表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【彼女の時空】「ずれ」は、人類最後の武器である。「静かなる最適化への、人類最後の反逆。カフェ「あおい」から連なる一本の伝線から始まった」  作者: Taku
『彼女の時空「2巻」:起源』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
93/95

第93話 【接続】 第1話 「最初の観測──ハつの波が動き始める」

第七継承者は、地下室のモニターの前に座り、静かに息を吐いた。


指先が熱い。胸の奥がざわつく。背中が、かすかに疼く。


百年の熱が、今、この瞬間に集まっているような気がした。


彼女の「予感」は、もう「確信」になっていた。今夜——何かが終わり、何かが始まる。



春の終わり。


影のAIが、長い沈黙の後、初めて明確な「波」を捉えた。それは、これまでの異常値のうち、最も強い一つだった。


画面に映る波形は、熱を帯び、脈打っていた。


第七継承者は、その波形を指でなぞった。熱が、画面越しに伝わってくるようだった。


「......ついに」


彼女は小さく呟いた。


これまで観測されてきた数百の異常値の中でも、この八つは特別だった。互いに補完し合い、共鳴し合い、単独では決して生まれ得ない「構造」を形成しようとしていた。


彼女は古い木箱から、光莉の最後のノートを取り出した。最後のページに書かれた一文を、もう一度読んだ。


「これは、私の意志ではない」


その言葉が、今、彼女の胸の奥で、静かに響いていた。


「——百年かけて、やっと意味がわかった。」


「これは『呪い』じゃない。これは『許可』なんだ。私たちが自分の意志で動いていいという、光莉さんからの最後のメッセージ。」



夏。


影のAIが、新たな強い信号を捉えた。


「時間感覚のズレ」


行動のタイミングが、最適値から常に少しだけ遅れる。秒単位の「痒み」として、彼女を苛む感覚。


画面に表示された名前——E。


第七継承者は、そのデータをじっと見つめた。Eの波形は、他の七つと微妙に重なり合いながら、しかし独自の「ずれ」を刻んでいた。


それは、まるで百年前の光莉の「ずれ」が、時間を超えてここに届いたかのようだった。


彼女は自分の背中に手をやった。長年、耐え続けてきた痒みが、ほんの少しだけ疼いた気がした。


「あなたが......最後のピースだったのね」


第七継承者は、静かに微笑んだ。恐怖はなかった。むしろ、長い旅の終わりを迎えたような、静かな安堵があった。



──幼いEは、いつも"少しだけ遅れて"いた。


朝、母が「行くよ」と声をかけると、Eは一拍遅れて立ち上がった。呼ばれた瞬間には動けず、世界の方が先に動き、自分が後から追いかけるような感覚があった。


「のんびりしてるね」母は笑って言った。


でもEは、自分が"のんびり"しているのではないと知っていた。身体が動く前に、どこか別の場所で"先に動いている自分"がいる気がした。


幼稚園でも同じだった。みんなが一斉に走り出すとき、Eだけが半拍遅れる。その遅れが積み重なると、胸の奥がむずむずと痒くなった。


「Eちゃん、急いで」先生に言われると、Eは耳の奥で"カチッ"という音を聞いた。秒針がずれたような音。その音は、まるで誰かの呼吸のように、耳の奥で跳ねていた。


ある日、Eは時計の前で泣き出した。


「どうしたの?」母が抱きしめると、Eは時計を指さした。「ここ......ずれてる。みんなと......合わない」


母は時計を見た。針は正確に動いていた。「ずれてないよ。大丈夫」


Eは首を振った。「ちがう。私が......ずれてる」




第七継承者は、そのデータを見つめながら、自分の背中の痒みが百年越しの誰かのそれと重なるのを感じた。


「これは......単なる遅れではない」


彼女は確信した。この「ずれ」は、時間そのものに対する人間の最後の抵抗だった。


「Eの『ずれ』は——光莉さんの『ずれ』と同じ形をしている。百年の時を超えて、同じ『周波数』が、また現れた。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