、なかなかに前途多難である。今更だが、借りた刀ぶっ壊した引き換えと考えるには重過ぎる気がしないでもない。
「こんちゃー」
そんな事を考えつつ唸っていると、訓練場の入口から誰かが入って来た。
見れば、先日の遠征の結果謹慎処分……というか、いろいろと内部調整が必要という事で不参加になっていたはずの土亜ちゃんである。
それはまあいいのだが……驚いた事に、彼女の脇には色彩が違うだけでまったく同じ容姿、格好の女の子が引っ付いている。その場にいただけに、彼女がカミル……の分け身である地霊院カミルであるのは分かるが、実際に動いているところを見ると双子なんてレベルじゃなく土亜ちゃんそっくりだ。
迷宮都市居住や上層部でのアレコレで土亜ちゃんと共に手続きしていたはずだが、こうして街を出歩けるようになったのか。
あの時聞いた限りでは幼児通り越して乳児みたいなものって話で、それが普通に歩いてるだけでも驚きだが、コミュニケーションも通じる状態にはなったというなのか、囲まれて「その子が例の?」とか「可愛いー」とか聞こえる中、普通に反応をしているっぽい。
もの珍しいのもあって、しばらく入口付近でワチャワチャしていたものの、しばらくしたら俺のところにもやって来た。
「この人が渡辺さんや、カミルほら挨拶……何、隠れとるん?」
しかし、俺を前にすると、カミルは土亜ちゃんの後ろに引っ込んでしまった。
「怖いん? 見た目だけならもっと怖い人おるのに。……すいません、渡辺さん」
「あーいや、なんとなく分かったから気にしなくていい」
カミルが俺を見る目には多分に怯えの感情が見えた。最初こそ不可解だったものの、良く考えたらそれはあり得る話なのだ。
原因はおそらくイバラである。表面上取り繕ってはいたが、元のカミルだってイバラへのトラウマは魂に深く刻まれていたはずだ。そんな彼女の分身なら、たとえ知識を引き継いでいなくとも、残り香を感じて本能的に怯えてしまってもおかしくはない。
実際、見た目だけならゴーウェンやマーセルのほうがよっぽど怖いはずだ。怖い雰囲気出しているつもりもないし。
「というか、もう歩けるんだな」
「肉体的な機能だけなら、うちとあんま変わらんよ。話すのはまだ無理やけど」
「うー」
なんか威嚇された。その姿にいつかのセラフィーナを連想させるが、あいつと違って噛み付いてきそうな雰囲気はない。ただ怯えているだけだ。
「その子、これからどうするつもりなんだ? 冒険者にすんの?」
「う?」
言葉の意味は理解しているのか分からないが、反応は小動物である。
「うーん、どうしよかな。普通に学校通わせて、普通に就職してって感じでもええと思ったんやけど」
「そもそも、土亜ちゃんが普通に学校通ってなくね?」
「いやまあ、そうなんやけど……かといって冒険者直行ルートもどうかと思うんよ」
「才能ないって事はないだろ」
むしろ、冒険者になるために生まれてきたような出自ではあるし。最低限どころじゃなく保証されているはずだ。
「どうやろな。冒険者としては、少なくともうちとはまるで方向性ちゃうし」
「そうなん?」
「そうなんよ。いざカミルの力を受け取るって段になって気付いたんやけど、相性というか噛み合わせ悪いねん。うち基準だと才能うんぬんは判断つかん」
うん? 未来の土亜ちゃん……というかカミルはs2シャドウしか知らんが、s1に並んで前衛に立てる時点で……。そういえば、アレってカミル以外の要素残っていたか?
