特別編『四神練武・D』
遅くなりましたが、長かった特別編もこれでラスト。(*´∀`*)
今回の投稿も某所で開催した「特別編アンケート敗者復活戦コース」に支援頂いたゆノじさんへのリターン作品になります。
第五章の四神練武の裏側、Dチームが何をやっていたかの話です。
四神練武チーム編成会議が終わった直後、ディルクは一人会議室に残り、各チームの構成と思惑について検討していた。
チームA:渡辺綱、空龍、アレクサンダー、ガルデルガルデン、サージェス、リーゼロッテ
チームB:ユキ、銀龍、ミカエル、水凪、摩耶、ゴブサーティワン
チームC:ラディーネ、玄龍、ククリエール、キメラ、ティリアティエル、ボーグ
チームD:ディルク、ベレンヴァール、マイケル、セラフィーナ、ガウル、リリカ
備え付けのホワイトボードを見て思うのは、自分の考えていたパーティ構成とはかけ離れている事。
自分がリーダーを務めるチームDは大凡想定通りの結果といえるだろう。しかし、その他のチーム……特にAチームはまったくの想定外と言わざるを得ない。
戦闘力に偏って明らかにバランスの悪いAチーム。単なる指名ミスととれなくもないが、ユキとラディーネ曰く、これでも警戒すべきはAチームだという。これが模擬戦なら脅威だが、正直ダンジョンアタックのセオリーには程遠い。渡辺綱がセオリー通りに動くとは思っていないが、これは行き過ぎとしか思えない。正直、どんなダンジョンアタックになるのか想像もつかない。この戦局を予想するには、膨大な計算が必要になるだろう。
-1-
チームごとに集まる事になった初回ミーティング。岩巨人ガルデルガルデンの巨体が収まらないAチームはどこかの庭先を使っているが、こちらDチームはちょっと変わった場所を借りて集まっていた。通常なら足を踏み入れる機会のない四神宮殿の一室である。単に借りれたから借りただけで深い理由などはないのだが。
「えー、実はみなさんに悲しいお知らせがあります」
「いきなり不安になる出だしだな、おい」
その開始の挨拶でDチームリーダーであるディルクが切り出した開幕の言葉は、先行きを不安視させるものだった。思わず、あまり面識のないガウルも突っ込もうというものである。
「アレか? メンバー的に優勝狙うのが厳しいとかそういう話か?」
「いえ、別チームの編成はちょっと想定外でしたが、ウチのメンバーは概ね想定通りです。普通に一位狙っていきますよ」
「マジかよ」
ディルクの自信に、龍人や新メンバーとの交流を計るのが目的だから気にするなと繋げようと思っていたガウルは絶句である。もう一人、ベレンヴァールも同様の反応だが、何故かそれ以外のメンバーは無反応だ。
「その自信のほどはともかく、じゃあ、悲しいお知らせってのはなんなんだ?」
「ここに来て、最悪の不安材料が舞い込みました。ウチの担当はそこにいる……いや、マイケルさんではなく、その後ろの火神ノーグです」
「え、なんでいきなりディスられてんの? 我」
「がう」
ディルクの視線の先にはこのチームの担当になった火神ノーグが立っている。はっきり懸念扱いされた火神ノーグもこれにはびっくり。名指しされるのを見越して立つ位置を変えるあたり、間違いなく自覚しているのに。尚、心当たりは有り過ぎて特定できなかった。
それのどこが不安材料なのか、ディルク以外のメンバーには理解できなかった。正確に言えば大人しく会議に参加しているセラフィーナは理解しているが、本人は気にしていない。
火神ノーグ。二メートルを超える長身に、炎のように真紅の髪が逆立つ、如何にも力の化身と言わんばかりの風貌で、実際にその傾向もあるのだが、彼はちょっと好ましくない性格をしている。なんせ、迷宮都市の表面上で問題視されるような事件や仕組みは大体彼とその一派が絡んでいるからだ。
「良く知らねえが、四神っていうからには迷宮都市の運営に関わる偉い人……人じゃねーな、亜神って扱いじゃねーのか?」
正月に風神と遭遇した結果、ガウルの中から四神に対する敬意のようなものは失われつつあるが、それでも迷宮都市運営の中枢にいる存在という事実は変わりない。
「嬉しい事言ってくれるじゃないの、銀狼。そなたの主とは結構仲悪いが好感触だぞ。その毛燃やしていい?」
「やめろっ!?」
彼の一部は常に燃焼しているから冗談にならない。というか、冗談でもノリでも、許可を出したら本当に燃やすだろう。まさか、そんな事をするために座らずに立っていたのだろうか。
なんの脈絡もなく毛を燃やされそうになるガウルの姿を見て、周りのメンバーは、ああ、面倒くさい人なんだなと理解した。特にベレンヴァールは近付かない事を決意し、リリカは何故か居た堪れない気持ちを抱いていた。
「というわけでお分かり頂けたかと思いますが、ウチの最大の懸念材料が舞い込んだわけです」
「アチいっ!?」
裏でガウルが燃やされかけていたが、無情にも会議は強制進行した。
「なるほど、良く分かった。……といっても、あくまでこのイベントは内輪向きの懇親会のようなものだろう? 絶対に負けられない戦いというわけでもないのだから、ある程度は飲み込む必要があるんじゃないのか?」
半ば強制的に席から離れたガウルの代わりに、ベレンヴァールが問いかける。要約すれば、あんなのが配属されたのも運と諦めるしかないんじゃないかという意味だ。
「ベレンヴァールさんはあまり勝つ気はありませんか?」
「もちろんやるからには全力は出すつもりだが……先ほども言っていたが、そもそも勝ち筋はあるのか? レベルだけで決まる話でないとはいえ、相当に差があるぞ」
最大の不安材料は置いておくとして、見渡したメンバーは正直他チームと比べて秀でているようには思えない。少なくとも資料上から見てとれるスペックを見る限り、完全に格下だろう。ガウルを除けば全員が昇格前の下級冒険者なのだ。一応、ベレンヴァールだけは同じ枠に組み込まれている三人の龍人よりもレベルは高いものの、彼らの実力がレベル通りでないのは知っている。
「当然。もちろん油断はできませんが、勝てるメンバーは揃えられたと思っています。実際、並の中級相手に一発勝負なら、僕とセラだけでも勝てます。問題は……」
「ツナは元より、他の連中も並ではないだろう」
だからこそ、こんなイベントが成立しているのだといえる。クランメンバーの実力についてはほとんど把握していないが、話に聞いているだけでも十分過ぎるほどに猛者揃いだ。
ディルクについても同様だ。資質の問題もあるだろうが、こんなイベントで急遽チームリーダーに抜擢されたというだけでも軽く見る事は難しいだろう。だから何かはあるのだろうが、少なくとも自分だけの力で引っ繰り返せるとは、ベレンヴァールも思っていなかった。
「はい。つまり僕とセラだけではどうにもならないので、みんなで頑張りましょうという事です」
「ぶーっ!!」
「ぶーじゃないの。もちろんセラは全力で活用するけどね」
「どれくらい?」
「全力。二段階目も許可する」
「ほー」
ディルクの言葉にセラフィーナの目の色が変わった。ここにいるメンバーはもちろんツナたちも知らない情報ではあるが、二段階目と言っているのは《 宣誓真言 》の多重起動の事である。
限定的ではあるが、その制限を外されたというだけでセラフィーナの戦力は数倍にも膨れ上がるだろう。逆に言えば、ディルクは使わなければ勝てないと判断したわけだ。セラフィーナもその意味には気付いている。
