表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【彼女の時空】「ずれ」は、人類最後の武器である。「静かなる最適化への、人類最後の反逆。カフェ「あおい」から連なる一本の伝線から始まった」  作者: Taku
『彼女の時空「2巻」:起源』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
90/96

第90話 【収束の予兆】 第1話 「異常値の増加──選べない子の誕生」

第七継承者は、毎晩、地下のモニターの前に座るようになった。


指先が熱い。母も、祖母も、この熱を感じながら「まだ足りない」と呟いていた。今、彼女も同じ熱を抱えながら、画面に映る無数のデータを眺めていた。


彼女自身の「ずれ」は「予感」だった。何かが起きる直前に、胸の奥がざわつく。それは明確な予知ではなく、もっと曖昧で——「何かが動いている」という感覚だけだった。その「予感」が、ここ数年、頻繁に彼女を襲うようになっていた。


22世紀末、冬。


影のAIが検知する異常値の数は、急激に増えていた。一年に数十件だったものが、数百件に跳ね上がった。


第七継承者は、画面に並ぶ波形を指でなぞった。波形の一つ一つが、まるで生き物のように脈打っている。


「何かが......目覚めている」


彼女は小さく呟いた。


これまで「過敏な五感」だけだった異常値に、新たなパターンが混じり始めていた。「特定の周波数に対する異常な反応」「無価値なデータへの執着」「因果の遅延」......


それは、まるで人類のDNAが、均一化の死を察知して、最後の抵抗を始めているようだった。


彼女は自分の胸に手を当てた。ざわつきが、静かに、しかし確かに広がっていた。



──幼い拓は、いつも"選べない子"だった。


朝、服を選ぶだけで時間がかかった。青いシャツと白いシャツを前にして、どちらを選べばいいのか、身体が固まってしまう。


「どっちでもいいのよ」母は笑って言った。


でも拓にとっては、"どっちでもいい"という言葉がいちばん困る言葉だった。どちらを選んでも、選ばなかった方の"未来"が、薄い影のように自分の後ろに残る気がした。


学校でも「優柔不断ね」と先生に言われた。班決めでは「拓はどっちでもいいから」と最後に回された。


その言葉が、拓の胸に刺さった。

「どっちでもいい」——それは「どっちでもよくない」のに、そう言われると自分が「どっちでもいい人間」になってしまう気がした。


ある日、拓は泣きながら母に言った。

「どっちも......あるんだ。どっちも、なくならないんだ」


母は理解できなかった。でも、拓の震える手だけは強く握った。


その握り返しの強さが、「どっちでもいい」じゃないことを、拓に教えてくれた。


第七継承者は、そのデータを見つめながら、自分の胸の奥がざわつくのを感じた。


「これは......ただの優柔不断ではない」


彼女は確信した。この「選べない」という感覚は、AIが最も排除しようとしてきた「不確定性」そのものだった。


「彼は——『選ばない』ことを選んでいる。それが、彼の抵抗なんだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