特別編『秘密結社YMK-RR』
今回の投稿は某所で開催した「特別編アンケート敗者復活戦コース」に支援頂いたゆノじさんへのリターン作品の一つです。(*´∀`*)
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年が明けて迷宮暦が0025年となった現在、当事者としても驚くべき事であるが、秘密結社YMKはクラン設立申請中である。
……そう、マジかよって感じではあるが、以前幹部会で話に出た事が本当になってしまっていたのだ。その話を聞いた時は自分の耳を疑ったものだが、今では同志Aの正気を疑っている。
いや、確かに組織を維持するという目的で見るなら分からないでもないのだ。非公式のファン倶楽部程度ならともかくクランを廃止させる事などできないだろうから、正攻法かつ有効な手段ではある。頭悪過ぎて普通は誰も考えないだろうという現実を除けば。
この事実をユキたんが知ったら絶対に怒るだろうが、クレームを入れたところで正式な申請は取り下げにはならない。それこそ同志Aが改心……いや、心変わりして自ら取り下げたりしない限りは。
本来、迷宮ギルドにおけるクランシステムは冒険者活動の互助組織であり、特定の誰か……しかもそのクランに所属しているわけでもない冒険者のファン活動を行うために組織するものではない。百歩譲って、そのファン活動が間接的にでも冒険者としての活動にプラスとなるなら話は別だが、YMKに所属している大多数は冒険者ではないし、やっている事はユキたんの追っかけだ。どう誤魔化せば申請が通るのかさっぱり分からない。
しかし、恐ろしい事に申請自体はすでに受理されているという事なので、設立までの期間に横槍が入りでもしない限り冒険者クランとしての秘密結社YMKが成立してしまう。僕個人としては別に構わないのだが、本当にそれでいいのかという疑問は拭えない。大丈夫か、迷宮ギルド。
時間こそかかるものの、問題がないのが問題……何故か下級の僕や同志Bが幹部に名を連ねている事以外は問題ないはずだ。……いや、ほんとなんでだよ。
[ 老牛牧場 ひみつ会議室 ]
「しかし、クラン設立というものは面倒だな。申請書類を極力代理人に任せても手続きが多い。超忙しい」
新年最初の全体集会が終わった後の幹部会で同志Aがボヤいていた。軽く調べた程度なので詳しい事は知らないが、クラン設立ってそんなボヤいてられるような作業量じゃないはずなんだけどな。
どこ行っても獣臭いこの建物での会議ももう慣れたものだ。年末に本拠にして以来なんだかんで頻繁に訪れているから畜産業か介護職になった気分になってしまっていたが、僕らは冒険者だし、申請中のYMKも冒険者クランなのだ。
「……それでも幹部会やファンの集いには出てくるんですね、同志A」
「当たり前ではないか、同志C! 忙しいからと本業をおろそかにしてしまったら本末転倒だろう!! 冒険者業ならともかく」
……元々何やってるか謎が多い人だったけど、本業冒険者じゃないのかよ。
「でも、同志Bは欠席気味ですけど。今日もいませんし」
いつかのように逮捕されたわけではなく、単に忙しくて欠席だ。副首領の立場というものの弊害である。
「そっちは仕方あるまい。すでに資格取得済の私と違って、サブマスター講習のスケジュールが厳しいからな。……今頃は地獄を見てるかもしれんが、他に候補がいないからなんとかしてもらわねばならない。同志Cがサブマスターやりたいというのであれば今からでも代わってもらっても構わんのだが」
「そういうのは向いてないので、同志Bに押し……任せます。……あの、そもそもの話ですが、E+ランクでサブマスターになれるもんなんですかね?」
確かクラン設立条件はCランク以上で、その条件は同志Aがクリアしているらしいから問題ないのだろうが、必須となるサブマスターが同志Bというのはやはり違和感が拭えない。こんな非公式の結社で幹部やるのとクランのサブマスターをやるのは事の次元が違う気がするのだが。
「実は相当に厳しい。冒険者としての経歴を補うために大量の補助講習や資格が必要になるからな。……というか、別に万年下級冒険者というわけでもないのだから、普通に試験受けて昇格したほうが結果的に楽になりそうではある」
僕と同志BはYMK以外でも固定パーティで、共にE+ランクだ。半年くらい前にE+になって以降動きがないが、これくらいは普通で、冒険者としてはむしろ早いほうだろう。冒険者全体を見れば下の上という位置づけでしかないが、本当の底辺はそもそも冒険者デビューすらできないし、E+にだって上がれない。実は昇格試験の申請もしてないからこのままだとずっとE+である。僕らが底辺というわけではなく、ユキたんたちが異常なのだ。