「同一概念のダブルは?」
「それはもちろん駄目。あくまで実戦とは違うから、後に響くのはなし。ベレンヴァールさんも、補充が難しい刻印の消費はなしで」
「それはまあ、そうだな」
《 刻印魔術 》は日数をかけて魔力を補充する必要がある。本人の状態にもよるので一概には言えないが、再度魔力を溜めるのに数ヶ月かかるような刻印を消費するつもりはなかった。
とはいえ、ダンジョンアタック中でもなければ要一日二日程度のものならまったく問題はないし、要一週間程度のものでも問題はないだろう。迷宮都市の冒険者業から見るにそこら辺に明確なラインがある。
「目標は一位。これは譲れない。その上で劇的な勝ち方を狙っていきたいというのが僕の意見です。新参者なので、できるだけ印象強くしておきたいんですよね」
「まあ、俺も新参者だから分からんでもない。……できるできないは別として、方針は分かった。他の連中もそれでいいのか?」
「いい。賞金欲しいし」
「がう」
リリカとマイケルは即物的だった。クラン内の立ち位置よりも金のほうが重要と言わんばかりである。新婚かつ妻が出産を控えているので、少しでも稼ぎたいマイケル。いつの間にかなくなっているから金を稼ぎたいリリカ。その二人ほどでないにしても、ノーグに追いかけ回されてるガウルだって新婚で色々と入り用だし、ベレンヴァールにしても新生活を送る上で金銭は欲しい。この中で金銭に拘りがないのはディルクとセラフィーナの二人だけだ。
「なんだ、金が欲しいのか。そんな分かり易いボーナスでいいなら追加を出してやろうではないか。我は太っ腹故に」
ガウルを追いかけ回していたノーグが戻ってきて提案する。
「……何が目的ですか?」
「なーに、元々このイベントの賞金も我々四神の持ち出しだ。要求はただ一つ、劇的で面白いイベントにしてみせろという事だな。とはいえ、漠然としたボーナスではやる気も出まい。とりあえず、一位を取れたら全員にプラス100万は出そう」
優勝賞金が一人頭100万なので、それだけでも倍額である。降って湧いた餌を前に、リリカは内心ウキウキしていた。先ほどまで感じていた同族嫌悪はどこにいったのか、あれば尻尾でも振りそうな勢いである。
「なんせ我金持ちだしー? 他にも面白そうな意見があるなら考慮するぞ」
四神の立場を考えるなら金は持っていて当然だ。むしろ使い道がなくて困っているとも言える。支出が桁外れな冒険者でもないのに、それ以上の給金が発生していればそうもなるだろう。
ディルクとしては思惑のほうが気になってしょうがないが、ありがたい申し出ではあった。特にリリカを動かし易くなる。
「あー、リリカさん、コレは金だけじゃなく魔術具や触媒関連も持ってますよ」
「詳しく」
「目の色変わり過ぎてワロタ」
予想以上の食いつきに、火神ノーグはちょっと引いていた。
尚、ボーナスとして提供する魔術具や触媒を有効活用するために、更に多額の費用がかかるよう調整されるだろうという事にディルクは気付いていたが、口には出さない。言っても無駄だし、意欲は少しでもあるほうがいい。
結局、結果を出す事が前提とはいえ、元の賞金が霞むような金額や様々な内容のボーナスがDチームのみに追加された。いくら迷宮都市でも、パンダ……というか、動物の出産に対する補助は未整備と言わざるを得ない。そういった問題を加味した上で、出産費用や育児施設の紹介など細かいところまで気が回るのは火神の得意分野といえるだろう。特に、中央区画の施設なら彼の庭のようなものだ。
「……ようするに、このドグサレはそういう仕組みを作って利用するのが得意なわけと」
何故か無意味に毛を燃やされたガウルは魂で理解した。やはり火属性の連中とは相性が悪いと。火属性への熱い風評被害である。
「ソレは、やる気を出させる事とそこにイタズラを仕込む事に関しては天才的です。そこら辺、ダンジョンマスターから受け継いでしまった性質って事なんでしょう」
「四神は大体そんなところがあるからな。やり過ぎない範囲でやらかすのが我の仕事」
やらかすのは別に仕事ではない。周りも、見て見ぬフリをしているだけだ。
「運営に関しては間違いなく有能なんですけどね。有益とはいえ、意図的な嫌がらせがなければ」
「本能に基づいて行動しているが故に無理難題であるな。我が主もそんな事は期待しとらんが故に」
何も考えていないように見えて、ちゃんと計算しているあたりがダンジョンマスターっぽい。ノーグの周りにはそんな連中しかいないというのも問題だ。攻略推進委員会はそういう間違ったアウトロー的な理念の元に運営されているのである。
「それで、やる気になったところで勝ちを狙うプランや自信の元を確認しておきたいわけだが」
焦げた匂いをさせながら、ガウルが話題を元に戻す。座り直した位置はノーグから最も離れた席だ。
「ええ、もちろん。元々、機密以外はここのタイミングで明かすつもりだったので、気前良く行きましょう。さしあたっては、他のチームより多めにミーティングや模擬戦の時間をとっていきたいと思います。ガウルさん以外はスケジュールにも余裕があるでしょうし」
「水没フロアが問題なんだよな……水泳の練習さえなけりゃ問題ないんだが」
共有すべき情報は多い。加えて、単に知識だけでも理解し難い部分を多く抱えているのがディルクという存在だ。必然的に事前調整の場は多めにとる事になるだろう。
「ああ、ミーティングやるなら自由にここを使って構わんぞ。模擬戦に使える大部屋もあるし、本番まで秘匿し易いだろう」
「こういうところが分かってるから面倒くさいんですよね、この火神」
「エンターテイメント性が第一であるからな」
事前準備用に火神宮殿の利用まで許可された。秘密にしておいたほうが有利になる情報の多いディルクにはありがたい申し出だ。ここなら、《 宣誓真言 》を使用しての模擬戦をしても情報流出はしない。
そうして、全チームを見ても凸凹が目立つDチームの準備が始まった。
-2-
[ 四神練武当日 ]
その後、四神練武以外でも色々あったものの、イベント当日を迎える。何故かパンダのキグルミを着た人が水神宮前で職質を受けていたが、中央区画の火神廟から参加したDチームには特に影響はなかった。
ここまでに粗方情報共有は済ませ、ある程度は訓練も行っている。とはいえチーム方針的に連携訓練は最低限で、主に《 情報魔術 》を利用した戦闘に慣れるのが主である。朧げながら、他チームの編成情報や方針についてもある程度は把握できた。
「さて、そろそろ開始です。といっても最初はマイケルさんに任せて、システムやルールの様子見ですが」
「がう」
拠点に用意されたミーティングルームでディルクが言う。その言葉に、マイケルがまかせろと言わんばかりに胸を叩いた。
昇格前の下級冒険者に単独行動させるのは多少博打ではあるものの、マイケルはパンダ組の中では比較的単独行動に強い。純前衛で、罠対策や遠距離攻撃に弱いという弱点は支給品のアイテムで補う方針で、比較的多めに持たせてある。消費アイテムにかかるポイントは痛いが許容範囲内だ。
「優先して調査すべき事は配点ルールと敵の分布、フロアの構造や簡単な道順の調査です。できれば罠や宝箱の調査もしたいところですが、発見しても手は出さないように」
