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五回婚約破棄されたハゲタカ令嬢は呪われているのか

作者: 6969
掲載日:2026/05/06






 五回目の婚約破棄がなされた時、私はやはり自分が呪われているのだと思った。





「絶対に、絶対におかしいわ! やっぱり、私は呪われているのよ!」

「落ち着いて、ゾーイ! 大丈夫、大丈夫だから」

 友人のデイジーが私の肩を撫でる。

 しかし、そういう彼女の方も随分と気が動転してしまっているようだった。

 肩に添えられた手が震えているのが伝わってくる。



 王宮の中庭の一角。

 茂みの影に隠れるように私たちはそこにいた。

 いや、隠れるようにではない。

 私たちは文字通りに隠れているのだ。



「五人目よ、五人目! まさか、こんなに続くなんて!」

「えぇ、分かってるわ、ゾーイ、分かってる」

 デイジーが私の肩を抱き寄せる。

 わっとその胸に泣きつき、頭の中で先程の出来事を反芻した。



 今王宮で行われている、王家主催のパーティー。

 そこで、私はまたもや婚約破棄されてしまったのだ。



 婚約者の愛する人が他にいたから、違う。

 婚約者の友人を私がイジメたから、違う。

 婚約者の姉妹と私の仲が悪いから、違う。

 婚約者の幼なじみが選ばれたから、違う。

 婚約者の両親に気に入られていなかったから──・・・・・・これは、ある意味ではあっている。



 五人目の婚約者の両親には、確かに嫌われているのだろう。

 いや、婚約中に嫌われてしまった、というべきか。

 好かれてはいないのは確かだ。

 なにせ、パーティーでこう言われてしまったのである。


「ゾーイ・グレイ! 私たちはお前を息子の婚約者にするべきじゃなかった! お前の【呪い】のせいで、息子は【不治の病】となったのだ! 婚約は破棄させて貰う!」


 ──そう、私は婚約者本人ではなく、婚約者の父親(侯爵)に婚約破棄を叩きつけられたのだ。

 しかも、怒り狂った彼はわざわざ、もっとも貴族たちの注目を集めるタイミングを選んだらしい。

 王太子殿下と婚約者がファーストダンスが行われる、その直前である。

 愛息を【不治の病】に追い込んだ(と彼が考えている)私に対する復讐のつもりだったのだろう。



 最悪だ。

 ただでさえ、五人から婚約破棄された【傷物令嬢】なのに、更に【呪われている】なんて、王家のパーティで宣言されてしまった。

 私がいくら公爵令嬢といえど、六度目の婚約は難しいだろう。

 年の離れた好色貴族の後妻すら申し込まれないかもしれない。


 きっと今、国中の貴族が集まっているホールでは、私の【婚約破棄】と【呪い】についての噂話の花が見事に咲いていることだろう。



 そして、恐ろしいことに、彼の言った言葉はあながち間違いでもない。

 一人目は領地で起こった反乱に巻き込まれて死亡。

 二人目は学園で階段を踏み外して下半身不随となり、婚約破棄。

 三人目は落馬して大怪我を負い、療養地へ行くこととなり、婚約破棄。

 四人目は貴族同士の度胸試しを行い、馬にはね飛ばされて未だ意識不明のため、婚約破棄。



 ──そして、最後の五人目は不治の病となったために、婚約破棄となったわけである。



「私、侯爵の言うとおり、本当に呪われているんだわ! そうとしか思えない!」

「落ち着いてよ、ゾーイ。絶対にそんなことはないんだから」

「いいえ、呪われているのよ。少なくとも、ホールにいる皆はそう噂しているに違いないわ!

