第14話「近き呼び声」
今回の投稿は某所で開催した
「その無限の先へ」リスタートプロジェクト第三弾「二ツ樹五輪 次回Web投稿作品選定コース(限定5名)」に支援頂いたADsさんへのリターンとなります。(*´∀`*)
-1-
正直なところ、そういう予感はあった。サローリアさんのクラス検証っていう具体的な話はともかく、何かしらで関わる事になると。《 因果の虜囚 》の影響は今更としても、以前の検証やロクトルがカードへ深い興味を抱いていた事は何かの兆候じゃないかと。
これは単にサローリアさんのクラス検証に留まらず、特異点以降多く確認されている新スキル、新クラス、そして俺自身の謎クラスに繋がっているような気がするのだ。
それらを差し置いても別に検証依頼を断る理由はないのだから、ここは当たり前に受諾するだけだろう。
「つまり、なんらかの目処が立ったって事ですよね?」
「まだ具体的な力にはなってないけどね。一歩手前くらい?」
それでも、一定の成果がなければこんな事は言わないだろう。俺としては、一切進展がないけど《 土蜘蛛 》の謎解析力で手伝ってほしいって言われても手伝うし。
「お礼はお金か、ご用命の物品を《 カードライズ 》させて頂くって事で」
「あ、自分でカード化できるようになったんですね」
「そうなのだよ。とんでもなくMP効率悪くて時間かかるから、現実知ってへこんでるけど」
「まあ、使い勝手がいいなら、それで有名になる冒険者が出てきてもいいでしょうしね」
「まあねー。そりゃ、ギルドに頼めばいいってなるよって話」
カードに魔術が付与されている《 マテリアライズ 》はMPさえあれば誰でも使えるが、逆にカード化する《 カードライズ 》は驚くほど冒険者の使い手がいない。
それは使える人をギルドで囲い込んでいるって事でもあるんだが、クラススキルとして《 カードライズ 》を習得可能なクラス< カードマスター >が、冒険者とはまったく関係ないツリーである事から分かるように、冒険者としての能力に直結し難いというのが大きい。
準備段階で有用なスキルってだけなら使い道はありそうに見えるものの、ちょっと独自色が強過ぎるのだ。
それに加えて、この様子だとスキルとしての使い勝手もちょっと悪そうである。
「良く分からないけど、なんでツナなんです?」
詳しい事情を共有していないユキが問う。一方で、アルテリアさんは会話に参加する様子はなかった。止める気もなさそう。
「前にちょっと相談したら、謎の解析されたから」
「あーなるほど。《 土蜘蛛 》」
「まあ、俺も良く分からないんですけどね。アレ、色々経緯をすっ飛ばしてるんで」
「《 土蜘蛛 》? って名前は聞いてないけど、実はそれに期待してるって面も多分にあるかな。まだまだ謎は多いし。いきなり、うにょーんって窓開かれたらインパクト大きいよ」
「うにょーん?」
お互いに持っている情報が違い過ぎて擦り合せが面倒な事になっている。まあ、あとで個別に説明すればいいか。
最悪、向こうはアルテリアさんが知ってるだろうし。……知ってるよな? 引退したとはいえ、ダンマスの一派なのは変わらないんだから。
本格的に《 土蜘蛛 》の力を使うならともかく、その基盤となる解析力や分析力を行使する分には全然問題ない。
途中経過を飛ばして解析するのは因果改変でも大して変わらないし、俺の脳が追いつかない。大雑把でなんとなく使っても、ある程度は成果は期待できるだろう。
まあ、そこに関してはあんまり心配していない。というか、因果の力が空な今、本格的になんて使えないし。
「前話した時は二つありましたよね? < 幻想器手 >と< 幻想札士 >でしたっけ? どっちのほうですか?」
「両方。《 カードライズ 》覚えるのは< 幻想札士 >のほう。ファーストツリーのクラス枠二つ潰れてるから、早いこと戦力化しないと地味にヤバかったり?」
「あー、二つも変えたんですか」
何を消したのか分からないけど、パーティの補助が得られないソロじゃダイレクトに能力補正の差が響くはずだ。
< 魔装士 >ツリーって能力値補正はそこまで大きくないはずだから他よりはマシかもしれないが、それも相対してのものでしかないし。
「という事は早めのほうが……まさか、今とかじゃないですよね?」
「まさか。できれば早めがいいけど、ある程度まとまった時間は欲しいかも。最低でも丸一日くらい? すっごい忙しいって聞いてるけど、大丈夫かな」
「ピークは越えたんで、正直今ならなんとでも。……ユキ、その端末貸して」
「はい」
クランマスター資格取得のテストはあるから気は抜けないが、講習の詰め込みはほとんど終わっている。
正式にクラン設立したあとはぶっちゃけ暇になりそうだが、一日くらいなら別にそこまで待つ必要もなく捻出できる。
「直近のスケジュールだと……ここら辺? あとは、ここだったら連日でも問題ないです」
