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超短編SS「秘密結社YMK±2」

残念だったな。(*´∀`*)

クラファン告知のための宣伝投稿だぞ。




-1-




 注視すると気が狂いそうになる不気味な空間。静止しているようで蠢いているようでもある景色はどこまでが移動可能な空間か分からず、不意にその形を変えているらしい。

 同志Aはいい加減慣れたが、一般人……いや、まともな神経をしている冒険者でも、こんな空間に閉じ込められたら緩やかに発狂するだろう。

 自身がかなり特殊な精神性を持っている事を自覚している同志Aでも正直しんどいのは変わらない。

 加えて、謎の同居人の存在が精神の摩耗を加速させている。彼は自称友人であり、朗らかで陽気だが、ただひたすらに化け物だった。


「そういえば、いい加減腹が減ったのだが」

「友達が望む事なら叶えてあげたいところだが、どうしようもないね」


 長らくこの謎空間に隔離されているが、さすがに食料が心許なくなってきた。

 最初は自分の《 アイテム・ボックス 》に入れていた物を食べていたのだが、緊急用の保存食だけでは限界がある。 せめてダンジョン・アタックに備えた準備をしていればまだマシ……いや、それでも大差はないだろう。

 食料があった頃は日数を数えていたのだが、すでに時間感覚はないに等しい。そもそも、時間の流れが正常かどうかも分からない。


「でも、おそらくこの空間では栄養補給は不要だと思うよ」

「む、そうなのか。腹が減っているのは事実なのだが、何か根拠でもあるのか?」


 それでは、電子レンジや冷蔵庫に食われそうになった体験はなんだったのかと思ったものの、大人な同志Aは口に出したりはしない。


「私を見たまえ。何も摂取していないよ」

「根本的に構造の違う存在を例に出されても納得できん。そもそも口がないではないか」

「一応、口に相当する器官はあるんだがね。前にいつ使ったか覚えてないな」


 そう言われても、どこにあるのか分からない。というか、どうやって喋っているのか分からない。

 ゆらゆらと触手を振るフレンズマンの姿はあまりに奇っ怪で、不気味で、冒涜的で、人間どころか生物と呼んでいいのか怪しい存在だ。

 こんなモノを自分の潜在意識が生み出したと思いたくないから、今の状況を夢を認めたくない一因にもなっているほどだ。

 そんな相手が食べる必要がないと言っても、お前はそうなんだろうなとしか思えない。


「なんなら、私の体でも食べるかね? この触腕とか」

「唐突に、そんなスプラッタな提案をされても困るんだが」


 迷宮都市の住人は、そういった部分の倫理観がかなり緩い。モンスターの中には人間を食べるモノはいるし、しゃべる家畜がいる時点でまっとうな精神は緩やかに削られていくものだ。それでも好んで食べる事はしないし、食用でないものを口にするのが異常者である事は変わりない。

 食用と認められてはいても、人知を超える劇物を食わせようとする奴も異常者だ。なんならあのゴブリンは人食いより異常者扱いされている。


「この謎空間の床や壁も食えそうにないしな。種を撒いても芽は出なかったし」

「バラ撒いただけではね。でも、試そうとする気概は大事だと思うよ」

「意外に硬いしな」


 そう、状況は切羽詰まっている。何故か死なないらしいとはいえ、正にサバイバルだ。映画なら、そろそろ食料とも言えない物資を巡って殺し合いが始まるあたりだろう。そんな人間を殺して食うような状況に比べれば、自分を食ってもいいと言い出す存在はありがたいのかもしれない。