 お母様だって「結婚したくないなら、きちんと相談して」なんておっしゃるし、おばさまなんて「ゾーイ、あなた、夫を殺したいなら、せめて結婚してからにしなさい。じゃないと、遺産が入らないじゃない」なんておっしゃったのよ!」

「なんてこと!」

 ゾーイの言葉にデイジーが驚愕の声を上げた。

 それから、数秒動きを止め、慌てて言葉を続ける。

「いいえ、いいえ、ゾーイ。貴女はそんなことをする子じゃない。お二人は混乱しているだけよ! 落ち着いたら、ちゃんと貴女がどういう子だか思い出すはずだわ」

「いいえ、デイジー、無理よ。お父様なんて「お前は相手の死が分かるんだろうな。まるで死肉を狙う、ハゲタカのようだ」なんておっしゃってらしたの。私を軽蔑しているのよ」

「そんな・・・・・・そんな! なんて言い様なの!」

 デイジーの声色に怒りが混ざる。

 その顔が耳まで真っ赤に染まり、音が聞こえそうなほどに歯を噛みしめた。



「【ハゲタカ】! 成る程、言い得て妙ですな! 彼らも生き物の異変にすぐ気がつく」

 ふいに背後から聞こえた声に私とデイジーが飛び上がる。



「え、なっ」

「は、え?」

 私たちは身を寄せ合い、振り返った。

 意味のある言葉が口から出てこない。

 あまりに驚いたので、心臓がひっくり返ってしまいそうだ。

 そもそも、私たちの背後は茂みである。

 そんなところに人は立てない──はずだった。



 しかし、その茂みの下をくぐり抜け、一人の男が姿を現した。

 たっぷりとついた土埃や葉っぱを払い、堂々と立ち上がった男は「なにも後ろ暗いところはない」という顔をしている。

 先程まで盗み聞きしていたことに罪悪感はないらしい。



「探しましたよ、ゾーイ様」

「誰ですか、あなた!?」

 そんな男にデイジーが眦をつり上げた。

「どうか、アルフィとお呼びください」

「いや、名前じゃなくて・・・・・・! なんて、失礼な方なの!」

 肩を握るデイジーの手に力がこもる。

 デイジーが私を背にかばうようにして立ち上がった。

「いいですか、彼女は公爵令嬢です。貴方がいったいどこの誰かは知らないけれど、直接声をかけるなんて失礼にも程が」

「ゾーイ様! 貴女の婚約者の皆様は、どうもそれぞれ毛色が違いますよな。自分はどうもそれが気になりまして、調べさせていただいていたんですわ」

 デイジーの言葉を遮るように、いや全く聞こえないかのように男が言葉を続ける。

 ひょこりと顔を出した彼の瞳は光り輝き、なんだか興奮しているようだ。

 そのきらめく瞳は真っ直ぐに私を見ている。


「え、それは一体どういう・・・・・・」

「ちょっと! 私が話している途中です! それに、婚約破棄になったのだから、そんな男とは違う質の人間を選ぶのは当たり前です!」

 戸惑ううちに、デイジーが怒りを露わに男──アルフィにかみついた。

 彼女は礼儀を知らないアルフィが気にくわないらしい。

 だが、私は礼儀よりもその言葉の方が気になった。



 毛色が違う。

 そんなことを意識をしたことはなかった。

 だが、見知らぬ人間に指摘される程に、婚約者たちの毛色が違ったのだろうか?

 デイジーのいうように、無意識に質が違う人間を選んでいたのかもしれない。



「一人目は領地で起こった反乱で【事故死させられる】ような、怨みをかいすぎてしまった腹黒令息。

 二人目は学園で上位貴族に階段を【踏み外させられ】下半身不随にされるような、気弱でなんの反撃できない令息。

 三人目は仲間との騎馬訓練中に【落馬】して大怪我を負うような、騎士然とした快活な令息。

 四人目はくだらない【度胸試し】を行うような、乗せられやすく考えの足りない令息。



 ──そして、最後には病弱すぎて、ついには【不治の病と診断される】ような、身体の弱い令息。



 ほら、どうもゴチャゴチャしとるとは思いませんか? 自分はご令嬢の心はよう分からんのですが、どんなご令嬢にも【好み】いうもんがある。なのに、この五人を並べても、どうもゾーイ様の【好み】が見えてこんとは思わんでしょうか」