問題は通信だ。マイケルに通信機を持たせても会話ができない。面と向かえばある程度の意思疎通は可能なものの、通信ではそれも不可能……と考えるのが普通だが、そこをなんとかしてしまうのがこのチームの強みである。極端な話、拠点に設置されたモニターですらほとんど必要ないのがDチームなのだ。
「こちらからの指示は主に通信で送りますし、《 データリンク 》を通じて視覚をはじめとした情報の共有は行いますが、とっさの判断は任せます」
「がうっ!」
「がうーっ!!」
「セラの出番はまだ先だから」
そうして、特殊イベント四神練武が開始した。
「しかしアレだな……事前に身を以て知っちゃいたが、反則もいいところだよな、コレ」
ガウルが宙空に浮かぶマイケルの共有情報を見て呟く。そこには専用のウインドウで視覚情報まで含まれているのだ。しかも、それは他者にも分かりやすく簡易化されたもので、ディルク本人は比較しようもないくらい膨大な情報を認識している。
今回のイベント中はあくまでディルクが用意した簡易情報を使う事になるが、この情報もある程度は自分でインターフェイスを設定する事ができるという。慣れたリリカやマイケルは自身の設定を使用しているのだ。最も慣れたセラフィーナはまた別次元で詳細なデータリンクをしているらしい。
そんな事を話しているウチにマイケルがモンスターと接敵。《 データリンク 》を通した《 鑑定 》の結果、なんの変哲もない低レベルモンスターという事が分かったので、単独で撃破する事になった。マイケルが危なげなく《 パンダ・チョップ 》でモンスターを撃破した結果、ノーグの補足もあってモンスター討伐によるポイントのルールが判明する。
「高レベルほどポイントが高いのは当然として、二乗されると桁からして変わってくるな」
ベレンヴァールの指摘通り、このルールは敵モンスターのレベルによるポイント差が極端に大きくなる。少し高レベル帯に移動するだけで、それまでに獲得したポイントが誤差になりかねないほどに。
「どのチームも格上殺しが得意な人たちが多いですからね。純粋に戦力差が出てくるって事ですね」
「ウチの連中、格上殺しの見本市みたいな連中だからな」
「違いない」
ガウルもベレンヴァールも、その点は良く理解している。ベレンヴァールに至ってはその身を以て体験した経験すらあるのだ。
とはいえ、渡辺綱ほど極端でないにしても、Dチームの構成メンバーにもその傾向はある。そういった要素を見せていないのはマイケルくらいだろう。
「とりあえず、第一エリアの範疇であればリリカさんも単独で大丈夫そうですね。マイケルさんが道中で見つけた宝箱や罠、ギミックの調査をお願いします」
「分かった」
先遣役であるマイケルは極力専門技能を必要とする作業は行わない方針だ。それは後続で出発するリリカが魔術で補完する事になる。
このチームは他にもディルクやセラフィーナが斥候役を担えるし、ソロで戦い続けてきたベレンヴァールにも知見はある。冒険者業に慣れてきてある程度は素で罠の看破ができるようになっているとはいえ、マイケルのような純戦闘役が敢えて手を出すような分野でもない。
マイケルから遅れる事数時間後にリリカが出発。合流はせずに情報共有された宝箱を回収、致命的な罠を解除・破壊しつつ、探索範囲を広げる。ただし、発見された宝箱などは別途回収に向かえるように、マイケルの担当エリアを補助できる位置をキープしたままだ。
「エリアボスは別かもしれませんが、第一エリアは全員ソロで問題なさそうですね、このまま外側に向けて探索範囲を広げつつ、ルールの把握を進めましょう」
『宝箱から出たこのボードはどうするの?』
「正直、ウチには無用の長物ですね。一応、マイケルさんに使ってもらいましょうか」
『がう』
最低限の保険として用意されていたマップボードだが、ディルクの《 データリンク 》を擁するDチームにはほとんど意味のない代物だった。おそらくはCチームも必要としないだろう。
その他、このボードの拡張パーツらしきアイテムも見つかったが、本体が不要なのでまったく意味がなかった。機能検証すら後回しだ。
「リリカさん、もう少し詳しくその部屋を調査して下さい。構造的に多分、隠し通路があります」
『分かった……ああ、天井にスイッチがある。アレなら問題ない』
取得したマップ情報から傾向を分析。怪しいと思える部分を割り出していく。こういったギミックを逆手にとる罠もあるだろうが、第一エリアならさすがにその心配はないと踏んでいた。
簡単に看破したように見えるが、隠し通路やスイッチに気付くのはもちろん、それを押下するのも特有の技能が必要だろう。リリカであれば射撃魔術で代用できるので問題はない。
『罠は……ない。……扉?』
開かれた隠し通路の向こう側には壁で囲まれた空間に巨大な門が鎮座している。それは、拠点の東西南北に設置された門と同一のデザインだ。
「拠点の門と接続してるって考えるのが妥当なところでしょうね。火神様、設置された門に関して開示できる情報などはありますか?」
「本当なら触れて登録された後だが、Cチームがすでに発見済だから説明はできるな。アレは南門と直結している帰還用の門だ。一方通行である」
どうやらどこかのチームが発見する事が情報開示の条件だったらしい。
「ちなみに、西門は一度触れて登録すれば双方向に行き来できるようになる門だ。ただし、こちらは< 転送鍵 >を消費するのである。この二つは初回発見ボーナスがあって、Cチームが獲得している」
「先行されたか。……まあ、仕方ないと言えば仕方ないですよね。ラディーネ先生相手に探索で張り合うのはちょっと厳しいですし……となると、最後の東門は……」
「各ボスエリア攻略後に有効になる中継地点であるな。鍵は不要だが、拠点側からの一方通行である」
[ Dチーム、非公開情報開示違反でペナルティが発生します ]
「……は?」
突然、拠点内にアラートが鳴り響き、モニターにデカデカと注意文が表示された。
「え、ちょ……」
「あ、いっけねー! 東門は開示条件満たしてない情報であるな。失敬っ!!」
「失敬じゃないだろっ!? 何やってんだ、あんた!?」
「聞かれてしまったからつい……我、確信犯」
「わざとって事じゃないかっ!!」
[ 特殊公開情報 ]
・南門:ダンジョン内に複数設置された門からの帰還専用の門。ダンジョン側からの一方通行。死亡、帰還アイテム使用時とは異なり探索時間は継続する。
・西門:踏破済みの中継ポイント間の移動用の門。使用には、専用に用意された消耗品の鍵< 転送鍵 >を一人につき一つ使用する。
・東門:各エリア境界線に設置された門への移動用の門。門前に配置されたボスモンスターを撃破し開門する事で使用可能となる。拠点側からの一方通行。
モニターに情報が公開され、その下にペナルティとなる減点ポイントが表示された。巨大な数字が負債となってのしかかる。
「えぇ……」
冗談で済まされるような減点ではない。あまりの事にその場にいたガウルとセラフィーナも絶句である。それは通信を通したリリカやマイケルも同様だった。
「なーに、この程度ならなんとでもなるのである」
「簡単に言ってくれるな……。なんの目的でこんな事した、言えっ!!」
「ハンデである」
「は、はんで……?」
何を言い出すのか。
「我の見立てでは、どうも簡単にこのチームが勝ちそうだったから調整した。貴様も楽勝ムードが漂っていたではないか」