「ふむふむ……ガチで忙しそう……」
端末にカレンダーを表示させて自分のスケジュールを確認していると、サローリアさんが後ろに回り込んで覗き込んできた。
身長差から見難そうだったので少し屈む。
「……なんか、妙に距離近くない?」
「…………」
「…………」
そこでユキからツッコまれて固まった。そういえば妙に近い。……サローリアさんって、男と距離をとるタイプだと思ってんだけど。
「ひぇわっ!」
今認識したと言わんばかりに変な声を上げて距離をとるサローリアさん。別にそういうのじゃないのに、余計に突っ込まれる反応である。
いや、なんとなく原因は分かるような気がしなくもないが、全裸見せたりして無意識に距離が縮まってるんじゃねとか説明したら殴られそう。
「ひょっとして、ボクの知らないところでなんかあった?」
「あー、前に空間把握能力テストで盛り上がってな。新クラスの検証もその流れで」
「そそそ、そうっ! そういう事。そんな感じ」
「ふーん」
サローリアさんのいかにも何かありましたって反応だが、ユキはそれを分かった上で納得するフリをしたようだ。
面倒になったから今はスルーしておいて、あとで説明しろって目をこちらに向けている。
「え、サロちゃん、いつの間にそんな関係に……詳しく」
「お母さんっ!?」
なのに、横のアルテリアが吶喊してきた。
「実際そういうのじゃないんで」
「そうそう……って、なんか本気でなんとも思ってない感じの態度はムカつくけど」
ちょっと黙っててくれないかな、サローリアさん。対応が面倒になるでしょ。
「というか、アルテリアさん的にはそういう話ってアリなんですか?」
「そういう話? 恋バナは大好物ですが。昔から良く巫女様と二人でウチの主人を攻略する算段を立て……あー、ウチの子たちって三人ともあんまりそんな話がないので興味があるというか、要領良さそうなクロちゃんはともかく、上二人はさすがに不安になってきたというか」
「ちょっと、お母さんっ!?」
同感だけど、親視点からもそんな感じなのか。
自身の恋バナは立場の問題もあって超違和感しかないけど。そりゃ那由他さんからもそういう片鱗は感じるけどさ。
「いや、そういう話じゃなく、アレインさんの心情的に。娘に近付く虫は問答無用で排除だーって殺されたりしません? ちょっと前にそういう感じの事を……」
「ウチの人の性格的にそんな事は……あー、ひょっとして亜神のアレコレですかね? それなら多分解釈違いですよ」
「解釈違い?」
「家族を大事にしているのは間違いないですけど、本人が不幸に遭ったりしない限りは許容範囲です。この子たちがどんな道を選ぼうと尊重はするって事ですね。問答無用でお前のような奴に娘はやらんとか言い出したりはしないかと」
ああ、そういう解釈なのか。利用するために近付いてきた悪人とかでもない限りは、親として口は出さないって事ね。
そんな事を言っても割り切れないのが男親ってもんだと思うが……いや、亜神のアレコレ的に線引きははっきりしてるのかも。
「だいたい、そんな過保護だったら、この子なんてもう冒険者やめさせられてますよ」
「あー確かに」
「ちょっと!? なんでこんな会話になってるのっ!? 心外! 心外だーっ!!」
自分の事だけにどう突っ込んでいいか分からず右往左往するサローリアさん。
「それで、ツナ君とは実際のところはどうなんです? お母さんに詳しく」
「だからそういうのじゃないから!」
「勘違いです。サローリアさんのコレは多分、未知の経験で脳がバグっている状態というか、パーソナルスペースの判定がおかしくなっているというか」
「すごく理不尽だけど、否定できない……」
「どうもそうっぽいてずねー。まあ、親ながらウチの子たちはオススメなので、よかったらどうぞ」
「お母さんっ!? もうどっか行ってて!」
「わー」
そう言ってサローリアさんはアルテリアさんを引き摺ってホールから出ていった。
「なんか大変だね」
「俺はむしろお前のその態度のほうが気になるんだが……反応鈍い感じだけど、怒ってたりする?」
「そりゃヤキモチ焼いてるけど、色々あるのは分かるし、そもそもツナが賢者モードのままだし」
「ヤキモチ焼くのは否定しないのか。お前も良く分からんスタンス……あ、戻ってきた」
そんな話をしてたら、サローリアさんが戻ってきた。
「というわけで、アレは忘れて」
「むしろ、あの流れで戻ってきたのにびっくりなんですが」
「そのままフェードアウトしたら意味分かんないでしょ。こんなところまで何しに来たって話だし」
そりゃまあそうなんだが。
「というわけではいやり直しっ! はい、そういうわけだから、時間ちょうだいね」
「それはいいですけど、一日で済むんですか? クラスとかスキルの検証って、普通数ヶ月とか数年単位でやるって聞いてますけど」