 戸惑う私に、アルフィは五人の元婚約者を上げ連ねた。

 確かに、そうやって並べられると、いくらか毛色が違う。

 ・・・・・・私の【好み】とは一体どういう男性なのだろうか。

 私自身にもそれがいまいち分からない。

 私は一体どんな男性に心が惹かれているのだろう。

 候補から選んだのだ、きっと何か共通点のようなもの──私の【好み】が彼らにはあるはずなのに。



「だから、それは・・・・・・」

「ゾーイ様」

 デイジーの言葉を遮り、アルフィが私を真っ直ぐに見つめる。



「貴女、元婚約者たちを見て【この人を支えてあげたい】【この人を支えてあげなくては】と思った。だから、数多の婚約者の中から彼らを選び、婚約を結ぶことにした。そうやないですか?」



「あ」

 アルフィの言葉に私は思わず息を止めた。



 その通りだ。

 私はあの人たちを見て「私が彼を支えてあげたい」「私が彼を守ってあげたい」という気持ちになった。

 だから、何人かの候補の中から婚約者に選んだのである。



「つまり、私が呪われているから、支えようと思った方が酷い目に・・・・・・」

 心臓がぎゅっと縮まる。

 だとしたら、元婚約者の父親の言葉は正しかったのだ。

 五人の婚約者たちは私のせいで酷い目にあったに違いない。


「いいや、違うなぁ。【死相】ですわ」

 絶望に沈みそうになる私をアルフィの言葉が引き上げる。

「・・・・・・【死相】?」

「そうです【死相】いうやつですわ。いや、全員が死んだわけでもないか。ほんなら【受難の相】いうんが正しいかもな」

「じゅなん?」

 聞き慣れない言葉に、思考が止まる。



「とにかく、お嬢さんは【そういう相】が分かる。そして、助けないとあかん思う気持ちを「愛」やと勘違いして、婚約を結んでしもうたわけやな」

「そ、相?」

「西の方では人間の性質は身体的特徴ですべて分かるって言われとるんですわ。で、東の方でも身体的特徴から人間の性質やこれからの運勢を読み解く、人相学いうものがあるわけや。つまり西でも東でも、人間の身体的特徴から中身を読み解こういう考えがあるわけやな」