「だからって、やっていい事と悪い事があるだろ!」
「すまん、つい」
ついじゃないんだが。
「ああクソっ! 今はそれどころじゃない。プラン練り直しだ! リリカさんっ!! その門から一旦帰還!! ごめん、マイケルさんは継続して探索。ちょっと指示出し遅れる」
『わ、分かった』
『が、がう……』
冗談ではない。確かにかなり余裕を持って勝ちにいけると思いかけてはいた。しかし、この減点を引っ繰り返すには並大抵の加点では厳しい。
とりあえず火神はガウルが簀巻きにする事にして、プランの再構築が必須だ。抵抗して暴れる火神だが、こんな奴を放置していいはずがないのだ。無駄に蹴りをいれるガウルの気持ちも分かろうというものである。
「えーと、どういう事?」
「なんだこの状況は」
事態を把握したのか、出番に備えて門前で待機していたベレンヴァールが帰還したリリカを伴って戻ってきた。ガウルによって簀巻きの上に氷漬けされた火神ノーグを見てギョッとするものの、それを後回しにして説明を求めるべくディルクに視線を向ける。尚、火神の上に座り込むガウルはちょっとすっきりしていた。
「このアホがやらかしました。ウチは自爆ハンデ付きの勝負をするハメに……」
こんなものどう説明しろというのか。不安材料や懸念といったレベルでなく、明確に足を引っ張ってくるとは。出足が順調だっただけに落差が激しい。
「とにかく、いきなりですがプラン変更です。当初の予定だと、この減点を回収し切れない。スケジュールをギリギリまで詰めてポイントを狙いにいきます。必然的に単独行動が更に増える事になりますが……」
「当初の予定以上にか?」
「はい。他チームの動向次第ですが、特に後半は厳しい事になるかと」
都度修正は必要だが、容易に追いつけるとは思えない。このクランはそういう予想を超えてくる集団の集まりなのだ。それを更に超えていく必要がある。
マイケル以外の予定を切り替えて待機。それから数時間かけてプラン修正の後、リリカが行動を開始する。無事割当てられた予定をクリアして戻ってきたマイケルは、明日以降の修正プランを目にして絶句した。当初の予定にあった予備のスケジュールがごっそり消えてなくなっている。
「現在のプランはあくまで暫定です。ボーナスポイントの獲得条件がはっきりすれば、もう少し楽になるでしょう」
『とはいえ、さすがに強行が過ぎるんじゃねーか?』
「ちゃんと第二エリアボスまで辿り着けたじゃないですか。……どうです、いけますか? ガウルさん、リリカさん」
共有された視覚は一気に第三エリアを目指すガウルとリリカのものだ。発見したボスフロアらしき場所には、二羽の巨大な鳥が待ち受けている。
モンスターの名は< 闇纏鳥 >と< 幻惑鳥 >。< 暗闇 >、<幻惑>といった視覚に対する状態異常攻撃を得意とするモンスターだ。
『普通なら厄介極まるモンスター。……といっても、この反則能力の前じゃあ無駄だがなっ!』
『取り巻きはこちらで処理する』
ガウルが前に出た。フロアに侵入した途端、視覚が闇に覆われるが、その中でも変わる事なく表示される《 データリンク 》情報により、大凡の位置が把握できる。実際の位置ではなく、あくまで環境情報から予測計算されたものだが、ガウルの野生の勘と合わせれば攻撃を命中させる事は可能だ。
一方でリリカの役目は可能な限り安全な位置から、都度召喚される小鳥を狙撃し続ける事。位置情報だけを頼りに射撃を繰り返す的当てだ。
どちらも《 データリンク 》なしでは成立し得ない戦術である。まともに戦えばガウルはともかくリリカには危険な相手でも、規格外の対策があればこうも楽になるという見本だ。
『っしゃ!』
ガウルの爪が幻惑鳥の本体を捉え、絶命に至る。第二エリア攻略だ。
「これだけ早けば多分最速到達だと思うんだけど……」
「そろそろ出番?」
「うん。……だけど、ボスフロアの構造でちょっと気になるスペースができたから、セラは先にそっちに行って。ベレンヴァールさんは予定通り第三エリアへ。セラを後から合流させます」
「分かった」
第三エリアに足を踏み入れ、直の転送が可能になったところでベレンヴァールとセラフィーナが出撃し、攻略中のコンビと合流するが、ほとんど時間の残されてないリリカはここで帰還。更にセラフィーナは単独で逆走して第二エリアの指定ポイントを探索に向かう。
結果から言えばそれは正解。セラフィーナが急行した先は中央に石碑が鎮座する巨大な広間になっており、スクラップ・ゴーレムという機械仕掛けのモンスターが陣取っていた。
セラフィーナがフロアに入った直後、出入り口が塞がれ、強制戦闘が開始する。
『がうーっ!!』
能天気な声を上げつつ、セラフィーナが自身の愛剣< 鳳仙花 >でスクラップ・ゴーレムを解体する。《 宣誓真言 》の強化すら必要もないのか、エリアボスより強く設定されているはずのモンスターが呆気なく沈んだ。
[ 特殊エリア開放 ]
その直後、ログにメッセージが表示され、結構なボーナスポイントが発生すると共に、そのエリアからかなりの広域に渡ってマップが探索済に切り替わる。罠からオブジェクトからすべての情報が丸裸だ。
「よしっ!」
思わず、ディルクもガッツポーズである。
「セラ、その石碑に近付いて。何が書かれてるのか読みたい」
『はーい』
意味あり気に鎮座していた石碑だったが、エリア開放に合わせて発光を始め、文字が浮かび上がっていた。
[ 隠しボーナス情報 ]
そこには、ある意味特殊エリアのボーナスよりも重要な情報が記述されていた。
Aチームは終ぞ発見する事さえなかったが、特殊エリアにはこういった情報をはじめとして四神練武の非公開ルールがランダムに出力される。
隠しボーナスは、日ごとの最終リザルトにおいて[ その他 ]の分類でポイントが加算される。内訳も表示されないので、他チームはそれが隠しボーナスによるものかどうかの判別はできない。
今回表示されたものは破壊する事でポイントが加算されるオブジェクトの位置を示したものだったが、本当に重要なのは内容ではなく、こういった情報が存在するという事だ。これによってDチームの攻略方針は大きく変化する事となる。
その後、第三エリアを中心にベレンヴァールとセラフィーナがバラバラに暴れまわり、ベレンヴァールが一、セラフィーナが追加で二の特殊エリアを開放する事に成功する。
最後にディルクが駄目押しで第三エリアで荒稼ぎをして一日が終了だ。
結果として、多大な減点分を巻き返すには至らなかったものの、予定よりも多くのポイントを稼ぎ出す事に成功した。データ収集も十分捗ったといえるだろう。特に特殊エリアのヒントには得点以上の価値がある。
[ 特別イベント< 四神練武 >一日目結果発表 ]
[ 初回ボーナス ]
ボーナスモンスター初撃破ボーナス:Cチーム ボーグ
ボーナスアイテム初獲得ボーナス:Bチーム 摩耶
第二エリア最速到達ボーナス:Aチーム サージェス
第三エリア最速到達ボーナス:Dチーム
エリアボス初討伐ボーナス:Aチーム サージェス
特殊エリア初制圧ボーナス:Dチーム セラフィーナ
南門最速発見ボーナス:Cチーム
西門最速発見ボーナス:Cチーム
[ MVP ]
モンスター討伐MVP:Dチーム セラフィーナ
罠解除MVP:Bチーム 摩耶
宝箱回収MVP:Bチーム 摩耶