「本格的な検証に踏み込む気はないしね。あたしの場合、それやるとえらい事に……」
「あー」
何もかも不明な中で起きた全裸事件ほどでないにせよ、そもそもダンジョンアタックどころか模擬戦すら難しい人ではあったな。
と、そんな話をしていたら、会場が歓声に包まれた。振り返ると大画面にフィロスのドアップが映し出されていて、逆に状況が分からない。
「あ、四神練武。何か動きがあったのか? ユキ」
「いや、単にエリアボス倒したってだけだよ。進んだといえば進んだけど、ボクたちが期待している方向じゃないと思う」
冒険者でもなければ、リアルタイムでダンジョンボス攻略戦なんて見る事ないだろうしな。
なんなら俺たちだって、他人のアタックを完全に脇から眺める機会はそう多くない。スポーツニュースでダイジェストの結果だ見るのと、現地で試合を観戦する違いみたいなもんか。
「というか、コレ何やってるの? 合同訓練って聞いてたんだけど、なんかスーツ着たおじさんたちいるし」
「専用ルールのチーム戦でダンジョンアタックしてるんですよ。四神練武っていって」
「こんな感じ」
どう説明しようか悩んでいたら、ユキが横から専用端末の画面を見せて説明を始めた。
「はえー。楽しそうだけど、あたしには一切縁がなさそうなイベント」
そりゃそうだろうな。サローリアさんが参加したら盛り上がりはするだろうが、求められてる方向性がまるで違う。
ダウンロード専用1980円くらいで売ってる、CG回収のためにわざと負けるタイプのRPGみたいに、どっちかというとモンスターを応援するような観戦になりかねない。
いや、この場合だと自分のプレイが反映されない完全オートだからちょっと方向性が違うか。
うーん、別にこちらの流れなんて四神練武参加者には関係ないんだが、何か起こりそうだった空気もそのまま流れていった感じだ。
-2-
とはいえ、二日目が何も起きなかったかというとそういうわけでもなく、ちゃんと予想通り波乱は起きた。
フィロスは第三・第四エリア中心に特殊ボーナス狙いにシフトし始めたように見える。第一回でいうディルクほど極端ではなく、ユキほど割り切ってもいないが、チームレベル帯から判断しても無難だろう。
むしろ気になるのはチームとしての方向性よりも、メンバー間の連携が目に見えて洗練されているところか。特にフィロス、ゴーウェン、リリカの三者間でのコンビネーションが異様に噛み合って、三人よりも高レベルな残りのメンバーがそれに引き摺られた感じに見える。レベルで見るなら中心になるのは逆なのに。
多分だが、あいつはこのイベントでパーティリーダーとしての立ち回りとか、そういう方面の課題を持って挑んでいるんだろう。それが上手く作用している。
一方でハウザーさんたちも躍進はしたんだが、こちらにはどうも強引さが感じられる。他のメンバーを上手く使えていないまま突き進むというか、ハウザーさんが自身にリーダー適性がない事を割り切った上で、各メンバーのポテンシャルを活かす方向にシフトしたような感じだ。リーダー不在パーティ。
色々聞いてみて分かった事だが、どうも彼は根っからのサブリーダー気質で、強いリーダーを一歩引いた場所からサポートするのが得意らしい。
ここら辺、全体でトップに近い高レベルでありながら、無量の貌攻略戦でリーダーから辞退したメーヴァーさんと一緒らしく、それよりも更にはっきりと副長ポジションに収まるタイプなのだ。グレンさんの従者になるための家系って出自からして納得しかない。
それならなんでチームリーダーへの打診を二つ返事で受けたのか余計に気になるところではあるんだが、四神練武が終わってみないと確認のしようもなかった。
まあ、中継を見ている感じ、色々試行錯誤しているんだろうなーっていうのは伝わってくる。多分、今回のイベントに限らずに。
『Aチーム、二日目探索時間ギリギリでまさかの第四エリアボス撃破に成功ーッ! 第五エリア開始ポイントの利用権を獲得し、懇親のドヤ顔で最終日に挑みますっ!』
『Bチーム猛追っ! さすがにコレは予想できないっ! あれほど離されていたCチームとの差が半分以上縮まっています。これは最終日に期待できますね!』
『Cチーム、作戦が大ハマリしてAとの逆転を確信していたところ、結果発表で呆然自失! まさか、二日目最大の撮れ高がここになるとは!』
『Dチーム、怒涛の追い上げを見せたものの、終盤のミスが響いたか! ギリギリでなんとか持ち直したものの、最終日を前にこれは苦しい!』
その日の正午に行われた二日目結果発表は、当日のダイジェスト映像を交えての解説を挟んで大盛り上がり。
いや、観客の皆さんが立場を忘れて叫ぶのもちょっと理解できる。だって、マジで面白いもの。ある意味信頼感のあるAチーム以外、展開が読めなくなってきた。
「あの、ミユミさん絶好調なんだけど……Aチーム独走してるよ?」