「にん、そうがく?」

「そもそも、この国のお貴族様は魔法使いの血が混ざっとりますからな。記録に残っとらんだけで、古代にはそういう【危険を察知する魔法】があったんやなかろうか」

「・・・・・・ま、ほう?」

 アルフィの次々と意味の分からない言葉を出し始めた。

 戸惑ってデイジーの方を見ると、彼女も目を白黒させている。

 どうやら、意味が分からないのは私だけではないようだ。

 置いていかれているのが一人だけではないことに安心すればいいのか、誰からも言葉の説明をしてもらえそうにないことを不安に思えばいいのか、分からない。



「いやぁ、自分らみたいなのの中では【そういう相】が分かる、いうんは大変に重宝するもんで。こうやって、声をかけさせてもろうたんですわ」

「じ、じぶんら? えっと・・・・・・つまり、貴方は・・・・・・?」

 理解が追いつかない私の横で、デイジーがアルフィに問いかける。

 彼はそこでようやく言葉を止め、微笑んだ。




「あぁ、申し遅れましたな。自分は聖騎士団のもんですわ。ゾーイ様、貴女【予知の聖女】になる気はないやろうか?」





**



 異世界からの聖女召還が禁止されて数百年。

 神殿の求心力は緩やかに落ちていた。

 彼らにはどうしても新たな【聖女】が必要だった。

 異世界から喚んだわけではない【聖女】が。


 そして、社交界で【呪われた】と噂され、次の婚約を望めない【傷物令嬢】の私にとって、その肩書きはあまりにも魅力的だったのである。



「ゾーイ様、どうです?」

「この人とあの人が少し気になるのと・・・・・・あと、あそこ一帯の騎士様たちに対して【守ってあげなきゃ】という強い気持ちが湧きました」

 アルフィの問いかけに、恐る恐る答えていく。


 神殿から見下ろした先には 聖騎士団の方々が勢ぞろいしている。

 その顔はしっかりとこちらに向けられ、どこに顔を向けても誰かと目があう。

 壮観というのを通り越し、いっそ恐怖を感じる光景だ。

 しかし、ここで後込みして入られない。

 これこそが初めての【公務】──いや【聖女登用試験】かもしれないのだ。

 ここで【自分の価値】を示しておかなければと思うと、更に緊張して、手が震えてしまう。

 それをもう一方の手で抑え、握りしめる。


「あの一帯は、辺境の騎士団ですね。私も駆け出しの頃はあそこに行きましたが、長閑なところですよ。たまにやってくる害獣を退治するくらいしかやることもないので、ほぼ新人に任されている位です。もしかして、緊張している彼らの様子を見たせいで【守ってあげなきゃ】と思われたのでは?」

 隣に立つ聖騎士が、軽い調子で声を上げた。

 現地を知っているからこその意見だろう。

 転じて言えば、私の意見は現地の状況も、彼らが新人かどうかすらも知らない者の意見だ。

 知識人にそう言い切られれば、納得するほかない。



「確かにあの辺境は平和ですわ」

 アルフィも聖騎士に同調した。

 やはり、私には【予知】や【相を見る】力などないのだろう。

 この場所に立っているのが恥ずかしくなってきた。

 刺さってくる視線の一つ一つを凶器のように感じ始める。



「やけども、辺境は辺境。そもそもが他国に接しとる領地や。今は休戦協定を結んどっても、いつどうなるか分からん。

 それに、王と協定を結んだ向こうの穏便派貴族の筆頭──彼の体調が思わしくはないいう情報もある。警戒に越したことはないで」

 しかし、すぐに私の感じた【予知】を肯定するような言葉を吐く。

 それに安心するような、あまり期待しないで欲しいような気持ちが湧いた。

「そうでしょうか・・・・・・」

 聖騎士が疑わしい、といった表情で私を見て、アルフィを見た。

 思わずまごつく私の背中をアルフィが叩く。



「辺境の兵を増やす、いや【元々の状態】に戻すだけや。なにもなかったらなかったで、儲けものやろ」



**



 数日前の明朝、隣国からの進軍を確認。

 辺境の兵を熟練の兵と入れ替えている最中であったため、即座に防衛線が張られた。

 国境付近で一時睨み合いとなるも、本格的な交戦はなされず、軍隊は隣国へと撤退していった。

 これについて正式な抗議文を送ったが、隣国は「進軍ではなく、ただの訓練であった」と主張。

 隣国にいる【協力者】からの情報では、穏便派貴族の筆頭が亡くなられた、まさにその翌日に起こった進軍であったらしい。

 同盟が続くのか、続けるのであればどういう内容となるか、今はそれを貴族たちが話し合っているそうだ。


 きっと、公爵であるお父様もその話し合いには参加しているのだろう。



「どうやろか」

「はい【守ってあげなきゃ】という感覚は消えていますね」

 警戒態勢がしかれた辺境。

 そこへ足を運んだ私は再び彼らの顔を確認し、ゆっくりと頷いた。


 アルフィの言うとおり私は【受難の相】に対して【守ってあげなきゃ】という感情が湧いていたらしい。

 今は彼らを見ても【守ってあげなきゃ】とは思わない。

 むしろ、鍛え抜かれた彼らに対して【守ってあげなきゃ】と感じるなんて、随分と失礼なことを思ってしまったと反省すら覚える程だ。



「いやー、ゾーイ様を聖女に選んだかいがありますわ。選んだ自分も鼻高々や」

「いえ、私はただ【守ってあげなきゃ】と思うだけで、受難の詳細も分からないですし・・・・・・」

「全部分かって、それを警戒して危険を避けられるんなら、えぇ。

 そやけども、こちらに何かしてやろういう相手が、一つの作戦しかたてんわけでもなし。土壇場で仕掛けてくることもある。むしろ【あれ】に警戒せぇ言われて【あれ】以外に警戒せんようになったら困るから、かえってこっちのほうがえぇわ」