今の戦闘スタイル知っているから気付けるが、土亜ちゃんってほとんど純サポート型だぞ。……そういう意味だと、s2は土亜ちゃんというよりカミルなのか。
「今すぐどうこうって話でもないし、しばらくは地霊院でいろいろ教えるか。学校でって思ってたんやけどな」
「やーん」
「こんな感じで離れんねん」
俺を怖がってるのに離れない時点でそうなるのかもな。ただ抱きついているわけじゃなく、服が乱れるのも構わずしがみついている。
「そこら辺は独断でやった土亜ちゃんの責任だな」
「いろんな人にそう言われたわ」
「あの髭の四神じいさんにも?」
「おにぎりの爺ちゃんは髭吊りの刑で話聞けんかったけど、他の四神や巫女はそうやね」
前も言ってたが、髭吊りってなんだよ。髭で何すんだよ。
「あっちでも言ってたけど、水凪さんも?」
「うん。巫女集で味方してくれたのは炎火ちゃんくらいや」
「ほのか?」
「焔理ちゃんの後継者候補や。少し前から一緒に仕事しとるんよ」
その焔理ちゃんも良く知らんのだが、更に後継者か。ここまで会った巫女さんみんな若いから、ピンとこない。
「まあ、しばらくはこうしてうちが面倒見つつ様子見って事になりそうや。でも、それだと刷り込みで冒険者になってしまいそうでなー」
「なー」
「それ込みで選択肢みたいなもんだから、妥協するしかねーな」
「うむむ……姉というか親というか、なんて言ったらええか分からんけど、責任が……」
その年で考える事じゃないと思うんだが、経緯を考慮するならそうも言えんしな。
俺的にはそのまま冒険者にしても問題ないと思うんだが、選択肢を用意したいって気持ちも理解できなくはない。
と、当初はそんな感じで土亜ちゃんにべったりに小カミルだったが、何度か合同訓練に同伴してくる中で情操教育が進んだのか、主に面倒見たがりな奴らと遊んでいるところを良く見るようになった。託児所か何かにしか見えないが、ある意味参加者の癒やし枠にもなっているのでそう悪い話でもない。次第に言葉のボキャブラリーも増えていった。
地霊院でも似たような感じで少しずつ土亜離れが進んでいるらしいので、今後どうするかはまだまだ保留になりそうだ。
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[ 無限回廊・第五十一層 ]
「これまでも目に余る行為はありましたが、下準備や根回しを欠かさないのが土亜でした。それが今回の件は随分とあの子らしくない、突発的であった事を加味しても見過ごせない問題だったんです」
後日のダンジョン・アタック中の休憩時間、水凪さんの立場から見た土亜ちゃんの処遇について説明を受けた。
詳しく聞いてみれば、従来の土亜ちゃんのやり方はそればもう異論を挟めないほどの材料を用意して、真正面からの正攻法で突き進むタイプらしい。おかげで、対応した大人は警戒し、避ける傾向が強いのだそうだ。
実際、ぐうの音も出ないほどに正しいから文句も言い難い。清濁合わせ飲めず、理想に燃える政治家がそのまま力を持ってしまった感じである。
「今回の件で一番の問題は、ダンマスの切り札云々の話だよな」
「はい。正直あれ一つでどうこうという事はありませんが、一度きりしか成立しない事を前提にした秘密兵器のようなものでして」
「対全治全能って言われてもピンとこないが」
「すいませんが、渡辺さん相手でも詳細の説明はできないんですよねー。これに関しては一切情報公開しておらず、私たちがすでに修得している関連スキル群も非公開になってます。ディルクさんや情報局ですら、そういうものがあるという事しか知らないほどです」
用途だけでも当たり前な気はするが、相当に厳重に管理された情報らしい。
それにしてはダンマスはある程度説明していたが、それは全体を管理し、危険な範囲をはっきり認識している中心人物だから口にできる事であって、普通なら関係者でも一切口にできないような内容だという。確かに、話題にして余計な事まで口にする可能性を考慮すれば、最初から何も言わないほうがいい。
「ダンジョンマスターたちですら行使できない現象を引き起こすものと聞けば、事の大きさが分かり易いかもしれませんね」
「すげえ分かり易い」
個人で星ぶっ壊せるような人でできない事か。そりゃヤベえし、まさしく切り札だ。
それを一部とはいえ勝手に行使したってのは確かに問題だろう。
「あの風花ですら、今回の件は軽率だと窘めるほどでして……」
「マジかよ」