 実際、真の意味で極限の飢餓に襲われるなら、あるいはそういう選択肢もあり得はするのだろうが……。


「……そもそも、貴様は人間が捕食して問題ないのか?」

「昔、私を食べた友達はいろいろ増えたね」

「いくら飢えても貴様だけは口にしないと誓った」


 倫理的に問題があるとか、体質的に消化できないとか、おそろしく不味いとかならまだしも、想像以上に悍ましい答えが返ってきた。

 一体何が増えるのか、確認するだけでも普通に怖い。だって、想像できる限り、何が増えても怖いからだ。アイデンティティが崩壊する。


「不味くはなかったらしいよ」

「そういう問題ではない」


 良く見れば、その触腕はイカっぽいから醤油があれば刺身でもいけそうとか、最悪自分が消滅しかねない選択肢が頭に浮かんでしまう。


「まあ、私も食べられたいわけではないし、食べなくても問題ないと思うよ。似たような空間は調査した事があるし」

「死ななければいいというわけでもないんだが」

「活動に支障ないと思うがね。空腹感はあるだろうけど」

「それはそれでしんどい」

「贅沢な友達だねえ」


 それは贅沢なのだろうか。

 冒険者として活動している以上、そういった苦痛には耐性を持っているが、できれば避けたい状態ではある。




-2-




「こうして観察している限り、終わりの始まりは近いと思うんだがね。時間経過というのも変だが、この空間は崩壊しかかっている」

「崩壊すれば元の世界に戻れると?」


 周囲を見ても、特に変化は感じられないのだが。


「それは明言できない。むしろ、そういう良く分からない空間がどうなるかを観測するのが私のライフワークのようなものだし」

「ただ消滅するなら、こんなロスタイムのような時間は不要だろうに」


 これで脱出できないのなら、なんのための時間だったのか。


「世界の理に対して、そんな事を言ってもね」


 だが、自分の身に対して行っている理不尽に対して文句の一つも言いたくなるのが人の性だろう。

 これが、同じ状況におかれているのがこの化け物ではなくユキたんなら受け入れられるのだが。ラブロマンスなんかがあったりしたら最高だ。


「というか、崩壊しかかっているといっても、まるで変化はないように思えるが」


 いや、変化はしている。常に蠢いてるようで止まっている、定形を保たない光景は変化ではあるのだ。ずっと同じように変化している。


「良く見たまえ。こうして比較してみれば全然違うだろう」


 そう言って、眼の前に宙空ウインドウとは違う何かの比較映像を浮かべるフレンズマン。


「そんな事ができたのか、貴様。……と言われてもさっぱり分からん」


 違いは一目瞭然で、むしろ全然違うのだが、それはこの光景全体に言える話だ。つまり、どっちも周囲の光景と同じに見える。


「しょうがないな。ならもう少し拡大してみよう」

「便利だな、貴様。……確かに何かの穴というか……罅か?」

「そうそう」


 拡大した比較映像の片側には、確かに微細な綻びのようなものが見てとれた。それは肌の表面にある細かい傷のようなもので、あえて観察しなければ認識すらしないだろうが、確かにそう見える。


「つまり、この罅が広がれば終わりと」

「そうそう。この現象は過去にも類似の例を多数観測しているから安心していい」


 と言っても、この空間が終わったところで元に戻れる保証がないのは変わらない。フレンズマンにしてもそんな保証はできないのだ。


「ちなみにこの罅はなんなのだ? ここが卵の内側のようなもので、それが割れかかっているとか?」

「違うけど、なかなかに言い得て妙な表現だね。ある意味では合っていると言えなくもない」

「という事は、貴様はこれが何か分かっていると?」

「うん。これはね……世界だよ」

「…………」


 同志Aはあまりの答えに絶句……していたわけではなく、意味が分からず混乱していた。


「そうだねえ。実際に見てみるのが早い。この画像じゃ意味ないけど、周囲の綻びを直接見れば、その先に世界があるはずさ」

「そんなに目は良くないんだが」


 別に眼は悪くないが、光学顕微鏡のような視力があるわけでもない。比較画像にしても、相当に拡大してようやく視認できたくらいなのだ。


「そこにあると分かっていて観ようとすれば観測できるはずさ。そう思いながら観測してみるといい。あんまり強く意識すると戻ってこれなくなるけど」

「怖い事を言うな……どれ」


 イメージするのは補助魔術で視力を強化した時のような感覚。過去に体験した事のある感覚を蘇らせるつもりで観測した。

 次の瞬間、装着感皆無なVRマシンを装着した時のような、まるでその場にいるような強烈な没入感が襲ってきた。



『くらえーーーーっ!!』

 見えたのは、謎の大男が小便らしきもので人型の変なモンスターを消滅させる場面だった。消滅したのはモンスターだけでなく射線上のすべてだが、事実としてはそう変わらない。



「??????」

「どうかね? この世界の周りにはこんな風に無数の世界が広がっているのだよ」

「お、おう……」


 そうなのか……フレンズマンは同志Aが何を見たのか分からないだろうが、あんまり広がっていて欲しくない世界だった。

 ぶっちゃけ、行けると言われてもあんまり行きたくはない。怪しいローブめっ! と言われて尿ビームで消滅させられそうだ。

 いや、食料目的なら……いやいや、それで戻ってこれなくなったら本末転倒……。


「よ、よし、もう一回……別なところを見てみよう」

「暇潰しにはいいけど、意識を持っていかれないようにね。迷子になるよ」

「承知した」



『うわあああああっ!!』

 次に観測したのは、黄色い人型がケツを爆発させながら悶絶する場面。なんだその玉は……ケツの穴に爆弾を仕込んでいたのか。随分と高度なプレイだな。

 と思っていたら、爆破済で数珠つなぎになった玉がどこかへと回収されていく。……まさか、これはあっちのメカメカしい装備の大男の仕業だろうか。

 やめろ、近付いて来るんじゃないっ!?