「最終日の序盤にコケるな。それも取り返しのつかないレベルで」
「なんという熱い信頼」
「俺としてはむしろ、この結果を見てCチームが無茶しないかが気になる。最終日の目標設定次第だと、巻き込まれるぞ」
多分、順当にいけば天狐さんチーム優勢なんだが、あの呆然自失の面白カットを見て巨大な不安材料ができた。天狐さんの性格は良く知らないが、こだわるタイプなら危険だろう。
観客の俺たちと違って、各チームはリアルタイムで情報を共有しているわけじゃないのだ。会心の出来で追いついたと思ったのに追いつけていなかったってのはショックだし、イメージがどうしても強く残る。美弓は放っておけばどうせ自滅するだろうが、それを知らない天狐さんは更なるポイントを稼ぐべく無茶をしかねない。つられてコケる展開は普通に有り得る。
「ちなみに今時点の予定は?」
「B、C、D、A……いや、B、D、C、Aだな。最下位以外は予想がムズい」
どうしても活躍が高レベル帯に寄ってくる最終日だが、この分だとフィロスが上手く抜けそうな気がしてきた。不安要素が少ない。
ただ、ミユミに巨大な不安要素を植え付けられたCとは裏腹に、Dのミスはリカバリー不可能ってほどのミスでもない。ちょっと分かり難いんだが、その時その時、玄龍が上手い事カバーを入れてるのだ。リーダーとして見るとアレはすげえ助かってるはず。適当に推薦した俺も満足。
-3-
翌日の朝、さすがに最終日となる四神練武が気になったので、宿舎から直で実況会場に向かう。
すでに会場は二日目以上の大盛り上がりで、合同訓練参加メンバーもほとんどがここに来ている模様。なんなら噂を聞いて駆けつけたのか、合宿に来そうになかった人の姿までチラホラ。そんな人たちに挨拶だけしておくかと会場入りしようとしたところで、鉢植えの裏に隠れたそれと目があった。
「ぜぇんばーーーぃ……」
普通に考えたらここにいるはずのないAチームリーダーさんだ。昨日懇親のドヤ顔を見せていた奴が、観葉植物の影からダークなオーラを放っている。
……うん、予想はしてた。さすがにもう脱落してるとは思わなかったけど。
「大丈夫だ美弓、安心しろ」
「センパイ……」
「知ってた」
「ぜんばいっ!?」
詳しく話を聞いてみれば、絶好調のまま二日目を終了し、Cを突き放した結果発表を見てコレはいけると確信。あまり勢いを殺したくないと、休憩はほどほどに調整で済ませ、かなり早い時間帯に最終日に突入したらしい。
その判断自体は別に悪くない。勢いは大事だし、結果発表時点で全員ある程度の休息はとっていたはずだから、パフォーマンス的な問題もないはずだ。
しかし、全員で挑んだ三日目、今の適性レベル帯でも正直キツイだろうなと想定している第五エリアへと慎重に足を踏み入れた先にあったのは、前回Aチームと喰らったのとおなじ超巨大モンスターハウスだ。俺たちのように転移トラップでこそなかったものの、傍から見ててもまず気付けなそうな巧妙な誘導に引っ掛かり、足を踏み入れてしまった。
結果、ほとんどポイントを稼ぐ事のできないまま全滅して三日目が終了。二日目の天狐さんなんて目じゃないくらいの落ち込みっぷりで戻って来たというわけである。
現時点で、まだポイントはリードしている。昨日までに稼いだポイント差は、全滅によるペナルティ程度で消えるようなものじゃない。
だけど、必然的に獲得ポイントの大きくなる三日目を、これ以上の積み上げができない状態で眺めていられるほどのリードでもない。普通に逆転コースだ。
しかし、まさか第五エリアに入ると確実にモンスターハウスに突入する構造だったりしないよなという懸念から確認したところ、別にそういうわけでもないらしい。
前回も今回も、あの手の大型モンスターハウスは第一、第十エリアを除く各エリアに一つずつ存在しているものの、ルートはかなり限定されているとの事。どちらかというと王道っぽくないルートに設置されているので、ある意味俺やミユミが踏む可能性は上がっていたものの、程度問題でしかない。
ちなみに、モンスターハウスを抜けると実は次のエリアに直結しているので、ある意味ではお得なショートカットルートでもあるらしい。第六エリアに行く必要性は感じないので、あんまり意味のない救済処置ではあるが、手前のエリアならアリかもしれない。
……と、項垂れる美弓に対して死体蹴りを放つかのように、壇上で狐さんがそんな解説をしていた。絶対ここに本人がいるのはバレてる。
「ぶちょー、の、呪い」
「サラダ倶楽部に課せられた宿業的な?」
「かもかも」
周りを囲むエルフさんたちは超能天気である。美弓だけでなく、Aチームメンバーはみんなショックを受けているだろうに。
「さすがに疑問視してたんだけど、これは脱帽と言わざるを得ない」
この結果を見てしまった以上、さすがにそこまでではないだろ的な意見だったユキも認めるしかなかった。