 アルフィが鷹揚に頷いた。

 どうやら、本心からそう思っているらしい。

 私はそんな彼の様子に小さく息を吐く。


「そうそう、ゾーイ様がいうとった二人。一人は夜警中に賊をおっとるうちに転んで軽傷、一人は飲んだくれてかみさんにブン殴られて怪我したらしいわ」

「・・・・・・あぁ」

 アルフィが言っているのは、神殿で少し気になった二人だろう。

 あの二人のことも気になっていたはずだが、今はもう顔も思い出せない。

「二人ともたいしたことはないんやけどな、かみさんにブン殴られた方は「家に戻りたない」いうて施療院のベットにはりついとるみたいや」

「はは・・・・・・」

 もう顔も思い出せないと言うことは、私が【気になった受難】はもう終わったのだろう。

 アルフィの言うとおりの【受難】が【相】として見えていたのだろうか。

 それとも、他にも【受難】があったのだろうか。

 とにかく、大きな受難ではなさそうでよかった。



「聖女様!」

 背後から地を揺さぶるような大きな声が響く。

 思わず振り返ると、辺境について教えてくれた騎士が、鎧を鳴らしながら、足早にこちらへと向かってきていた。

 彼は辺境への進軍があったと聞いてから、私を聖女と呼び始めた。

 そして、まるで良くなついた犬の仔のような態度へと変わったのだ。


 かつて辺境にいた彼は、そこに住む友人も多い。

 私がそんな彼らの命を【予知】で救ったと方々で言い回りだしたのだ。

 その瞳は「純粋な尊敬」で輝いているのだが、まだそれには慣れない。

 というより、この先、慣れることができるのか不安だ。



「聖女様のご友人、デイジー様から手紙です!」

 彼は私の眼前までやってくると、にこにことしながら手紙を差し出してきた。

 膝までついて、貢ぎ物を差し出す敬虔な信徒のようである。

「あ、ありがとうございます」

「あと、神殿と、貴族の方達からの手紙もありますよ!」

「・・・・・・助かります」


 神殿の手紙がデイジーの手紙の後。

 聖騎士としては、神殿からの連絡を真っ先に気にするべきではないだろうか。

 私の心情としては、友人を優先したくはなる。

 したくはなるのだが、デイジーの友人というわけでもない聖騎士が、彼女を優先するのはまずいんじゃないだろうか。


「あー、君、ゾーイ様・・・・・・聖女様に何か飲み物をお持ちして」

「はい、よろこんで!」

 アルフィの言葉で、彼は跳ねるように馬車へと戻っていった。

 鎧を着ているとは思えない俊敏さだ。

 重くはないのだろうか。



 アルフィが私の手紙を無造作に取り、差出人を改めていく。



「神殿からは「聖女認定の知らせ」やろな。王族からは「聖女認定祝いと今回の予知の報償」やろ。貴族のお歴々からは聖女への媚び売り・・・・・・お、ゾーイ様に婚約破棄した侯爵からや。聖女を公衆の面前で【呪われてる】なんて中傷したからな、あの後かなり苦労しとるらしいで。多分、謝罪と神殿への立ち入り禁止を解いてくれとでも書いとるんやろうな」