特殊エリア制圧MVP:Dチーム セラフィーナ
マップ探索MVP:Bチーム ユキ
総合MVP:Dチーム セラフィーナ
[ 死亡者 ]
なし
[ ペナルティ ]
非公開情報開示違反:Dチーム
[ マップ情報公開 ]
Aチーム:OK
Bチーム:OK
Cチーム:OK
Dチーム:NG
[ 得点順位 ]
一位:Bチーム
二位:Cチーム
三位:Aチーム
四位:Dチーム
「……よし」
途中でとんでもないマイナスを抱える事になったものの、それ以外はプラン修正も含めて上手く機能した。今頃、他チームはこの結果に様々な反応をしているところだろう。
この調子ならば、減点分を巻き返す事も不可能ではないはずだ。動向次第ではあるが、二日目で追いつけるチームが出てくるかもしれない。
「うむ、実に無難であるな。期待ハズレもいいところだ」
「……また何か変な事言い出すつもりですか?」
「いや、立場上そんな事はできんよ。我、担当であるからして」
出力された結果を前に、いつの間にか簀巻き状態から抜け出してきたノーグがまた何か言い始めた。
四神として、ルール上求められない情報開示はできない。初期の違反も拡大解釈でやっただけの事であって、無差別な嫌がらせはできないのである。つまり、危な気な質問をしなければいいのだ。
「ただ、一人の観衆として見た場合に面白くはないなと思ってな。劇的ではない」
……彼の狙いはもっと王道なものだ。トリックスター気取りの亜神は、更なるエンターテイメントを求めていた。
「なるほど、貴様は優秀だ。そして貴様の嫁も優秀飛び越えて筆舌し難い何かと言える。ちょっと意味不明なレベル」
「嫁じゃねーよ」
確かにまだ嫁ではないだろうが、突っ込むところはそこなのかとノーグは一瞬困惑するものの、続ける。
「ただ、そんな程度の事は渡辺綱も分かってるだろう。おお、すごいとは思うだろうが、貴様の望む結果から見ればせいぜいが90点といったところだ。高得点に見えるな」
「……それで何が期待ハズレだと?」
「すでに予想はついているだろうが、アレはそういう類の結果を出そうが決して頼りにはしないだろうよ。必要なのはまともな範疇での採点ではなく、それを飛び越えた何かだ」
やり口がある程度分かったディルクは、とりあえずノーグの口を塞がない事にした。何を言いたいのか興味も惹かれているのは確かなのだ。
「このタイミングでアピールしたいなら、その枠から飛び出せと? リスクを背負ってでも120点取りに行けと言いたいんですか?」
「……違うな。まったくもって違う。そもそも、今のこの盤面。すべてが予想できる範疇でしかない。AもBもCもやる気になってはいるだろうが、お前と同じように100点を目指しているだけだ」
「ではどうしろと?」
「すでに答えは出ているだろう? 他のチームも巻き込んで100点満点のゲームを1000点満点にしてしまえ。これを1万点にしてしまうのが窮地の渡辺綱だが、お前程度にそこまでは望めんだろうしな」
「言ってくれるな、クソ担当」
それがどんな意味の言ってくれるなのかを把握し、ノーグは内心ほくそ笑んだ。目の前の煽り弱者が乗ってきたと。
「順当に取りに行った90点などではなく、マイナスになるリスクを飲み込んででも900点とってみせろという事だ」
「……言いたい事は分かりました。それで具体案は?」
「いや知らん」
「おいっ!?」
ノーグはマクロ視点で見て適当に煽っているだけなのだから当然だ。いまのままでは順当過ぎてつまらないから文句言ってるだけである。
「それを考えるのもお前の仕事で点数のウチだろう? 我、あくまで担当」
「くっそ、覚えてろよ……」
「やる気になったようで我感心。なーに、昔から他人の心理誘導は得意であろう? そうやって、セラフィーナも調教したわけであるからして」
「…………」
物言いはムカつくが、自覚がある上に大体合っているから困る。セラフィーナ本人の前で言う事ではないが。
「でも、自身も煽られやすいから、分かっててもこうやって誘導されると。なんとも可愛らしい事よ」
「うっさいわっ!! ちょっと、黙っててください」
「我、口にチャック」
確かに乗せられてる自覚はある。しかし、冷静に考えてもこのクソ担当の言っている事は間違っていない。
元々、そういう方面に長けているのがこの四神の特徴だ。攻略推進委員会だって質屋だって親方日の丸暴走族だって迷惑冒険者だって、すべて計算して作られたものだからだ。
実際のところ、渡辺綱は90点でも評価はするだろうし、普通に優秀だと褒めてくれるに違いない。それはそれで間違ってはいないはずだ。しかし、意識が訓練の延長にある以上は、型通りの範疇内での評価でしかない事も事実。ディルクはそんなものを望んでこのクランに飛び込んだわけではない。もっと劇的な何かが欲しいのだ。火神の言う事は、ムカつく事に正論ではある。
思い浮かぶのは、以前、クランの中核メンバーがやったという地獄の無限訓練。完全な詳細までは分からないが、その誘導方法はユキから聞いている。
アレと同じ事はできない。あまり得意な方法ではないし、どちらかというとそれはノーグの手口に近いからやりたくない。それはノーグとユキのやり方が似ていると言っているのに等しいが、あまり間違っていない。
この四神練武は自分のアピールの場だ。そう考える。龍人との交流など知った事か。そんなものは後から自然とついて来る。むしろちょうどいい試金石になるだろう。
メンバーを見渡す。ノーグの物言いとディルクの反応に、ほとんどのメンバーは困惑していた。ディルクのやり方に慣れているリリカとマイケルでも不安そうだし、ベレンヴァールは何を言い出すのかじっと聞き入っている。セラフィーナは何も考えていない。……ここで見るべきはガウルだ。なるほど、こうして見ると渡辺綱の影響が良く分かるというものだ。
「俺はいいぞ、乗ってやる。やれ」
ああ、なるほど。……これがそうか。これがディルクが望んでいたものの一片という事なのだ。
計算する。リスクは飲み込む事は確定したが、無駄に大きなリスクを背負う気はない。可能な限り最小限のリスクで、最大のリターンを狙う。それがディルクのやり方だ。そして、やるべき事はすでに示唆されている。
「クソ担当、各エリアの敵撃破ボーナス補正の一覧を教えて下さい。それでAチームを先のエリアに誘導します」
それだけで他の二チーム、いや、自分たちも含めて全チームが引っ張られる。引っ張られた盤面が容易に拡大するだろう。広がった分、盤面の中心部分はブラックホールになってしまうだろうが、それを狙う。
つまり、渡辺綱とAチームを牽引役に100点満点の舞台を1000点満点へと変貌させる。その上で勝つ。なんともエンターテイメント性のある話だ。
「いいぞ、ディルク。素晴らしい! 我、超興奮っ!!」
「そういうのはいいんで早く」
あまり遅れると印象にズレができる。やるならこのタイミングがベストだ。
[ 各エリアのモンスター討伐ポイント補正 ]
第一エリア:×1
第二エリア:×2
第三エリア:×3
第四エリア:×5
第五エリア~第十エリア:×10
そうして、再度Dチームの違反が発生した。今度は意図的なものだ。
減点から考えると、さすがにこれ以上は厳しい。どう足掻いても追いつけなくなる。劇的というならば、ハンデを飲み込んだ上で勝つ。そのために飲めるギリギリのラインともいえる。