まあ、擁護をするなら、美弓だって毎回毎回こんなダイナミック貧乏クジを引かされているわけではない。限度を超えて調子に乗らなければだいたいは無難に終わるのである。
今回は最初からそれが分かり易く、知っている人ならあのパターンと確信できただけである。様式美のようなモノだ。
さて、第二回四神練武も大詰めである。
美弓以外のB、C、Dチームは、時間的にかなり余裕を持って三日目を開始したようで、現時点ではまだ三チームとも探索中だった。
ただ、高難易度化してきたエリアの探索が中心になる関係から、どこもフルメンバーでの探索になっている。前回はどのチームにもそこそこ低レベル帯のメンバーが混じっていたために難しかった運用だが、多数の候補者の中から選抜した今回ならまったく問題ない。
つまり、様子見を兼ねてパーティを分割する事が多かった一日目、二日目とは違い、ある意味ここから本番と言えなくもない。A以外は。
「あ、Cがトップになった」
そんな中、とうとうAのポイントをCが抜いた。実況解説の画面に表示されている表はMVPボーナスなどを除いた暫定のモノでしかないが、Aのポイントがここから変動する事は……いや、一応死亡ペナルティの減算はあるが、それくらいしかないので、トップが入れ替わったのは確かだ。
それを見て過呼吸気味になっている美弓はこの際放置するとして、これはちょっと良くない。
昨日の時点で懸念したように、Cチームはちょっと無理している感が強い。焦っているっぽいのは他のチームもそうだが、飛ばし過ぎだ。
うーん、こうして見ると、三日目はどうしても粗が目立つな。その分勢いがあって、観る分には面白いだろうが、本人にとっては反省点になるだろう。
そうこうしているウチに、BチームもAチームのポイントを抜いた。……これはもう、Aチームは最下位コースですね。
「これはいかんのー、ノーグの含み笑いが目に浮かぶようじゃ」
「いかんいかーん。美弓ちゃん、最下位コースやでー」
「うっさいわ!」
ふと、気が付いたら、隣にものすごい髭の仙人みたいな爺さんと土亜ちゃんが座っていた。土亜ちゃんに煽られた美弓はいじけたまま隅で体育座りしている。
「聞いてみれば、どうもこの展開予想していたようじゃの、渡辺綱」
「あ、はい。……えーと」
「地神ヴォルダルじゃ」
「四神宮土亜じゃ」
土亜ちゃんはもちろん知っているが、爺さんのほうも顔は知っている。話すのは初めてだが、こんな軽いノリで対面してもいいもんなんだろうか。
……ティグレアの事を考えるなら、別にいいような気がしてきた。
「渡辺綱です。ひょっとしてAチームの担当だったり?」
「その通りよ。昨日時点で独走しててこれはイケると思ったのにコレじゃ。そういえば前回お主らが同じパターンで切り抜けたなと思い出して、ひょっとしたらと淡い期待も持ったが、あえなく全滅してマジで呆然自失よ。マジサイテー」
前回のアレは空龍がおかしいというかガルドがおかしいというか、おかしいってだけならサージェスもなんだが、とにかくそういうメンツが揃っていたからだ。
今回のAチームは極めてハイレベルではあるけど、バランスに寄っていて爆発力に欠けるところはあるから、アレを切り抜けるのは無理があるだろう。
というか、役割分担はっきりしているチームだとバラバラに転送された時点で詰むのが普通だし、今回の美弓もそんな感じだ。
「まずいのう……、ティグレアと賭けとったから、このままだと儂、メイドコスするハメに……」
超見たくねえ。というか、何やってんだよあんたら。仲良過ぎだろ。
「ま、最悪本体に戻ってヘッドドレスだけ着けときゃ問題ねーじゃろ」
本会がなんだか知らんが、ふざけんなって叫ぶティグレアの姿が目に浮かぶようだ。
「それで、俺に何か?」
「いや、そういえば顔合わせもしとらんかったなと思ったから声かけただけじゃ。本題はそこのハーフエルフよ」
「わ、わたくしめに何か……」
「チームメンバー集めて反省会すると言うたろうに。別にアレがお主の判断ミスとは誰も言わんじゃろ」
「と言われましても、やはり責任は感じるというか……」
状況は簡単に確認したが、良く知らない人なら、仕方ない展開にしか見えないよな。
「そいつ、絶対どこかで嫌な予感してたと思いますよ。それ無視して強行したから後ろめたいんですよ」
「うげっ!? そ、そそそそなんわきゃ」
「ほう……何かがあるのか」
「ただの経験則で、説明はできないんですけどね」
というわけで、長い髭と一緒に美弓は引き摺られていった。一見すると髭で引っ張られているように見えなくもない。
そんな二人を見送りつつ横を見たら土亜ちゃんは残っていた。
「あれ? 土亜ちゃんも担当じゃ。一緒に行かなくていいのか?」
「うちお手伝いやから、このままこっちの手伝いしろて」
「立場的に担当四神がいれば十分と」