無理をしなければ独身男性が生活していく分には困らない収入、副業を持っている者も多いが、専業冒険者でもなんとかやっていけるこの立場に甘んじる者は多い。中級に上がれば活動の幅が広がって色々楽になると分かっていても、中々上を見る余裕はないというのが現実だ。訓練時間を考慮しても自由になる時間はあるし、趣味に没頭できる環境に満足してしまうのである。僕も同志Bも似たようなものだ。
そんな立場の人間がクランのサブマスターなど、普通は鼻で笑われるだけだというのに。
「かといって冒険者業を疎かにしたら致命的な減点だから、休むわけにはいかんしな。特に悪評ポイントが付いていたらアウトだった」
確かにダンジョン・アタックのほうはまったく休んでいないけど。それどころか、以前より遥かに精力的だ。絶対に死ねないとか言っていたが、アレはこの減点絡みの問題で、一回のデスペナルティが致命的になりかねないのだろう。
悪評自体は大量にあるものの、悪評ポイントが発生したりはしていない。
「他ならぬユキたんからクレームは入ってますけど」
「それは同志Bではなく、YMK自体へのクレームだから問題ない」
……それは本当に問題ないんだろうか。悪評ポイントついてないだけで、組織としては相当に問題ある気がしてならない。ファンクラブが応援する対象に嫌われているってどういう事なんだよ。幹部として、どうしても目に入ってしまうクレーム情報がきつい。
「とはいえ、ランクについては例外も割と救済処置が適用される。前例としても< アーク・セイバー >や< 月華 >などはクランマスター・サブマスターの人数が変則的だし< 森の賢人 >はサブマスターのいない一人クラン、< 鉄血同盟 >などはクラマスが冒険者でなく外部のオットセイだ。それに比べれば、サブマスターが下級冒険者でも大した事はない」
「オットセイがクランマスターって、ギルドはともかく団員が納得するんですかね」
「誰が上に立っても問題が起きるという話だったらしいからな。そのオットセイも審査が通るくらいには優秀だったのだろう」
……でも、オットセイだぞ。水族館とかで芸やってるやつ。
「それに比べれば下級でも冒険者がサブマスターやるのはまだマシな部類といえるだろう。相応に審査は厳しくなるとしてもだ。さっきも言ったが、中級昇格は厳しそうなのか?」
そんな事を言われても、下級と中級で呼び名が変わるように、やはりそこは大きな壁なのだ。そろそろ駄目元でも申請すべきとは思うが、過去の例を見るとどうしても尻込みしてしまう。
「正直、まだ試験突破できる気がしないんですが。申請しても発行まで時間かかりますし」
「生半可な事で受かるような試験ではないからな。受ける度に内容も変わるから回数こなせば慣れるものでもないし」
といっても、同志Aは過去に突破した経験があるはずである。いくら謎ばっかりの存在とはいえ、冒険者である以上そこのルールは逸脱していないだろう。
「同志Bを含めて、誰もやらないから自分もまだいいかって感じで。いっそパーティ単位で受けられるなら別なんですけど」
中級昇格試験は基本的に個人単位の試験だ。申請も個人なら、試験として出される課題もそれぞれに最適化された個人のものである。だから裁量も個人任せとなるわけだが、冒険者としての活動をパーティ単位で行っている以上、どうしたって方針は無視できない。
「来月か、遅くとも再来月には発表されると思うが、四月から中級昇格試験の制度が改定されるな。それを利用すればパーティ単位でも受けられるようになるぞ」
「え、そうなんですか」
「細部は修正が入るだろうが、ほとんど決まりだと聞いている」
そんな裏事情みたいな情報をさらりと言ってのける同志Aの正体がますます気になるが、確かにそれは朗報だ。
「従来の制度も残るが、パーティ単位で受ける場合は発行時期の調整も可能らしい。最短で発行依頼した場合はユキたんたちの試験と同等の難易度になるらしいが」
いくらパーティ単位でも、例のユキたんたちがやったという難易度は無理だと思う。未だに詳細は知らないが、断片的に聞こえる話だけでも地獄としか思えない。
というか、そこが基準になるという事は改定の原因もそこら辺にありそうだ。
「ちなみに同志Aの時はどんな感じでした?」
「何回挑戦しても地獄だった。私の時に限って指定GP獲得のような分かりやすい試験にならんのだ。個人に合わせて作られる試練だから理屈としては分からんでもないのだが、当人としてはたまったものではない」
「でも、最終的には合格したわけですよね?」
「最終的にはな。……危ないところだった。先に合格したパーティメンバーからは突き上げを通り越して見捨てられる寸前。何年も次郎三郎に入り浸って質屋のババアに嘲笑され、精神的にも廃人寸前だったからな。冒険者でなければ確実に肝臓と胃が終了していた」
すごい、なんて似合う絵ヅラなんだ。今の同志Aがそういう状況になっても一切違和感がない。