「どうかね? なかなかに興味深いだろう、同志A」

「そ、そうだな……正直なところ、興味よりも困惑が勝るのだが」

「はじめはそんなのさ」


 本当にそうだろうか。どうしてもフレンズマンの言うものと自分が見ているものは絶望的な隔たりがあるような気がしてならない。

 いや、一度だけならたまたまというケースもあるだろうが、二度ともアレな場面というのは正直……。


「つまり、小便で相手を消滅させたり、ゲツを爆破させられる世界が広がっていると?」

「は? ……う、うーん? まあ、そういう世界があるかもしれないねえ」

「そうなのか……」


 なんて怖い世界なんだ。異世界の事だからどうでもいいといえばいいのだが……いや、ちょっと待て。最初の奴は日本語でくらえとか言っていたような……。まさか別世界の迷宮都市か、それとも日本での出来事だというのか。だとしたら、日本という国はどんな魔境なのか。


「おかしいな。こういう時は、比較的近しい世界が観測できるものなのだが」

「近いといえば近いのではないか? 人間かどうかは知らんが人型だったし、森や地面も映っていたし」


 良く平行世界とは言うが、人間の形な時点で近いだろう。目の前の化け物が跋扈しているような世界だって……。


「いや、私の予想では再構築されつつある君の世界が観測できると思ったのだ。それこそ君自身とか、近しいモノが」

「そんなに近い世界が……」


 ……はて、それではこれはどういう事なのか。どう見ても迷宮都市ではなかったし、ダンジョンでもないようだったが。


「実のところ、今再構築されつつあるのはその奇妙な世界という事なのかね? それはそれで興味深いが」

「え?」


 まずい。このままでは肛門を爆破されたり小便で消滅させられるっ!?

 いくら冒険者が非常識とはいえ、あんなキテレツな行動をする奴はいない。せいぜいサージェスくらいが限度……いや、大概だったな。

 というか、何故同志Aは自分がその対象になると過程しているのか。


「そ、そうだ。何かの間違いかもしれないし、もう一度確認を……」

「やめておいたほうがいいかもしれない。下手に観測すると、不都合な世界でもそれが固定化されかねないからね」

「どうしろというのだ」


 いや、本当に。

 ちなみに、誘惑に負けてもう一度観測してしまった同志Aが観測したものは、世界中に降り注ぐ巨大なボディビルダーという更に異様な光景だった。

 迷宮都市で根本から常識を破壊されてきた同志Aにとって尚、意味が分からな過ぎて困惑するしかない絵面だ。

 あまりに神々しく黒光りする姿を見せられては、理解を諦めるしかなかった。




-3-




「いや、不思議な事もあるものだね。まず間違いなく元の世界か、せいぜい多少変化がある程度の世界が再構築されると思っていたのだけどね。それこそ、最大でも特異点で起きた改変くらいの」


 いつも適当な事ばかり言っているフレンズマンもこれには困惑。

 せいぜい、同志Aが別人に入れ替わっていたり、周囲にいる人物が増えていたり、ユキたんとやらが剥製になっているのを予想していたのだ。

 もちろん根拠はある。無限回廊への到達者が生まれ、近しい平行世界が剪定された環境では、どうしても観測結果は限定される。観測先がないのだから当然だ。まったく違う世界がこの周囲に広がっているはずがない以上、そんな意味不明な結果になるはずがないのだ。


「実に面白いね。未知には心が躍る」

「私は全然踊らないのだが。あんなところにユキたんがいるとも思えんし」


 百歩……一万歩くらい譲って、あれがもしも日本なら案外前世のユキたんがいるかもしれないが、それは別人だろう。魂が同じでも、環境によって人は別人になるものだ。

 というか、迷宮都市で公開されている資料でも、日本があんな事になっていたなどという情報はなかったと思うのだが。限定された情報だから、以降にそうなった可能性がないとは言えないが、どうしても根本的に別の世界にしか見えない。