「渡辺さんにその反応されるのは風花も不本意でしょうが、まあそういう事なんです」
ちなみに、水凪さんもアレと同じ事をできるのかといえば不可能なのだとか。四人が受け持つ担当はバラバラで、それに伴う関連スキルもバラバラ。同じ事ができる……かもしれないのは土亜ちゃんと地神ヴォルダルのみという話だ。ダンマスレベルになると水凪さんでも分からないが、おそらく不可能との事。
そもそも、四神や巫女が行使するスキルはダンマスたちとは重複しないものがほとんどなのだとか。
「ダンジョンマスターたちができない事、不得手とする事を補助するのがそもそもの目的だったとか」
ダンマスにできない事なんてあるのかって感じはするが、こう言うのだからあるのだろう。
「私たちが巫女である事、神道そのものでない真似事であっても基盤に置いている事にも意味はあるんです」
「ダンマスの趣味じゃなかったのか」
「あの方に、そんな趣味はないと思いますよ」
まあ、俺じゃないんだから、そこに意味はあるか。あるいは極度の日本贔屓っていう那由他さんがきっかけくらいにはなっているかもしれないが、それだけではないと。
おそらく地球上に存在した他の宗教では駄目で、神道でないといけない理由があるはずだ。
「そういえば、土亜ちゃんからちょっと話を聞いたんだが、火の巫女さん世代交代すんの?」
「あー、今のところはまだその予定はありませんけど、確かに準備は進めてますね。というよりも、候補がいれば私たちも同じように準備すると思いますよ」
ああ、たまたま火の候補だけはいたから進めてるって事か。確かに間違いなく狭き門だろうしな。
元々ただ事でない才能と適性持ちでないと担えない仕事とは思っていたが、今回の話を聞いて余計にそう思うわ。
「それと、焔理さんは以前から引退したがっていましたので」
「あ、そうなのか。やっぱり激務だとかそういう……」
「いえその……結婚したいらしいです」
クソ現実的過ぎて引くレベルの引退理由だった。
「やっぱり、巫女さんって結婚できないのか?」
「そんな事はないですよ。ただ、今の立場だと相手を探すのも難しいと」
決まった相手がいるわけですらないのか。この場合、時間がとれないだけじゃなく、立場が邪魔しているってのもあるだろうな。間違いなく迷宮都市の中枢部分を担う幹部だし、逆玉狙ってる奴だって尻込みするレベルのVIPだ。ああ、確かに納得かも。
「おいツナ、やっぱりもう少し狩りせんか?」
「うお」
「わっ」
迷宮都市上層部の結婚事情について感嘆していたとろで、ガルドに声をかけられた。中に入れないから仕方ないが、唐突に窓を全面占拠して話しかけてくるのはびっくりするから勘弁してほしい。
「なんだよ、急に。確かに今日は不完全燃焼だったけどさ」
ここのところ、クランの中で最も攻略が進んでいる組……つまりガルドや水凪さんを含んだメンバーが定期的なダンジョン・アタックでやっているのは、転送ゲート前に陣取っての戦闘、つまりいわゆる狩りだ。
そろそろ第五十層突破組も増えてきたので、次の層に進む事を検討する段階には入ってきたのだが、壁と言われるだけあってやはり第五十一層以降の難易度は高く、近場に安全圏を抱えた狩りならともかく長丁場の攻略は博打になりかねない。なので、この層に来てから結構な期間が経つのに、未だ攻略層が移動していないのである。
「お前も、対抗戦を前にLv50にはしておきたかろう」
「そりゃまそうなんだが……」
根本的な問題の一つとして、俺のペースレベルが一向に上がらない事が上げられる。全体の攻略進捗的にまだ余裕はあるものの、本格的に他の連中が追いついてきたらどうするかと頭を悩ませているところだ。
かと言って、経験値的な目安が役に立っていない現状、狩りを繰り返してレベルが上がるならとっくに上がっているんじゃないかという状況なのも確かなのだ。
「あと、元気が有り余った奴が訓練の相手をしろとうるさい」
「ああ、ガウルか」
最近、やたら元気な狼さんが原因らしい。加護の影響なのか、迷宮都市に戻ってからずっと調子がいい。合同訓練でも相手を選ばすずっと暴れ回っていた。
「落ち着かねえんだよ。いきなり二つも加護が増えたから馴染んでねえんだ」
そのガウルはガルドの脇にいたらしい。
まあ、先ほども言ったように今日の狩りは不完全燃焼だったから、延長線をしても構わないのだが。
他のメンバーが了承すればいいだろうと、とりあえず水凪さんに聞いてみたら別に構わないとの事。
今日は上がりのつもりで風呂入ってるユキには悪いが、再度汚れる羽目になりそうだ。サージェスは……まあ問題ないだろう。