「未だに『ババア・処刑のテーマ』はトラウマだ。あのババア、私にはいつもスピニングトーホールドばかりかけてくるのだ。でかい図体してるのに地味過ぎる」
正直、でかいババアと同志Aのプロレスとか興味ないんだけど。
「あの……まだ先の話ですから今言ってもしょうがないでしょうが、ウチの固定パーティの扱いってどうなるんですかね? 僕と同志B以外には話通ってないんですけど、クラン所属の下部組織扱いになったりとか」
まさか、僕が知らないだけで実はパーティメンバー全員が同志だって事はないよな。
「基本的に冒険者業に関わる事はノータッチにするつもりだから、二重でクラン所属でもしない限りは問題ないだろう。上納GPも個人の範疇に抑える代わりに給料や補助もない予定だ。ほとんどクランハウスの維持費だな」
「クランハウスって事は、この老牛牧場から移転できるんですか」
「いや、一番安い裏プランだから宅配ボックス代わりに三畳のスペースがあるだけで会議には向かんな。トイレや照明すらないのはさすがにビビった。クラン施設も置けん」
そんなクランハウス聞いた事ないんだが。もしあっても恥ずかしくて公開できないだろうけど。
「実物見たらビビるぞ、入り口は転送ゲートでなくただのドアだし、画面付きのインターホンどころかインターホン自体がない。おまけに今時点では過去の利用者の荷物で埋まっているという有様だ」
……それ、ただの倉庫なんじゃないだろうか。掃除用具室とか。
「まあ、冒険者業が副業な我々だからできる事だな。大半が外部協力者である事もあって、外のほうが集まりやすいというのもあるしな。どの道設立は一年以上先の予定だし、設立後も登記上はともかくしばらくはここが本拠という事になるだろう」
そろそろ牛たちのご機嫌伺いも慣れてきたし、別にいいか。……彼らの武勇伝を聞かされる度に心を病みそうだけれど、集会にも広いホール使えるし。
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「そういえば、例のTCGに我々が出るらしい」
「え、元々出てましたけど」
実在の冒険者を題材にしたトレーディングカードゲーム。同志Bはヘビーユーザーだし、僕もプレイはする。題材故にギルド会館で大会をやる事もあるから、それに出場する事もある。
そんなカードゲームだが、よほど断らない限りデビューした冒険者はユニットカード化される事でも有名だ。僕も同志Bもすでにユニットカードとして存在している。リアル正体不明な同志Aは知らないが、下級冒険者の僕らがあるくらいだからあるだろう。
「いや、同志としてだ。来月発売のブースターサンプルと一緒にカードそのものも貰った。ユキたんのは言ってもくれなかったのに」
そう言って同志Aが取り出したのは『同志A』、『同志B』、『同志C』の三枚だ。一見まったく同じ絵柄で、額の文字だけが違うというすさまじい手抜きだ。当たり前だがレアリティもノーマルである。僕と同志Bなど結構体格差もあるのに、その差異すらない。同じ見た目だからパッと見封入率も三倍。レアリティの問題もあったら箱買いしたらコレだらけに見えてムカつく事請け合いである。もし目玉の高レアリティカードが封入されるパックだったら気が狂うかもしれない。
「ついでにこんなのも入っているらしい」
追加で出てきたのは『秘密結社YMK』というマジックカードだ。驚く事に同志ABCの絵が合成されているだけである。なんてイラストアドのとれないカードなんだ。
「あの……ステータス低いのはともかく、ユキたんとのシナジーが一切ないのは……」
「肖像権利用の部分はともかく、ゲーム部分には関与できんからな」
僕らは『ユキたんを愛でる会』なのに、本人と無関係と言わんばかりの内容である。ついでに言えば、元の自分のカードともシナジーがない。
イラストアドどころか、あらゆる点でアドバンテージが存在しないハズレカードである。僕の元カードも似たようなもんだが。
「その肖像権関連の話で今後の展開も聞く事になったのだが、次以降のブースターでも同志枠があるらしい」
「ハズレ枠があるのは今に始まった事じゃないですけど、ウチって冒険者じゃない人も多いんですが」
基本的に正体不明だが、警官や教師、探偵までいるのがYMKである。テーマ的にアリなんだろうか。
「そのために代表の私に許可を求めてきたという事らしい。メーカーとしても冒険者カテゴリ内の話という事だろう。一応本人たちにも許可はもらったから決定事項になった」
「テレビ出演した際のイベント絡みで、無関係な人がカード化する事もありますからね」
このゲーム、基本的に実在の存在しかカードにならない。ユニット以外のマジックカードなどもすべて実在の出来事を元にした内容がほとんどだ。ゲームバランスをとる上でカードのステータスは調整されているが、基本的には現実にあった事かせいぜいそのモチーフをネタにしてカードが作られるのである。別バージョンとして衣装違いユニットカードが出る場合も、番組の企画か何かでコスプレしているのが前提なのだ。実際に使う装備が変わった場合でもいいが。