「せや。というわけでちょうど案内の指示が来たから、うち行くなー」
マイペースというかなんというか、独特の間を持った子だな。子供っぽいようでなんか違うというか。
四神の巫女の就任条件的に、絶対幼女の見た目で判断しちゃいけないのは確かなんだが。
「変わった子だよね、土亜ちゃん」
ユキも同じ意見らしい。
「いつも笑顔だけど、ゴブタロウさんみたいな張り付いた悪徳ビジネスマン風の表情じゃなくて、なんでも楽しんでるって感じ?」
「シロもそういうところあるが、親戚らしいから似てるのかもな」
親戚っていや、燐ちゃんもそうだし、なんなら摩耶だってそうらしいんだが……いや、それなら剣刃さんだってそうだな。単に仲がいいから似ただけかも。
『おおっとっ! Cチーム、ここに来て痛恨のメンバー脱落! 二位のBチームとはまだポイント差がありますが、分からなくなってきましたっ!!』
『何気にDも詰めてきてますねー。開き直った能力値のゴリ押しは強い。さすがトップランカーといったところでしょうか』
裏では、予想通りというかなんというか、メイドさんたちの波乱の展開を予感させる実況が響いていた。
-4-
そして、第二回四神練武はクライマックスへと向かう。結果が気になるのか、この分だと午前中は誰も訓練に参加しなそうだ。
すでに出番が終わっている奴もいるという事は置いておくとして、本気でどう転ぶか分からない展開になってきた。
ポイント換算の方式やボーナスの扱い、コスト制導入に伴う細かいルールの変更などを考慮すると、手動では最終的なポイントを予想できない。
もちろん、Aチームのように脱落したり、ある程度のポイント差がついていれば予想可能だが、今のポイント差だとちょっとした事でどうにでも転んでしまう。
『脱落者が追加された事で残り探索時間の合計が既定値を下回りました。以降、リアルタイムのポイント集計表示はフィルタリングされます!』
そんな中、運営側の焦らし戦法発動にどよめく観衆。元々そうなるって事は明示されていたけど、見ている側としてはもどかしい事この上ない。
一応、集計が表示されないだけでポイント獲得メッセージ自体は表示されるため、傾向だけは分かるのがまた憎い演出だ。
中には計算機や携帯端末を持ち出して計算を始めた人までいる。
さて、展開として見れば一番苦しいのは天狐さん率いるCチームだ。トップではあるものの、下位とはそこまでの差はなく、メンバーが二人脱落してパーティ自体がピン手である。全滅、そこまでいかずとも死亡者の追加リスクを考慮するならここで切り上げるっていうのもなくはない。また、安全性を確保するために探索エリアを下げるという方針もあるだろう。しかし、二日目の結果発表でAチームが残したイメージがそれを容易に許してはくれない。
飄々としたイメージの彼女だが、画面から見える表情に余裕は感じられない。今は相当苦悩しているはずだ。
おそらくだが、同じ< 月華 >のサブマスターとして、リーダー適性は紅葉さんに劣るのだろう。そもそも強いリーダーシップを持つ夜光さんがいる以上、本来必須とされる能力ではないものの、チームリーダーを張っている今に限っては明確なマイナスだ。
俺も結構経験を積んできたから分かるが、その状況は絶対パニックになるよな。分かる分かる。
そして、同じ弱点を抱えているはずのハウザーさんに関しては、実は問題なさそうだ。二日目の時点で振り切ったのか、下手にリーダーシップをとる事なく、指揮すら全体方針のみの最低限に抑えて個々人のポテンシャルに頼っている。ダンジョンアタックとしては邪道だろうが、最も高い能力を誇る自身を活かすにも割り切ったいい判断だと思う。多分、二日目のあとで何かしらあったんだろう。
結果としてポイントを伸ばしているのは、チームとして一番まとまっているBだ。
最初から連携が完璧に近かったフィロスとゴーウェン、あと何故かリリカに加え、他の三人もこの三日間の内に調整が済んで完成されている。
C、Dに比べて主戦場のエリアはかなり手前だが、その分安定しているし、特殊ボーナスを上手い事拾ってる。間違っても全滅はしないはずだ。
在るべき世界ではパーティだったわけだからフィロスが合わせられるのは分かるんだが、リリカに関しては何か情報が流入してたりするんだろうか。
というか、地味にゴーウェンのバ火力がやべえな。高レベル帯のメンバーもいるのに、完全にメインアタッカーだ。
いつの間にか覚えてた《 バレット・チェンジ 》とか何に使うんだと思っていたが、< ブーステッド・クラッシャー >に残弾制の爆破装置が付いているらしい。何かのRPGで見たような機構でござる。
混迷に次ぐ混迷、Cを道連れにしたAはすでにいないものの、それ以外はどのチームも必死だ。
それは開始前には見られなかった光景だが、良く考えてみれば迷宮都市の冒険者にない競争システムだし、案外自分でも想定外なほどに盛り上がっちゃているのかもしれない。