「ちなみに、貴様が観測しても同じなのか?」

「私の場合は慣れ過ぎて遠くの世界まで観測してしまう可能性があるから、また別の問題があるね。そもそも君の世界の住人ではないし」

「なるほど」


 困った話だ。とはいえ、ポジティブに考えるなら、あの変な人型がうろつく世界に飛ばされたとしても、ここよりはマシだろうという事。

 少なくともこれまで見た中に、眼の前の化け物のような見ただけで発狂しそうな存在はいなかったわけだし、ボディビルダーが落下していく先には都市も確認できた。つまり、人間が生活可能な空間はあるという事になるし。

 いや、もちろん戻るなら元の世界のほうがいいのは変わらないのだが。


「しかし、となると食事の問題が更に深刻になってくるね」

「これ以上どう深刻になるというのだ」


 すでに何もない状況で、かろうじてあるのは化け物の体だけ。それすらも口にしたら何かが増えるという悪夢だ。

 つまり、ゼロという事で、ここから状況は悪くなりようがない。


「いやね、こうして綻びが広がれば何かしら流れ込んでくるものなのさ。生物はまずないけど、その中にはもちろん食べられるものもある。それを食べればいいじゃないかって思ってたんだよ」

「おお、という事はどの程度か分からなくとも、飢餓を解消する術はあると」

「そう思っていたんだけど、別の世界の食べ物だとちょっとまずい」

「何が不味いのだ。この際、ゴブリン肉ほどの劇物でなければ許容するぞ」


 見えているのが日本……というか地球なら、普通に食えるものだろう。迷宮都市のモデルというなら、普通に美味しいものも多いに違いない。


「食べるというのは取り込む事と同義だ。吸収し、同一のものになると、その世界に引っ張られるようになる」

「……つまり?」

「元の世界に戻れる確率が下がる」

「駄目ではないかっ!?」


 迷宮都市への帰還という目標は変わっていないのだから、それは困る。最悪、今の状況のように、どうしようもない事態によって別の世界に飛ばされる事があるとしても、自ら遠ざかる手はとれない。


「……ん?」


 そんな事を話していたら、唐突に林檎が出現した。あまりにタイムリーで困惑するが、これがほころびの向こうから流入してきたものなのだろう。

 形が整ったそれは、迷宮都市ならどこでも……いや、迷宮都市でなくとも普通に見つかる林檎に見える。品種改良されていなくとも、形が良いだけのものなら見た事があるからだ。

 つまり、どこの世界から来た林檎か分からない。


「……ちなみにだ、ちょっとでも駄目なのか?」

「大丈夫だよ。0%が0.01%くらいになるくらいじゃ気にしないっていうなら」

「…………」


 なんて恐ろしい話なのか。ひょっとしたらそのわずかも増えない可能性はあるが、運でしかないのだ。タチが悪い事に、何がどう変化したのかの指標もないときた。

 0.01%でも確率を下げる事はできないし、一度くらいならと妥協さればズルズルと引き摺られるのが人間なのだ。そうやって破滅してきた同志たちを良く知っていた。

 しかも、最悪ないなら我慢できなくもない状況で、こうして眼の前に突きつけられると……。


「じ、地獄か」


 良く見ればなんか見知ったデザインにしか見えないパッケージのお菓子も転がっている。良く対立構造を煽られるきのこのほうだ。

 日本語で書かれたそれは、あるいは本当に日本製のものである可能性があるのだ。これが独自言語だったらまだ見分けもつくのに。

 くそ、迷宮都市の日本かぶれ共めっ!! 日本企業の目が届かないのをいい事に、好き勝手パクリやがって。


「目に毒だからどこかにやってくれないか」

「持っているだけなら別に君でもいいと思うけど? 見たくないなら《 虚空倉庫 》に入れてしまえばいい」

「誘惑に抗えんかもしれないではないかっ!?」


 同志Aは自分が我慢の効く人間だと思っていない。むしろ、誘惑に弱く、すぐに堕落する性格だと自覚している。

 きっと、ユキたんの幻覚に食べていいよと言われるだけで、簡単に陥落する。日常的にユキたんを夢に見ている以上、そんな危険はおかせない。

 白昼夢を見る日は近いといつも周囲から言われているくらいなのだから。


「いいけどね。じゃあ、流入してきたものはこちらで回収しておくよ」

「あ……ぬぬぬ」


 その瞬間、消えた林檎に情けない声を上げそうになるが、我慢できた。偉いぞ同志A!