「一応カテゴリとして成立しているので、元ネタとして大会などでゲストに呼ばれちゃったりするかもしれない。ひょっとしたらユキたんと一緒とか」
「……ないでしょうね」
「微レ存でもあるかもしれんだろうがっ!!」
……共演依頼があったら、ユキたんが断るような気がする。それならまだ表名義のカードのほうが可能性は高そうだ。
「あと、今回ではないが< パインたんに踏まれ隊 >の連中も入るとかなんとか」
「ああ、ウチの内部でパクリって言われてるあの白い奴ら。……前から思ってたんですが、あいつら僕らのパクリですよね? パインたんとやらが誰かも知らないですけど」
同じローブの色違いで額の文字が一號、二號となっている以外はほとんど同じだ。特定の誰かの追っかけという活動も似ている。確認した事はないが、額の文字が光る機能も一緒だったりするんだろう。
「といっても、この< ローブofYMK >は元々存在していたものの改造品だからな。元祖を謳うのは無理があるのだ」
「え、コレって同志Aのオリジナルじゃなかったんですかっ?」
というか、< ローブofYMK >って名前も初めて聞いたぞ。まさかと思って《 鑑定 》をかけてみたら本当にその名前だった。マジかよ……。
「同志Cは知らないだろうが< ブラック・カポネ・ローブ >というものがあってだな、元々クリスマスのレイドイベント用に開発されたローブだったのだ。ローブで誰だか分からん奴が爆発しても面白くないという事で、初回しか使われずに廃止された」
「僕らもあいつらもそれを流用しているという事ですか」
「別に向こうのリーダーと交流があるわけでないが、そうだ。在庫が大量にあったので安かったのだ。まあ、基本的にあいつらと我々が絡む事はないだろうから気にする事もないだろう」
ブラック・カポネという事は恋人いないチーム側の衣装って事だな。変なジンクスがありそうで嫌なんだけど。
「ちなみに、同志ABCだけの今はどんなデッキにも入らないネタカードだが、統一デッキが作れるようになればそこそこ戦えるようになるという話だったぞ」
「どの道使う事はないと思いますが……まさか、最終的にはユキたんとシナジーが見込めるデッキになるとか」
それなら集めざるを得ない。封入されるパックが違うとはいえ、ノーマルだけなら簡単に集まるはずだ。むしろユキたん関連のカードのほうが集めにくい。今のところノーマルばっかりなのに妙に封入率が低いという事が話題になって市場価格が高騰しているのだ。あの同志Bが被ってるカードを売るかどうか悩むくらいに。
「いや、シナジーはない。メーカーの奴は愛があるなら意味がなくても入れるのがファンだと抜かしていたので言いくるめられてしまった」
……騙されてるんじゃないかな、それ。大会がYMKデッキ一色とかになっても嫌だから、あんまり強くならないのは支持するけどさ。
「僕らのカードは正直どうでもいいんで、ユキたんのカード……というかグッズが増えないですかね。あれから結構経つのにほとんど商品化されてないんですが」
「本人の意向というのが大きいな。仕方ないからユキたんが使っている装備を購入したりしてるが」
「スポンサー契約してて専用装備があるならともかく、ユキたんの装備って手製がほとんどじゃありませんでしたっけ?」
市販の改造品だから、同じもの手にいれるなら自分で合わせて改造するしかないという苦難の道だ。見た目だけでも同じならそれでいいんだけど、素人作業だとどうしても安っぽくなってしまう。
「年末にそういう話があったので、そのスポンサーの株は買っておいた」
「本当ですかっ!? 同志Aっ! ひょっとして、試供品のユキたんイクイップメントをYMK内で配布とかやっちゃったりしますか?」
すごい。なんて夢が膨らむんだ。ユキたんと同じ装備してても痛いだけで悲しくなるが、鑑賞用として飾るならアリだろう。そんなに数用意できるものじゃないし、争奪戦にはなるだろうが……そこを潜り抜けてこそのYMKである。ひょっとしたら、装備しないと意味がないから着る派とYMKが着たら価値がなくなるから飾る派で論争が発生してしまうかもしれない。
「……え?」
しかし、同志Aの反応は想像すらしていなかったと言わんばかりのものだった。
「……おい、まさか一人占めするつもりだったんじゃあるまいな」
「く、口調が変わってるぞ、同志C。……そんなわけないじゃないか、総帥たる私がそんな独占欲丸出しな……」
「そういえば、あんた前にもユキたんがゲスト出演した番組で視聴者席チケット手に入れてたのを黙ってたよな」
「アレは仕方ないのだっ! お一人様なら誰でも入れてしまうチケットなど怖くて表に出せるかっ!! 血まみれの争奪戦になるわい!」