Aチームはより先のエリアに向かって得点を稼ぐ方針だ。それは編成を見れば簡単に予想が付く。今回の違反で、それがより顕著になる。
確実に勝ちを拾えるラインはおそらく第四エリア。Aチームがそこに留まるようなら勝てる。普通に考えるなら、そこがギリギリだ。……とはいえ、普通ではない。実際に可能かどうか分からないし、Dチームのメンバーを総動員しても辿り着ける気もしないが、渡辺綱なら第五エリア到達もありえるだろう。そう仕向けた。最大のボーナス補正が付く第五エリアにAチームが到達するか。それがこのイベントの鍵になる。
「はっはっはっ!! いいぞっ!! 盤面大荒れっ! 他の四神連中の困惑が伝わってくるぞっ!」
「はい、ストップ」
「うぐぼっ!?」
唐突にノーグの頭部が水に覆われた。あまりに突然の展開で、大量に水を飲み込んでしまったノーグは我、悶絶。良く見るとその後ろには四神の一人である水神エルゼルの姿があった。
「まったく、思惑は分かりますが、ディルク君も簡単に煽られないように」
「す、すいません。……というか、他チームの担当なのに、ここに来ていいんですか?」
「一応、これでも四神筆頭なので。非常時の処置に関しては特権を認められてます。というわけで、こいつは退場で」
「ごほっ! 不満である!!」
ノーグはすべての水を飲み干すという荒業で脱出した。
「いや、やり過ぎです。運営側としても、ある程度そういう意図があった事は否定できないが、逸脱し過ぎで看過できなくなった。というか、うるさいのでこいつは仕舞うとして……」
「あーれーっ!! あいるびーばぁっく!」
トイレに流されるかのように、突如空間に現れた歪みに吸い込まれていく火神ノーグ。退場の際までうるさい。
「すまないが、暫定的に私がDチームの担当代理になる。とはいえ、基本的にはBチームの担当なので、実質的には担当不在という事になるが」
「ああ、はい。仕方ありませんよね」
「まあ、君なら大丈夫でしょう。むしろアレがいないほうが結果的にはいいかもしれん」
この場にいる誰もがそれを否定できなかった。
「タイミングを逸したので、他チームへの連絡は明日の結果に合わせてという事で。微量ですが、少しは優位に動けるでしょう。正直、この減点は厳しいですが……いや、やめておこう。何か必要な事があったらモニタ端の呼び出しボタンで連絡を下さい。では、Dチームの健闘を祈ります」
そう言うとエルゼルは最初からその場にいなかったかのように姿を消した。
「……さて、やらかしちまったから後には引けねえな。気合入れて追いつくためのプラン立ててみせろよ」
「はい、当然です」
実はモニター上に映る減点の桁数を見て後悔しかけているのは内緒だ。一応でもリーダーである以上はそんな表情を出してはいけない。出すならすべて終わった後だ。
「……いなくなる前にぶん殴っておけばよかった」
大量の減点。更には他チームが躍進する事を前提にプランを練り直す。膨大な情報と計算で最適化された攻略ルートを探り出し、適宜調整、即時反映させる事が求められる離れ技だ。
そんな事はディルク以外にはできないし、それ以外のメンバーについても掛かる負担は巨大なものになる。しかし、認めてしまった以上、後には引けない。
[ 特別イベント< 四神練武 >二日目結果発表 ]
[ 初回ボーナス ]
第四エリア最速到達ボーナス:Aチーム
活動時間延長アイテム初取得ボーナス:Bチーム
総計ダメージボーナスLv1:Dチーム セラフィーナ
最大ダメージボーナスLv1:Dチーム ベレンヴァール
総計被ダメージボーナスLv1:Bチーム ゴブサーティワン
[ MVP ]
モンスター討伐MVP:Dチーム セラフィーナ
罠解除MVP:Bチーム 摩耶
宝箱回収MVP:Cチーム ボーグ
特殊エリア制圧MVP:Dチーム ベレンヴァール
マップ探索MVP:Cチーム ボーグ
総合MVP:Dチーム セラフィーナ
[ 死亡者 ]
Aチーム:なし
Bチーム:ユキ、ミカエル
Cチーム:ティリア、ボーグ
Dチーム:なし
[ ペナルティ ]
Dチーム:火神ノーグ(退場)
[ マップ情報公開 ]
Aチーム:OK
Bチーム:NG
Cチーム:NG
Dチーム:NG
[ 総合得点順位 ]
一位:Cチーム(↑)
二位:Bチーム(↓)
三位:Aチーム(→)
四位:Dチーム(→)
そして、地獄のような戦略を乗り切った二日目の結果発表だ。
一日目と同じようにセラフィーナが暴れ回り、ディルクも情報収集や実地テストを行いながら暴れ回って得点を稼ぎ出した。
最大ダメージボーナスは特殊エリアの情報を元にベレンヴァールが《 刻印術 》の直列励起……同一の術を複数同時起動させる事による相乗効果で叩き出した。閾値は分かっていたので、とりあえずLv1のボーナスを獲得という事で、明日も同様の手でLv2ボーナスまでは狙えるだろう。Lv3は全力でも不可能と判断した。
総計被ダメージボーナスは情報だけは取得していたものの、リスクを勘案して獲得を見合わせたボーナスだ。意図的かどうかは別にして、獲得する者が出た事が驚きである。
ついでに、前日の火神ノーグ退場についてもここで公開である。
……まずい。
二日目の結果を見て、メンバーが一喜一憂する中、ディルクは一人状況の整理を続けていた。
他チームからは異様な速度で追い上げているように見えるだろうが、これでは足りない。暴走したらしいCチームはともかくとして、想像以上にBチームの伸びが大きい。復帰が難しいボーグの脱落と比較して、二人の死者を出した影響が翌日まで響く事はないだろう。そして、Aチームの動向が掴めない。第四エリアに最速到達しているという事はこちらの意図を分かった上での行動なのだろうが、情報が少な過ぎて不気味だ。地図を購入するなら把握できるだろうが、この流れだと購入ポイントが致命傷になりかねない。
おそらくだが、このままではAチーム……ひょっとしたらBチームも、想定していた最大限を飛び越えてくる。必然的にこちらも博打を打たないと勝てない状況に追い込まれた。さすが自分の見込んだ渡辺綱、クラマスとサブマスは伊達じゃないと手放しで褒めたいところだが、負けず嫌い成分がそれを認めるのを良しとしない。いや、認めた上でそれを超えていく事を強要されている。
「……これで負けるのは格好悪いなぁ」
Cチームがほぼ脱落したので、安全策をとるなら最下位は回避できる。ボーグの復帰不可がブラフならその限りではないが、それはないと見ている。
しかし、そんな結果で満足できるなら、こんな盤面にはなっていない。何より、あのクソ担当にバカにされそうでムカつく。
「……セラ、明日はちょっと負担かける」
「うん」
別になんでもないと言った雰囲気で応対されるが、ここまでですらセラフィーナの負担は尋常なものではない。
戦力の運用に関してはすべてを飲み込むのがこの少女の在り方なのだから、求められれば応えるだけなのだ。
「いや、駄目だな。チーム戦なんだから。……すいません、最終日は全員かなりハードになります。このままだと追いつけない」
「いいんじゃねーか? ウチなら良くある事だ。新人なのに、いきなり染まってきたじゃねーか」
「……減点はともかくとして、すこぶる順調にしか見えんのだが、これでも足りないのか?」
「ディルクは足りねえと判断したんだろ。……ぶっちゃけ、俺もそう思う」