そして、その熱は画面前の観客にも伝わり、一層の盛り上がりを見せている。おっさんたちの鼻息が荒い。
『Cチームここでタイムアップっ!! 前線を下げる事なくポイント獲得を継続したものの、最後の伸びは振るわないかっ!? リーダーの天狐選手天を仰いでいます』
『ここで、裏では普通に見えているポイント集計を……』
『ネタバレすんな!』
「そろそろ終わったー? フィロスさんどうなっとる?」
そんな最終盤が近付いたところで、会場に燐ちゃんがやってきた。
「ポイント集計にフィルターかかってるから正確じゃないが、目算した感じだと多分暫定トップ?」
「うわ、すごいな。他のチーム、うちでも知ってる人ばっかりなのに」
まあ、そこら辺はコストなんかで調整されているからな。実際に運用した感じ、まだ抜けルールはあるっぽいが、少なくとも今回はそれを突いた行動は見られないし。
ちなみにだが、すでにどう贔屓目に計算してもAチームの最下位は確定している。今から全員全滅しても無理なくらいだ。三日目まるまる失ったのはさすがに痛い。
「というか、ひょっとして見てなかった?」
「一日終わりの結果くらい? ずっと訓練してた」
えらいストイックだなとも思ったが、どうも理由があるらしい。
「なんかなー、お母ちゃんに色々止められてた時はズルしてでも見よう思うてんけど、いざこうして自由にしていい状態になると、説得も終わっとらんのにって気分になるんよ」
あら、すごいいい子ちゃん。
「でもさすがに終わりは見たい思って。……えらい盛り上がっとるけど、そんなになん?」
「すげえ盛り上がってる。Aチームが最下位って以外予想つかねえ」
「……ミユミさん何しとんの?」
だって参加してねえもの。今反省会やってるんだぞ。さすがにそろそろ結果見に来るだろうけど。
『Dチームこの終盤に来てまさかの分断トラップっ!? マップ上の距離だけならそれほどでもないが、合流可能なのか!?』
『Dは今日最後発で一番時間に余裕があるわけですけど、ここは撤退も視野に入れるべきですねー。リーダーの決断力が試されます』
最後の最後でハウザーさんにも試練の時である。ここはどう足掻いてもリーダーとして判断しなくちゃいけない。それも迅速に。
「そういえば、前に調子悪いって言ってたのはもう治ったのか?」
興奮しつつ死闘を演じる画面上の各チームを見ながら、それを自分にフィードバックしているのか妙な動きを見せる燐ちゃんに話しかけてみた。
「ん? あー、それなんですけどね、うちはまだ治った気がせえへんのやけど、前より良くなった?」
「良く分からんが、本人的にはそれでいいのか?」
「うーん、微妙? なんか、地味に別物になったというか、気持ち悪い感じが拭えへん。お父ちゃんには怒られそう。でも、これはこれでって感じはするし……」
なんとなくだが、原因は分かる。多分、例の特異点を通してs1シャドウ……ようは未来の燐ちゃんの何かが干渉しているんじゃないかと。
本人ですらないシャドウとはいえ、あの摩訶不思議な現象に関わり、あのイバラと正面から死闘を演じたのだ。これだけ色々と影響が見られるならそういう事だってあるかもしれないと思う。詳細は分からないし、そもそも正解かも分からないし、ほとんど無関係なこの燐ちゃんに説明する気もないが。
「強くはなってる。でも多分、上手くはなってないんや」
「どういう違いが?」
「分からん。うち、そういうの説明するの下手やねん」
天才故の説明下手はここにもいた。理論派じゃなく感覚派なのは見てたら分かるから、そういうモノなのだろうとは思うが。
「ちなみに、ウチのロッテには勝てそう? 一応、明日に予定入れてるけど」
対戦する二人はフリーだが、フィロスがいないから日程をズラしているのだ。
「ぶっちゃけ苦手なタイプなんやけど……そもそも、なんでその対戦カードだけスケジュール入れてんのか、よう分からん」
「それはフィロスの意向だからな。未来のクラマスにいいところを見せる意味でも頑張ってくれ」
「渡辺さんはそれでええの? 自分のとこのメンバーやろ? うちが勝つかもしれんよ」
「別に問題はないな。びっくりはするかもしれないが、それでどうにかなるような奴でもないし」
「そうなんか」
「そうなんよ」
ぶっちゃけると、今のロッテ相手にLv1の燐ちゃんがどうこうってのはちょっと無理がある。
以前に提案された時とは違い、すでに中級昇格してしまった事でかなり全盛期に近いところまで力を戻しているのだ。少なめに見てもハーフロッテくらい。
多分、あの中級昇格試験の経験も大きいんだと思う。あの理不尽の塊みたいな試験を乗り越えたって時点で、いくつも殻を破っているのは間違いない。まあ、ロッテに限らずあの試験に参加した全員がそうなんだろうけどな。