くそ、思い出したら腹立ってきた。放送されたのはかなり編集されたものでカット部分が多いらしいから、余計に気になっていたのに。今ではこの話題を出すのはタブーとさえ言われているのだ。
「……まさか、あの時も妙なコネを利用して打ち上げに参加なんかしてないよな」
「超参加したかったけど、さすがに無理だった。そのローブだとちょっとって……」
いや、脱げよ。というか、その格好で行ったのかよ。
「仕方ないので貸し切りされていた居酒屋の周りでうろついたり、カラオケBOXで隣の部屋借りたりしたが、最終的に通報されて同志Kの世話になってしまった」
完全にストーカーである。
「実を言えば似たようなチケットはあるのだ。それを提供……いや、YMK内で平等に争奪戦する予定はある」
「え、マジで?」
装備の件を忘れたわけではないが、それを置いておくとしても聞き逃がせない情報だった。
「同志Cがキャラ崩壊しつつあるのはともかく、マジだ。同志でかいロープが言っていたのだが、今度あそこのクラン内で内輪のチーム対抗戦をするらしい。糞レアな観戦チケットだが、これを一枚ゲットした」
「そ、そんな貴重なチケットをYMK内に放出するとは……さすが同志A」
「私としてもできればスルーして自分で使いたかったのだが、提供してくれた者が汚い争奪戦を見たいとの意向でな。代金代わりに争奪戦を動画にして渡す必要があるのだ」
い、一体どんな意向なんだ。誰がそんな地獄絵図を見たいというのか。
「提供者がテラワロスだからしょうがない」
「……超納得しました」
むしろ好んで地獄絵図を創り出すほうだった。想像を絶する戦いになるだろうが、この勝負に負けるわけにはいかない。
そのイベントは四チームに分かれて三日間ぶっ続けで行われるという長時間開催となるため、チケット保有者は期間中なら自由に観戦用のホテルに出入りが可能らしい。
加えて、最終日の打ち上げにも参加できるのだとか。参加者は基本的にお偉いさんばかりなので緊張するだろうが、目的から考えるなら十分にアリだろう。
そしてその翌々週、イベント前日の開催となったYMKの集いでチケット争奪戦が行われた。
無数のローブたちが必死になって一枚のチケットを奪い合う狂気の地獄絵図は、動画に残したら黒歴史間違いなしのひどい絵ヅラとなった。
尚、その争奪戦は大人げなく同志Aが優勝し、高笑いをしつつ他の同志たちからの怨恨を買っていた。特に直前まで争っていた同志Uは、呪いの藁人形を買いに行って額に括り付けるのがトレードマークになったほどだ。
その後実施されたそのイベントでは、同志Aはわざわざ開催ホテルの部屋まで予約して終日参加して観戦。チームに動きがない時も非公開の動画を繰り返し見て満悦したらしい。
最後の最後で、何故かテラワロス一派はまとめて打ち上げに参加できなかったというケチがついたらしいが。……なんか偉い人がやらかしたというが詳しい事は不明だ。
-3-
「ユキたんペロペロッッ!!」
「「「「ユキたんペロペローーーーッッ!!」」」」
集会の締めとして、老牛牧場に設置された特設ホールで声が上がる。
一種の洗脳状態にも似た高揚感が会場全体を包んでいた。冷静になって後から思い返してみれば超気持ち悪いが、案外やっている最中は気にならないものである。
「ふー、やってみればなんとかなるもんだ」
総統たる同志Aが欠席、同志Bも最近の激務でいないという事もあって、進行代理を務める事になった三月第二週のYMKの会。司会などやった事はないし、頭おかしい連中の取りまとめなど自分に可能なのだろうかと不安になったりもしたけれど、割と無難に終わらせる事ができた。参加者がすべて同志ともなれば多少のミスは許してもらえるだろうと開き直れたというのは大きい。
しかし、いざ自分がやる段になって思うが、あの異様なテンションの会場をまとめ上げていた同志Aの偉大さが身に染みる。変人であるのは間違いないが、すごい変人だ。これからはもう少し優しくしてあげたいと思う。
「しかし、幹部が僕一人って事は幹部会もなしか。やっている時はなんとも思わなかったが、実施しないとなると寂しい気もするな……あれ?」
未だ高揚感の消えないまま、帰り支度のために会議室へと移動したら、そこに見慣れたローブが座っていた。欠席したはずの同志Bである。
「来てたのか。なんだよ、いるんだったらお前が司会やれよ」
「…………」
しかし、同志Bは反応しない。
「おーい、同志B? ……おーい、寝てるのか?」
ローブで中身は良く分からないが、目の前で手を振っても無反応だ。最近めちゃくちゃ疲れているから、寝落ちしてたとしてもおかしくはないが。
このまま放置するかと思ったが、良く耳をすませてみれば何やらシャカシャカと高音の漏れるような音が聞こえる。……何か音楽でも聞いてるのか?
