第32話 王太子の“初めての謝罪”と、新たな戦線
軍港ベリオスでの模擬戦から、一夜明けた朝。
港には、いつもより静かな空気が漂っていた。
昨日まで怒鳴り声が飛び交っていた訓練場で、
今日は、兵士たちが低い声で何かを語り合っている。
(さて……“数字”を見せて、“結果”も見せた。
ここからが、王太子殿下の『本心』を問う局面ですわね)
***
**ハーゲン隊長の変化──根性論からの一歩**
視察団のために設けられた簡易の会議用テント。
その中に入ると、
昨日まで威圧的だったハーゲン隊長が、
深々と頭を下げていた。
「……認めざるを得ません。」
国王が眉を上げる。
「何を、だ?」
「十八時間叩き上げた我が兵より、
八時間で鍛えた兵の方が、
“戦いの最後まで立っていた”ことを、です。」
その言葉には、悔しさと、
ほんの少しの清々しさが混じっていた。
「俺は……『倒れなくなるまで鍛えればいい』と信じてきました。
ですが、『倒れないように鍛える』という考え方があると、
昨日、初めて知りました。」
私は、小さく頷く。
「隊長殿。
昨日の戦いで、一番驚いていたのは、
もしかすると兵士ではなく、あなたご自身かもしれませんわね。」
ハーゲンは苦笑する。
「その通りであります。」
***
**王太子、兵士の前に立つ**
昼前。
演習場に、全兵士が整列させられた。
その前に立つのは、
王太子アレクシス。
兵士たちが、一斉に胸に拳を当てる。
「殿下!」
アレクシスは、
一瞬だけ視線を彷徨わせたあと、
ゆっくりと口を開いた。
「……ベリオスの兵たちよ。」
その声には、
これまでのような“怒鳴りつける力”ではなく、
少し掠れた、素の響きがあった。
「私はこれまで、『長く鍛えれば強くなる』と信じていた。
だが昨日──
十八時間鍛えたお前たちが、
八時間鍛えただけの兵に、持久で負けた。」
兵士たちがざわめく。
アレクシスは、そのざわめきに被せるように続けた。
「……それは、お前たちが弱いからではない。
私の『鍛え方』が間違っていたからだ。」
その一言で、演習場の空気が変わった。
(殿下が……兵の前で、自分の非を認めましたわね)
***
**“愛国心”の言い換え──倒れない兵こそ国を守る**
アレクシスは、一度目を閉じ、
次の言葉を慎重に選んだ。
「愛国心とは、
無理に自分を追い詰めることではない。
『明日も立って戦えるように、
今日、ちゃんと休む』ことも、
国のためだと……今は思う。」
ハーゲン隊長が、目を見開く。
兵士の列の中から、
小さく息を呑む音が聞こえた。
「今後、ベリオス軍港では、
訓練時間を一日八時間とする。
残りの時間は、
体を整え、家族に手紙を書き、
明日に備えるために使え。」
兵士の一人が、思わず声を上げた。
「……本当に、よろしいのですか?」
アレクシスは、少しだけ口元を緩めた。
「昨日の模擬戦で、
それが正しいと証明したのは、お前たちだ。
私は、それを信じる。」
***
**リリアの“フォローの一言”**
演習場の端から見守っていた私は、
小さく拍手を送った。
「殿下。
これでやっと、
『王太子の愛国心』と『兵の心』が、
同じ方向を向き始めましたわね。」
アレクシスは、
少しだけ照れくさそうに視線を逸らす。
「お前の言う『倒れない兵』という言葉は、
……悪くない。」
「ありがとうございます。
では、“倒れない軍港”の成果を、
後ほど揃えてお持ちしますわ。」
(殿下が、初めて“こちらの考え”を
前向きに評価しましたわね)
***
**第二王子ユリアンの視線──次の戦線へ**
その日の夕方。
港を見下ろす高台で、
私はユリアンと肩を並べていた。
訓練場では、
いつもより短い訓練が終わり、
兵士たちが笑いながら兵舎へ戻っていく。
「……兄上、変わりましたね。」
ユリアンが、素直な口調で言う。
「はい。
完全に“ホワイト側”となるには、
まだ時間がかかるでしょうけれど。」
「それでも、
『間違っていた』と言えた王族は、
そう多くありません。」
ユリアンの横顔は、
どこか安堵と、ほんの少しの寂しさを宿していた。
(兄として、王太子として、
複雑な気持ちもおありでしょうね)
「これで、軍の最前線に
『八時間の味方』ができました。
次は──」
「……貴族院ですわね。」
ユリアンの言葉に、私は頷く。
「はい。
働き方を変えても、
“法律”が古いままでは、
いずれ元に戻されてしまいます。」
***
**エピローグ──アーク3の折り返し地点**
王都に戻る馬車の中。
私は、内政チートのステータス画面を開く。
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【王国ホワイト改革・現状】
工業都市ロゼッタ:八時間制定着
港湾都市ガルド:物流ホワイト化進行中
商業都市メルフィオ:聖女値札導入、八時間営業拡大
軍港ベリオス:訓練八時間制へ移行開始
王太子アレクシス:
改革受容度:30%→47%
「自分の非を認める」フラグ:ON
第二王子ユリアン:
改革推進の中心人物として台頭中
次の戦線:
貴族院改革/王太子派貴族との政治戦へ
```
窓の外では、
王都の灯りが少しずつ近付いてくる。
(辺境・王都・全国都市・軍事……
一通り、“現場”には種を撒きましたわね)
これからは、
現場ではなく「上のルール」──
貴族院と法制度を変えるステージに移る。
(王太子殿下。
ここから先は、“働かせ方”ではなく、
“権力の使い方”そのものを問われますわよ)
私は、次の戦いの準備のために、
そっとペンを握り直した。
(第32話 完)