「神殿への立ち入り禁止!?」

 思いも寄らない言葉に、思わず声を裏返す。


 神殿への立ち入り禁止。

 いくら神殿への求心力が低下したといえども、神殿は神殿だ。

 そこに立ち入ることができないというのは、酷く重い罰である。

 多くの行事や儀式に参加できないどころか、社会的な信頼まで失うことになる。

 信頼が重要な貴族社会においては、まさに命取りだ。


「しゃあない、しゃあない、聖女への暴言を神殿が許すわけにはいかんからな。

 それにゾーイ様の【力】を薄々感じ取ったのに、それを悪いもんやと決めつけ、自分の息子の病状が悪化したことまで、ゾーイ様のせいにしたんやろ? 【正邪】を見抜く目もない、他責ばかりの貴族なんやから、責められるのも、信頼を失うのもしゃあないわ。

 ・・・・・・あぁ、ゾーイ様の実家からも手紙が来とるな」

「実家から・・・・・・ですか」

 実家という単語に、思わず眉を寄せた。



 王宮での一件の後、私は実家から勘当されている。

 聖騎士団から声をかけられたと報告する暇もなく、叩き出されたのだ。

 そのせいで、つい数刻前に「実家と相談してみます」と保留にした口で、神殿への住み込みを頼み込むこととなった。

 行き場がなくなったのだから、仕方がないが、本当に恥ずかしかった。


「勘当を取り消してやるとか、貴族籍に戻してやるから、家に戻ってこいとでも書いとるんやろな。

 ほら、公爵家はまだ勘当したことを公にはしてないやろ? 他の貴族からは【娘が聖女になったこと】を盛大に祝わとる。そやけど「娘が聖女になったのなら、あの公爵は娘を見せびらかして、威張り散らすはずだ。なのに、どうして何もしないのか」と訝しんでる者もおる。特に王家から公爵家になんの動きもみせんのはおかしい、なんか問題があるんやないか、いうて怪しまれてな。

 そやから、勘当したことがバレる前に、ゾーイ様に公爵家に帰ってきてもろうて【公爵家】には何の問題もありません、と見せびらかしときたいんやろう」


「成る程・・・・・・」

 お父様は私を勘当したことをまだ公にしていなかったのか。

 きっと、私が聖女候補になったと聞いたから「勘当した」とすぐには触れ回らなかったに違いない。

 聖女になれなかったら「元々勘当していたから、呪われた娘とは無関係だ」と公表し、聖女になったら「聖女に選ばれたのは当家の娘だ」と公表する──きっと、そういうつもりだったのだろう。




「公爵家の娘と聖女。兼任はできるけど、ゾーイ様はどうしたいんや?」

「・・・・・・私は【聖女】なんですよね? そして【聖女】は神殿と国に尽くすべきものです」

「まぁ、そういうもんもおるな」

「私は滅私奉公すべき【聖女】なのに、友人とのお茶もお出かけも国費でさせて頂いている身です。この上、更に生まれ育った家まで特別扱いさせてくださいなんて言えませんよ」

 そう言いながら、アルフィが差し出した手紙を受け取る。



 五回目の婚約破棄がなされた時、私はやはり自分が呪われているのだと思った。

 いや、誰かから見れば、私のこれは確かに呪いなのだろう。

 だが、誰かから見れば、人を助けることもできる【力】だ。

 同じモノでも、見る人間が違うだけで、こうも様変わりしてしまう。

 私も力も変わっていないのに、だ。



「・・・・・・【ハゲタカ】でも役に立つのですね」

「はは、そもそも【ハゲタカ】は自然界の掃除屋なんですわ、ゾーイ様。ハゲタカがおらんかったら、動物の死骸なんてすぐに腐るし、病原菌のせいで動物も人間もやられてしまいますのや。

 役に立つどころか、逆におらな困る存在やで」



皆さんのおかげでランキングに数作載せていただいております

また、過去作も見ていただきありがとうございました!


関西弁キャラを書こうとしたんですが、横溝先生の作品を読み直していたせいか、岡山弁とのキメラになりました

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