「ちぇいやっ!!」
「ぬおおおおっ!! 何事だっ!?」
頭に手刀を入れたらようやく反応した。
「な、なんだ、同志Cか。集会はもう終わったのか?」
「ああ、来てるならお前がやれよ、副首領」
「実は到着したのがついさっきなのだ。急いで駆けつけようかと思ったら、電車の時間が合わなくてな」
確かにここは生産区画の僻地だし、電車の本数は少ない。一本逃したら結構待つ事になるのだ。
他の同志たちも良くこんな場所に来るなとも思うが、隔週で開かれるYMKの会は毎回盛況である。回を追うごとに増殖していく同志の数に恐怖すら覚えるほどに。牧歌的な雰囲気の施設が、その時だけ異様な人口密度と空気に変貌するのである。牛たちもさぞかし困惑しているだろう。
「ならしょうがないな。というか、忙しいのは知ってるから来ないと思ってたんだが」
「同志Aが異世界行きという事で、お前が不安なんじゃないかと思ってな」
くっ、なんか変な理由だったら扱き下ろしてやろうと思ったのに、普通に良い奴だった。
「会場の側に行ったらユキたんペロペロとか言ってたから、気持ち悪くて引き返したわけではないぞ」
「台無しだよっ!!」
ちょっと見直したのに、同志Bはやっぱり同志Bだった。
分かっちゃいるんだが、あの熱狂の中にいるとどうしてもおかしくなってしまうのだ。臆面もなくユキたんペロペロ言い出すくらいには危険な空気である。いつも同じ立場なお前が言うなとは思うが、ちょっと離れて見たら気持ち悪いのも理解できなくはない。
「それで、ここで待っていたわけか。なんか音楽聞いてたみたいだけど」
「ああ、『魔法アラサー☆マジカル・ラヴィ』のエンディングテーマだ」
「コア過ぎるだろ。なんでそんなもんを……」
『魔法アラサー☆マジカル・ラヴィ』というのは、日曜朝にやってる魔法少女アニメ……ではなく、ノリとネタで作られた深夜の実写ドラマだ。
宇宙から来たウサギに良く似たマスコットキャラクターに騙された三十歳間際の女性OLが魔法少女として戦うという内容なのだが、創作にありがちな幼女への変身処置などはなく、フリフリのコスチュームを着た魔法アラサーが爆誕、顔も隠してないから正体もモロバレで、助けられた人ですら『うわキツ』と言ってしまうくらいキツイ絵ヅラと意外にハードな路線がちょっと人気らしい。恥を振りまきながら街の平和を守る魔法アラサーの婚期は遠ざかる一方だ。
そのマジカル・ラヴィ本人がハスキーボイスで歌うエンディングテーマも相当に電波な曲で、歌うのも聞くのも正気でいられないと評判である。特に本編に関係ない歌手が歌っているオープニングならまだマシなのに。
「ひょっとして同志Bも見てるのか? マッスル☆ラヴィが仲間になったあたりからちょっと面白いよな」
「見てないが……まさか同志Cは視聴しているというのか。あんなクソ番組を」
「3話くらいまではただ痛いだけだったけど、それ以降はちょっと面白いんだよ」
追い詰められたアラサーへのあまりにひどい扱いに展開予想が困難で、いつも視聴者は試されている。
実況スレありきだから単品で見るのはキツイし、オープニングもエンディングも毎回飛ばすが。
「じゃあなんでお前はそんなの聞いてるんだよ。鍛えられたファンでもキツイって言われるのに」
「歌ってるのが、ユキたんだからな」
「……は?」
あまりに予想外な言葉に脳が理解を拒否したのか、一瞬時間が停止した気がした。
「どうも、いつかゲスト出演した番組の打ち上げで罰ゲームとして歌う事になったらしい。カラオケを録音して関係者にだけ配られたとかなんとか。強烈なコピーガードがかかった超レアアイテムだ」
「き、聞き間違いじゃなかったのか」
しかし、アレだぞ。聞くだけで罰ゲームとか言われるような電波曲だぞ。歌ったり録音したら発狂モノじゃないのか?
「しかし、なんでそんなレアモノを……どうやったら手に入るんだ」
「同志Aが関係者に土下座して譲ってもらったらしい。異世界行きの持ち物検査で引っ掛かったから、遠征の間だけ貸してもらえる事になったのだ」
持ち物検査で引っ掛かるってどんな扱いだよ。危険物か何かか。
「ちょ、ちょっと興味があるぞ。……まさか同志Bだけに聞く権利があるとかそういう事じゃないよな」
「渡された理由は慰労のためだが、別にそんな制限はないな。……ちょっと、いやかなり危険な代物だが、同志Cも聞いてみるといい。いざとなれば強制停止できるように待機しておこう」
「い、一体どんな劇物なんだ」
でも聞きたい。カラオケとはいえユキたんの歌とか、レアどころじゃない。ひょっとしたらあの下手くそで痛い電波曲が名曲に化けたりする事も……いや、ないな。どう足掻いても電波曲だし。
好奇心と恐怖、そして止める事のできない流れに身を任せ、同志Bからイヤホンを借りる。……なんかヌルヌルしてるんだけど、ウェットティッシュないかな。このまま耳に入れたくない。
……というか、自分のを使えばいいか。《 アイテム・ボックス 》に有線式だが頑丈な奴入ってるし。……何故お前はそんなに悲しい顔をするんだ。
「再生ボタンは自分のタイミングで押すといい、躊躇するのは最初だけで次回以降はいつの間にか再生されている」
「え、何それ怖い」
どんなオカルトなんだ。僕が聞こうとしているのは『魔法アラサー☆マジカル・ラヴィ』のエンディングテーマだよな? 謎の叫び声が聞こえるような心霊グッズじゃないよな?
