前編
短編のつもりが長くなりそうなので分けます。
前編後編の予定ですが、後編が余りにも長くなりそうな場合は中編を入れるかもです。
勿論この小説はフィクションです。
都会の地下劇場で今日もアイドル達の公演が行われていた。
ステージの最後列の右端で歌い踊る私もその中の一人、無名の売れないアイドルだ。
でもいつか前列で踊れ、歌もソロパートが貰えるくらい有名になりたい。
そのために今日も作り笑顔で頑張っている。
だけど、公演が終わるとどっと疲れる。
ファンや、事務所が求めるアイドル像を演じるのは凄く疲れるのだ。
私にもファンは少ないけどいる。だけどそれは私が好きなんじゃなくて、
作られた私のキャラ、言いかえると、私が演じている理想とするアイドル像が好きなのだ。
でもそれは虚構でしかない訳で、本当の、現実の私なんて誰も見ていない。
そう思うと悲しくなるのだ。
今日も私は手首を切って、睡眠薬を飲んで寝る。
誰か、私を助けて・・・
今日はオフだ。
良く、アイドルはマスコミや事務所の監視が厳しく休みの日も縛り付けられると言うが
私みたいな末端のアイドルには関係ない。
メイクという名の虚構を落としたすっぴんの現実の私で出かければ、
誰も気づかないし、事務所もわざわざ売れないアイドルの私生活に干渉したりしない。
名目上恋愛禁止にはなっているが、それも前列で踊るメインメンバー用の物で、
後列で踊ってる売れないアイドルの中には、普通に男と遊び歩いている者もいる。
まあ、私に彼氏なんていないんだけどね。
今日私が出掛けるのは、好きなバンドのライブを見るため。
私が好きなバンドは、世間的にはマイナーバンドだ。
だけど、このバンドは私の心に刺さる歌詞が魅力的だ。
自傷癖のある人や、社会に疲れた人、そういった人の気持ちを率直に表現しているバンドなのだ。
ただ、私みたいな世間に受け入れられない人間には絶大的な人気を誇るが、
世間一般の画一的な人間、言いかえると、私たちみたいな画一的で無い人間を排除しようとしている人達からの風当たりは強い。
前も、このバンドのファンが心中事件を起こした時も、このバンドに批判が集中した。
でも、このバンドリーダーはそんなことには屈しなかった。
「我々の曲をどう解釈し、それを聞いた人がどんな行動を起こすかはその人の勝手だ。その行動が社会的に問題だとしても我々の責任ではない。あなたがたは全てのファンの行動を監視しろでもおっしゃるのですか。それは不可能だ。よって我々は今まで通り活動していく。」
批判に対して言ったこのコメントはファンの中で語り継がれている。
今日のライブも非常に盛り上がった。
このライブ中は私も、素の自分を出せる。
自宅以外で素の自分を出せる唯一の場所なのだ。
その後私は、興味も無いショッピングやスイーツのお店に行き自宅に帰った。
私は、自宅に帰ると事務所指定のSNSのアカウントを更新した。
そのために私は、興味も無いショッピングやスイーツのお店に行ったりしたんだ。
私の演じている自分に似合いそうな洋服や、かわいいスイーツの画像を載せていく。
このSNSは、事務所が監視しているから下手な事は書けない。
だけど、このSNSはそれなりに人気だ。
虚構の私が好きなファン達から、その洋服可愛いねとか、そのお店どこ?等のメッセージが届く。
それに律儀に返信し、ファンと近いアイドルアピールも怠らない。
だけど私には、このアイドルアカウントとは別に裏アカウントがある。
勿論アイドルで有ることは秘密。事務所にだって隠してる。
ここに書いてあることがバレたら色々、問題になるだろう。
でも、私はこのアカウントの中身こそが、本当の自分だと思っている。
このアカウントでは、私の自傷癖や病んでいる事、普段見せている自分は虚構の自分で本当の自分を誰も見てくれないこと(流石にアイドルであることは秘密。)
等を赤裸々に語っている。
そして、このアカウントで運命の出会いがあったのだ・・・
Last Hope Foreverに出てくるバンドとこれに出てくるバンドは同一です。