「なんでお風呂入ってから言うのさーっ!?」
「悪ぃって。どうしてもって言うなら抜けてもいいからよ」
「そんなの駄目に決まってるでしょ。どんだけ危険度上がると思ってんの」
当のユキはぼやいているが、予想通り参加してくれるとの事で、再び転送ゲート前の安全圏を越えてダンジョン内へ。
そこで待ち構えているのは、狩りを途中で切り上げる羽目になった目の痛くなる環境だ。悩ましいとかそういう意味じゃなく、物理的に目が痛い。
今回、ダンジョン構成変更時期に合わせて新規構造のダンジョンとなったのだが、待ち構えていたのは常に色とりどりの水晶が乱反射する洞窟だった。どこからか光源が確保できているのは助かるが、いろんな方向から差し込む光で必要以上に明るい構造である。
加えて、出現するモンスターも自身が発光する個体や幻影を多用する個体、迷彩色で隠れる類の問題ばかり。あと光線系のスキル持ち。最も正面から戦う事になるクリスタル・ゴーレムは見失う事こそないが、その体が光を乱反射してやり難く、ついでに硬いときた。
ドロップアイテム的には美味しい部類だから決して外れ構造ではないが、訓練を兼ねた狩りの場所としてはあんまりうれしくない。
「あんまり長居はしたくないから、戦闘回数決めるぞ。お前に合わせるといつまでも続きそうだし」
「おう。じゃあ、クリスタル・ゴーレム十体な。他の取り巻きはノーカンで」
「……まあ、それでいいか。サージェス、悪いが今回は持ち場から離れないでポジション維持」
「了解です」
勝手に決めるなと言いたいところだが、別にそれでも構わないので始める事にする。放っておくと全力軌道でどこかに飛んでいくサージェスだけ指示して、早速こちらに突っ込んできたゴーレムへの対処、併せて周囲の索敵を開始する。状況が安定するまでは俺も半タンクとして対応だ。逆に物理的な目潰しが無効で鉱物モンスターに対して相性のいいガルドはその分攻撃に回ってもらう形である。
水凪さんの《 シェイド・スクリーン 》である程度カバーできるものの、やはり視覚的な攻撃が厄介だ。
とはいえ、目に優しくないところを除けば戦力的に不足する事はない戦場だ。
斥候役を担当できる奴がいないので、ダンジョンとして攻略するなら厳しい構造だろうが、戦闘だけなら問題ないし、それが短時間と決めておけば尚更だ。
プリズム・ビートルなど、そこらの水晶に潜んで奇襲を狙うモンスターには気をつける必要はあるものの、ある程度安定してノルマ近くまで達成できた。
……異変は唐突だった。
「リーダーっ!」
「ちょっ!? 何ボサっとしてんのっ!?」
不意に、意識が遠のいた。
やけに遠くから聞こえる声からすると、どうやらかなり危ない状態だったらしいが、状況が把握できない。
目が、回る……乱反射のせいじゃない。意識を保っていられない。なんだコレは……。
これじゃ、まるで……イバラの奴と戦った直後のような……。
「がはっ!」
無意識に、大量の血を吐いた。口の中に残るかすかな鉄の味だけが、その状況を教えてくれる。
攻撃を受けたわけじゃない。体内の器官が悲鳴を上げ、全身が軋む。
まずい。くそ、いくら安定性重視の狩りとはいえ、こんなところで倒れたら危ない。
多少戦力に余裕があろうが、ここは第五十一層なのだ。パーティから一人抜けただけでいきなり不安定になるのは避けられない。
さっきユキが駄目に決まっていると言ったのだって、それを理解しているからだ。
誰かの声が聞こえる。たとえ死んだところでダンジョンの中ならたいした事でもないのに、まるで悲鳴を上げるような……。
……まあ、大丈夫か。最悪、ここからなら撤退するのに問題はない。せいぜい、俺を運べるかどうかが課題ってだけで、それでも俺が死ぬだけ……。
ダンジョン内での死亡ならリカバリが効くのは冒険者の常識なのだから。
-5-
「コテージの寝室か」
「あ、目覚ました」
気がつくと、ダンジョン内では見慣れた簡易宿泊施設の天井が目に入った。動けない……事もないな。
つまり、死なずに撤退できたって事か。
「うお……気持ち悪……」
「ちょっと、まだ寝てないと駄目だよ。あんだけ血吐いてたんだから」
「いや、大丈夫だ。……それより、何があった?」
即座に再度倒れ込むような体調ではないと判断した。倒れる瞬間はイバラとの戦いで魂ごと砕かれた時のような感覚だったが、そこまでの重傷じゃない。
連想したのはきっと……どこか似た感覚だったから、か?