真面目な声で恐怖を煽る同志Bに不安を感じつつ、イヤホンを接続し直した端末の再生ボタンを押す。すると、あまり音質は良くないがこれまでに何回か聴いてしまったイントロが流れる……うわこの時点でキツ。
とはいえ、イントロに被せた最初の語りがないからまだマシだ。ユキたんもそれを再現する気はないらしい。
そうして、マジカル・ラヴィのハスキーボイスではなくユキたんの声が聴こえてくると、途端に曲へと没入していった。正直あまり上手くはないが、凶悪な電波曲もユキたんの声で再構成されれば聴けるものになるという証明だ。声に若干の恥ずかしさが感じられるのも大きなプラスだ。マジカル・ラヴィが恥ずかしがっててもまったく嬉しくないが、ユキたんならそれだけで何杯もいける。ああ、すごい。いつの間にか目の前にいた同志Bの姿が目に入らなくなってくる。僕は今ユキたんの歌に身を浸しているのだ。こんな至福がこの世に存在するなんて。しゅごいっ!! まるで近くにユキたんがいるみたいだ! あああっ!ユキたん! 僕をもっと罵ってくれっ!! 汚物を見るような目でツバを吐きかけてッッ!! ユキたんっ! ユキたんっっ! ユキたんっ!! うああああああーーーーっッッ!!!!
「せいやっ!」
「ぐはっ!!」
唐突に衝撃を受けて現実に引き戻された。なんだ、僕は殴られたのか!?
「な、何をするんだっ!? 同志Bっ!!」
「同志C、危険な状態だったぞ。俺も同じ状態にトリップした事があるから分かるが、そこから先に行くと自力の帰還が困難になる」
「何……はっ!? 僕は一体、何を……」
あまり良く覚えていないが、すさまじいトリップ状態に陥っていたような気がする。まさか、このユキたんの歌が原因なのか。
「どうやら凶悪な電波とユキたんの声が化学変化を起こし、トリップ効果を作り出してしまうらしい。特にYMKにとっては危険なモノになっている」
「お、恐ろしい……。なんて恐ろしい音響兵器なんだ」
音響兵器というか、催眠とか洗脳とかそういう方面かもしれないが。
「しかも、気がつくと二回目を再生しているのだ。かといって、ポリシー的に廃棄などできない」
「分かるっ! 分かるぞ、同志B!! 今ならその気持ちがわかるっ!! というか、そんな危険なもの聴かせんじゃねーよっ!!」
「すまない、道連れが欲しかったのだ……」
このやろう……。
「というか、存在を知っていて聴かないという選択肢をとるのはYMKにとっては不可能だろう? ならば必然といえる」
「ま、まあ……そうかもな」
言われてみれば同志Bの言う事ももっともだ。存在自体知らなければ問題ないが、隠蔽してていざその存在を知ればどんな手段を使ってでも聴こうとするだろう。データを廃棄できるなら問題ないが、同志Bの言うようにそれは無理な話だ。YMKの誰かが手に入れた時点で詰んでいる。……まさか、YMKを狙い撃ちしたユキたんの攻撃じゃないだろうな、これ。
「さて、今日の幹部会ではコレの扱いをどうするか考えたい」
「どうするって言われても……基本的には同志Aの持ち物なんだろ? 帰ってくるのを待つしかないんじゃ……」
「しかし、放置もできまい。もし、間違って集会のような場所でBGMとして流してしまったら、どんな事になるのか……YMKが狂気の集団に変貌してしまう」
YMKは元々狂気そのもののような気がするが、度合いがひどくなるのは確かだろうな。ファンとして金銭投じるレベルじゃなく、明らかに人生踏み外すレベルで。
仕方ないので、この音声データは記憶媒体ごと金庫にしまわれる事になった。鍵を一人で管理していると知らない内に開けてしまう可能性があるので、二つの鍵をそれぞれが管理するという厳重な処置だ。僕たち二人ともが血迷わない限り、持ち出す事はできない。
高レベルな《 解錠 》スキルを持っている奴なら開けられるのだろうが、幸い僕も同志Bもその手のスキルは保有していないから大丈夫だろう。
……すごいなユキたん。こんな恐ろしい兵器を作り出すなんて。
-4-
そして、異世界に行っていたらしい同志Aが戻ってきて最初の幹部会だ。
「うむ、やはりYMKの幹部は三人揃ってこそだな」
久しぶりに三人全員出席の幹部会に同志Aもご満悦である。
「ところで同志Bよ。出る前に渡したメモリーだが」
「処分した」
「は? ……いや、アレまだ私も聴いてないんだが」
「いや、聴かないほうがいい。意地悪とかそういう意味で言ってるのではなく危険だ。これに関しては同志Cも同意してくれる」
「聴かないほうがいいです」
「そんなに幻滅するレベルで下手なのか……」
そういう事ではないんだが、それで勘違いしてくれるならそれでもいいや。
「しかし、それならそれで聴きたくなってしまうのがYMKなのだが」
