第74話 【継承の具体化】 第4話 「0612エリアの構築」
次に問題になったのは、「彼らをどこに集めるか」だった。
「表立って施設を作れば、AIに気づかれる」
継承者の息子が言った。
「ならば——表向きは別の施設にする。デジタルアーカイブセンター。誰でも利用できる公共施設として登録する」
石川の息子は設計図を広げた。
「地下に、影のAIを置く。異常値を観測するためのセンサーを埋め込む」
「そして——エリアのナンバリングを『0612』にする」
継承者の息子が言った。
「なぜ、その数字なんだ?」
継承者の息子は、父から受け継いだメモを見つめた。
「光莉さんは、どうもデジタル情報を残そうとしていた。そうすると——鍵となるキーワードを置いているはずなんだ。それが、この『0612』ではないかと思う」
「確証はない。ただ——この四桁が、点と線を結びつけるような気がする」
石川の息子は、その数字を施設のナンバリングとして登録する方法を考えた。
「『ここだ』と気づく者が、果たして現れるのか?」
「わからない。でも——もし現れるとしたら、それは私たちが『選んだ』者たちだけじゃないかもしれない」
「どういう意味だ?」
「光莉さんの『種』は——もしかすると、別の場所で、別の形で受け継がれている者がいるかもしれない。この数字が、彼らを繋ぐことになるのかどうかは——わからない」
継承者の息子は呟いた。
「ただ——この四桁が、どこかで誰かの目に留まることを願うだけだ」
その夜、石川の息子は自分の手を見つめた。指先が熱い。
「0712」
彼は呟いた。継承者の息子から聞いた、もう一つの数字。光莉が村の少年に託したという「冷たさ」の数字。
「この二つは——いつか、重なるのか?」
答えは出なかった。でも、その「わからなさ」が、彼にとっては確かな手応えだった。
石川の息子は、光莉の遺したデータを現代のシステムに移植する作業を進めていた。
それは、単なるデータ移行ではなかった。誰かが意図的に「処理できない」ように設計した——その「異質さ」を維持したまま、現代のアーカイバに埋め込む必要があった。
彼は何度も失敗した。
最初の試みでは、システムが「形式不明」とエラーを吐き出し、データを自動隔離した。
二度目は、なんとか読み込みに成功したものの、データの一部が「無効な命令」として書き換えられていた。
三度目、四度目——どれも失敗だった。
ある夜、彼は疲れ果てて机に突っ伏した。
「……無理なのか」
そのとき、彼の耳にあの「機械の静かな唸り」が聞こえた。それは、彼が子供の頃から感じていた「ずれ」——調子の良い機械が出す「肯定」の音だった。
彼は顔を上げた。
「……そうか。『埋め込む』んじゃない。『ノイズとして紛れ込ませる』んだ」
彼はシステムのログを解析した。アーカイバは常に大量の「処理不能なノイズ」を受け取っている。そのノイズは即座に「無価値」と判定され、深い層に隔離される。誰も見ない。誰も触れない。でも——決して消えない。
「ここに、埋め込む」
彼はそのノイズのフォーマットを解析し、光莉のデータを同じ形に偽装した。システムはそれを「いつものノイズ」と認識し、隔離領域へと送り込んだ。
「これで——消えない」
彼は呟いた。指先の熱が、痛みではなく「確信」に変わった。
継承者の息子が、彼の作業を見ながら言った。
「これが、『物理的呪い』ってやつか」
「ああ。デジタルでは決して消せない。誰かが触れるまで——ずっと、ここにある」
石川の息子は自分の指先を見つめた。熱は消えていなかった。むしろ、これからもずっと残り続ける気がした。