「何って言われても。いきなりツナが倒れて、大慌てで転送ゲート前まで撤退してきただけだよ。あ、でも二時間は寝てたかな」
「それじゃ、むしろお前側が聞きたいところだよな」
「ツナは自分がどうなったか理解してるの?」
「いや……」
……どうなんだ? 当然の如く理解はしていないのだが……何故だか予感がある。これは別におかしな事ではないと。
状況だけ見るならおかしな事だらけなのだが、どうしても予定調和の気がしてならない。
「《 看破 》はしたか?」
「水凪がやったけど、異常なしだって。状態異常もないし、HPすら自動治癒で減った分だけ」
少し落ち着いてきたところで、なんとなくだが、自分の身に起きた事に当たりが付いてきた。水凪さんの《 看破 》でも確認はできるはずだが、おそらく見逃してる部分……それを確認するため、自分のステータスカードを取り出し、閲覧する。見るべきは……レベルだ。
「……Lv50」
「え、とうとう上がったんだ。……って、まさかそれが原因? 嘘でしょ!?」
「いや、多分コレだな」
あとでちゃんと調べるべきだろうが、これが正解と思えてならない。
多分だが、これまで停滞していたのは俺という存在を根底から構築し直すような変化で、その反動がアレだったのだと。
イバラとの戦いを連想させたのも、そういう魂の再構築のような痛みが伴ったが故なのだろう。
……なんでもない時だったから良かったが、もっと切羽詰まった時だったら洒落になってないぞ、まったく。
「まさか、今後レベルが上がる度に吐血するわけじゃないよね?」
「……いや、それはないだろう。多分」
予想が正しければ、今回だけのはずだ。
「とりあえず、みんなに伝えてくるけど……多分、今回はこのまま帰還かな」
「さすがに危ないよな。……悪いな」
「無事なら全然いいけどね」
と、ユキは部屋を出ていった。
一応、その日はそのままここで休む事にしたが、翌日は大事をとって帰還する事にした。
[ 迷宮ギルド会館本部ロビー ]
「念のため、病院に予約入れてもらったよ。アタックの精算はこっちでやっておくから……何やってんの?」
「ちょっと、取得可能クラスを確認しようかなと」
一時期、クラスやスキルの大幅追加があったせいで飛び込みの利用が難しかったクラス変更用の部屋だが、ちょうど今は空いているらしい。
「えー、今する事? そりゃ念願のセカンドツリー取得だからっていうのは分かるけど」
「悪いが、コレだけは確認しておきたい……ちょっと行ってくるわ」
「あ、ちょ……もう」
ロビーから移動して、いつか使った端末部屋へ。今は利用申請さえすれば同伴者なしでも利用できるので、一人で入室した。
クラス取得はせいぜい数回だが、それ以外にも何度か利用しているので手順に困る事はない。
相変わらずどうやっているがは分からないが、スキャンが始まり、画面上では処理が……終わらねえな。
「長くね?」
いつもならあっという間に終わる処理が長引いている。処理は続いているようだが、この遅さは最近何度か確認されているというやつだろうか。
それなら、多分俺の予想通りだろう。
「終わった」
長い処理が終わり、個別の宙空ウインドウが表示される。そこにはこれまでに見慣れた俺の取得可能クラスの一覧が並んでいた。
< 軽装戦士 >だけ見ても追加されている新規クラスはいくつかあるが、今確認したいのはそれじゃない。
……なんとなく、予感があった。
あの時、倒れた際にフラッシュバックしたビジョンにはきっと意味があると。そして、それはタイミング的にコレではないかと。
「…………え?」
予想は当たった。一覧の一番下、そこには見慣れない新規クラスが追加されているのが確認できる。
俺が予想していたのはそこまでで、せいぜいセラフィーナの< 万能手 >のような完全新規クラスが追加されているんじゃないかという期待だけだった。
しかし、そこにあったのは表示された文字列だけで俺を驚愕させるに余りあるクラスだった。
ツリークラス:< イレギュラー >
クラス名:< 飢餓の暴獣 >
どこかで、獣が雄叫びを上げた気がした。
(*´∀`*)「……バグかな?」