「それは理解できますが、それを考慮して尚やめたほうがいいレベルです。絶対に後悔します」
「同志Cがそこまで言うとは……それほどなのか……」
それほどである。確実に同志Aの意図とは違うけど。
「まあ、決して誤って消したとかそういう事ではないので、その件については忘れて欲しい。これは同志Aを心配しての事なんだ」
「わ、分かった。……後ろ髪引かれる思いだが、まあいいか……良くないが、実物がないなら仕方ない」
金庫には入ってるけど、永久封印だから。なんなら封印した金庫ごとなら返してもいい。
「それで、どうだったのだ異世界は? ユキたんの映像などはあるのか?」
「あるにはあるが、あまり確保できなかった。クーゲルシュライバーに隠し撮りできる場所が少なかったのだ。同志でかいロープもあまり協力はしてくれないし」
「おのれ、でかいロープめ……同志のくせに」
でかいロープも勝手に同志って呼んでるだけで、本質的に同志でもなんでもないからな。
「いくつかの隠し撮りと、テニス動画はあるぞ」
「何っ!? まさか、同志Aが一緒にテニスをしたわけではあるまいなっ!!」
「超人テニスに割り込む隙間がなかった。……いや、ユキたんが出ていったあとに巻き込まれたが」
何やってるんだろうか、同志A。というか、なんでわざわざ異世界に行ってテニスしてるんだろう。
「ユキたんの行動表も一応チェックはしてるんだが、基本的にクランの誰かと一緒だから近寄れないのが問題だな。これはこの遠征に限らない問題だが」
「確かに、我々の姿を見ただけで露骨に態度が変わるからな。好意的だったのは以前総出で行った清掃作業くらいだ」
アレは体よく利用されただけというか……同志Bがそう思っているなら口を出さないでおこう。ユキたんと同じ班の奴は楽しそうだったし。あの班に入れていたら僕も印象は違っただろう。
「ちなみに行動表は印刷しているから、コレを見てくれ」
そう言って、同志Aは自分とユキたんのスケジュールが書かれた紙を出してきた。無駄に同志Aの行動が細かい。そっちの情報は別に必須じゃないんだ。
「ふむ……すごいな。相変わらずどうやって手に入れたのか分からん情報精度だ」
「ほとんど同志でかいロープの提供だがな」
「むう……でかいロープめ」
なんであいつこんなに協力してくれるのか疑問だ。実はYMKに入りたいとかじゃないよな。
「しかし、後半はスカスカだな。ひょっとして警戒されたのか?」
「いや、そういうわけではないはずなんだが……」
「だが?」
「……良く分からんのだ。忘れているわけでもないんだが、認識と記憶に差がある。何者かの精神攻撃でも受けたのか、白昼夢でも見ていたかのような体験だった」
同志Aが何を言っているのか良く分からなかった。
スケジュール表を見れば、確かにスカスカだけど別段そこまでおかしなところのない内容だ。問題は見当たらない。これで同志Aが帰還できなかったとかならこの表を元に推理を始めるところだが、無事帰ってきてるし。
「テニスしたり、ユキたんのストローを掠め取ろうとして食堂のおばちゃんに注意されたり、ゴリラがゴリラを見捨てたり、変なのっぺらぼうに襲われたり、世界の命運を賭けて変な車に押し込まれて旅立ったり……」
「整合性がかけらもないな。やはり白昼夢か」
「ひょっとしたら私だけではなく集団で起きた現象かもしれん。同行していた中にも記憶があやふやと言っていた者が多かった」
「異世界特有の現象ですかね? 仮にも世界を渡ったわけですし」
「そうかもしれんな」
怖いな異世界。こちらの常識が通用しない。ちょっと興味あったけど、しばらく参加は控えておこう。
「実は大学のほうで記憶想起のテストもする事になっている。ひょっとしたら、忘れていたユキたんの克明な姿が蘇るかもしれん」
「でも、同志Aが世界の命運のために旅立つ事はないと思うんですが」
「まあ確かにそうだがな。なんであんな記憶があるのか良く分からんのだ」
世界を救うために旅立つ勇者同志Aとか、ちょっと意味が分からないし。車に押し込まれるというのも旅立ちという感じではない。どちらかというと誘拐されている場面だろう。
「それはそうとユキたんの事だが、どうも良く分からない内に20%ではなくなっているようなのだ」
「なんだそれは、また摩訶不思議な事になっているのか。さすがユキたんだな」
そんな感じで今日も秘密結社YMKの活動は続く。
後日、記憶想起とやらで本当に同志Aが変な事に巻き込まれていたらしいという事が判明したが、特に僕らの活動には関係なかったので割愛する。
一回で終わらなかったというか、後編の「YMK-ЯЯ」に続きます。(*´∀`*)
つまり、ゆノじさんへのリターン消化率はこれで1.5。