ガウルがボードを見返しつつそう言った。数字しか見えなくても、本命がノリ始めているのがはっきりと分かるのだ。今日の結果も助走に過ぎない。
この場で朧げながらも先の展開を予想しているのはディルクとガウルの二人だけだ。ディルクは計算、ガウルは経験によるものだが、答えは一致している。
この戦いは隔離されたチーム戦だ。初日に盤面外から衝撃を与えたものの、ルールに則るならあくまで割当てられたチームとエリアの中で勝負するしかない。暴獣が疾走する事を止められないのなら、追いつくために速度を上げるしかない。
どう足掻いても博打になる。鍵はやはりセラフィーナだ。考えたくはないが、彼女がコケた時点でプランは崩壊する。
……保険のプランを検討する必要はあるが、今だってかなりギリギリなのだ。ベレンヴァールは現状の役割から動かせない。リリカもマイケルも、最終日で目立った動きをさせるのは無理がある。ある程度は自分が飲み込むとしても……。
「あまり考えたくありませんが、もしもセラが落ちた場合は大幅にガウルさんのオーダーを中心に変えていきます」
「ぶーっ!」
「お前が落ちる可能性すらある博打って事なんだろ、ぶーたれんな」
「そう、問題ないなら、そのまま突き進むだけ……」
……それで大丈夫だろうか。本当に? Aチームの第五エリア到達が肝になるのは変わらないとして、辿り着くだけでは駄目で、更にそこから上乗せが必要だ。
正直、第六エリアはない。そんな攻略速度ではないし、補正点から考えてもそこを目指すメリットは薄い。未知のボーナスを考慮すれば別だが、それでもだ。
Bチームも不気味ではある。Cチームだって、ここから手を打たないという事はないだろう。おそらくウチと同じように博打を視野に入れてくるはずだ。
ああ、いいな。情報があっても、まったく予想がつかないこの感じ。キツイのは確かだが、楽しいと思っている部分もある。無限回廊に挑む者はこうでなくてはいけないと、自分の中の何かが言っている。
一年前では決して有り得ないと思っていた存在。極限まで計算した予測を容易に超えてくる存在がいる。ディルクが諦めた、理想とする冒険者像がそこにある。
すでに当初のプランなど崩壊して久しいが、元々最終的に出すであろう結果に二日目の時点で届き、更に異次元の領域に超えていこうとしているのが今だ。自分が演出した盤面なのだから、責任をとって勝たないといけない。
というか、負けたくない。最下位など論外、たとえ二位だってあのクソ亜神は小馬鹿にしてくるに違いないのだ。
最終日の予定は、極限の負担を強いられた二日目よりも更に過酷なものになる。特殊エリア開放によって明らかになった隠しボーナス……その中でも極大のポイントが加算されるものを狙う。
大目標は二つ。
指定された複数の特殊エリアを開放する事で、通常よりも数倍の範囲が探索済になる特殊エリアの制圧。
第三エリアのエリアボスとして配置された別のチームのシャドウ、そのすべてのパターンの攻略。
どちらも難易度は並ではない。前者は特にだが、隠しボーナスで場所が判明していても、そこに至る経路が分からず、また絶対通過しないような面倒臭い位置にある。
エリアボスのほうはまだある程度の予測はつけられる。三パターンしかない以上、並んだボスエリアを順に攻略すれば当たりはつけやすい。まずはこちらの攻略を目指す事になる。
最速到達では遅れをとったが、二日目の時点ですでに第三エリアボスは撃破済だ。この時のボスはCシャドウだったが、明日は残りのAチームとBチームのシャドウを撃破する。被ったら泣くしかないのが実に厳しい。
「まずはベレンヴァールさん、ガウルさんのコンビ、セラ単独で第三エリアボスを攻略に向かいます」
一度で隠しボーナスが獲得できれば良し。外しても後一度くらいはチャンスは捻り出せる。挑戦して出てきたのがどちらもCチームとか、そういう偏った事にならない限りリカバリーは効くはずだ。
その後、強行で広域マップ開放の隠しボーナスを狙いに行く。時間制限的にこれを担当するのはディルクだ。可能であれば第三エリアボス攻略組と合流して取りに行く。相当に遠いし、場所が第三エリアという事もあってマイケルとリリカ……特にマイケルは参加が厳しい。進行次第だが、最後の駄目押しでここまで獲得したアイテムを全放出して第二エリアの宝箱を獲得しに行く事になるだろう。
……そう考えていた。
最終日。多少の予測ミスはあったものの、セラフィーナがエリアボスに辿り着いた。若干遅れてベレンヴァール&ガウルコンビも別のエリアボスに辿り着く。
出現したシャドウはセラフィーナ側がAチーム。もう一つはBチームと、ここに来て最良の出目だ。人数差もあり、ベレンヴァールたちが先行してBチームシャドウを撃破。戦況的にかなり綱渡りだったようだが、無事に渡りきったらしい。その時点で、セラフィーナ側も優位に運んではいた。
『セラフィーナが落ちただと……?』
この時点で、セラフィーナがシャドウチーム相手でも単独で勝ちを拾える実力を持っている事はベレンヴァールも理解していた。しかし、そのセラフィーナが敗北、死亡した。
《 データリンク 》が伝わってくる情報を見る限り、すでにほとんどのシャドウは撃破し、戦況はかなり有利になっていたはずだ。
『ツナシャドウかよ。……あいつマジでどうなってんだ?』
『本人ではないんだぞ』
最後に残された一体、ツナシャドウがセラフィーナを返り討ちにした。大まかな戦況しか見れないベレンヴァールたちはそれしか分からないが、詳細に情報を把握しているディルクは更に戦慄していた。
Aチームは元々戦闘力に偏ったチームだ。ガルドや空龍はシャドウでも間違いなく強敵だし、その他のメンバーだって楽ではない。それは《 宣誓真言 》を多重起動したセラフィーナでも同じだ。とはいえ、敗北がありえるとすれば、《 宣誓真言 》の効果が切れるタイミングでの攻撃といったような不測の事態を想定していた。ここまで疲労が蓄積した状態なら、いくらセラフィーナでも維持時間は減少するだろうと。
しかし、残り一体という詰め……それもHP残量が僅かという状況になってから、張り付いたようにシャドウのHPが減らない。実際には少しずつ減ってはいるのだが、本当に最小限だ。
本人が意味不明な生存能力を持っていると、シャドウにまで反映されるというのか。そんな馬鹿なと、ディルクは放心しかかっていた。
……勝利が遠い。
「まーけーたーっ!! なんだーアレーっ! シャドウの癖にーっ!! 意味分からーんっ!」
死亡して拠点に戻ってきたセラフィーナが暴れている。いや、本当に意味が分からない。
「……ごめん、負けちゃった」
「情報共有してたから状況は分かるけどね。……いや、本当になんだろうね、あのシャドウ」
何故、セラフィーナが多重《 宣誓真言 》まで使って削り切れないのか。シャドウの仕様上、HPが削れればそれで終わりなはずで、HPが切れてから本番な渡辺綱のシャドウは戦闘力に大きなハンデを抱えているはずなのに。HPを削れば削るほどゲージが減らなくなる。ダメージは通ってるはずなのに、想定しているダメージに届かない。戦闘時間の半分くらいはツナシャドウとの一騎打ちである。
本人ならまだ納得できる。そういう存在であると理解しているし、周りもそう認識している。しかし、シャドウまで意味不明なのは反則だろう。