俺としては、むしろロッテよりもレーネと試合させてみたい。どちらも純正に近い物理前衛同士、得られるモノも多いと思うのだ。
レーネはクラスの仕様上どうしても隙だらけになるし、その穴になりそうでならない隙をどう突くかがポイントになりそう。
『Bチームタイムアップ! 特殊ボス< 黒鉄の三頭巨人 >撃破ならずっ!? これが最終結果にどう響いてくるのか!』
『あとは現在進行形で苦境に立たされているDチームを残すのみです。ガチでしんどそう』
『分断後に狙ったようにFOE遭遇ですからねー。撤退が正解だったかもしれません』
「ちなみに、冒険者登録云々の話は進んでるのか?」
「んー、微妙? 土亜の予定もほとんど決まっとらんし、割と宙ぶらりんや。お父ちゃんがお母ちゃんと色々話してくれてはいるみたいやけど、いきなり二人目作るとか言い出してわけ分からん事になっとるし。もしかしたら、うちお姉ちゃんになるかもしれん」
「なんでやねん」
いや、ほんとマジで。
「渡辺さーん、お客さん」
謎の断片情報に混乱していたら、土亜ちゃんがやって来た。
昨日といい、四神練武が盛り上がるところでお客さんが来るなと振り向いてみれば、そこにはいるはずのない人が……いや、美弓とかそういうオチではなく、普通に迷宮都市にいないと思っていた人だ。
「なにやら盛り上がってるな」
「リグレスさん、遠征に行ってたんじゃないんですか?」
そこにはあまりイメージに合わないカジュアルな格好をした私服の虎獣人、リグレスさんがいた。
一応、今回も誘ってはいたが、暗黒大陸へ遠征しているって話で不参加予定だったはずだ。私服って時点で参加目的じゃないのかもしれんが。
「< 生命の樹 >のほうはおおよそ攻略は済んだから、一段落……というよりも、深奥に進めんから必要な鍵を取りに戻ってきた」
「鍵?」
まさか、俺じゃねーだろうな。《 因果の虜囚 》案件か?
「お前のところの銀色の猥褻物だ。微妙にオレからでは頼み難いから、仲介を頼みたくてな」
全然違った。ガウルさんか。いや、銀色の猥褻物で通じてしまうってのもアレだが。
「別に構いませんけど、なんでガウル?」
「件のダンジョンだがな、問題の原因らしき深奥部に獣神の因子によるロックがかかってるのだ。オレの持つ因子に反応したから判明したのだが、足りん」
「あーって、獣神と関係あるんですか? 暗黒大陸ですよね?」
「獣神様たちの出身は元々暗黒大陸らしいからな。そういう事もあるのだろうよ」
RPGのダンジョンギミックかなんかだろうか。迷宮都市のダンジョンにもない事はないし、ゲームなら王道だ。
構造が変わったりしないなら、むしろそういう構造になるのが当然なのかもしれない。
「それでガウルに……戦力的にはどうなんです? リグレスさん基準なんですよね」
「奴でも問題ない……というよりも、すでにほとんど攻略は終わってるのだ、鍵にさえなってくれればいい。時間もそうかからんだろ」
そういうものなのか。エルシィさんが< 月の大空洞 >でそれなりに時間かけてたって話だったからイメージがズレるが、モノによって差があるって事なのか?
そういえば、< 鮮血の城 >の時は威力偵察でそのまま攻略したとか聞いたような。
「無論、最奥に何があるか分からないから調査するわけで、ある程度は危険もあるだろうが、迷宮都市で中級ランク基準なら問題あるまいと判断した」
「いいんじゃないですかね。もちろん本人次第ではありますけど、スケジュール的には別に問題なさそうだし」
「助かる。アレは今ここに……なんだ?」
特に問題もなさそうだし……という事でガウルのところに移動するか呼び出すかしようと考えたところだった。
「……うちも行く」
唐突に土亜ちゃんが、リグレスさんのズボンを摘んでそんな事を言い始めた。
「何を……いくらなんでも冒険者でない者を連れて行けるような場所では……」
「行く」
有無を言わせぬ態度でリグレスさんを見上げる土亜ちゃんと、予想外の展開に狼狽えつつ諭すリグレスさん。
しかし、土亜ちゃんの反応はいつもとは違い、能面のように感情が見えない。
「土亜……? あんた何言って……」
「りんりんも行こ?」
「へ?」
なんだ? ……何が起きてる? まさか、前に燐ちゃんが言っていた状況か?
「< 生命の樹 >でカミルが呼んでる」
『なんとギリギリもギリギリで間に合ったっ!? 玄龍選手、強烈なインターセプトで合流に成功! 分断されたパーティも全員無事だっ! このままFOE撃破なるかっ!?』
『とはいえ、まだまだ油断はできませんよ。ここからどう立て直すのか。残り時間ももうありませんし』
『波乱を呼ぶ四神練武最終日は更に混迷を極めていくっ!』
実況の声がどこか遠くに聞こえていた。
「うおーっ!! 玄、目立つんじゃねーっ!」
……なんか、銀龍の声も聞こえていた。
諸事情により、後書きはカット。(*´∀`*)