「言ってくれれば出すからね」

「いらんわっ!! いやもう忘れるっ! 忘れたっ!」

「難儀だねえ……」




-4-




「……見た事は忘れるとして、これらの罅が大きくなれば、とりあえずここから出れるという認識でいいんだな?」

「いいよ。むしろ、ここが維持できなくなるから留まれない。そうしたらまた、長い事お別れだ」

「それも気になる話ではあるな。貴様が言うにはコレが初ではないんだろう?」

「そうだね。私の友達は皆忘れてしまうけど」


 実に奇妙な話ではある。こうして事実を突きつけられても、それが本当だと思えない。

 一度見たら二度と忘れない、悪夢でうなされそうなビジュアルをしているというのに。……むしろ、そのほうがいいのか?


「しかし、貴様は大変だな。友して認識されているかはともかくとして、誰一人として覚えていないとは」

「そんな事はないよ。私はたくさん友達がいるからね。忘れていたら、会う度にまた友達になればいい」

「おそろしくポジティブな奴だな」


 同志Aの感覚としてはちょっと信じられなかった。もし、自分がそんな立場になれば早々に発狂する未来しか見えない。

 孤独というものは危険だ。根本的に人はそれに耐えられるようにできていない。耐えられるという人間は、その時点で何かが変質しているのだと思う。

 だからこそ、同志を募って徒党を組んでいるのかもしれないな、と同志Aは自分を分析した。

 とはいえ、眼の前のコレはどうにかしてやろうという気分にさせないビジュアルなのだが。


「しかし、貴様とて最初から一人だったわけではないだろう?」

「そうだね。友達でないモノならたくさんいたよ。それが嫌だからこうして一人でいるという面もあるんだが」

「そうか。つまり貴様と似たような見た目の奴が大量に……」

「ああ、種族としては私一人だけなんだ。それに、コレは別に本体じゃないよ。あえてこうしているのさ」

「は?」


 唐突に、驚愕の事実を告げられる。わざわざ望んでそんな冒涜的なビジュアルでいると?

 誰もかれも友達扱いするくせに、嫌われるような見た目にしているのか。


「なかなかに説明は難しいんだがね。私を直接見た者は情報汚染によって信奉してしまうのさ。私は友達が欲しいのであって信者はいらないんだ」


 フレンズマンはそうやって世界を滅ぼした。


「む……良く分からんが大変だな。では、姿を見せずに交流する方法もあるだろう? ネットとか、電話とか」

「私は量子存在に近いモノだからね。観測されないと存在していないのと同じなんだ。その代わり、どこにでもいるんだけどね」

「何を言っているのかさっぱり分からん」

「実は私にも良く分かっていないんだ」


 いきなり量子存在と言われても同志Aにどうしろというのか。


「まあ、気にする必要はないという事さ。私が私である限り別れは必然だし、再会すればまたトモダチさ」

「それでいいというなら何も言う事はないが」


 どうせ忘れれば関係ない話ではあるのだ。出会う度に一期一会。本人がそれでいいと言うならいいのだろう。




 遠くで何かが罅割れた音がする。それはこの世界の終焉であり、元の世界の始まり。

 やがて、この殻のような世界が壊れると共に、この化け物の事は忘れ、日常へと帰っていく事になるのだろう。


 ……なんか、一際大きく割れた罅の先に銀タイツの何かがいた気がするが、見間違いだと思う事する。




というわけで、同志Aが世界の罅から見ているように引き籠もりヒーローコミカライズのクラファン開催中です。(*´∀`*)

興味ある人もない人も、とりあえず覗いてみてくれると嬉しい。


ここにURLを張っていいのか分からないので、リンクは活動報告やTwitter、準備サイトからどうぞ。

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ここに来る人は大体知ってると思いますが、(*■∀■*)の作品「引き籠もりヒーロー」がクラウドファンディングにて書籍化しました!
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詳細は活動報告か、該当作品ページにて
引き籠もりヒーロー

(*■∀■*)第六回書籍化クラウドファンディング達成しました(*´∀`*)
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― 新着の感想 ―
もう期待できないな永遠に広告してるやん
フレンズマンって悪意さんの対存在みたいな特徴をしてるよね
以前銀タイツは精々Bランクと読んだ覚えが⋯迷宮に来れば懸案事項であるパワーアップも図れますね⋯やったね!ダンマス友達が増えるよ
感想一覧
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