「お岩さん落とした段階で勝ち確だと思ったのになー」
「お岩さん……」
確かにガルドは岩だが。
最終日という事で伸びるであろう得点を含めても、この三チーム撃破ボーナスと、もう一つの隠しボーナスで追いつけるはずだった。そして、その目論見は順調だったのだ。
しかし、結果としてボーナスの獲得はならず、セラフィーナという戦力が脱落した上に、減点という状況へ追い込まれた。
「……そう簡単には捲らせてくれないか」
ここから勝ちに行く場合、Aチームシャドウの撃破によって得られる隠しボーナスは必須条件に近い。それだけでは足りず、果たしたところで最低条件という苦境。かといって、今からそれに代わるポイント源を見つけるのは不可能に近い。予備として用意していたポイント源も、セラフィーナの脱落で軒並み潰れてしまった。
やはり狙うべきは全シャドウチーム撃破の特別ボーナスしかないのだが、セラフィーナが挑戦した第三エリアボスルームに関しては再挑戦ができず、新たにAチームの出現するボスルームを探す必要がある。
「やるしかないから分かり易くはあるんだけど……しんどいな」
残された手札は少ない。セラフィーナに任せて駄目押しにするつもりだった特殊エリア複数制圧の隠しボーナスはガウルに任せるしかない。ここも外せない。
「ガウルさん、すいませんがセラの代わりに指定ポイントへ向かって下さい。ベレンヴァールさんにはエリアボスを担当してもらいます」
『ガウルのほうもそうだが、かなり時間は厳しいぞ。それに、俺一人で攻略できるとは限らん』
「僕とリリカさんが合流します。……マイケルさんは、後回しにしてもあまり意味がなくなったから、単独で第二エリアの得点回収に向かって」
「分かった」
「がう」
とはいえ、第三エリアを駆け抜けてエリアボスを目指す場合、ディルクはともかくリリカは戦力的に厳しい。
一般的な魔術士の身体スペックでは第三エリアすらディルクに同行するのは厳しいが、独自の歩法術と体術を持つリリカが使えるのは僥倖といえるだろう。
第四エリア経由ならもう少し短い経路もあるだろうが、モンスターの強さもあって調査自体が困難だ。Aチームは本当にこんなエリアを突破できるのかと、今更ながらに不安になる難易度である。短時間の爆発力はあっても持続力に乏しいDチームでは第四エリアで得点を稼ぐのは、ソロはもちろんチーム丸ごとでも不可能だろう。
ボスエリアを目指しつつディルクとの合流を急ぐベレンヴァールだが、ただ予想合流ポイントに向かうだけではない。このチームにそんな余裕はない。ここまでに所在が判明していて未開放状態だった特殊エリアを制圧しつつの移動だ。ポイントももちろんだが、開放されるマップ情報で使える経路がある事を期待しての事だ。残念ながら隠しボーナスの情報に使えそうなものはなかったが、若干短縮可能なルートを確保できた。ついでに、大量に制圧した事で特殊エリア制圧のMVPさえ狙えるかもしれない。
ベレンヴァールを後追いして、特殊エリア制圧で開放されたマップも利用すればその分開けた経路を移動する事はできるものの、既知のマップに到達するまでが厳しい。安全な経路もあるにはあるが、かなり遠回りだ。必然的に未踏破の経路を推測しつつ強行する事を強いられるディルクとリリカ。やはり素のスペックに問題があったのか、ベレンヴァールと合流するまでにリリカは脱落。多少余裕を持たせて帰還してもらう事になった。行動時間が無駄になるが仕方ない。
ともあれ、第三エリアボスまでは辿り着いた。その時点で、ガウルの状況も確認したがそちらもかなりギリギリだ。順調なのは第二エリアを奔走するマイケルだけである。
「セラフィーナの戦闘時間から計算しても俺は途中で強制帰還になるだろうな」
「それ以前に、ここがAチームじゃなかったらアウトなんですがね」
エリアボスの扉を前でそんな事を言いつつ、二人は何故かここに出現するのはAチームだろうと確信に近いものを感じていた。どの道、ここ以外に挑戦するという選択肢はないのだが。
「……正解」
出現したのはAチームシャドウだ。当たり前だが、セラフィーナが挑戦したのとは別エリア、別個体だから六体揃っての登場である。
実際のデータ以上に巨大に見えるのは、単純にガルドシャドウがでかいからというだけではないだろう。ベレンヴァールにしても、Bチームシャドウと戦った時よりも巨大な威圧感を感じていた。
そこから展開された戦況は極めて順調といえた。直列励起は弾切れなものの、それでも高火力を出しやすいベレンヴァールを軸に、ディルクはサポートに回る。
早めにツナシャドウを落としたくはあったが、前衛ポジションのツナが落ちず、その余波で他のシャドウが落ちていくという謎現象が生まれる。ログを確認すれば理解できない事もないが、それが目の前で展開されると本当に意味不明だ。
「くそ、時間が足りない!」
「十分……かどうかは分かりませんが、後はなんとかします!」
「すまんが時間だっ! 帰還する!」
可能であれば自分がいる状況で攻略まで持っていきたいと考えていたベレンヴァールだが、予想に反して……ある意味予想通りに、その目論見は崩れ去った。
残されたリソースを全投入と言わんばかりに最後の大火力を投入して強制帰還。ディルクだけが残される。
「……さて」
ベレンヴァールがいたおかげで色々とフロア内に仕掛けを組む事ができたものの、それを使い果たす前に仕留められるか。
残りはツナシャドウただ一体。しかし、絶対に油断しない。自分の切り札であるセラフィーナを落とすような謎存在に対して油断できるはずもない。
《 宣誓真言 》で自身のスペックを適宜引き上げつつ、距離を確保しながらツナシャドウのHPを削っていく。概念変更とその揺り戻しに吐き気を覚えつつ、やはり何故か削り切れないツナシャドウに困惑する。
ベレンヴァール帰還前に用意していた最後の陣を消費すると、ツナシャドウが立っていた位置に大爆発が発生した。苦戦はしたが、これで仕留められれば上々。……しかし、何故か倒し切れてないんだろうなと、爆風を眺めつつ考えていた。……正解である。
「くっそっ!! なんだコレ、何がどうなってんだよっ!?」
理解しててもやはり意味が分からない。とっくの昔に決着してておかしくないのに、ツナシャドウは立っている。
ここからはギリギリの削り合いだ。想定はしてたが、本当に追い込まれるとは思ってなかった。劇的も劇的。見てるだけなら面白くてしょうがないだろう。
何もかも火神ノーグの思い通りというのは気に入らないなんてもんじゃないが、ここは乗ってやろう。
「《 我は迷宮の始祖の一であり、世界の理を変革する権利を持つ者であるとここに宣言する 》っっ!!」
迫るシャドウを前に宣言する。それはある意味、勝利への誓いだ。
この謎存在に勝利してようやく最低限。
あとは、ガウルとマイケルの推移を遠隔で補助しつつ、自分一人でポイントを稼げるだけ稼ぐ。他チームの状況次第だが、Aチームが第五エリアに到達してても、これで勝負にならないなんて事はないはずだ。
……多分。
結果は本編通り。舞台裏でディルクからノーグへのドロップキックが炸裂しました。(*´∀`*)
というわけで、予定を大幅に超過した上に何故か一部前後編になったりしたクラウドファンディングのリターンもこれで終わり。
次は多分、書籍発売に合わせて引き籠もりヒーローの三章に入ります。(*´∀`*)